ドラマ大奥幕末編 感想レビュー第16回

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ドラマ大奥幕末編 感想レビュー第16回 家定を守るための奥作り

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むくつけき薩摩隼人は…

広大院のご遺志として、家定にある話が持ち込まれました。

なんでも薩摩からの御台所輿入れが、広大院の意向でもあるとか。

実際にそうであったか、政治利用かはさておき、阿部と家定には、薩摩の狙いはお見通しです。

薩摩藩と水戸藩は最近接近している。

島津の御台所を通し家定を籠絡し、次の世継ぎを水戸藩の推す一橋慶喜にしたいのだと。

家慶も、跡継ぎならば一橋から迎え入れればよいと語っていて、そういう構想はあったんですね。

阿部はそれを見越しつつ「味方が増えるならば悪くはない」と考えています。

史実準拠の阿部正弘の欠点かもしれません。

阿部は誰の意見でも聞いてしまう。相手が害悪な人間であっても取り込んでしまうのですね。

そしてこの会話には、幕末史理解を促進するような重大ポイントも見受けられました。

なぜ、慶喜が将軍として押されたか?

これは慶喜が成人していて聡明だからとされてきます……が、話半分に受け取っておいたほうが良さそうです。

慶喜を猛烈プッシュしていた松平春嶽ですら、後になって「あれは慶喜の父・徳川斉昭の熱苦しい親バカにやられただけ」と振り返っています。

兄・島津斉彬に続いて慶喜を推した島津久光も、結局、慶喜に激怒していました。

しかし、さほどに問題のある慶喜がなぜ候補にされたのか?

当然ながら思惑があります。

水戸藩は斉昭の問題ある性格ゆえに、御三家なのに幕政から遠ざけられていた。それを打破するため自分と共に幕政に食い込む諸大名が欲しかった。

要するに、水戸藩が先頭に立った一橋慶喜を推すことで、外様藩は幕政に深く食い込むができるという、そんな思惑があったんですね。

そんな政治的思惑ゆえに嫁いでくる島津からの御台。

家定は受け入れることとしました。薩摩隼人一人ぐらいたぶらかしてやる。

「そなたのために将軍になった! そなたを自在に空を飛ぶためにここに座っておるのだ、私は」

家定にそう返され、感極まってしまう阿部正弘。

この君臣は比翼の鳥として、天翔る夢を見ているのでした。

瀧山大奥に、むくつけき薩摩隼人を迎えるようにと檄を飛ばしています。

家光以来の上様を守るべき砦としての誇りを語り、背負ったお万好みの流水紋を見せる瀧山。

「我らが大奥だ!」

そう宣言した大奥に、薩摩切子とともに御台は入ります。

そこにいたのは、むくつけき薩摩隼人どころか、お万の方によく似た涼やかな美貌を見せる御台でした。

「胤篤である。よろしう頼む」

幕末の政局が慌ただしく動いてゆきます。

集成館事業
薩摩切子で芋焼酎を楽しめるのは斉彬が遺した集成館事業のお陰です

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阿部正弘が近代日本のグランドデザインを作った

男女逆転したSFとはいえ、このドラマは幕末史理解に大いに役立ちます。

阿部正弘の政策は秀逸で、明治以降の近代日本のグランドデザインとされています。

そんな阿部が納得した勝の意見を聞いて「全くその通りだな」と視聴者でも思いますよね。

ところがどういうわけか、当時拍手喝采を浴びた意見が徳川斉昭のこれだからどうしようもない。

「異国船に乗り込んで、異人どもを斬り殺せばよいのでござる!」

そんなもん近づいただけでお陀仏じゃねえか!

勝にしてみりゃそうなりますが、正論が通りにくくなるほど斉昭の身分とパワーはすごかった。

予告の時点でやる気のない慶喜は、そういう無茶苦茶な人物の息子です。

このまま阿部のグランドデザインを通せばよかったのに、阿部の急死もあってそうはならない。

阿部の多くの人を政治参画させようとした路線は「言路洞開」(げんろとうかい)と言います。

 


幕末の持つ、極彩色の感情を

斉昭がのさばる状況に業を煮やした人物が来週出てきますので、少々予習でも。

「甘っちょろいことをしていると、徳川斉昭みたいなヘイトスピーチで人気取りするどうしようもないレイシストが政治参加して、人気取りで無茶苦茶やるからダメなんだよ!」

井伊直弼です。

実際、水戸藩筆頭の一橋派のせいで幕政が掻き回されたので、これも仕方ないところではありましたが。

その結果、安政の大獄が起き、井伊直弼は桜田門外の変で殺されてしまいます。

するとこう目覚めてしまう連中が出てきた。

「テロリズムで世界は変わるんだ!」

尊王攘夷を掲げたヘイトクライムが横行し、言路洞開路線はテロリズムに押しやられて日本人同士が傷つけあい、政治は崩壊。

そこにイギリスが付け込んできて、自らの帝国に都合のいい政権=明治政府を打ち立てる。

『大奥』は美しい。比翼の翼で飛ぶ君臣の姿は実に美しい。どうしてこの鳥が飛べなかったのか? 鳥のめざした新たな時代はもっと素晴らしかったのではないか?

黒船来航の時点でそれが非常に悔しくなってきます。

この悔しさこそが、本作の真価かもしれません。

幕末史を振り返っていると、明治維新以外のやり方もあったのではないか?とか、幕府は言うほど悪くないのでは?とか、京都でテロをする様を青春日記じみた語り口をするのは、現代にまで悪影響を及ぼしているのではないか?とか色々と考えてしまいます。

幕末史をスカッと爽快に味わうということは、その時点でもう何かを見失っている。本作は、そんなもやもやした気持ちを、美しい鳥の翼に乗せて見せるところが極めて素晴らしい。

今ちょうど、サントリー美術館で「激動の時代 幕末明治の絵師たち」が開催されています。

幕末の絵は、極められた極彩色の美しさ、西洋絵画の影響、新時代への息吹、そして無念や涙、失われてゆく何かへの哀切があります。

そんな絵を見た時のような、色とりどりの感情が湧き上がってくるのです。

河鍋暁斎『閻魔と地獄太夫図』/wikipediaより引用


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文:武者震之助
※著者の関連noteはこちらから!(→link

【参考・TOP画像】
ドラマ『大奥』/公式サイト(→link

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