『真田丸 完全版ブルーレイ全4巻セット』/amazonより引用

真田丸感想あらすじ

『真田丸』感想レビュー第6回「迷走」 ぐちゃぐちゃで面白く、チャレンジブル

こんばんは、武者です。

先週の視聴率がやや巻き返し、ぼちぼち出てきた叩き記事もおさまるのではないかと思います。

視聴率よりクオリティが大事ですが、落ちると叩きが来ますからね。

そう思っていたらこんなニュースが。

◆[真田丸]BSで“異例”の高視聴率(→link

本作は総合テレビでの本放送の前にBSで放映しているのですが、楽しみ過ぎてこの時間帯に見る層が増えているとのこと。

実はこのBS+本放送で視聴率推移を見ると、じりじりと増加していて前回が最高値となります。

実は録画率も高いのです。

◆[月間トルネ番付]首位「真田丸」 2位「いつ恋」 1月ドラマ編(→link

そんなわけで総合的にかなり見られている、民放もあわせてこれだけ数字が取れるのは『あさが来た』と本作くらいなのですが、某会長はおわかりでしょうか。

◆【真田丸】題材にこめられた「今の視聴者のニーズ」とは 制作統括・屋敷陽太郎氏が語る(→link

この記事を見ると、スタッフも地に足を付けてしっかり取り組んでいるのがわかります。

どうかこの好調のまま突き進んで欲しいところです。

【TOP画像】
『真田丸 完全版ブルーレイ全4巻セット』(→amazon

 


松がイキナリ琵琶湖へ身投げ!?

今週は松を連れた信繁一行が、安土を脱出し明智の軍勢から逃げ惑う場面からスタート。

先週、人質を多数連れ歩くと危険と危惧されていましたが、案の定あっさりと追いつかれてしまいます。

小屋に潜んでいた一行を追い詰める明智勢。女を見ると兵士たちはハイテンションになり、やたらと怖いです。

松は女たちに散らばれと指示をし、一人逃れ走るうちに断崖絶壁まで追い詰められてしまいます。

佐助によって一時は敵から逃れるものの、松はついに追い詰められ……弟たちの目の前で、崖から落ちてしまう松!

まさかイキナリ琵琶湖に飛び込むとは……!?

まさかイキナリ琵琶湖に飛び込むとは……!?

信繁は崖の下を探すものの、松は見つかりません。夫の小山田茂誠は松の着物を握りしめ、すすり泣きます。

真田の郷には居場所がない、松の側にいたい、ここに残ると茂誠は言います。生きていてこそと信繁は説得しますが、果たして彼はどうなるのでしょうか。

昌幸の元には滝川一益から呼び出しがかかりました。

行かなければまずい。しかし断るわけにもいかない昌幸は、信幸の意見を求めます。シンプルに信長の仇討ちをするべきだと言う信幸です。

「なぜもっとそれを早く言わん?」

と言う昌幸に「前から言ってるし!」と突っ込む信幸。

こんな父親では疲れるだろうなあ。でも、一応意見を聞いてくれるところまでは進歩しましたね。

一益から信長の死を聞いて、臭い芝居で驚く昌幸。当然見抜かれています。

一益は信濃の奥まで入り込んでいるので、秀吉のようにフットワーク軽く光秀の元へ向かうことはできません。

昌幸は、

「北条のことなら大丈夫! 信濃の国衆は抑えるから! 真田に任せてくださいね」

と提案しますが、

「その真田のことが一番信用できん。人質を出せ」

と一益に返されてしまいます。

これには昌幸、「アハハハハハ」と笑って誤魔化し、受け入れるしかないという。

確かに昌幸が一番信用できないと、視聴者も納得でしょう。

仕方ありません。ここで昌幸は、一益に賭けると言い切りますが、これももちろん信用はできません。

 


短時間でも迫力満点の鬼武蔵こと森長可(ながよし)さんでした

この頃、やはり信濃の奥にまで入り込んだ織田家臣・森長可(父は森可成で、弟に森蘭丸がいる)も急ぎ撤退していました。

姉を失い失意の信繁は、真田の郷を目指しています。

その信繁が休憩していると、森の家紋を掲げた一行が。

鬼武蔵こと森長可と出くわしてしまいました。白刃を突きつけられあわやと思った信繁ですが、相手は出浦昌相。そこへ長可がやって来ます。

信繁の背後から寄ってきたのは手浦でした

信繁の背後から寄ってきたのは手浦でした

「おまえら信濃の国衆ども。俺はおまえらを殺る気はなかったけどな、調子こいて邪魔するなら、一匹ずつ捕まえてぶち殺すぞ、ああ?」(意訳)

と言います……出番は少ないけど、怖い。

信繁が昌相に何をしているのか聞き出すと、信用を得ることこそ大事だと言います。信用を武器に世を渡る、信用を失った時が「素ッ破」の最期だと。プロフェッショナルですね、格好よいですね。

昌幸は国衆会議で「今度は滝川につくぞ」と宣言。

室賀正武は、

「話コロコロ変えるなよ! この朝令暮改野郎がよぉ!」

と、さらには恒例の「黙れ小童ぁ!」つきで真田父子を一喝。

今週も来ました、室賀の出番

今週も来ました、室賀の出番

昌幸はこれに「朝令暮改で何が悪い!」と開き直ります。悪いよ!

正武は、信玄の孫にあたる北条氏直に従うべきだと皆の意見を一瞬にしてまとめてしまいます。

正武の正は、「正論」の正の気が。昌幸も、正武の提案を場をおさめるために承諾するのですが、信幸は「はぁ!? 滝川様にどう説明すんの!? 北条が攻めたらどうする!?」と全力でツッコミ。

対北条対策は、昌幸の弟・信尹(のぶただ)が担当。当主・北条氏直と、実権を握る父・氏政は、信長の死を好機到来と見ていました。

その北条に信尹は織田方を攻めないで欲しいと頼むわけです。

クククク、ホッホッホッと笑う北条氏政がそんな約束をするとは到底思えませんが、とりあえず上野・信濃に攻め込まないという書状を取り付けることができました。

案の定、氏政は「戦国の世に確実な約束なんかないじゃん! 騙すのも兵法だぞ、レッツ戦支度!」と超ノリノリで恐ろしいのですが。

この氏政、汁かけ飯だけの男ではありませんぞ。久々に怖い北条、出ました。

今度の北条は一味違う!

今度の北条は一味違う!

 


「自分が織田の家臣だと思ったことなんてないしぃ」

伊賀コントで先週視聴者を湧かせたコント集団三河武士代表・徳川家康阿茶局本多正信によるマッサージとお灸を受けています。

そこへ本多忠勝が明智討伐をしようと進言しますが、家康は冷たい態度です。

「自分が織田の家臣だと思ったことなんてないしぃ」

とヘラヘラする家康に、阿茶局と忠勝は呆然。

先週はニコニコおにぎり、ご飯粒を取り合った仲なのに。滝川一益の援軍要請もダラダラ引き伸ばしてサボタージュしちゃお♪ と家康と正信は意気投合、忠勝はがっかりします。

この忠勝、信幸とは気が合いそうですよね。

今週も脱力感満載です、家康です……

今週も脱力感満載です、家康です……

一方、忠勝は忠勝で気苦労が……

一方、忠勝は忠勝で気苦労が……

信繁は松のことを父と兄に報告。覚悟はしていた、これもさだめだと語る昌幸と信幸ですが、やつれた様子の薫は泣き崩れます。

良妻賢母像からは遠い薫ですが、現代人に近い視線と親子の情を示すという意味があるのではないでしょうか。

こういう役回りの人がいてもよいと言うか、阿茶局、きり、松らの女性キャラも、そういう役所を担っている気がします。

失意の信繁を励ます人はいるのでしょうか。

兄・信幸は今北条が攻めてきたら真田は終わりだと現状を語ります。

廊下で偶然出くわしたきりは、相変わらず陽気な様子。ここで明るいだけではないのがきりです。

松のことは仕方ないと言うきりに信繁が反発すると「本当は【仕方ない】と言って欲しいのでしょう?」と傷口に塩を塗り込むような発言をします。

何故この娘は、好きな相手に嫌なことを言ってしまうのか。

彼女はひねくれていて鋭い発言によって、信繁の甘えや弱さを暴く役割を担っています。

信繁が次に向かった先は、きりとは正反対で癒やしを与えてくれる思い人・梅の元でした。

このあたりには、信繁の弱さと狡さ(と、きりなら言うでしょう)が潜んでいます。

梅ならきっと弱音を受け止めてくれる、きりのようにきついことを言わず、許すような言葉をかけてくれる。そんな打算があるのです。

ここでの信繁は、松を救えなかったことへの悔恨だけではなく、兄より自分は優れていると思っていたという、思い上がりについても告白します。

その思い上がりも、無様な失敗で消えてしまった、自分には才がない、真田の家にいる意味はないと語る信繁。

幼い頃から聡明であった信繁、人生初の大きな挫折でしょうか。

梅が黙っていると、何か言って欲しいと信繁は言います。

梅は賢いのしょう、信繁の悔恨については触れず、無事の帰還を喜び、真田の郷を守って欲しいと言います。

やはり癒やし系女子として、高ポテンシャルを持つ梅なのでした。

このきりと梅、短い出番ながら対称的です。

癒やし系で理想に近い女性は梅なのでしょうが、本質をズバリと見抜き突くのはきりの役割です。

もし今後信繁が人生の岐路に立った時、背中を押すのはきりの方かもしれません。きりは錐という含みのある名前なのでしょうか。

梅には甘えてばっかりです

梅には甘えてばっかりです

 

昌幸NOTEに記された大名は滅びる運命!?

そのころ、茂吉という農民の家に、謎の女性が保護されていました。

呆然とした様子で匂い袋を握りしめるその女性はなんと松。

しかし彼女はどうやら、記憶を喪失しているようです。彼女の次の出番は五月だとか。

昌幸はとりに、滝川の元へ人質に向かうよう頼みます。

薫はもう道具とされるのは御免だ、次は自分の番だと怒ります。とりは薫を制し、喜んで参ると承諾します。

とりの言動が戦国女性としては正解ですが、薫の気持ちもわからなくはありません。とりも息子に「亡くなるのは真田の郷にさせてくださいね」と、釘を刺します。

きりはとりのお供として沼田城まで向かうこととなります。

信繁に別れを告げるべく、堀田家に向かったきり。そこで目にしたのは、仲むつまじい信繁と梅でした。何も言えず二人を見守るしかない、不器用ヒロインのきりでした。

6月13日、明智光秀豊臣秀吉によって討たれました。

今年は秀吉の大返しを描かないのに、そのスピードが際立っています。

ここで一瞬、「おなごが欲しいのお~」なんて言いながら、上機嫌で部下と酒宴を開く秀吉の姿が映ります。本当に一瞬です。昌幸と視聴者にとって、初めて秀吉が一閃した瞬間でした。

昌幸はこれで一益の目はなくなったと言います。

「俺がつく連中は皆不幸な目に。もしかして、俺、疫病神か?」

とつぶやく昌幸でした。

確かに呪いのデス臣従になっている……ここまで先が見通せない主役級キャラって珍しいですよね。例年、主人公補正のおかげで預言者みたいになっている人が多い中で!

大名にとっては味方に付けないのが正解でした……

大名にとっては味方に付けないのが正解だったようで……

 


昌幸「大博打の始まりじゃ!」(これで何度目だろう…)

信繁が真田の郷の見張り台に立っていると、昌幸がやって来て父子の会話となります。

松の悲運は自分のせいでもある、力が欲しいと嘆く昌幸。嫡男信幸には見せない本音と弱気を、次男には見せるのですね。

信繁はこの信濃の景色が、人間同士の諍いを見て笑っているようだ、と詩的な感慨を語ります。

さらにこの景色が好きだ、信濃は日本の真ん中だ、信濃に生まれたこと、父上の子として生まれたことを誇りに思うと続けます。

昌幸はそんな息子をじっと見守り、「よき息子じゃ」としみじみ語り信繁の肩を叩きます。

この場面、ただの親子のふれあいではなく、伏線になっています。

不気味な存在感を示していた北条は、明智光秀が討たれたと知ると上野へ出陣します。

多勢に無勢で迎え撃つ一益は、徳川の援軍も真田の援軍も見込めず焦り出します。一益さんが気の毒です。

昌幸はこのとき、どうするか、いよいよ表明。

森林資源(=燃料、現代ならば石油)、馬(=軍事物資、現代ならば軍用車両)があり、川で物資を運び、東西を結ぶ信濃こそ頼りにすると宣言します。

この要の地をチップに、敵を操りギャンブルをやってやる、ということです。

一益には上杉を抑えるために北へ出陣すると知らせ、息子や家臣たちには沼田と岩櫃を奪還すると宣言。沼田から人質を取り戻せば、もう一益に従う義理はありません。

「大博打の始まりじゃ!」

毎週そう叫ぶ昌幸、今週もラストで絶叫しました。ここで今週のサブタイトル「迷走」が入るのがニクい。

信繁の青春迷走かと見せかけて、昌幸の暴走に巻き込まれて真田家まるごと迷走するんじゃないの、というふうにも見えますね。

昌幸を見ていると、「ナビを信じない抜け道お父さん」を思い出します。

渋滞にハマったとき、「こういうのは抜け道があるんだ」と言い出して、わけのわからない小道を進んで身動きが取れなくなるお父さんのことです。

信幸は「そんな変な道行くより、おとなしく待つ方がいいよ」と助手席で言う息子です。

昌幸のドライビングテクニックは最高、道なき道を駆け抜ける腕前は最高です。見ていて面白い。

でも本当は、カーナビを信じる信幸の方が正しいのでは、ということなんですよねえ。

真田に学ぶ生き方とかビジネスとか、書店ではそんな本あるでしょうけど、現代人はむしろ真似するなと言っているような、安定の三谷脚本でした。

結局は正しいことを言ってる信幸お兄ちゃん

結局は正しいことを言ってる信幸お兄ちゃん

 

今週のMVP:出浦昌相&森長可

今週は突出した人がいたような、誰も捨てがたいような、そんな回でした。

昌幸が最高の殿堂入りなのは言うまでもありません。

この二人は、短い出番ながら主人公に決定的な現時点での経験や格の差を見せ付けました。

森長可は血のバレンタインギフト! そこにいるだけで周囲の空気が血腥くなりそうな不穏さがありました。

そして出浦昌相は、信繁はまだ所詮「小倅」に過ぎないと植え付け、さらにプロとしての「素ッ破」の生き様を短時間で見せ付けました。

 


総評

今週はタイトル通り、どう進めばよいか、もがく回でした。

まさかの松失踪、そして信繁の失意、自己嫌悪、自身喪失、そして心の迷い。出浦昌相だけではなく、きりや梅との会話でも彼の青さがあらわになります。

その青さゆえの迷いを受け止めたのが、曲者の父という流れもしんみりしました。

迷う弟とは対照的に、兄の信幸は着実に先へと進んでいます。

父の大ばくちに振り回され、毎週のように室賀正武に「黙れ、小童ぁ!」と怒鳴られてはいるのですが、自分の中で状況をどう受け止めるか変化しています。

信繁が密かに自負していたように、視聴者の私たちも「平凡な兄、天才肌の弟」と思っているかもしれません。本作はその思い込みをゆさぶります。

そんな青春の躓きを描くのかと思っていたら、ラスト数分で物語が一気に動き出します。

貯まった水が一気に流れるようなカタルシスを感じましたね。

爽快感はあれども、信幸視線で「ええっ、それでいいの!?」と戸惑ってしまう。ぐちゃぐちゃの天正壬午の乱を、ぐちゃぐちゃの真田昌幸を、ぐちゃぐちゃでありながら面白く描こうという、そんな今年のチャレンジを断固支持します!


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