ドラマ大奥幕末編 感想レビュー第16回

ドラマ10大奥感想あらすじ

ドラマ大奥幕末編 感想レビュー第16回 家定を守るための奥作り

赤面疱瘡を克服した11代将軍・徳川家斉が世を去りました。

次に訪れた12代将軍・徳川家慶の時代はどうなるのか?

残念ながら、高嶋政伸さん演じるこの人物は、祖父・徳川治済(はるさだ)の呪われた血を彷彿とさせる、新たなモンスターでした。

 


将軍家斉の栄光

実際の江戸幕府では、11代から12代へどう移り変わったのか。

史実と共に考えてみましょう。

11代将軍の徳川家斉というと、今では“オットセイ将軍”の印象が強く、政治も何もせず、遊び呆けていたバカ殿の印象があります。

男女逆転SF『大奥』では、赤面疱瘡の克服という劇中での功績により、その印象が弱められているようにも思える。

作劇上の都合だけでもなく、実際のイメージにも関わってきます。

当時の人々にとって、家斉時代はそれなりに世の中が安定していました。あのころはよかったなァ。そうぼやく時の「あの頃」とは家斉時代でした。

そのせいもあってか、彼の治世は安定した良いものとして考えられていたのです。

一方、12代の徳川家慶が就任すると、人々は「あの公方になって以来、ろくなことがねえ」と嘆き、家慶本人も無気力になるばかりでした。

併せて当時の有力人物も見ておきましょう。

贅沢を禁じる細々とした政策が江戸っ子に嫌われた。

この作品では「男のせいで世の中が正しくなくなった!」という言動でその保守性と反動ぶりが示されています。

・遠山景元(左衛門尉/金四郎)

幕府のお達しにより引き締めねばならぬところを、うまく手加減。

政治家としての姿勢が愛され“遠山の金さん”として名を残すことになりました。刺青伝説でもおなじみですね。

奉行としての活躍は色々な要素が混ざっているようで、刺青伝説には「庶民の気持ちがわかる!」という願望が込められている。

当時の刺青は、イケてるお兄ちゃんたちのファッションアイテムです。

技術があがり、華麗な絵が描ける。ファッション性と痛みに耐えるタフさのアピールとしても使える。

そんなわけで、火消し、鳶職、侠客の定番となりました。現代では反社会勢力との結びつきが強調されますが、本来はファッションアイテムなんですね。

といっても、お行儀正しい武家は当時も禁止。

そこを破った金さんは庶民の気持ちがわかる、となる。実際の生没年からはやや後ろにずれてはおりますが、時代劇へのオマージュですので許容範囲でしょう。

原作では描かれておりましたが、蘭学者にとっても辛い時代が訪れています。

幕府は蘭学規制を行い、海外情報へのアクセスを遮断。獄死者も出ていました。

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民衆の意識も変わっています。

一揆が起こる。風刺画が出回る。江戸時代の民衆は政治を考えていなかったわけでもなく、蜂起する手段を練っていた。識字率もあがり、学問も身につけていた。

そんな時代に、幕閣は地球の裏側でフランス革命が起きたことを知ります。

農民一揆で公方と御台が首を切られてしまったとは! これはまずい! こんな手段を日本の民衆が覚えたらまずい! そういう理由から遮断したのですが……限界はあります。

ナポレオン讃美の漢詩を頼山陽が作る。民衆向けのナポレオン伝記も出回る。

かくして吉田松陰西郷隆盛まで、ナポレオンを知る。そんな時代です。

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陰間の集まる芳町へ

さて、そんな時代に阿部正弘はどう生きていくのか。

反動的な水野忠邦は、今では珍しくなった女の幕閣誕生に喜び、接近します。

曖昧な笑みを浮かべる阿部。

忠邦は嫌われ者ですので、あまり近寄りたくない。とはいえ阿部はコミュニケーション能力が高くとても優しい性格ですので、やんわりとごまかします。

そんな彼女を遊びに誘うのが、遠山左衛門尉。要するに“遠山の金さん”。遊び慣れている彼が連れて行ったのは、妖しい芳町でした。

陰間が客を取る色街です。

吉原が女専門になったので、男専用となった場所。ホストクラブが軒を連ねているわけですね。

遊び人とはいえ、こんなところにホイホイと上司を連れて来ちゃっていいんですか?

ここで当時の幕閣の性的規範でも。

そんなにゆるゆるでもなく、妾を囲っていればスキャンダルネタになります。それこそ風刺画で格好のネタにされますね。

遠山景元にせよ、刺青を気にして隠していたとされるからこそ、伝説が生まれています。

そんなわけで、阿部は大っぴらに遊べないってば!

遠山は慣れた様子で陰間とどこぞへ消えてゆきます。当時の感覚では「遊びを極めるなら、美女でなく美男もいくぜ!」となるので、馴染みもいるのでしょう。

でも阿部は初めてで、こんなの慣れてないんですよ!

阿部が困り果てて帰ろうとすると、盗人を追いかける男がやってきました。

怯えつつも、行手を阻もうとする阿部。突き飛ばされて転びながら、義侠心で盗人の足を引っ掛けます。

男は盗人をしめつけ匕首を落とさせ、それから阿部を助けます。ここでの男の美男ぶりよ。

夜の闇の中に、月のように浮かぶ白い顔。絵に描いたような眉に目鼻立ち。江戸後期からの美男そのものではないですか!

月岡芳年『月百姿』/wikipediaより引用

男は礼を言い、取り戻せた書籍をチラッと示します。

そのお礼とは何か?

 


花魁姿の瀧山

阿部が一室で飲んでいると、先程の美男が花魁姿で姿を見せます。

彼は陰間でした。

煌びやかな姿に阿部はうっとりします。なぜ吉原の花魁のような格好をしているのか?と尋ねます。

月岡芳年『風俗三十二相』/wikipediaより引用

そもそも、この格好を始めたのは陰間だったとのこと。当時はまだ真面目に種を求めてやって来る、女の客を怖がらせないように着飾ったのだとか。

SFとして面白い設定ですし、阿部正弘はそんな往時のおぼこな女客みたいだから、花魁の格好をしてきたという気遣いともとれる。

歴史的に見てもなかなか興味深い。というのも、本来男性が身につけていたものが女性のものとなる現象はあります。

海外ならばハイヒールの靴。和装ならば羽織と袴がそうです。服装の男女差というのは、実はそこまで厳密でもないのですね。

阿部は無邪気なので、男に身の上話を聞きます。

彼が難しい書籍を読んでいたことも見抜いている。なんでも年季開けしたら学問をしたいのだとか。

原作ではこのあたりが生々しく描かれていましたが、陰間の旬は短い。彼もそこを見越しているわけですね。

学者になりたいのか?と驚く阿部。

「ここを出たら、今度こそ己の翼で飛びたいってね」

陰間が言うと真実味があります。これまでは客のお情けに縋って生きてきた。

それでは、いくら売れっ子になろうと、自分の翼で飛んでいない。所詮は鳥籠の中で囀っているだけですから。

己のやりたいことをやって、己の向かいたいほうへ向かっていく――そんな憧れを語る彼。

阿部は戸惑います。

彼女は兄の隠居のおかげで飛ぶ機会を得た。確かに気苦労は多いけれども、兄の隠居を喜んだ。これで世に出られる! そう本音を漏らしたのでした。

籠の中も、外もわかる。それが彼女です。

だからこそ、己の翼で飛んでいるのに、ため息なぞついていられない……とは思いつつ色々と大変なのですね。

ストレス発散をすればいいと、色仕掛けに動くところが陰間の悲しさ。

阿部は驚き断ります。客筋がいいから病気はないとズバリ言うあたりが、どっぷり商売に浸かってしまっている。

阿部は語り合うことで慰められたと笑いつつ断ります。柔軟でいい人だなぁ。

ここで互いにやっと名乗り合います。

伊勢守と瀧山

瀧山の手をとり、楽しかったとお礼を言い、去って行く阿部でした。

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