『真田丸 完全版ブルーレイ全4巻セット』/amazonより引用

真田丸感想あらすじ

『真田丸』感想レビュー第42回「味方」 家康のクビで時代は何も変わらない……それでも見たい、男のワガママ

こんばんは。もう十月となり、本作の終わりも見えてきました。

◆中川大志、NHK大河ドラマ『真田丸』クランクアップ報告 「本当に幸せです」(→link

そんな中でも本作関連イベントはまだまだ終わりません。

◆三成演じた山本耕史さん、「真田丸」衣装で登場(→link

このように、脇役にまで光が当たるところが本作の盛り上がりぶりを象徴していると言えるのではないでしょうか。演じた役者さんも本当に充実した時を過ごせたようです。
それでは本編へ。

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『真田丸 完全版ブルーレイ全4巻セット』(→amazon

 


かつて三成と吉継と共に働いた部屋へ……「帰って来ました」

大坂城に入った真田幸村は、茶々と再会。幸村はこう宣言します。
「勝つために参りました。必ずや徳川家康の首を取って見せまする」
茶々の傍らには織田有楽斎がいます。織田信長の弟で茶人としても有名ですね。この有楽斎がまさに有楽斎、胡散臭い茶坊主感満載です。味方として全く信頼ができない胡散臭さが漂います。

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有楽斎は幸村が立ち去ると「このくらいおだてればよかろう」と本音を剥き出し。大蔵卿局も、幸村を快く思っていないようです。ただの乳母や侍女であればごく普通の人物でしょうが、なまじ政治的な発言をするようになると極めて有害な人物のようです。

十万人分の生活を管理するのは大野治長です。なんせこれだけの人数ですから、城には人が過密気味。

真田丸大野治房

そんな中でも特別扱いの幸村一行は、単独部屋が割り当てられるようです。案内されたその場所は、かつて石田三成大谷吉継がいた書庫です。今はあれほど積まれていた書類もなく、無人の一室で幸村は三成と吉継に「帰って来ました」と挨拶するのでした。この時ばかりは、父が憑依したかのようなあくの強さは抜け、元の純朴な信繁に戻ります。

きりや春たちも城内に落ち着いたようです。高梨内記は高齢であるためか、旅の疲れですぐに休んでしまいます。その様子を大助から聞いた幸村は、もう一人家臣が欲しいものだと、つぶやきます。同時に、大助に向かって、亡き太閤はあの天守閣より巨大であったと語ります。

 


又兵衛と勝永のヤンキーコンビがウザすぎる

幸村のもとに、後藤又兵衛と毛利勝永がやって来ます。とはいえ、なごやかに挨拶するつもりはないようで。
「あとから来たくせにでかい顔してんじゃねーよ」
「秀頼公に気に入られてるからってお前、調子こいてねえか」

オラオラと幸村につっかかってくる二人。さらに又兵衛は「相部屋じゃねえとかナメてんの?」と言い出します。ここで勝永が「俺は一人部屋だ。お前とは格が違うからな」と言い、又兵衛に言うものだから、乱闘寸前に。ヤンキー漫画か!

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真田丸毛利勝永

幸村は一人部屋はやめて相部屋にして欲しいと大野治長に頼みます。そしてその結果、長宗我部盛親と相部屋になることに。見るからに豪傑肌の盛親は相部屋であることに不満を訴えますが、治長は取り合いません。
ちなみに又兵衛のルームメイトは明石全登です。これが朗々たる声でキリスト教の祈りの言葉唱えます。これが同室だと確かにストレスたまりそうです。

 


女であっても綺麗事は言わない 乱世を終わらせるために

駿府の徳川家康は、真田が大坂城に入ると知って動揺します。襖を掴んでガタガタ揺らしながら「それは父か? 子か?」と怯えるわけです。これは有名な逸話ですね。本多正純に、家康は戦支度を始めると告げます。

真田丸徳川家康

これに「幸村くらいで慌てることはないのに」ツッコミを入れるのが、阿茶局。家康は「真田のネームバリューが怖い」と漏らします。

豊臣は遠国の大名としておとなしく暮らしてもらおうと本音を言う家康ですが、阿茶局は「そんななまぬるいことでどうする」と煽ります。家康がやや弱気なのは、孫の千姫(秀忠と江の娘)が秀頼に嫁いでいるという弱みも。その意をくみ取ったのか、阿茶局は「大坂側に千姫を返したら助命すると告げ、姫を取り戻したら容赦なく相手を滅ぼせばいい」と献策します。この汚い策には流石に家康も引き気味ですが、阿茶局は涼しい顔。
「信長公だって秀吉公だって酷いことをしてきた。それが乱世だからです。そんな酷いことだらけの乱世をあなたが終わらせなさい」
直球の正論を言う阿茶局。情に流されないこの冷徹さが、彼女を優等生的ヒロインとはまったく違う存在だと知らしめます。乱世をよく知るからこそ、「戦は嫌でございます」と薄っぺらいことを言うかわりに「どんな手を使ってでもこの乱世を終わらせるべき」と言えるのでしょう。

江戸の徳川秀忠は、父・家康の先走った決断にやや呆れ気味。寄る年波には勝てないのか、本多正信は秀忠の前で居眠りしております。そこへ秀忠正室である江が、大坂攻めだと聞いて入ってきます。正信と話しているのに勝手に入ってくるなと言われ、江は立ち去ります。
正室が政務の場に入り込んでたしなめられ、さがる。たったこれだけでごく当たり前の場面がやけに輝いて見えるのは、ダメな大河だとこの基本的なことすら守らないからでしょう。

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秀忠は、関ヶ原の二の舞は御免だと戦支度を始めます。この十四年、秀忠は為政者として天下に才知を見せ付けていました。
その秀忠に欠けているのが武勲です。
今度の戦こそ功績の総仕上げと秀忠が意気込みます。以前も書きましたが、星野源さんの秀忠は賢くも凡庸にも、どうちらにも見え、さらに器の大きさや何を考えているのかわからないところが、おもしろいと思います。
正信と入れ替わりに、江がやって来ます。江は姉の茶々や娘の千姫に害が及ばないようにと釘を刺します。が、
「あとは好きにおやりください。豊臣の者たちは、今はもう徳川の世だとわかっていないのです」
と不敵に笑い続けるのでした。父母や夫を失い、乱世の辛酸をなめつくした凄味があります。
「ひねりつぶしてくれる」
妻にそう焚きつけられ、不敵にそう笑う秀忠。そこへ真田信之がやって来ました。

 

信之は本気で斬りかかるも、イザという時に病気で手が動かず

ここで秀忠はにっこりと笑顔を見せます。恐妻家仲間ゆえの気安さか、なんて。信之が秀忠から疎んじられていたことは史実ではないそうで、ここは笑顔でもおかしくないそうです。信之は病気であるため、嫡男の信吉と次男の信政が参陣するとお披露目します。

秀忠は五万を率い、大坂に向かうことに。この移動を示すコーエーマップのアイコンも、顔が変わっています。このアイコンの秀忠が、何とも言えない凄味があります。

出陣を前にした信吉と信政は家族から激励を受けます。

真田丸真田信吉

真田丸真田信政

マイペースな松だけが「けがのないようにね。危ういときは後ろのほうにいて声だけ出しなさい」と言い、信之にたしなめられます。この人は本当に変わりません。
息子二人を見送った信之の元に、佐助から幸村が大坂方についたという衝撃のニュースが届きます。
信之は怒り、丸めた書状を河原綱家に投げつけます。第三十五回に続き、綱家はやたらと信之にものをぶつけられる役所のようです。

『真田丸』感想レビュー第35回「犬伏」 兄・信幸が旗を振り、船頭となるとき

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真田丸河原綱家

信之は佐助に「もはや風のように走れないのか」と語りかけます。
佐助は悔しそうに脚を叩きますが、おそらくわざとスピードを落としたのでしょう。信之は書状を読み、自分が捨てた「幸」の字を弟が拾ったことに気づきます。
弟は本気だ、これは戦が長引くぞ、と動揺する信之です。

佐助は別の男にも会っていました。堀田作兵衛です。
彼は幸村から味方につくよう言われ、大喜びです。生きていたら豊臣についたであろう昌幸のことを敬愛していますし、妹の梅を徳川軍によって失っていますから、本当は江戸に味方なんてしたくないわけです。
そこで作兵衛は出立前に、姪であるすえの仮祝言を見届けます。

これで思い残すことはない――。
と出立しようとする作兵衛の前に立ちふさがったのが刀を抜いた信之でした。

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お前はわしの家臣、徳川の家臣だ、黙って見逃すわけにはいかぬと、信之は本気で怒りを見せます。
わらじを脱ぎ捨て、刀を構える信之。
作兵衛の槍と信之の刀ではリーチの差もありますし、信之は病気でもあります。それなのに見事な技で作兵衛を追い詰め、切り捨てようとする信之。

「覚悟!」
そう叫んだ瞬間、信之は病の発作で刀を取り落とします。
作兵衛はこれが信之の助命だと誤解します。佐助は誤解ではないとわかったうえで、そそくさと荷物を担ぎます。
「いや違う! 作兵衛!」
そう叫ぶ信之の声が何とも虚しいです。かっこよかったんですけどねえ。

 


ナイスカップル秀頼夫妻 なぜだか千姫の顔が曇りがち

幸村は秀頼の正室である千姫に引き合わせられます。
まさに美男美女、雛人形のような美しい夫婦です。

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秀頼は妻を幸村に紹介しながら、嫁いだからには豊臣についてゆくという妻の態度を賞賛します。何の屈託もなく笑う秀頼の横で、千姫はどこか苦しそうな顔を一瞬見せます。こうした機微に気づくことができないのが秀頼なんですよねえ。

秀頼は幸村を気に入り、総大将になって欲しいと直々に頼んで来ます。
幸村は総大将になることに対してプレッシャーを感じますが、内記は大喜びで昌幸の位牌に報告します。このとき、背後で何かに水をやっていた盛親がやって来て、めでたいことだと喜びます。

真田丸<a href=長宗我部盛親" width="370" height="320" />

彼は実のところ戦は嫌いで、関ヶ原のあとは京で寺子屋の師匠をしていました。豪傑風の見た目から誤解されますが、盛親は気が小さいタイプ。家臣の長宗我部再興のために背中を押されて参戦したものの、戦は嫌いだそうです。背景で水をぱちゃぱちゃやる姿といい、なんでこんなむさくるしいおっさんが可愛らしいのでしょうか。小山田茂誠、本多忠勝もですが、本作において髭の濃いおっさんは愛嬌があります。

総大将発表の軍議の直前。

妙に張り切った男が、持ち前の美声で幸村に語りかけて来ます。塙団右衛門直之と名乗る男は、加藤嘉明のもとで鉄砲大将をしていたとのこと。押しが強いうえに、唐突に名札を渡してゆくのでした。
彼は実際にこの戦いで戦場に自身の名札を残すことで、自らの戦績をアピールします。

真田丸団右衛門

 

そりゃ黒田長政に嫌われるわっ!

後藤又兵衛は突如こう切り出しました。
「皆は豊臣守ろうって心はひとつだし、この際、牢人になる前の身分はリセットしましょうや」
まあ、よほど幸村や勝永に威張られたのが嫌だったんでしょうね。
ここで総大将は真田幸村にしましょうと大野治長が言い出すと、又兵衛が「不承知!」と言い出します。こいつはこんなだから黒田長政に嫌われたのでは、と思わざるを得ません。場の空気は険悪になります。

「大局を見るものが上にたつべきだと思います。私は二度徳川に勝ちましたからね」
と幸村が大ボラをふくと、毛利勝永は「三十年前じゃん、お前まだ若かっただろ。旗を振っていただけじゃねえの」と突っかかってきます。
又兵衛は「四国を統一した長宗我部元親の嫡男・盛親殿がふさわしいと思います」と勝手に言い出します。早速「昔の身分はリセットしろって言ったのお前だろ」と勝永に突っ込まれます。もうツッコミどころしかない会話が辛い……秀頼はおろおろするばかりです。

幸村も盛親も総大将を辞退。又兵衛は「こうなったらもう各自ガンガンやろうぜ」と言い出します。こいつ本当にダメだ。

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ここで幸村がこう提案します。
「十万の兵を五分割し、それぞれに大将を置く。その上に総大将として秀頼公を置く」
この提案は通り、五人の将とは「真田幸村・明石全登・毛利勝永・長宗我部盛親・後藤又兵衛」に決まります。かくして合議制ができあがったのでした。
内記は軍議のあと、牢人は自分勝手だし大野治長はまとめる力がない、秀頼公はまだ若い、とこぼします。しかし幸村はニヤリとしています。牢人のハングリー精神が敵に向かえば十分勝てる、と確信した笑みでした。

真田丸大野治長

 


MVP:江と阿茶局

今週のこの人が何故MVPかと言いますと、一番情勢を的確に把握した言葉を発したからです(後述)。
秀忠・江夫妻は数年前の大河で奇妙なイメージがついてしまいましたが、上杉の主従同様にそれが払拭されそうで何よりです。気が強そうな顔に楚々とした上品な所作、これぞまさに江です。

本多正信はすっかり年老いてしまいましたが、女版正信ともいえる阿茶局は健在です。
「戦はいやでございます」系のヒロインの真逆を行く、時には容赦ない策をも出す阿茶局。それもすべては「乱世を終わらせるため」なんですね。前半はヒロインが鬱陶しいと叩かれた本作。その頃、私は「今は鬱陶しくても後半はヒロインがネゴシエーターとして活躍するのでは?」と書いたことがあったのですが、当たったと思います。
ここにきて本作のヒロインたちは、いつもの優等生的な役割をかなぐりすて、剥き出しの本音で男たちにぶつけてきます。

 

総評

信繁から幸村になり、父・昌幸の血が覚醒した幸村。
父と同じ欠点まで覚醒していることが、今週はまざまざと示されました。

欠点その一:信之はじめ周囲に大迷惑をかけてでも自分のしたいことを貫くエゴイズム
これについては散々今までも書いて来ましたが、今週、大坂方に彼がついたことでどれだけの人が不幸になるかがわかったと思います。特に娘のすえに対してした仕打ちは本当に酷い。彼女にとっては育ての父を幸村が大阪まで呼び寄せたわけです。
信之が酷い目にあったことは繰り返すまでもありません。信之の人生は父に振り回され、今度は弟に振り回されることになるのでした。

欠点その二:何もかも自分にとって都合のよい方向に動くという超楽観主義
どう見ても問題だらけでどうしようもない大坂方。高梨内記の見方の方がむしろ正しく、ニヤリと笑う幸村は本当に自分にとって都合のいい解釈しかしないんだな、とゾッとしてしまいました。

欠点その三:情勢をアップデートできない
未だに家康の首を取れば勝ちだと思っています。そんなはずはありません。このあたり、とっくに武田が滅びてからも信玄の威光をやたらと気にして、甲斐と信濃回復にこだわり続けた父に似て来ました。江が言った「大坂の者たちは天下が徳川のものだとわかっていない」はまさにその通りです。幸村もそうなのです。

欠点その四:大局を見る目がない
大局を見る目がある者こそが総大将になるべきならば、幸村は適任ではありませんでした。昌幸に大局を見る目がないことは、本作は序盤からくどいほど描かれております。むしろそれがあるのは信之なのです。大坂城にいたもので大局を見る目を持っていたのは、片桐且元までです。結局幸村は、家康の首を取ることしか考えていません。しかしもう家康の首を取ったところで、その価値は下落しているのです。

はい、こんなところです。長所と短所は紙一重とはいえ、そんなところまで父親に似なくても、と思わずツッコミました。

とはいえ、そんな幸村ですらマシに見えてくるのは、大坂城に集まった牢人たちがあまりに悲惨な状態だから。いかにも戦場で活躍しそうな後藤又兵衛や毛利勝永はアクが強すぎる。人間的に問題のなさそうな明石全登や長宗我部盛親はイマイチ弱そう。秀頼は純粋なお坊ちゃまで全く頼りにならない。大野兄弟もいまひとつ。織田有楽斎には期待するだけ無駄。大蔵卿局は有害。茶々は巨大な誘蛾灯のように人を惹きつけるけれども、破滅へ追い込む魔性の存在。今になって振り返ってみると、石田三成や大谷吉継は有能でした。そんな彼らをもってしても敗れた徳川は、さらに確固たる勢力となっています。

真田丸茶々(淀)

幸村は繰り返し「家康の首を取る」と言っています。
しかし、ハッキリ言ってしまえば、あまり意味がないんですね。

本能寺で討たれた信長や、その死によって一気に政権が弱体化した秀吉と、現時点の家康は重みが違います。彼は既に年老いていて、権力を息子の秀忠に譲っています。幸村が家康の首を取ったところで、秀忠が健在ならば意味があまりありません。奇跡に奇跡が重なって秀忠が戦死したとしても、徳川の血を引く青年は大勢いる上に優秀です。
彼らが後釜に座れば、徳川家はそれでよいわけです。

今週の徳川パートは、そんな盤石の体制を見せ付けていたわけで、最も的確なことを言っていたのは、前述した通り、江なのです。

そう考えると、徳川家康の首を取って勝つと繰り返す幸村は何なの、と思えて仕方ないわけです。そこで前述したように、幸村の受け継いでしまった、昌幸からのダメな部分を数え始めてしまう、と。ものすごくダメな奴で、乱世が終わりそうなのに暴れて、もう有害で痛々しい奴なんですよ。
それでも彼の暴れっぷりが見てみたい!
そう思わせるコトこそが本作の魅力なのでしょう。

著:武者震之助
絵:霜月けい

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