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【戦国時代の男色】
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大内義隆×陶隆房
せっかく陶隆房に逢いに行ったのに、寝ていたから和歌を残して立ち去った――そんな麗しい逸話もある大内義隆。
彼と噂になった人物は多いですし、ザビエルに男色を否定されて激怒しているので確たるものでしょう。
こうして全体を見ていくと、パターンがありますよね。
ハッキリとした証拠はなく、後世のフィクションで誇張されたものも含まれる。
一方で、男色に興味がなく、むしろ嫌っていた人物もいます。
女好きで知られる豊臣秀吉はその代表。
美少年を見たら「ねえねえ、きみ、姉妹いる?」となる。
細川忠興は「は? なんか刃傷沙汰になったりしてめんどくさいからやめろ」といった態度でした。
戦国大河ドラマと男色再考
大河ドラマで男色を描写するのであれば、史実に忠実かどうかというより、むしろ受け止め方が重要になります。
世論が男色を回避するのであれば、それにならいますし、逆にウケるのであれば取り入れるでしょう。
では、そんな作品例は何があるか?
2009年『天地人』の放映時には、制作側も把握していたことは間違いありません。
『炎の蜃気楼』は1990年に連載開始で2007年に完結。
『戦国無双』は2004年、『戦国BASARA』は2005年発売でした。
2000年代後半には、ボーイズラブと戦国時代という組み合わせは公然の秘密でした。この時代は戦国ブーム。2009年には「歴女」が流行語大賞にノミネートされました。
そんな時代らしい本も発売されています。
◆「そんな恥ずかしいカブト、取っちまえよ!」 武将ラブな“BL”本「ハラハラ! 関ヶ原」(→link)
当時は、これ以外にも戦国武将ボーイズラブ本が大量に発売されたものです。
しかし、そうしたノリを2020年代まで持ち続けているのは、流石に厳しいでしょう。
状況は、以下のように変化しています。
・ボーイズラブとして楽しむのではなく、性的多様性としての受け止め方を探る
2010年代後半から、男性同士の同性愛を扱ったドラマが、日本でもどんどん増えてきました。
2016年からの『おっさんずラブ』。
2019年からの『きのう何食べた?』。
2020年には「チェリまほ」で知られる『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』。
ボーイズラブ作品原作でも、いやだからこそ、人気作品として通用するのです。
ウケ狙いの鉄板ネタとしてだけではなく、当事者がどんな思いを抱えているのか、向き合う悩みといったことが描かれる作品もあります。
2018年にNHKで放映された『弟の夫』がその代表例でしょう。
イケメン同士がキラキラとBLしているばかりのドラマって、それでよいのだろうか? むしろ古くない? そんな流れが訪れます。
・VOD普及による海外ドラマの流入
まるで黒船流行のように、2010年代後半からは海外のコンテンツが入り込んできました。
それまで海外ドラマといえば、欧米圏が中心。
NHKでも放送された『SHERLOCK』は、ボーイズラブ要素も人気のひとつでした。
あのような作品は二次創作込みでのボーイズラブ狙いでしたが、それがメインテーマのドラマが次から次へ、しかもアジアから乗り込んできます。
タイ、韓国、台湾、中国などなど……多くの国から上陸し、ジャンルとして「BLドラマ」が堂々と確立されたのです。
ならばもう、表立って見ればいい!という風潮へと変化してゆきます。
・「腐女子」なんて卑下する必要もない!
ボーイズラブが表に出てきて、隠れ忍ぶ必要がなくなると、「腐女子」という自虐的な呼び方も廃れてゆきます。
正々堂々と楽しめばいい。そんな意識の転換がありました。
・話題性のため同性愛を利用することは「クィア・べイティング」
マーケティング手段として「同性愛をにおわせる」手法が時代遅れどころか、禁忌とされるのがこれからの時代。
世界的に批判された典型例として挙げられるのがこちらです。
◆映画『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒』でクィア・ベイティング? 『スター・ウォーズ』も批判されたマーケティング手法とは(→link)
注目は以下の部分。
クィア・ベイティング=Queerbaitingとは、作中ではロマンスが描かれないにもかかわらず、セクシャルマイノリティ同士のロマンスが描かれることを匂わせてファンを誘導するマーケティングの手法である。
baitは“餌”を意味しており、セクシャルマイノリティを食い物にしているというニュアンスが込められている。
こうした指摘を見ていると、非常に懸念深いのが大河ドラマ『どうする家康』。
「信長がいきなり家康の耳を噛む」など、相手の同意も得ずに実行し、多くの視聴者を引かせていました。
ジャニーズ事務所の二人だけに大手メディアでは批判の報道はありませんが、だからといって問題がないわけじゃない。
センスが古いことに気づいていないのか、見る側もこの罠にかかっているようで、以下の2つの記事に注目です。
◆ “俺の白兎”で話題「どうする家康」BLのようなセリフ連発!?腐女子「古のスパダリBLか?」(→link)
あたかも視聴者が喜んでいるかのような描写に加えて、
本作を見た腐女子からは、「古のスパダリBLか?」「動悸と震えがとまらねェよ」「何この大河??平成BL名語録??」といった反応が寄せられています。
こちらの記事では、
◆岡田信長ドSプレイの畳み掛けに、SNSでは困惑と喝采が(→link)
わざわざ「耳カプ」と見出しにつけてまではしゃいでいます。
■おもわず変な声が出た、信長の耳カプ
しかしそんな家臣団の胸熱なドラマを、とんでもない勢いで上書きをしたのは、今回も家康LOVEが過ぎた信長だ。浅井との戦いに協力するよう求める際に、一瞬耳を甘噛したときは「あれ、幻かな?」と思ったけど、姉川の戦い終了後、完全に耳にガブリと噛みつくに至っては、もういろんな感情で変な声がマジで出た筆者だった。
SNSでも「信長のドSプレイを披露する今期の大河ドラマ(少し困惑)」「白兎、と囁きながら耳噛み、けしからん」「好きすぎて、頭おかしい人みたいな(笑)」「『史上最高に気持ち悪い岡田准一』が一話の内に再度更新されるとか誰も予想できねーよw」など、笑い混じりの戸惑いコメントが続々と。
確かに平成に流行したBLと聞けば、権力者が弱者に執着するスーパー攻め様が頭をよぎる方もいるかもしれません。
しかし、あんな無礼な暴行まがいを見ていて、面白がる感情が湧いてくるということに、私は困惑しています。
ゾッとして目を逸らしてしまい、ため息をついてしまいました。現実にああいう場面を見たら、なんとしてでも止めたいと思ったほどです。
・性的同意を重視、グルーミングは犯罪です
性的な犯罪への見方も変わっています。
同性愛において、古い意識や偏見が被害者を苦しめることは指摘されているところ。
少年愛は未成年を対象にしていて、性的同意や知識が曖昧なまま、被害に遭うことは問題でしかありません。
被害を信じてもらえない。
本人ですら「あれはよかったことだ」と自分を騙してしまう。
そうした犯罪が問題視される中、強引に迫るサディスティックな路線は嫌悪感が生じます。
美少年をストーキングすることが、未だにいいとか思ってんの?
そう問われる時代なのに、大河ドラマで織田信長と徳川家康を2000年代末のようなボーイズラブ路線にしてします。耳ハムを喜々として流してしまう。
嫌悪感を抱く視聴者がいるのも必然でしょう。
『鎌倉殿の13人』での源実朝は、そのあたりの配慮が行き届いていました。
演じる側も真剣に取り組み、茶化すような真似などしません。
史実の源実朝は男色ゆえに子供ができなかった?鎌倉の源氏が三代で途絶えた理由
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ウケ狙いなんかではなく、真剣に向き合って取り組まないと、コンテンツの寿命も縮んでしまうのが2020年代の流れです。
どうするボーイズラブ――という点は真摯に考えるべきところでしょう。
側室ネタにしたって、性的なことで笑いを取ろうとするセンスである以上、根っこの問題は同じです。
昭和おじさんは職場だろうとヌードカレンダーを飾り、コミュニケーションと称して女性社員のお尻を撫でていました。
今思うとただただ気持ち悪いだけ。
「スパダリ」だの「ドS王子」だの盛り上がるのって、そういうセクハラの平成版ではありませんか。
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文:小檜山青
※著者の関連noteはこちらから!(→link)
【参考文献】
大塚ひかり『ジェンダーレスの日本史-古典で知る驚きの性』(→amazon)
『新書版 性差の日本史』(→amazon)
スーザン・マン『性で読む中国史』(→amazon)
弓削尚子『はじめての西洋ジェンダー史: 家族史からグローバル・ヒストリーまで』(→amazon)
『文藝春秋2023年5月号』金田淳子「BLにハマる女たち」(→amazon)
他