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信康の切腹事件
ただし、たった一つだけ、忠次の頑張りをもってしても解決し切れなかった織田徳川のトラブルもあります。
天正七年(1579年)、松平信康腹件です。
家康の長男・松平信康が織田信長からの命で切腹に追い込まれた――という事件であり、当初、信長の疑いを晴らすべく、徳川家から織田家へ弁解に行ったうちの一人が忠次でした。
しかし皆さんご存知の通り、訴えは却下。
信康は切腹を免れられず、母・築山殿も時を同じくして殺害されました。
このことを家康はずっと覚えていて、後に忠次が
「うちの倅にもう少し領地をもらえませんか」
と言ってきたとき、
「お前も息子が可愛いのか」
とイヤミを言った……という話が伝わっています。
近年では「信康の切腹は家康の意思である」という説も有力になってきますし、そもそも忠次の貢献度を考えたら信憑性はあまり高くありませんね。
なんせ家康の苦難には必ずと言っていいほど側にいた酒井忠次。
本能寺の変後に起きた【神君伊賀越え】や【天正壬午の乱】など、まさしく命懸けの場面にも当然のように付き従っています。
その後の大きなターニングポイント――天正十二年(1584年)の【小牧・長久手の戦い】では、そろそろ還暦に差し掛かろうという年齢ながら、【羽黒の戦い】で森長可の軍を敗退させています。
注目は、その後の家康上洛でしょうか。
秀吉から実妹や実母を人質として送られ、もはや上洛して和解(という名の臣従)しなければ再び全面対決にでもなりそうだ――という場面で、忠次がちょっと面白い活躍をしています。
家康が三河や遠江を留守にするとなれば、新しく領地に加えたばかりの甲斐方面を警戒しなければなりません。
そこで家康は、北条を訪ね、背後をバックアップしてもらうよう会見したといいます。
北条としても、秀吉との対話ルートが必要であり、家康の来訪は望むところだったでしょう。
と、このときも忠次は家康に随行し、酒宴の席で舞を披露したところ、北条氏政がたいそう気に入ったのだとか。
やったのか……海老すくいを披露したのか!
隠居後に京都で一男もうけて
その後も家康の信頼厚く、酒井忠次は天正十六年(1588年)に隠居するまで側近として働き続けています。
豊臣秀吉からも隠居所として京都の屋敷や、お世話役の女性や隠居料をもらっていました。
この時点だとまだ秀吉もボケてないですし、もしかすると石川数正を引き抜いたように、忠次も自らの陣営へ呼び寄せたかった?
そんなことも考えてしまいますが、この頃すでに忠次は眼病を患っており、隠居とほぼ同時に出家していますので、あまり俗世に関わるつもりはなかったようです。
特筆すべきは、このお世話役の女性との間に息子をもうけていることでしょうか。文禄二年(1593年)のことです。
元気で何よりですが「隠居」「出家」という言葉の意味はいったい……。
ちなみにその息子・酒井忠知は、後に徳川秀忠の小姓として仕えています。
様々な意味で個性的だった忠次。
最期は1596年12月17日(慶長元年10月28日)でした。
秀吉が亡くなる二年前、関ヶ原の戦いが起こる四年ほど前のことです。
享年70。
★
酒井家は代々子宝に恵まれ、忠次の孫・忠勝から庄内藩主となり、江戸時代を生き延びて現代にまで血が続いています。
途中で養子を迎えたこともありますが、他家からではなく一門からの養子ですので、忠次の血を引いていることには変わりありません。
現在のご当主・酒井忠順氏は、これまで非公開だった酒井家代々の墓所を公開し、その管理費用をクラウドファンディングで調達するなど、なかなか柔軟なお考えをお持ちのご様子。
真面目でありながらユーモアも兼ね備えていたご先祖の血がなんとなくうかがえるような気がしますね。
忠次は家康の天下を見ることは叶いませんでしたが、末広がりとなった子孫の活躍には、草葉の陰で目を細めていることでしょう。
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長月 七紀・記
【参考】
国史大辞典
藤井讓治『徳川家康 (人物叢書)』(→amazon)
煎本 増夫『徳川家康家臣団の事典』(→amazon)
『徳川四天王-江戸幕府の功労者たちはどんな人生を送ったのか?』(→amazon)
ほか