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【青天を衝け第35回感想あらすじレビュー】
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水戸学礼賛の危険性
例えばこちら。
「崔杼弑君」や文天祥をひき、中国共産党批判につなげる展開。
気になるのは、その記事の本題ではなく、話の枕に藤田東湖と渋沢栄一が引き合いにだされているところです。
新札は渋沢栄一で良いのか。受信料で作る大河に相応しいのか。そんな根本的疑問もなく水戸学の大家である藤田東湖を礼賛しています。
無茶苦茶なテロ(攘夷)を推奨した後期水戸学。
東湖の子孫や子弟が引き起こした天狗党の乱。
それをロンダリングした大河描写。
そんな危険な思想にまみれた人物たちを話の枕にホイホイ使うのはいかがなものでしょう。
お札や大河に選ばれた、という表層だけ見て、本質は気にしていないんですかね。
水戸学に染まりきった結末が天狗党の乱ですよ。
大手紙で、簡単に見本としていい存在ではないと思うのです。
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口蜜腹剣――口に蜜有り腹に剣有り
今日も漢籍タイムです。
口に蜜有り腹に剣有り。『新唐書』「李林甫伝」
トークスキル抜群で人当たりはよい。すごくうれしいことを言ってくれる。でも腹の底には剣がある。こういうタイプが危険ですぞ!
こんな人物を指す言葉として中国語圏で有名なものに「偽君子」というものもあります。
こういう二面性のある人物は、若者にまで人気のある華流ドラマ、小説、ゲームにも定番造形。
あちらの皆さんは、ホイホイこのタイプにひっかからない傾向を感じます。
『陳情令』と『魔道祖士』にもアイツがいるじゃないですか。声優キャスティングの時点でなんとなくわかっちゃう彼ですよ。
造形として「偽君子」は定番です。
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なぜそんな話をするのか?というと、『青天を衝け』の渋沢栄一がまさにこのタイプ。
要は「口蜜腹剣」であり「偽君子」だと思うのです。
偽君子はキャラクター造形として秀逸といっても、あくまで脇役、悪役の話。
偽君子ロンダリングを大河でやられたら困るのです。
そしてこの「偽君子」スタイルはドラマそのものとも言えます。
朝日新聞系列の大手媒体telling人気レビューのこちらをどうぞ。
◆ 『青天を衝け』34話。「貧しい者が多いのは政治のせいだ!」NHKは報道番組でもコレを言ってくれ(→link)
この風潮を憂えた栄一の発言も、モロに現代対応していた。
「(ばらまき政策に対し)この世におとぎ話の打ち出の小づちはない。紙幣を刷って増やしたところで信用が落ちれば価値が下がる!」
「今の政府は、貧しい者は己の努力が足りぬのだから政府は一切関わりないと言っている。しかし、貧しい者が多いのは政治のせいだ!」
明治時代を描きながら、現代日本の問題にも斬り込む大森美香の脚本力はさすが。……ただ、NHKは大河ドラマのセリフじゃなくて、報道番組でコレを言ってくれ!
確かに現代的といえる。
こういうテレビ受けしそうな言葉を流せば「そうだそうだ、いいぞいいぞ!」と盛り上がってくれる観客はいる。
いわば露骨なガス抜きとして機能しているのです。
しかし、口先の言葉だけでなく、腹の底まで見抜かねばなりません。
先週、私は、
・栄一とその家族が袖の下を平然ともらい
・栄一が芸者のいる席で岩崎と話す場面
で、なんとまぁ裏表のある人物なのか……と呆れ果てたものです。
なんだかんで言ってて、本気で思ってはいないから、そんな思慮浅く、思いやりのない行動ができるわけです。
表層だけで語る偽君子の言動に感動するのが危険なことは、こうした行動からも見えてきます。
今の時代だって、本質を見抜くこと求められているのではありませんか?
三十年間給与も上がらず「失われた三十年」といわれる日本。
いったい日本経済はどうなっているのか?と国際的に突っ込まれている。
にもかかわらず150年も前の経済人を大河で持ち上げ、日本経済はスゴイと現実逃避。
もう本質――つまりは現実から目を背けている場合でないと、焦りばかりが湧き上がってきます。
漱石沈流―石に漱(くちすす)ぎ流に枕す
あの夏目漱石の筆名由来です。
石に漱(くちすす)ぎ流に枕す。『世説新語』「排調」
トリビアとしても実用的ですね。
ざっと説明しておきますと……。
孫楚がもういっそエンジョイ引きこもりライフをしたいと思いました。
「やってらんない。石に枕して、流れに口をすすぐような、そんな暮らしをしたいなぁ」
そう言いたかったのに、こう言い間違いました。
「流を枕にして、石で口をすすぎたいよね」
すると突っ込まれました。
「どういう状況だか、ちょっとわからないな。言い間違ったでしょ?」
「いや! 石で口をすすげば歯が綺麗になるし! 流れを枕にしたらしょうもないことを聞いた耳が洗えるでしょ! めっちゃわかりみあるよね!」
「お、おう……」
負け惜しみをして、自分の過ちを認めない。こういう人、どこかに必ずいますよね。
それが転じて「苦しい負け惜しみしないでくれ。こじつけで言い逃れするのはどうかと思う」という意味になりました。
なぜ、こんな言葉を取り上げたかというと、以下のニュースがあろうとこの大河を誉められるか興味がありまして。
◆ NHK大河「青天を衝け」 三つの国旗を上下逆さで放送し謝罪(→link)
7日の放送では、「安政の五カ国条約」を説明する場面で、黒衣の掲げていた五つの国旗のうち、オランダ、ロシア、英国の国旗が上下逆さまになっていた。
NHKによると、放送後に国旗検証の担当者から指摘があり判明。
13日の再放送では、国旗を掲げる黒衣の姿はなく、五つの国旗の正しい画像を放送した。
なんで、こんなしょーもないことでミスしてしまうのか。
「黒衣」とは、あの徳川家康の脇で働いている黒子のことですね。
そもそも家康にくだらない解説なんてさせず、CGで説明していればよかっただけの話なのです。
それを、こんな基本なチェックすらできていないということは、時間が足りてないのでしょう。
おそらく脚本が遅いんですね。
このミスだって、見るに見かねた考証担当者が指摘したからこそ謝罪しましたが、本作はレベルの低いミスが毎週のようにあります。
心臓発作で急死した斉昭が、死ぬ間際に妻にキスをする。
家康の後世捏造された遺訓を本物のように扱う。
「である」という言い方が定着する前から、大隈重信が連発する。
スタッフと思われるSNSアカウントが、ぼそっと釈明をしているようなこともあった。
NHKの視聴者の意見には、どっさりと抗議の声が届いていることくらい想像はつきます。
痛ましいのは、このドラマに関わった人々が得意満面であることでしょうか。
◆ 吉沢亮『青天を衝け』第28話は「神回中の神回」“慶喜”草なぎ剛に「心を揺さぶられた」(→link)
ここでも漢籍を出しますと「桃李成蹊」という言葉があります。
桃やスモモのように、美しい花を咲かせ、甘い実をつける樹木には道を作らなくても自然とできる。ほんとうに人徳や功績がある人は、むやみにアピールしない奥ゆかしさがあるということ。
『史記』が出典で、松坂桃李さんの名前の由来でもあります。
本作には、こういう奥ゆかしさがない。
自分が主演のドラマは神回だ!
しかも神回中の神回はこれ!
そんなタイトルだけで脂汗が滲みました。
謙虚さって、必要ないですか?
昨年の長谷川博己さんのインタビューと比較した時の差があまりに厳しくて、吉沢さんの将来が心配になってきます。
脚本家さんはもっと謙虚……かどうか。
◆「青天を衝け」脚本家・大森美香さん、登場人物への思い 家族旅行した深谷は心遣いの街、埼玉全体にも感謝(→link)
これも教科書通り。好感度を落とさない答えを紙に書いて読んでいるよう。
それにどこか信憑性が怪しいこともあります。
そもそも家族旅行のことなんで作品に関係ありません。そういうプライベートのことを言い出し、善人アピールして、褒めてもらう。そう言いたげなコメントって、一体どういうことかと思います。
例えば海外だと、インタビュアーは厳しいことも聞きます。
「後半脚本の質が落ちたとされますが」
「あの描写は女性蔑視ではありませんか?」
こういう会話のキャッチボールをしないと、本音は引き出せません。
しかし日本のメディアの場合、褒めることが事前に決まっているような退屈なやりとりしかできないので、どうしても予定調和でつまらない記事になってしまう。
こういう甘やかしをしていると、偽君子が天下をとりやすくなるので感心できません。
大河でストレス溜まってしまった方は、華流ドラマでも見ましょう。
華流ドラマでは、偽君子が討伐されると決まっているので、スッキリしますよ。
偽君子とは、媚びへつらう相手ではなく、倒すべき敵だ!
※偽君子退治のテーマソング『滄海一声笑』でも
※著者の関連noteはこちらから!(→link)
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関連記事は以下にございます
◆青天を衝け感想あらすじレビュー
◆青天を衝けキャスト
◆青天を衝け全視聴率
文:武者震之助(note)
絵:小久ヒロ
【参考】
青天を衝け/公式サイト