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【青天を衝け第24回感想あらすじレビュー】
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それでも、この誠意なき大河を愛せるか?
それでも、この仁なき世を愛せるか?
これは『麒麟がくる』のキャッチコピーです。
『麒麟がくる』の総集編を見て、改めて思うところがありました。
「去年はあって今年はないもの」があまりに多いのです。ざっと挙げてみますと……。
◆VFXが素晴らしい
『麒麟がくる』のVFXは素晴らしい――こう言うと首を捻る人もいるでしょう。
どこでVFXを使っていたっけ?
というと、遠景で使用されているとわかる場面がありました。しかし、なかなか実写と見分けがつかない。まさにこれこそが良いVFXです。
『青天を衝け』は、パリでのロケができないという事情を察するまでもなく、見た瞬間にVFXとわかります。なんとお粗末なことか……。
全体的な映像処理やカメラワークも『麒麟がくる』の方が上でした。
色彩の彩度を明るくしすぎて話題となりましたが、調整を入れて目立たなくしています。全体的によい仕事をしておりました。
◆人命を重視する
『麒麟がくる』では、比叡山で薬を売っていた少年が惨殺される場面等、生々しい人命の損失が描かれました。
死は決して軽いものではない。主人公たちが何を犠牲としているのか示されていたのです。
◆良心的な作りである
『麒麟がくる』の特徴としては、ストイックな姿勢があります。
有名かつ見所として期待される逸話であっても、創作説が濃い場合は取り入れておりません。
例えば「煕子が髪の毛を売って質に入れた」という有名な逸話も盛り込まれませんでしたね。人質とされた光秀の母・牧が磔刑にされた逸話も同様です。
◆あくまでフィクションの範囲を守る
『麒麟がくる』における最大の良心は、駒、東庵、伊呂波といった架空の人物です。
そのことが散々叩かれる材料となっていて、作る側としては不利といえます。
それでもオリキャラらを取り入れることで「あくまでフィクションである」と視聴者側が認識できるようにしていたのです。
架空の人物は視聴者が信じ込む心理を抑制します。
本作と重なる要素が多い1998年の大河ドラマ『徳川慶喜』でも、架空の人物が大きく取り上げられています。『獅子の時代』は架空の人物がW主人公でした。そういう描き方もありです。
フィクションが無謬であるべきとは思わないけど、歪曲していたり、間違った知識を受け付けてはいけないのです。
なぜ私がこんなことを書くか?というと、次のような記事を目にしたからであります。
◆徳川慶喜の描かれ方とフィクションとしての「御遺訓」──“異色”の大河『青天を衝け』これまでの総括とこぼれ話(→link)
イジワルな内容も今回はいろいろと含ませましたが、それだけ『青天~』という作品に期待するところが大きいということです。今後もわれわれをワクワクさせてくれる作品でありつづけることを願ってやみません。
『青天を衝け』は異色なのではありません。良識がないのです。
この作品の“異色さ”を褒められるのであれば、それこそ『花燃ゆ』のおにぎりと松下村塾のマリアージュなんて斬新そのものですし、西郷隆盛をモテモテであると描きたかったという『西郷どん』だって“異色”でよいドラマということになりませんか?
ここで“異色”とされている渋沢栄一のクリーンさにせよ、徳川慶喜の善人ぶりにせよ、そんなものはただのご都合主義でしかありません。
異世界転生したらチートキャラになっていた。そんな展開をするなろう系小説じみた展開を大河でやらかしているだけだと思います。
結局のところ本作は、人の死や尊厳を軽んじているのでは?と思えてきます。
天狗党があんなに酷い最期を迎えた回であっても、慶喜と栄一コンビはえへらえへらしている。視聴者は彼らがちょっと楽しそうにしただけで「よかったー」とSNSに投稿し、それを針小棒大に取り上げたコタツ記事が掲載される。そんなパターンです。
私はそんな軽薄さに付き合うことはできません。
勝海舟抜きの無血開城を描くデタラメ作品にどうすればワクワクできるのか。
そんなものは牛肉を抜きにしたすき焼きを「ヘルシーで異色です」と出されるようなもの。ヴィーガンに配慮とかなんとか言いつつ、肉はなくても牛脂を使っている。そういうデタラメでしかありません。
結局『青天を衝け』には誠意がない。あるのはイケメンぐらいで、その一例を以下の記事に見ることができます。
土方は確かに美男でモテました。色気もあったかもしれません。
しかし、なぜそこばかりクローズアップされるのか。
指揮官として、幕臣として、どう生きたのか?
最も大切なのはそこでしょう。
小栗忠順ほどの才能の持ち主をガリ勉扱いするようなことを書き、そんな陰キャをイケメンマッチョにしたんだ、感謝しろと言わんばかりの言い方は流石に悲しいのです。
レオポルド2世ショック
植民地化したコンゴ自由国で地獄のような搾取を行い、人口が半減するような悪政を見て見ぬふりをしたベルギー国王レオポルド2世。
コンゴ自由国では手足切断当たり前 レオポルド2世に虐待された住民達
続きを見る
本作では、どんな扱いにされるか?
個人的に興味を持っていましたところ、この調子です。
◆ベルギー国王は「エコノミックビースト」? 断髪した篤太夫に聞きたい「幕末は風通しが悪かった?」【青天を衝け 満喫リポート】(→link)
◆ 渋沢栄一が「官尊民卑」を嫌い、民間人の人生にこだわったワケ(アーバン ライフ メトロ)(→link)
ベルギー国王が直々に「わが国の鉄を買ってくれ」と口にしたことは、渋沢にとって衝撃的でした。現在なら、国王や大統領、首相といった国のトップが、他国と貿易について話を交わすことは珍しくありません。渋沢は驚きつつも、ヨーロッパのビジネス感覚こそが国の発展には重要であると考えます。
時代が十年前ならこの認識で十分かもしれません。
しかし、今世界的に話題になっているBLMや人新世の環境危機を無視してはいませんか?
終戦記念日なので、その辺を掘り下げますと……。
第二次世界大戦の背景には、列強の帝国主義同士による植民地拡張のぶつかり合いと、経済の行き詰まりという要素があります。
ゆえに、帝国主義下での経済活動は大っぴらに誉められなくなった。以前からそうであったものが、BLM運動によりより決定的になりました。
さらにはIPCCの報告によって、そして現在起きている桁外れの豪雨により、経済活動に伴う環境破壊が注目を浴びています。
◆影響は数千年、人類へ「厳戒警報」 IPCC報告を読む(→link)
渋沢栄一を無理矢理SDGsと結びつけたり、彼ならきっと環境対策を打ち出せると持ち上げる記事もありますが、通じない理屈です。
帝国主義の資本家なんて、環境に関する知識は薄いし、そんなことより儲けろ!というもの。
渋沢は足尾銅山の元凶に援助しておりますから、問題外の人物です。
なお、コンゴ国民数百万人の身体を切らせたり殺害させたりしたレオポルド2世については、現在のベルギー国王が昨年、同国の国王として初めて「遺憾の意」を表明しております。
◆ベルギー国王、コンゴの植民地支配に「遺憾の極み」表明(→link)
※著者の関連noteはこちらから!(→link)
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◆青天を衝け感想あらすじレビュー
◆青天を衝けキャスト
◆青天を衝け全視聴率
文:武者震之助(note)
絵:小久ヒロ
【参考】
青天を衝け/公式サイト