今週は坂本龍馬の新婚旅行とパークスです。
事前のスタッフ会議が行われているとすれば、こんな感じでしょうか。
時代考証担当者「龍馬は薩摩で新婚旅行をしています」
脚本「えー、おもしろーい、糸ちゃんも絡ませてみよーよー」
西郷隆盛は、龍馬の死後、困窮したおりょうを助けたという逸話がありますけれども、どうせソッチには注目しないんでしょ?
今週はまず全体を1分あらすじでマトメておきます!
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【1分あらすじ】おりょうはゲスくて、パークスは馬鹿だ
デタラメ極まりない描写で薩長同盟が結ばれた二日後。
余裕ぶっこいた坂本龍馬が寺田屋で襲撃されて、負傷しました。
妻のおりょうともども薩摩藩で療養することに。
男尊女卑もない本作の薩摩では、おりょうですら堂々とナメくさった口を、西郷どんとその家族にまき散らせます。
おりょうは、ゲスでした。
セクハラ満載!
これを通したスタッフは、おりょうの墓前で土下座すべきでしょう。
幕府が第二次長州征伐に向かう中、パークスが薩摩に来ることになっています。
このパークス、ヴィクトリア朝のイギリス切れ者外交官とは思えないほど無能です。観光客じゃないんだから。
それを説得する西郷どんが偉いんだ!
と言いたいらしいんですけど、そもそも、こんな無能な人だから簡単に説得できるでしょとしか言いようがない。
そして、セクハラをおりょうから受けまくった糸は妊娠。
それでは、じっくり追いかけてみましょう。
龍馬があまりに緊張感ない
薩長同盟のデタラメ締結から二日後。
寺田屋事件(坂本龍馬襲撃)が起こります。
おりょうが龍馬に危難を知らせに行くわけですが、こういう有名事件すら史実の流れを無視していてムカつくんですよね。
なんでこんなに龍馬は余裕綽々なんですか?
京都には【恐怖の新選組】もおりますし、だらりとゴロ寝だなんて緊迫感も何もあったものじゃありません。
本作が『花燃ゆ』以下だと思うところ。
あの作品ですら多少はあった幕末の緊張感、それが、トボけた脚本と演出センスの悪さでまったく出ていないところです。
余裕ある龍馬カッコいい♪
とでも言いたいのだとしたら、そんなわけないだろう。
拳銃で応戦するところは史実準拠ですが、幕末当時のスペックは悪く、あまり意味がないと当の外国人ですら思っておりました。
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おりょうさんと半次郎を会わせちゃイカンてw
ここでおりょうが薩摩藩邸に逃げ込みます。
ははっw 中村半次郎が出てくるのがウケた。
史実で中村は、おりょうに性的関係を迫って断られ、痛い目を見ています。
そこをふまえたら、おりょうと中村が会った時点で気まずいことになったんですけどねえ。
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もしかして本作スタッフは、中村をただのイケメン枠だと捉えている?
史実では人斬りなんですけどね。
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それにしても、おりょうの史実からの改悪っぷりにクラクラして来ました。
薩摩藩邸で龍馬に食事を食べさせる場面。
なんといいますか、おりょうのシャープなイメージぶっ壊しまくりです。
ただのラブラブダーリンじゃん。
おりょう役の水川あさみさん、大河は三度目ですね。
『風林火山』はよかったのになぁ。
そのあとが、
『江 姫たちの戦国』
『西郷どん』
という不運さに加えて、朝ドラ『わろてんか』から中村半次郎役に抜擢された大野拓郎さんも痛々しくて……。
ここで西郷吉之助と大久保一蔵が、
「坂本を薩摩で匿いたい」
と言い出しました。
西郷家の「雨漏り話」で盛り上がる龍馬とおりょう。
この二人が、ただの礼儀をわきまえていないバカにしか見えません。なんつーか、軽自動車の車内外に派手なデコした、田舎のDQNカップル的な?
おりょうが龍馬に抱きつくのも最悪です。片っ端から女性をバカにしていくドラマだなぁ。
未来人というより単なる非常識バカ
薩摩では、糸がニヤニヤしながら夫の帰りを待っています。
この薩摩に、史実ベースの男尊女卑も、武家男女の凛とした部分もないから諦めていますが、糸が待っていたのに帰りが遅いと揉める場面にはもうため息しか出ません。
ここで、龍馬夫妻を匿うことにします。
公式サイトでは龍馬夫妻は未来人とのことですが、バカで非常識な連中にしか見えないんですよ。
この二人が披露する人前でのハグなんて、そんなもん平成だってレアだろうに……。
龍馬は、襲撃事件で大怪我したのに、なんかヤンキー漫画が【敵の高校生をフードコートでぶっ倒した】と自慢しているような話し方です。
あんな話を聴くと怖くなりますね、というやりとりが満寿と糸というこのあと女同士でしていますが、いや全然わかんない。だって緊張感ゼロだもの。
ここで糸が妊娠しないということに、おりょうが「下手な鉄砲もあたる」とか言い出します。
おいおい、おいおい。
恩人夫妻の性生活をネタにするって、なんなの? おりょうをこんな下品な女にする理由がわからない。未来人どころか、ただのセクハラクズ女じゃないですか!!
この後、おりょうは、糸が西郷どんを心配しているとけしかけます。
あー、もう、ほんと何なんですか、この幕末薩摩。
男女同席で、京都で妾を囲っているかどうかとか下半身ネタを話すのです。
そういや『花燃ゆ』でも、京都でのお妾騒動でゴタついていたか。
今週も、駄作大河の薩長同盟ぜよ(´・ω・`)
イギリス公使のパークスやって来る
いつしか話は、イギリス公使のパークスが薩摩に来るというところへ。
しかし、ここでの会話がよくわかりません。
イギリスとフランスが、日本政治に介入したがったのは史実です。
しかしドラマでの西郷どんと龍馬は、そのイギリスをうまく引き込んで何とかしようとか、見通しがクソ緩いレベルのことを話しております。
西郷どんがパークスをもてなす知恵を、坂本から聞いているのもひどい。
だからなんで本作は、持ち上げるハズの薩摩藩をちょいちょいバカにするんでしょう?
薩摩藩は、イギリス側の好みを調べて、猟犬による狩りを行う等、立派に饗応対応しています。それをなぜ坂本龍馬に聞かねばならないのか。
一方、大久保は、幕府が決めた長州征伐に対して、正面切って反対しています。
……って、アホですか?
第二次長州征伐が頓挫したのは、薩摩がやる気ありそうに進軍しておきながら、実はサボりまくったことにも一因があります。
こんな正面切って大久保が反対したら、幕府も薩摩に責任を持たせるようなことはしませんて。
何度も言います。
史実を曲げていることが悪いんじゃない。
歪曲しながらも、ストーリーがめちゃくちゃなのが許せないのです。
そのまま史実描いてって! そっちのほうが断然面白いから!
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いつまで長州征伐を引っ張るんだ……
新婚旅行から戻ってきた坂本夫妻。
糸がおりょうにびっくりと公式サイトにありますけど、ここで西郷どんが言う通り、郷中教育に男装して乗り込んでいた糸だってぶっ飛んでます。
まぁ、ぶっ飛んでいるというより史実丸無視ですけどね。
男尊女卑が厳しい薩摩で、女が妙円寺詣りに参加してスルーなんてありえません。
おりょうは、西郷どんの結婚歴について、糸の目の前で聞きます。
デリカシーなさすぎて私はイライラ。
この辺、さすがに顔をしかめてしまった方も多いのでは?
坂本と西郷どんはシェリー酒を飲んでいました。
和風の個室居酒屋みたいに少しきれいな部屋になってますね。
と、そこへ小松帯刀がやってきます。幕府軍が長州征伐に乗り出したという知らせです。
つーか、いつまで長州征伐を引っ張るんすか?
史実では長州征伐の責任者だった西郷どんも、なぜか薩摩で酒飲んでダラダラしているし。
薩長同盟から今回の長州征伐まで、ムチャクチャすぎて何も言えねぇ!
もはや坂本夫妻のこととかどうでもエエ
長州征伐を観戦してくる――と、坂本が旅立とうとします。
おりょうを連れてはいけないのだとか。
この辺りの龍馬を追いかける話、西郷隆盛の人生を描く上で必要とはまったく思えません。
おりょうが起床し、糸に行き先を迫ります。
糸は迫られ、行先を暴露。坂本夫妻のこととかどうでもエエって!
なぜ本作は、幕末の重大事件を描かないで、壮絶にしょうもない創作を盛り込むんですか?
「お互いに難儀な男に惚れたもんやな」
とかなんとか、一生惚れ通すとおりょうがカッコつけますけど、龍馬死後のことを考えるとかなり残酷な台詞ですわ。
その一生龍馬に惚れた女のおりょうを、坂本家も明治政府もスルーして困窮生活させてますからね。
イギリスとの交渉までヤンキー漫画にしよった!
このあと、長州征伐の話が入りまして、いよいよパークスが薩摩に到着します。
パークスもなぁ……。
本作の外国人キャストって、外国人タレントの顔見せの機会にしか見えないんですよねぇ。
パークスとの交渉も、くだらないパーティからスタート。
いったい外交をなんだと思ってんの?
先週の幕府は、ゲイシャ接待でフランスと交渉していました。
その手の宴はそりゃあ存在しますけど、別にドラマで毎回クローズアップする必要ないでしょ?
政治事情を調べるのがめんどくさいからテキトーにパーティでごまかしている気がしてなりません。
すると数日後、パークスが激怒したそうです。
で、西郷どんがイギリスの船に捕まったんですって。
ハァ???
あの……外交って何だかわかってます?
交渉しにきたイギリスが、日本人を拉致するほどアホ?
これも西郷どんの見せ場のため。
交渉を打ち切るというパークスを説得するため、軍艦に乗り込みました。
しかもお供もつけず。
単独で乗り込んだ自称家老を誰が信じるのよ?
まさかイギリスとの交渉まで、ヤンキー漫画レベルのタイマンにするとは、驚きました。
パークスは相当な切れ者です。が、本作ではバカに見える。西郷持ち上げのために英国人までアホにすんなよ!
史実通りにしたほうが面白いのに、バカなアレンジで世界をぶち壊す本作の悪弊が出たよ!!
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英仏は最初からわかっていた
パークスと交渉の席についた西郷は、幕府の腐敗を説きます。
あぁ、やっぱり、パークスらのことを馬鹿にしておりましたね。
史実のイギリスもフランスも日本国内の情勢のことをかなり的確に把握しておりました。
なんせイギリスは当初、幕臣と交渉して好印象を受けているほどです。
薩摩がナイスだから協力しまーす、とかそういうユルいことじゃないんですよ。
倒幕側に恩を押し付け、内政干渉したいからですよ。
明治時代、相当イギリスから干渉受けていますよ。
そういう歴史すら本作は踏んづけるんですか?
明治になってから、パークスは大隈重信と相当やりあっていますからね。
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パークスは樺太問題でも強引に内政干渉してきており、西郷と対立しております。
そんなもん本作がやるはずもないので、おさらいしておきましょう。
本作のデタラメぶりも確認できてしまいます。
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史実のパークスは島津久光を大絶賛
パークスが、やっと議論のできる人物が現れたというのも痛い。
また、得意の【周囲の人間とにかく西郷持ち上げ】作戦ですわ。
ご存知ないんですかね?
パークスはじめ、イギリス側は、西郷どんがこき下ろす徳川慶喜に惚れ込んでおります。
薩摩側に対して「慶喜に危害を加えたら承知しない」と警告したほどです。
しかもナマコがまずいとかくだらない話までダラダラとする始末。
って、ヴィクトリア朝イギリス敏腕外交官や薩摩藩のことをナメ過ぎですってば!21世紀の観光客じゃないんだから。
史実の饗応では、薩摩が出した豚の丸焼きが絶賛されています。
薩摩がろくに接待もできないバカだと貶めたいの?
本作のスタッフって、薩摩が豚肉名物であることすら調べていないのかと、時々不安になってきます。
簡単に豚肉が買えるのに、西郷どんは、必死に「猪狩り」や「鰻取り」に励んでおります。
もしかして視聴者は歴史知識がないバカとでも?
伏線を理解できないとか、歴史を知らないから嘘ついてもバレないと思ってる?
このアホみたいな交渉を終えて、西郷どんが戻ってきます。
はいはい、幕府がフランスと結ぶのはダメだけど、薩摩がイギリスとむすぶのは大正義ですね。ダブスタお疲れ様です。
ちなみに幕末に来日した海外外交官の手記や日記は、しばらくの間禁書扱いでした。読まれては困ることでも書かれていたのでしょう。アーネスト・サトウの日記等、是非お読みください。
そうそう、史実のパークスが日本有数の政治家と絶賛したのは島津久光なんですよ!
本作ではバカ殿扱い。
「藩主は女王陛下のようなもの」という西郷の台詞がありましたが、いやぁ白々しい。
糸のLOVEとかどうでもエエから
糸は、西郷どんに向かって「心配した」とスネています。
鬱陶しいし、なんか糸さんっておにぎり握っていそうですよね。
既視感あるなぁ。
「せわぁない」って言いそう……なんだ、『花燃ゆ』の毒おにぎりヒロインだった文ちゃんか。
このあと糸は、愛加那がどんな女か知りたいと言いだします。
西郷どん曰く、愛加那のおかげでは生きていく道が開けたとかいうんですけど……覚えていますよ。あの人が西郷どんの元に乗り込んで、自ら服を脱ぎ出した場面を。
どういう状況で、生きていこうと思えたんですかねえ。
はははっ。これが本日の38分、見所です。他にすることないんかい!!
ここで糸が口にする難儀な男に惚れた、一生惚れ通すしかないという決意が見所ぽいです。
そんなもんどうでもエエ。寝ている間に見た夢の話ぐらいどうでもエエ。
ともかくずっとバカみたいな調子で、とても西郷隆盛の人生を描く気を感じられません。
こちとら難儀なドラマに苦しんでいるわ!
坂本夫妻も糸も、全部史実をどヘタなアレンジなしでやればいいんですよ。
本作はサブストーリーやモテることを強調しますけど、恋愛パートが本当にダメ。何がしたいのやら。
このあと、西郷どんが京都へ出発することになり、糸が妊娠宣言します。
はいはい、どうでもエエ。ちょっとした顔見知りとエレベーターの中でする天気の会話ぐらいどうでもエエ。
今日は糸が「チェスト気張れ」だそうです。
そう言っておけば何とかなると思っている?
みんな揃ってこれを見守るのも気持ち悪いです。
西郷隆盛の人生ならもっと描くことあるだろうに。
総評
今週もひどい。
本作の被害者リストがまた長くなりました。
ゲスいおりょう、バカなパークス。
ヴィクトリア朝のイギリス外交官が、ナゼ西郷どんの言うことをホイホイ聞くのか?
ヒントとなるニュースを見つけました。
◆西郷どんの魅力語る 県立能楽堂 林真理子さん講演(→link)
林さんは「あらゆる人に優しく接する」ところにドラマの主人公・西郷隆盛のカリスマ性があると指摘。
口あんぐりです。
奄美大島への仕打ち。
対立時の長州藩。
戊辰戦争における江戸でのテロ煽動や奥羽への仕打ちは何だったのか?
こういう「優しい西郷どん」というのは、もう西郷の実像への侮辱としか思えません。
優しさがないわけではありませんけれども、薩摩隼人としての戦闘性や峻厳さを丸無視して、何がしたいのよ。
そんな菩薩みたいな考え方で、明治維新やり遂げただって?
ははっ、バカ言うな。冗談にもほどがある。
「あらゆる人に優しく接する」と言いますが、奄美や江戸、東北諸藩の人々は、もしかして人として分類されていない?
そしてコレも。
◆鈴木亮平主演の大河「西郷どん」視聴率ワースト2位10・4%…みやぞんゴールに食われた?(→link)
明治維新から150年の今年、巧みな戦術と実行力で徳川幕府を倒し、明治維新を成し遂げ、近代国家・日本を作り上げた西郷隆盛の激動の生涯を新たな視点で描く作品。林真理子さん原作、中園ミホさんが脚本を手がける。
本作は、史実の西郷隆盛に備わっていた有能さや知能を抜き取り、ただのエエにいちゃんに描いているだけ。
それを「新たな視点」と呼ぶのは、いいかげんにしてくださいよ。
慶喜を偏執的にバカそのものに描きますが、将軍継嗣問題では島津斉彬以下、薩摩藩が慶喜を猛烈プッシュしたじゃないですか。
これじゃ斉彬も西郷どんも、人を見る目がゼロってこと?
史実でも久光と慶喜は対立しています。
そこでの薩長側の懸念は、慶喜はバカでゲスだからということではなく、外国勢力からも支持されていて、極めて有能だったからこそ怖かったのです。
あと糸。
郷中教育に男装して割り込むくらいぶっ飛んだ性格はどこへ?
あんな行動力、おりょうもビックリですよ。
そして先週、フランスと手を結ぶ幕府を批判的に描いて、外国に立ち向かう薩長カッコイイと描いておいて、今週のパークスとの交渉はカッコつけて美談にする。
また、吉之助にとって初の外交シーンとなったイギリス行使パークスとの会談では、「ただ誠実さを伝えるだけでなく、いかに対等に向き合うかを考えた時、僕としては、一度こちらの立場に立って考えてもらうことを大事にしました。実はこれ、僕の留学経験に基づいたものでもあります」と秘話も。
「吉之助は相手の立場に立って考えられる人なので、きっとそういう交渉ができる人だと思うんです。イギリスの『騎士道』と日本の『武士道』、それぞれの文化で生きてきた人間同士がどうやって交渉を実現させるのか? そんな“吉之助流外交”も注目していただきたいです」と見どころを伝えている。
役者さんが駄目というよりも、公式サイトに掲載する本作スタッフのセンスが絶望的。
ヴィクトリア朝のイギリスが騎士道って……。
パークスらイギリス勢力が協力したのは、薩摩が凄いからとか単純に描く。
それを言うなら、イギリスのライバル・フランスは幕府を支持しているじゃないですか。
英仏が幕末政治に干渉したのは、別に日本スゴーイなんて話ではなくて、それが自国の利益に繋がると判断したからでしょ。
美化もいい加減にして欲しい。
イギリスは明治以降、強引に政治に容喙してきておりますし、単純にやりすぎっすわ。
だいたい、ついこの前まで
「外国悪い! 外国と手を組む幕府酷い!」
って言いまくっていたのはどこのどいつだよ!
イギリス人はいい人ですよね、って掌返しにもほどがありすぎなんだってば。
ちなみにヒュースケン殺し犯人って、西郷の配下として動いていた薩摩藩士ですな。
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公式サイトには「武士道」と「騎士道」の交流と書いてありましたが、ヴィクトリア朝時代の大英帝国が騎士道精神で外交していたのか、と全力で突っ込むしかない。
阿片戦争を起こしたヴィクトリア朝イギリスと、ヤンキー漫画ノリでがっちり組むとか。
世界史まで汚染しないでください。
当時のイギリスって、植民地支配していたインドやアイルランドから食料を収奪し続け、餓死者をたんまり出しております。
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まあ、本作の西郷どんも歴史ガン無視して「倒幕でみんなお腹いっぱいに!」とかほざく薄ら寒い奴ですし、偽善者タッグ結成だと思えば納得できるかもなぁ。
ちなみにヴィクトリア女王の生涯を描いたイギリスITV制作のドラマ『女王ヴィクトリア 愛に生きる』は、日本でもNHKで放映されましたね。
このドラマは大英帝国全盛期を単純に美化して礼賛するものではなく、暗部も描いておりました。
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『西郷どん』は海外展開なぞ目指していないでしょう。
海外作品と比べると、あまりにレベルが酷い。
5年前の大河ドラマ『八重の桜』は、国際エミー賞にノミネートしましたけどね。
どうして大河はここまで衰えたのでしょうね。
もう、無茶苦茶です。
ツッコミ:長州=勇者の剣かよ
本作の不思議な点は、長州をやたらと庇うところですよね。
ほとんどもう、勇者の剣状態でしょ。
薩摩が明治維新を起こせたのも、長州という剣を抜く=薩長同盟のおかげ、みたいな描写だし。
日本国民全員が長州を庇いたいと思っていたとシレッと描いて、それこそ正義みたいな流れだし。
長州を嫌っていたのが、史実の孝明天皇ではなく、徳川慶喜になっているのも謎。
長州藩って、偽勅を出しまくって孝明天皇に憎まれ、「禁門の変」で御所(天皇の住居)を砲撃してます。
薩英戦争後、イギリス相手に密貿易した薩摩藩を憎み、船を砲撃して沈め藩士を多数殺害した上、島津久光殺害予告を出したことがあるのです。
そういうやらかしは、どこにいった?
薩長が手を結ぶならば、そういうところをどう乗り越えるか、それを描くべきでは?
それどころか長州と手を結べば日本は救われる、とワナワナして土下座する薩摩藩士。
って、なんでやねん。
追い詰められた長州藩を薩摩藩が救うと手を差し伸べるのに、ナゼ土下座?
本作は島津久光、西郷隆盛以下、薩摩藩を描きながら薩摩藩関係者がうっすらバカで無能なのに、長州はここまで救世主扱い。
もう疲れます。
『花燃ゆ』の御礼かな、と思いますか?
あのドラマでの薩摩は西郷しか出てこない一人薩摩藩状態で、扱いもお寒いものでしたよ。
長州藩を、何がなんでも持ち上げたい人でもいるのでしょうか?
長州藩の桂小五郎に扮する玉山鉄二さんを高評価する意見もありますが、今回の桂はただのイケメンドール。
玉山さんの幕末演技ならば、『八重の桜』の山川浩に到底及びません。
謎なのは、ちらっと出てきた伊藤博文のサービスぶりですよ。
繰り返しますが、複数の長州藩士が出てくるだけでビックリ。
『花燃ゆ』の薩摩藩はワンマン営業で大久保すら出てきませんでした。しかも、カッコよさにおいても『あさが来た』に及ばなかったのです。
あの年は、大河ヘボ薩摩の救済枠が朝ドラに思えたものでした。
もうハッキリ言ってしまっていいですか?
今年の大河は、久光以下、うっすらバカ扱いされる薩摩より、長州大正義で勇者の剣ですよね。
どうしてこんなことが起こるのやら。
ツッコミ:『八重の桜』での土下座を思い出してみよう
大河ドラマには再放送枠があります。
今年は2014年『軍師官兵衛』です。
どうせ明治維新150周年ならば、比較のために2013年『八重の桜』でもよかったのにと思ったものですが、今年大河の公開処刑になるため避けたのではないかと思えます。
この『八重の桜』、大変よい出来でした。
が、後半になるとおかしな場面もありました。
例えばヒロイン八重が、会津戦争で戦死した薩摩藩士の娘から「人殺し」と罵倒され、土下座謝罪させられるのです。
これがなかなかとんでもない話でして。
どうやってスペンサーライフルで射程が長いと八重の情報を集めたのか?
遠距離射撃なのに。
大山巌のように八重が撃ったと推察される人物は、射程から後世推察したものです。
「女が撃ったから八重」とその娘は言うのですが、会津藩には八重以外にも銃で武装した女性はおりました。
そもそも、射程が長い武器なのに撃った相手の性別が判明したのはナゼですか。
男尊女卑の気質が激しい薩摩隼人が、女に撃たれて戦死したという屈辱的なことを言いふらすでしょうか?
だいたいにおいて、八重は故郷防衛戦で立ち上がったのに対して、その薩摩藩士は武功を求めて攻め込んで来たはずです。
武士でありながら、それで討ち死にしたことを恨みがましく主張するのは変だと思いました。
今年の西郷どんは、加害的な部分を徹底的に消去されております。
新島八重と西郷隆盛。
Kill Listを作成すればどちらが長くなるか、言うまでもないというのに。
幕府側の人物は、故郷防衛戦で敵を殺しても土下座させられるほど、悪事を謝罪しろと迫られる。
倒幕側の人物は、いくら何をしようとナイスガイにされ、美化、消去、クリーンアップされる。
頼むから、こんなことをするくらいならあと数十年は幕末大河を封印してくれ!
そんな思いが、ますます強くならざるを得ません。
コラボ悲報:JR九州、背後から撃つ
岩山糸といえば、JR九州の行っている大河に乗っかったキャンペーンが物議をかもしております。
【JR九州(→link)】
この特設サイトでは、岩山糸だけキャッチコピーがないのです。ポスターにはあったのです。
そして炎上しました。
「なぜ岩山糸は、華奢な体で12人もの大家族をワンオペで回せたのか」
炎上したせいか、サイトでは削除したようです。
時既に遅し。突っ込んでみましょう。
・当時の武士の家には使用人がいるからワンオペじゃない
・川口雪蓬も西郷家を支えていた
・しれっと西郷の弟とか、成人済みの人まで12人の数に含めていてキモい
・今時ワンオペを礼賛するセンスが最低最悪。その秘密を知りたくて鹿児島に行こう!とかねえわ。しかも秘訣が鹿児島グルメぽいけれども、ナメとんか
大河では岩山糸が郷中教育に男装して紛れ込んでもスルーされておりますが、薩摩は男尊女卑が厳しい土地柄でした。
そのことが、ワンオペ育児を礼賛するJR九州のセンスからも垣間見えてしまいましたね。
大河コラボ観光キャンペーンが大河を背後から撃つなんて、ナイスコラボとしか言いようがありません。
大河そのものは全く面白くないのに、この炎上騒動は面白いです!!
本作の制作チームは、
「イケメン俳優を揃えたし、歴女はじめ女性視聴者はきっとおりょうや糸になりたいと胸をときめかすぞ!」
とか思っていそうですね。
それ、2015年『花燃ゆ』でもかまして、大失敗していますから。
いや、そもそも『西郷どん』から伝わってくる魅力があるとすれば、主演オファーを蹴ったという某俳優の聡明さくらいです。
おりょうに憧れるかって?
明治政府成立後、元海援隊士含めた維新関係者が塩対応して困窮した生涯を見るとねえ。ちょっとねえ。
んで、岩山糸はこのワンオペ育児讃美。
憧れんわ!!
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著:武者震之助
絵:小久ヒロ
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『西郷どん完全版第壱集Blu-ray』(→amazon)
【参考】
西郷どん感想あらすじ
NHK西郷どん公式サイト(→link)等