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【久松俊勝】
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そもそもヒモなのか 恥ずかしいのか
事実、久松俊勝は、先妻との間にできた子と孫、義兄を失っています。
『どうする家康』で彼の生き方が“適当”に見えるのだとすれば、家康が天下人になるという結果を知っている現代人ならではの感性です。
こんな認識でしょう。それを戦国時代の世界観に練り込んで、しかもドラマにおけるキャッチコピーにするのは、やはり問題があるはず。
そもそも「ヒモ」とは、女性に働かせ、金銭を貢がせる情夫を指すスラングです。
於大の場合は彼女自身が労働者ではありませんので、この言葉が適切かどうか。
仮に、女性側の財産で男性が養われるとしても、この状態を恥ずかしいとするのは、歴史的にはごく最近の話です。
『鎌倉殿の13人』での源頼朝は、妻・政子の北条一族や、乳母の比企一族を頼りにしていました。
あの作品では、そうした状態を「ヒモ」とは形容していません。女系の力を借りることを恥ずかしいと思う価値観そのものが、中世の日本にはないのです。
慈円はそうした状況を『愚管抄』に「女人入眼」と記すほどでした。
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この法律では、女性による財産や家督の継承が規定されていました。
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歴史劇のタブーとは
江戸時代以降、女性の大名は消えてゆきます。
それでも当時の女性には、自力で稼ぐ手段はありました。
幕末に来日した外国人の目からすると、自分の技能を教えて稼ぐ女性の姿は興味深いものとして映ったほど。
それが明治時代となると、西洋由来の家制度、家父長制が持ちこまれ、女性が稼ぐ手段が無くなってしまいます。
法律的にも女性は判断能力がないと見なされました。
たしかに、朝の連続テレビ小説『あさが来た』ヒロインのモデルとなった実業家・広岡浅子のような女性もいます。
彼女のような有能な女性ですら、男性名義で取引や契約をせねば事業を回せなかったのです。
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こうした制度のもとで、根付いてしまった偏見は根深い。
女の稼ぎや財産で養われる男はみっともない。
適当に生きている。
あいつらは異常で不自然、男らしくなくて情けない、「ヒモ」なのだ――。
『どうする家康』の久松俊勝は、そんな歴史の浅い偏見を元に描かれていたように思えてなりません。
どうするジェンダー観――。
2026年の大河ドラマ『豊臣兄弟』は再び戦国時代が舞台になります。
久松俊勝のような知名度の低い国衆たちにも出番があれば、栄誉ある描かれ方を期待したいと思います。
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文:小檜山青
※著者の関連noteはこちらから!(→link)
【参考文献】
大石泰史『全国国衆ガイド』(→amazon)
柴裕之『青年家康 松平元康の実像』(→amazon)
『新書版 性差の日本史』(→amazon)
他