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【青天を衝け第29回感想あらすじレビュー】
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やっぱり大久保は単純な悪役か
そんな栄一に大隈は満足。
しかし大久保利通は怒り、ねじ込んできてガンつけ合戦になります。
前回のレビューで懸念だと申し上げていましたが、早速、大久保が悪役として描かれています。ことあるごとに栄一と対立する嫌なやつになりそうで辛い。
「旧幕臣のくせに感じ悪いよね〜」みたいなお局発言をする大久保になりつつあり、維新三傑の一人をどういう扱いなのでしょう。
大久保は素晴らしい。しかし栄一にも素晴らしいところがある。両者に一長一短あると描けないものでしょうか。
ドラマではなく、史実の大久保の言い分を整理してみましょう。
・幕臣が活躍することにムカついていた?
→幕臣抜きで国が回らないことを大久保が把握できなかったとは思えません。
・大久保が栄一に対する不信感を抱いた理由が天狗党の可能性はあります
→大久保は天狗党の顛末を見て「幕府はもうダメだ」と判断しました。
栄一は天狗党の別働隊じみた動きをしながら、天狗党・薄井龍之の嘆願を握り潰し、天狗党を見捨てた慶喜に仕えています。
その経緯を大久保が知ったら「こげなもん信頼できるかっ!」となっても不思議ではない。
・大久保の性格
→確かに性格面において、栄一と大久保は相性が悪そうです。
儒教で分類すれば栄一たちがパッション型の陽明学であるのに対し、大久保はクール型朱子学タイプ。根本的に相性が悪いのでしょう。
・大久保にはビジョンがある
→明治政府の上層部はビジョンがなく、ノリで倒幕したものが多い。そんな中、大久保は「国家をどうするか」というグランドデザインがあったと評されます。
そんな大久保に対し、ドラマの栄一は「綺麗事」を言い出します。
まとめると「粉骨砕身しているのになによぉ!」という頑張ってますアピール。
根性論というか感情論というか。
欲しいのは具体的なデータと対応策でしょう。
がんばっているかどうか、そんなことどうでもいい。
さすがに史実の渋沢栄一だってここまで間抜けなことを言わないと思うのです。
明治の家族団らんは当たり前ではなく
明治新政府で働く栄一。
そのもとへ両親が訪ねてきました。
渋沢市郎右衛門元助(渋沢栄一の父)は息子をどうやって経済人に育て上げたのか
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家族団らんとなるのですが、これも現代の感覚で、明治初期は一家離散もあちこちで起きていました。
決して順風満帆な時代ではありません。
「お前が貧乏なのはお前の努力が足りんから!」明治時代の通俗道徳はあまりに過酷
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そしてお蚕トークです。
当時ならではの会話を盛り込ませても良さそうな場面ですが、他に具体性のある描写ができないのかもしれません。
演出やBGMの入れ方も雑になってきて、大河というより歴史バラエティのようです。
テンポもおかしくなってきました。
仕事の場面は早口で叫び何かと忙しない。一方で家族団欒の場面は間延びしているように遅く、スローモーションまで使う。時間稼ぎに見えてきて……。
場面変わって新政府へ。郵便事業のことが描かれるのですが、いきなり
「我がことなれり!」
というシャウトが入ってしまう。
せっかくの経済大河ですのでデータや検証が見たいのに、それは高望みなのでしょうか。
ドヤ顔で押し切るのではなく、もっと冷静に知的な話をして欲しい。
説得というのは相手が噛み締めて納得しないとできませんよね。ゆえに怒鳴ったり叫んだりすることはいけないはずなのに、本作はパワーで押し切ってしまう。
こんな職場にリアリティを感じますか?
このあと、本作が好む無能公家の典型・三条実美と、不満があると顔で目一杯に見せている大久保利通がいます。大久保ほどの策士がこんな幼稚な感情表現をするでしょうか。
「郵便」の名前を決める場面では、「時間がない中、Illustratorで作りました」感のある文字。
本格的に郵便事業開始!というところで前島密は渡英することになり、後任の杉浦に託されます。ここでも顔芸です。
そしてまた大久保のせいで妨害が入ったと言われます。なぜ渋沢と対立しただけで、大河主役経験者がコケにされるような描き方なのでしょうか。
「異人を焼き殺そうとしたじゃねえか」
栄一は尾高惇忠との再会を果たします。
そして兄ぃをスカウト。
栄一の嫁兄・尾高惇忠は史実でどんな功績が?富岡製糸場の初代工場
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平九郎に申し訳ないと断られますが、そりゃそうだ。
しかし栄一は過去の恥ずかしいやらかしを引き合いに出してきます。
「俺たちだって異人を焼き殺そうとしたじゃねえか」
うーん、それ、言いますか……。
侍には色々な人がいます。
栄一たちが「異人を焼き殺そう!」とテロを声高に叫んでいたころ、幕府の面々は交易を考えた国づくりを考えていました。
それをリードしていたのが小栗忠順。その小栗の才智を見抜いて抜擢したのが井伊直弼。その井伊直弼を殺してはしゃいでいたのが、水戸藩の連中です。
栄一はそんな水戸学フレンズとウェイウェイ活動をしていました。
そんなテロリスト栄一が新政府に採用されたのも、小栗ら幕臣がパリ使節派遣のお膳立てをした「欧州帰りの経験があった」からです。
それなのに栄一は徳川慶喜だけに感謝していて、もう心の底から「お前がいうな」でしかありません。
恩義を忘れる人物を大河の主役にして良いのでしょうか?
歴史知識としても大間違いです。
言うなれば明治時代とは、むしろ平民を徴兵し、武士の生き方を叩き込む――そういう時代です。
栄一は矛盾だらけ。服でも着替えるように「幕臣だ!」「侍はいやだ!」「俺は商人だ!」と言い出して、本当に信用ができない人物像に見えてきます。
悪役の密談で雷鳴が轟き!って
このあと井上馨と出会う渋沢栄一。
伊藤博文、井上馨、渋沢栄一と下半身に人格がないトリオが揃ってしまいました。
そして郵便事業が始まるのですが、『タイムスクープハンター』が惜しまれます。
あの番組のように事業運営の苦労が描かれたらさぞかし面白かったことでしょう。
しかし、そうした場面は描かれず、逆に惇忠のお悩みシーンで時間稼ぎ。平九郎が吐血して亡くなる場面、長七郎との回想が出てきます。
結局、惇忠は心を折れて出仕し、フランス人とも握手しました。
大仰なBGMで盛り上げ感動的なシーンになっていますが、これって美談でしょうか。
養蚕業に長けた人なら他にも大勢いるはず。その中から優秀な人材を探るセレクションもせず、親戚だからって雇っていればコネ人事でしかありえません。
そして玉乃も栄一に謝ります。
突然どうした?とキョトンとしていたら、慶喜に報告する栄一です。
今後は家康と慶喜がナビゲーターとなるんですかね。
ラストは、わかりやすい陰謀でした。
下劣な口調の岩倉具視が説明セリフで心境を全て話し、大久保が何やら企んでいる。
悪役の場面で照明を暗くして、当て方をおかしくして、雷鳴を鳴らす……って、一体いつの時代の演出センスなんだってばー!
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