日本シリーズの影響で視聴率の下がった本作ですが、スポーツイベントと選挙の影響は仕方ないと言えるかと思います。これからフィギュアスケートシーズンも本番です。
視聴率といえば、こんなニュースも。
確かに生放送で見ている人だけではないでしょうから、こうした数値も加算することが理にかなっていると言えるのではないでしょうか。
さらに先日はビッグニュースが飛び込んできました。
大河ドラマになると、その人物関係の史料が発見されることはよくあります。
知名度が上昇し「もしかしてうちにあった書状がそれではないか?」と発見したりする。そういうことが起こるんですね。
今年もまさにその再発見が起こりました。しかも狙いすましたかのようなこのタイミングで。素晴らしいニュースです!
そして、ついにこのニュースも。
◆「真田丸」1年2カ月収録終え堺雅人「楽しい船旅」(→link)
想定外の事件がまったくなかったとは言い切れない本作ですが、とりあえず無事撮影が終わりよかったと思います。
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悲しき中間管理職の片桐且元は大坂城の内情を家康に……
さて本編です。
バラバラの牢人衆をまとめることに苦労している大坂城の幸村。
一方、徳川軍の中には信之の二人の子がいます。勇猛な信政が休憩時も武芸の稽古を怠らないのに対し、信吉はあまり乗り気ではないようです。
秀忠が見回りにやって来ても、弟と違ってアピールが下手な信吉に、世話役の小山田茂誠もやきもき。
そんな真田兄弟に対して本多正信は、叔父の幸村が大坂方についたと告げます。動揺する真田兄弟とその家臣でした。
このことは江戸の信之も心配していました。信之は、十四年間雌伏していた弟に花を持たせたいと考えていたのでした。
先週は弟の裏切りに愕然としていた信之ですが、実はそんな思いがあったのですね。
そこで信之は、姉の松に伝言を託し大坂へ向かうよう頼みこみます。
なんとしても幸村が、真田の旗印を見ないように、戦意を鈍らせぬように、と。兄として、六文銭の旗を見て手加減する弟を見たくないあのです。
いち早く京についた徳川家康の元には、片桐且元が来ていました。すっかり憔悴した且元に、家康はやさしく言葉を掛けます。
本作の家康は「人たらし」です。
秀吉が「俺は全て見通しているぞ」とプレッシャーを掛けるタイプの心理戦をおこなう北風タイプなら、家康は露骨なまでに誠実そうに見せる太陽タイプです。
本作のこの二人はタイプが違えど、どちらも手強く敵に回したくない傑物。
大坂城でのパワハラに疲れ果てた且元は、くさいほど誠実そうに芝居をする家康にほだされてしまいます。
さらには迷った末、兵糧は半年も持たないという見通しを家康に漏らしてしまうのでした。
この家康と且元のアップだらけの場面は役者の気迫が伝わって来ます。しぼり出すように機密を漏らしてしまう且元には中間管理職の悲哀を感じました。
「私はどうなっても構いません、秀頼は死なせないで」
その頃大坂では茶々が人払いをし、幸村を武器庫に呼び出しておりました。
この場所に二人が入るのは、第十九回以来です。あの頃は無理に明るく振る舞っていて痛々しさもあった茶々ですが、今はもう貫禄が出て、凄味すら感じます。
ここをピークに茶々という人物を作ってきた成果が出ています。
幸村は茶々に必勝のプランを語ろうとしますが、茶々はあまりよい顔をしていません。
茶々はともかく秀頼を危険な目にあわせたくないのです。
茶々は幸村の後ろから抱きつき、自分の愛した人は皆未練を残して死んでいったと語ります。
父、母、兄、柴田勝家……その中に秀吉は含まれません。茶々は秀吉を愛したことはなかったのでした。
「私はどうなっても構いません、秀頼は死なせないで」
茶々の懇願に幸村は「命にかえても」と応えます。
しかし実のところ、秀頼助命の策を献じたのは幸村ではなく、片桐且元だったのです。
彼が出した「茶々を人質に出す」という条件を含めた提案を受け入れれば(第四十回)、秀頼が死なずに済んだ可能性は高かったでしょう。
茶々が自分の命や苦境を引き替えに我が子の命を救うチャンスは、もう飛び去ってしまっているのです。
軍議を前にして、大蔵卿局は息子の大野治長に、牢人に大きな顔をさせるな、主導権はこちらが握ると釘を刺します。
そんなこともつゆしらず、幸村は策を練っています。
ここで注目したいのは、治長は兵糧が持つのは2~3年程度、そして大蔵卿局は兵糧などどうにでもなるとまったく兵站を軽視していることです。
片桐且元がこの前に半年と家康に漏らしたことを考えると、この差は致命的なものに思えます。
且元が去った後に幸村が出した策で改善したとも考えられますが、それにしてもかなり差があります。兵站管理を得意とした石田三成や大谷吉継がもし生きていたら何と言うことでしょうか。
策の検討も満足にできぬなら私は九度山へ帰る!
いよいよ軍議が始まります。
秀頼、五人衆、大野治長、木村重成、相変わらず胡散臭い織田有楽斎も参加。五人衆のうち四人までは籠城案を賛成しますが、幸村は「不承知」と言い切り、討って出る策を出します。
京~大坂~伏見~大津まで戦場を広げ、敵を分断、各個撃破する策でした。
こんなところも昌幸譲りの幸村でして、その策は人や建造物を巻き込む住民にとっては迷惑で危険なものです。まさに乱世の申し子です。
しかし出来レースなのか、幸村の策は吟味検討もされぬまま却下されそうになります。
幸村はそれならば九度山へ帰ると言い切り、自室に戻ります。
父親そっくりの行動ですが、これも昌幸を意識してのこと。はったりと見せかけて、迎えが来るだろうと計算してのこと。
すると早速、木村重成が迎えに来ました。
軍議に戻った幸村は、さらに地図を見せながら詳しく語ります。これまたあっさり家康の首を取れることが前提、伊達や上杉がつくという前提で、昌幸譲りの楽観性が根底にあります。
可能かどうか、あやしいけれども、絶対に無理というわけでもないでしょうか。
しかし五人衆のうち三人は反対。唯一、毛利勝永のみがスケールの大きさが気に入ったと賛意を示すのでした。話し合いは一旦休憩となります。
牢人を頼りにするくせに信じきれない大坂首脳陣の歪み
休憩で勝永は、腕試しのために戦場に来たと語ります。
闘志のかたまりのようで、心が通えば頼りになるタイプのようです。
あまのじゃくの後藤又兵衛は、ただ単に幸村に反対しているとして、明石全登と長宗我部盛親はなにゆえ籠城派なのでしょうか。
実は大野治長が、全登には「籠城案に賛成したら切支丹の布教に尽力する」、盛親には「長宗我部家を復興させる」と約束していたのでした。一種の買収です。
「牢人を頼りにしているくせに、牛耳られるのを恐れているんだ」
勝永が悔しそうに声にします。
どうして治長が自分の策を知っているのか。それを訝しむ幸村。自身の案を誰かが漏らせたとしたら、それができるのは武器庫で策を聞いていた茶々のみ……。
幸村は全登と盛親に、「勝たねば願いは叶わない、勝つためには城を出るしかない」と説得します。
茶々のもとには、すぐ下の妹である初(常高院)が来て菓子を食べていました。この人が菓子を食べていると、数年前の大河を思い出してしまうのですが、それはさておき。
この戦は必ず勝つと語る姉の言葉を聞き、初は顔を曇らせます。
浅井三姉妹として有名な茶々・初・江ですが、どうやら長姉が一番世情に疎くなってしまったようです。
「ここに死に場所はない、死にたいなら、徳川につくべきだ」
軍議では、大蔵卿局から言いくるめられていた木村重成が、幸村に反論します。
それに対して幸村は、籠城は最後の策にとっておき、まずは打って出るべき、籠城はそのあとでもできると主張。
定石通りでは戦には勝てないと言われ、重成は納得します。
が、承知しない男が一人。
後藤又兵衛が「不承知!」と叫ぶのです。
幸村は、又兵衛は死に場所を求めてきたのだと見抜いていました。
黒田家出奔後に「奉公構(仕官できない状態)」となった又兵衛は、武士として再仕官もできなくなっていました。
ならば武士らしく死ぬ、天下一の城を枕に討ち死にすると決めていたのです。
すると幸村は「死ぬ気で勝つ気がないなら城を出て行け」と又兵衛に吐き捨てます。
「バーカ。口に出さないだけで皆勝てないってわかってんだろボケェ!」
身も蓋もないことを言う又兵衛に対して、幸村は言います。
「我々は生きる望みを持っている。だからこそ、我等は強い。私は本当に負ける気がしないのです! 我等は決して負けない! ここに死に場所はない、死にたいなら、徳川につくべきだ」
いい言葉ですよね。これは名台詞です。決まりました。
又兵衛はこの言葉を聞き「俺も籠城は早いと思ってたんだ!」と納得。
頑固なあまのじゃくほど、味方になびけば頼もしいものです。
まるでブラック企業の会議のように有楽斎がしゃしゃり出るも
しかしここで有楽斎が静かにしゃしゃり出てきます。
「いい場面でしたねえ、じゃあ終わります。初めから申し上げている通り、籠城以外にはない」
「それでは話し合った意味がない……」
「意味はあった! それぞれのプレゼンはよかったですよ」
あーっ、これ会社の嫌な会議パターン……!
これをやられると、士気低下どころか、そう言ってきた上司と刺し違えたいレベルでイラつくパターンです。
「おまえらはカネで雇われた非正規なんだから、言うこと聞いていればいいんだよ」
そうブラック極まりないことを言う有楽斎に、キレた男がいます。
大野治長でした。
「我等のために雇われた客人です。大切にしてください。決めるのは殿ですぞ!」
いいぞ治長、かつてこんな素晴らしい治長がいたでしょうか。先週までに下がっていた株もぐっとあがります。
ここで秀頼もきっぱり言い切ります。
「籠城はせぬ、打って出よう」
有楽斎は「大蔵卿局に報告するからな」と吐き捨て去ってゆきます。
かくして、軍議では籠城ではなく出撃案が決まったわけです。
しかしそれでは史実と反します。誰かがこの決定を覆します。果たしてそれは誰でしょうか。
秀頼は出撃案を茶々に話します。
茶々はあっさりとそれを却下。
「牢人が裏切らぬと言えるのですか」と彼女は息子に迫ります。何をしでかすかわかったものではない、この城にいれば徳川は手出しできない。
かくして熱血軍議の結果はひっくり返ってしまったのでした。
幸村は目を何度かしばたき、錆をふくんだ声で言うしかありません。
「そういうことであれば仕方ありません。別の策を考えます」
幸村が部屋の外に出ると、そこには悠然と笑みを浮かべ幸村に頭を軽く下げる茶々と大蔵卿の姿があったのでした。
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MVP:茶々
役割的には逆MVPと言ってもよいかもしれません。
先週の阿茶局や江が聡明であったのに対して、茶々は愚かといえばよいのか、無知といえばよいのか。
本質的には決して愚かではないのでしょうが、彼女の才知はあるところで止まり、スポイルされてしまったと言えます。
今回、茶々が幸村と再会したのは武器庫。
かつて秀吉が茶々には入らぬように厳命した場所です。
秀吉は幼いころから哀しい思いをしてきた茶々に、二度とそんな思いをさせないようにと気遣い、武器を見せないようにしたのでした。
しかし、秀吉が彼女を幸せにしたかというと、そんなことはありませんでした。
寧は秀吉に、父母や兄を死においやった茶々を愛するというのか、と問いかけていました。
思えば寧は正しかったのです。
茶々は結局、己の家族の血で汚れた秀吉を愛することはなかったのですから。
そして茶々は、徹底的に政治的駆け引きから遠ざけられることにもなります。茶々の横で大蔵卿局は盾となり、その役目を果たしました。
思い起こせば関ヶ原前後も、石田三成が精根尽くして乾坤一擲の勝負を挑んだのに、茶々は動じませんでした。
関ヶ原の結果を受けて寧は出家し世間から姿を消したのに対し、茶々は大坂城に君臨し続けました。方広寺の件でも片桐且元の妥協案を蹴り(第四十回)、破滅を決定的にしました。
もしも彼女が阿茶局のように、戦や政治に身をさらし、冷徹な目で情勢を見ることができたらどうだったのでしょうか。
今にして思えば、茶々をそうしたのは秀吉の優しさではなくエゴイズムだった気がします。
寧のように政治に口を挟む古女房ではなく、夢だけ見ているような、可愛らしい寵姫を愛したいという、男のわがままですね。
しかし、可愛らしいだけの寵姫では、到底大坂の城を背負える器にはならないのです。
「そうならないように守るぞ」と思っていたところで、それができたのも秀吉が生きている時までです。
本作の茶々は、権勢欲が強く傲慢なわけでも、ヒステリックに怒鳴り散らすタイプでもありません。寧に敵意を燃やし、裏で糸を引くわけでもありません。
ただ、秀吉や大蔵卿局の愛情によって政治からあまりにも遠ざけられてしまった。そして、過去の辛い経験ゆえ家族への愛のみに生きてしまう。
この二点によって重大な過ちを犯してしまう女性です。本人に悪意はまったくないだけに、実に哀れでなりません。
総評:本作はスタッフも主人公も、大嘘をついて私たちを騙そうとします。
◆「真田丸」最終回から逆算せず 過程重視一貫 「大坂の陣」描写も自信(→link)
結果から見れば負けるとわかっているのに「勝てるのではないか?」と思わせる。そんな素敵な嘘にこちらを巻き込んでくるのです。
今回の嘘もたくさんあります。
そもそもあの時点で幸村は策を出すほど発言力があったのか、ということがひとつ。
もうひとつは、あの作戦が本当に素晴らしいものかどうか、ということです。
問題は山積みです。
たった五人の代表者ですらまとまらない軍議。一応五人がまとまったといっても、他の者はどうでしょうか。
あの時点で、一糸乱れず出撃できるとは思えません。
幸村は大きな口を叩いてはおりますが、第三十九回で本人も言った通り「大軍を指揮した経験はない」のです。
昌幸にしても徳川に勝利をおさめたのは本拠地の城に籠もった千人単位の籠城戦であり、万単位を指揮したわけではないのです。
豊臣政権で万単位を指揮した経験がある、または可能である人物は、豊臣秀吉・石田三成・大谷吉継・加藤清正・宇喜多秀家らでしょうが、彼らは全員世を去っているか、戦えない状態です。
彼らが健在であった関ヶ原でも家康の圧勝であったのですから、幸村が全力を尽くしたところで、あの策が成功したとは到底思えません。
むしろ京を巻き込んだことで、指摘されていたように貴重な建造物を焼き払ったらば、彼らは悪名のみが残ったことでしょう。
私は、幸村はエゴイストと何度も書いていますが、今週ほどしみじみそう思ったことはありません。
今後、その印象はさらに強くなるのでしょう。
そう考えると、あそこで出撃を止めた茶々の判断こそむしろ英断であったと言えるのではないでしょうか。
ところが見ている間は、あの幸村の策に皆が乗ってゆくところが楽しくて仕方ないんですよね。
もしかしてこの策が成功して勝ててしまうかも、とすら思わせる。そんな巧みに酔わせる力があるんです。
悲壮感が不思議となく、からっと明るい大坂の陣になっているのも、その力のおかげでしょう。
最終回まで、この嘘に騙されてゆきたいと思います。
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著:武者震之助
絵:霜月けい
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真田丸感想