青天を衝け感想あらすじ

青天を衝け第29回 感想あらすじレビュー「栄一、改正する」

こちらは3ページ目になります。
1ページ目から読む場合は
青天を衝け第29回感想あらすじレビュー
をクリックお願いします。

 

総評

段々とわかってきたことがあります。

栄一はしつこく「みんなを幸せにする!」だのなんだの言います。

でも、その「みんな」とはどの範囲を指すのでしょう?

今週、美談扱いされていた惇忠。

問題としているのは惇忠の納得感であって、世間体やら平等については一切考えていません。

自分の身内で、ちょっと養蚕に詳しい人を国の責任者に登用とは、完全に公私混同、ただのコネです。普通に考えれば「みんなのため」ではなく「身内のため」であって、感動的に描けるはずがない。

玉乃にせよ、大久保にせよ、栄一に不信感を抱く側の方がまともに見えてきます。

これが渋沢栄一なのでしょうか?

まぁ、史実の渋沢栄一も、同世代の人間と比べて、意識が低かったところがある気がします。

福沢諭吉は渡米した折、アメリカ人が誰もワシントンの子孫がどうしているか知らないことに感激しました。

これがデモクラシーだ! 世襲の日本とは違うぞ、と。

そして西郷隆盛は遺訓でこう言いました。

児孫の為に美田を買わず――。

苦労してこそ、人は磨かれる。だからこそ子孫のため楽なルートを残すようなことはしない。

明治の人には、こういう身内贔屓を嫌う人も多かったものです。人間は血筋やコネでなく、磨き上げてこそだという主張ですね。

そんな歴史人たちと比較して、首を傾げたくなる価値観の持ち主が渋沢栄一。

朽ちた木を彫ったところで、何になるというのでしょう。

 

藩閥政治を学園ドラマにする

本作は、明治の藩閥政治を、平成学園ドラマのノリにしている――そんな古臭い構図が見えてきました。

大正義だ! 栄一チーム

大隈重信

伊藤博文

井上馨

陰険だ! 大久保チーム

大久保利通

五代友厚

岩倉具視

こんな構図で描かれていますよね。

教科書で読むだけでもうんざりしてくる、黒い人間関係ロンダリングが続きます。

そのためにヤンキー漫画テイストを入れてきたのかもしれません。

ただ、悲しい哉、学園ドラマのノリって、本物の若い世代には通じないんですよね。

では、本作には登場させて貰えない声も取り上げておきましょう。

板垣退助「藩閥政治じゃき! 薩長がいばり腐って土佐はじめ、大勢の人を無視しちょる! 気に食わなか! 自由民権運動じゃ!」

山川浩「んだんだんだ……食ってくだけで精一杯なのに権力闘争がよ」

福沢諭吉「勝海舟のせいで慶喜が幕府を投げ出し、最悪の結果に……」

 

渋沢栄一のコネ人脈とは?

渋沢栄一は新政府に知り合いがいなかったのか?

史実での栄一は伊藤博文の尊王攘夷暗殺真相をバラせるほど、深く関わっております。

他の幕臣ならともかく

「お、京都でテロしてたアイツか〜」

となってもおかしくない。そんなテロサー(テロリストサークル)人脈が水戸学信者・栄一のセールスポイントでもありました。

本作では、なぜそこにフォーカスしないのか?

尊王攘夷暴力殺人なんて、明治時代はやんちゃ自慢の範囲でしょうし、先週の28話でも、伊藤博文が英国公使館焼き討ちという犯罪を自慢していました。

伊藤博文と渋沢栄一はテロ仲間
渋沢栄一と伊藤博文は危険なテロ仲間?大河でも笑いながら焼討武勇伝

続きを見る

栄一は雑なテロ計画で犯罪者認定され、平岡円四郎に庇われました。その成り行きで幕臣になっただけで、ステルス倒幕派と言える。

本作だってその辺を隠したいからこそ、明治時代入りを10月まで粘ったのではありませんか。

飛脚をどうする?
戸籍は?
殖産は?
電信は?
鉄道は?

こうした事業も、彼らの意見で一から生み出していったように思えますが、実は小栗忠順が立案済みのものも含まれます。

以前にも書きましたが、大隈重信はこう言い切りました。

「明治政府の近代化政策は、小栗忠順の模倣にすぎない」

栄一って本当に世渡り上手だと思うのです。

人脈はテロリスト時代、技術は幕臣時代をフル活用。

だからこそ「人間は信念や誠意を捨てれば成功できる」と見えるドラマになりかねません。

 

大阪経済のマッチポンプ

最近出て来なくなった五代様をフォローしましょう。

五代友厚は大阪経済の恩人――とはいえますが、これも薩摩藩のマッチポンプと言えなくもありません。

薩摩藩は財政が破綻しました。

その立て直しを迫られたのが、島津斉興とその家老・調所広郷です。

調所広郷
財政を立て直したのに一家離散!調所広郷が幕末薩摩で味わった仕打ち

続きを見る

調所広郷は財政を立て直したにも関わらず汚名を着せられた悲運の人物といえますが、立場を替え、大阪から見るとエゲツない人でした。

薩摩藩が借りていた大阪商人の借金を強引に踏み倒したのです。

「薩摩芋に貸すくらいならドブに捨てたほうがマシやな……」と嘆かれたほど強引な手法でした。

そして迎えた明治維新。

ノリで倒幕した政府は、関東が金本位制、関西が銀本位制であったものを、金本位制にして統一します。

これが、えらいこっちゃ!

統一計画があまりに雑だったため、大阪の人々が蓄えていた銀が暴落するというおそろしい事態を招いたのです。

そうして無茶苦茶にした大阪経済を立て直したのが、薩摩閥政商・五代友厚でした。

言ってみれば薩摩が壊し、薩摩が立て直す、マッチポンプとも言えましょう。

大阪人が徳川家康を嫌い、真田幸村が倒した墓まで作ったことは有名です。家康には当たりがきつい割に、薩摩藩には優しいように思える。

そんな五代を悪役にする宣言をした本作は、今後彼をどう描くのか。楽しみだったりします。

※続きは【次のページへ】をclick!

次のページへ >



-青天を衝け感想あらすじ
-

×