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【秀吉は人たらしなのか?】
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大河ドラマの秀吉:前編
大河ドラマで、秀吉はどのように描かれてきたか?
彼が登場する代表的な作品に短評を添えて見て参りましょう。
◆第3作『太閤記』
信長・秀吉・家康という三英傑の中で、真っ先に主役として取り上げられたのは豊臣秀吉でした。
江戸時代以降、日本人にとって定番の作品であるからこその選出だったのでしょう。
この作品では緒形拳さんを大々的に売り込んだという意義もあります。
大河ドラマの一作目は、映画界の花形を引っ張ってくる形で話題をさらおうとしましたが、本作はむしろ「大河で売り込む!」という時代の流れに一致していました。
◆第11作『国盗り物語』
ドラマで重要な役割を果たす明智光秀――そのライバルとして登場。
火野正平さんが秀吉を演じました。
◆第16作『黄金の日々』
秀吉を徹底的に悪役として描く革新性が話題に。
◆第19作『おんな太閤記』
秀吉の妻・ねねが主人公です。女性目線大河のはしりとされます。
◆第21作『徳川家康』
本作でようやく家康像が更新されます。
三英傑で最も遅い主人公としての登場でした。
◆第30作『信長 KING OF ZIPANGU』
仲村トオルさんが秀吉を演じています。
この作品では緒形拳さんのご子息である緒方直人さんが信長を演じたことも話題に。
父が秀吉、子が信長を演じたことになります。大河ドラマという長い歴史を持つ枠だからこそ成立しました。
◆第35作『秀吉』
『太閤記』以来、秀吉主役の大河ドラマとなります。
晩年の失政といえる【秀次事件】や【朝鮮出兵】そのものが描かれず、暗い時代へ向かうと予見させるだけで終わりました。
それだけに当時から批判されています。
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◆第41作『利家とまつ』
放映後、不可解な判断によって豊臣秀吉がわかりにくくなった作品。
秀吉の妻・おねを演じていた俳優が逮捕されたため、それにまつわる部分がカットされたのです。
夫婦愛をテーマにしていただけに、主人公夫妻と秀吉夫妻はセットで描かれることが多かった。そのため今となってはわかりにくい作品になってしまってます。
出演者の逮捕に伴う過剰な制限には弊害があり、2023年現在、NHKでも柔軟性を持った対処に切り替える動きが出ているようです。
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◆第45作目『功名が辻』
主人公である山内一豊夫妻の目線から見た秀吉像となります。
彼を鼓舞して引き立てるものの、晩年の失政を描かねば主人公の変貌がわかりにくくなります。妻の目線も取り入れつつ描かれました。
司馬遼太郎原作の戦国大河ドラマは、これが現時点では最終作になります。
司馬は織田信長と豊臣秀吉には好意的であり、徳川家康には冷淡であったことを留意すべきかと思います。
◆第48作『天地人』
戦国大河のワースト候補とされる問題作。
秀吉描写に関しては、主人公である直江兼続目線もあり、途中までは明るく陽気、晩年になって迷惑をかけるという定番の描き方でした。
大河ドラマの秀吉:後編
◆第50作『江〜姫たちの戦国〜』
一言でいえば無茶苦茶です。
ヒロインの江から見ると「茶々姉さんに近づくキモいオヤジ」でしかない。
それはまだ江目線なので許容できますが、なぜか秀吉が「江の中に信長を見出し恐れる」となり、わけがわからなくなるのです。
確かに江と信長は、姪と伯父という関係です。どうやったら信長を見出せるのか……。
こんな、バカみたいなトンデモ秀吉像は、ここで底を打って欲しい。これ以下は見たくない――そう願う大河ファンがいたとしても、無理のないことでしょう。
◆第53作『軍師官兵衛』
第35作『秀吉』で主演を演じた竹中直人さんが、再び秀吉役で再登板。
定番の秀吉像であり、余計なアレンジを効かせない、ある意味、定番の味わいがあったものです。
主人公である官兵衛を恐れ、また官兵衛が秀吉を嗜めたとしても、そこまで不自然ではありません。
◆第55作『真田丸』
誤解が生じた結果、豊臣秀次が自刃してしまい、大ごとになってしまう――そんな新説を取り入れた【秀次事件】が描かれました。
秀吉の残忍さというよりも、心身の衰えによる判断力の低下が失政につながってゆく様子が描かれています。
主人公である真田幸村は、複雑な事情によりやむなく【大坂の陣】では西軍につくという描かれ方。
人物像を単純化しない。
主人公の敵対者を貶めない。
非常に丁寧なアプローチがファンを喜ばせた作品です。
◆第59作『麒麟がくる』
主人公である明智光秀と対比される描かれ方でした。
誠実でありながらどこか不器用でもある光秀に対し、秀吉は明るく機転が効く。
光秀の諫言に信長が苛立ったあと、スッと心の隙間に入り込む。
非常に巧みな人心掌握術を用いています。
堅物の光秀に対しては通じないけれど、会話の前におどけ、明るい口調で雑談から入るような手法を用いていました。
そこから一転、自分の「人たらし」が通じないとなると、すっと底冷えするような目線になる。
いわば二面性がある人物像で、邪魔になった弟を謀殺する描写もあります。
この作品は心理描写を重視していました。
光秀と信長はよくも悪くも裏表がなく、不器用な人物。一方で秀吉は器用に振る舞う。そんな対比を見せていたのです。
秀吉の「人たらし」ぶりは時代が決める
結局、秀吉の人たらしぶりとは、何なのか?
現代風にわかりやすくいえば、コミュニケーション能力が高いということでしょう。
過剰に性格に結びつけて考えるのではなく、彼のような低い身分の人間であれば、そうしなければ取り立ててもらえなかった。
コミュ力に加えて、【金ヶ崎の退き口】という「ここぞ!」の場面でやる気と実力をアピールしたからこそ、登り詰めることができたのです。
リスクを取り、偶然と幸運に恵まれた。同時に実力もあった。
コミュ力だって大いに評価されるべき実力です。
晩年の秀吉は、冷徹になったとされます。
前述の通り、彼自身が変わってしまったのか、それとも本来の地が出たのかは不明。
『真田丸』の場合は、秀吉の健康悪化による衰えに重きが置かれました。
そのせいで後継者の秀次を死なせてしまったことは痛恨事です。強大なカリスマ性を有する権力者には、なかなか代わりがなく、ジワジワと崩壊に至っていく……そんな様子がドラマで丁寧に描かれていました。
天下を維持できた家康と、そうならなかった秀吉。
その違いを考えるとなれば“教育の差”もあるでしょう。
家康の愛読書は『貞観政要』です。唐の基礎固めをした中国史上最高の名君について学び、政権の基礎固めをするにはどうすればいいか、若い頃から考える時間があった。
思想も重要です。
徳川家康は儒学者である林羅山を重用しました。
隣国の明では、朱子学を民衆にまで浸透させることを重視しています。
士大夫と呼ばれるエリート階級は科挙のために儒教を学び、庶民にまで思想を教え込むことで、秩序を保とうとしました。
こうした思想史からの見方は『麒麟がくる』のテーマでもあります。
仁政の世に姿を見せる麒麟とは儒教思想の象徴であり、一方あのときの秀吉は劇中で『徒然草』を読み、教養を身につけようとするシーンが描かれました。
光秀が『論語』はじめ漢籍を引用する一方で、秀吉は『徒然草』というところに重要な対比が見られたのです。
近年の描写は、英雄を極端にキャラ付けして単純化しない、そんな流れに沿っています。
しかし大河ドラマ『どうする家康』は、どうにもおかしかった。
豊臣秀吉は徹底して「下劣」「サイコパス」といったキャラ設定。
信長の妹であるお市が輿入れするとなれば、さっさと性的関係を結んでおけばよかったと口走る。
敗走する武田勢を見て、虫けらのようだと笑い飛ばす。
信長の死を望むようなことを平然と口走る。
◆<どうする家康>ラスト5分のムロツヨシ劇場 クズでサイコパスな秀吉 家康脅すも、笑顔で自身の正当性主張(→link)
◆<どうする家康>秀吉、信長の死に泣き声上げるも涙出ず? 急に真顔→不敵な笑み サイコパス発動で「中国大返し」へ!(→link)
日本のメディアで使われる「サイコパス」という言葉は、あまり正確ではなく、「ヤバい奴w」程度のニュアンスに思えます。
本来のサイコパスは表面上は魅力的だからこそ怖い。
平気で周囲を騙しながら、平然と恐ろしい行動に走る。
そういう意味では『麒麟がくる』の秀吉はサイコパスだと思えましたが、『どうする家康』の秀吉は単なる「ゲス」で片付けられるでしょう。
二面性や複雑さはなく、ただただ単純なだけ。
それだけに本多正信の口から急に「秀吉は人たらしの天才だ!」なんて言葉が出てきても、単にセリフを言わせているだけ感が凄まじくて、全く説得力がありませんでした。
家柄もない、財産もない、しかも品性下劣で思ったまま口走る。
そんなバカな男がなぜ織田信長に取り立てられたのか?
本気でわからなくなってしまいました。
★
大河ドラマは、単発でウケ狙いをするのではなく、一年かけてじっくりと人物像を形成するコンテンツです。
秀吉は自分の立場にあわせ、振る舞いを変えたからこそ「人たらし」になりました。
大河という枠に即した人物を描くことで、視聴者の心をたらしこんでくれることを、2026年の制作陣には期待するばかりです。
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文:小檜山青
※著者の関連noteはこちらから!(→link)
【参考文献】
NHK出版『NHK大河ドラマ大全』(→link)
一坂太郎/星亮一『大河ドラマと日本人』(→link)
他