ドラマ大奥幕末編 感想レビュー第19回

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ドラマ大奥幕末編 感想レビュー第19回 天授の君が和宮を救い帝の心を

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天璋院のあやまち

そして天璋院の出番です。

諭すように頼まれた天璋院は、薩摩切子を準備して和宮一行を呼び出します。

しかし、几帳はあっても座布団すらない。どこに座れというのか?と土御門が指摘します。

慌てて敷物を用意させようとすると、「気持ちはようわかった」と去ってしまう和宮。

逆効果でした。こうした話は実際にあったことだとか。

認識やら何やらの違いはあります。家茂は天璋院を義父と呼び恭しい、儒教倫理が徹底されているため、長幼の序をわきまえています。

和宮の場合、そこに東西の差が入ってくるからややこしい。そこが甘かったと悔やむ天璋院。それだけ天皇の血が尊くなってきているということでしょう。

胤篤が瀧山に詫びます。同席する家茂は怒るどころか、和宮の好物を知りたがっている。

まずいだの味が濃いだの言っていないか?と瀧山が懸念の表情を浮かべると、文句を言いながらよく食べると中澤が返す。

これは関西人あるあるネタだ。「東京のうどんの汁は真っ黒や」ですね。塩分量というよりも、使う醤油の色が違うとも指摘されますね。

家茂は食事と聞いて、ハッとしています。

 

思い出の味

家茂は、和宮のためにカステラを用意しました。

着眼点が大変よろしい上に、彼女は本当に聡明だ。

当時の砂糖は高級品です。貧乏皇族が食べられたとも思えない。それに甘いものは万国共通で好かれます。このころ来日し始めた外国人も、柿やお菓子は食べましたから。

和宮は真っ黄っ黄で気味が悪いと言いつつ、促されて一口食べると黙り込む。

彼女は無表情なようでいて、美味しいときは少しだけ顔が変わるんですね。カステラの美味しさが伝わってくる。それでも口では「花びら餅に比べたらあじない」と悪態をつくのですが……。

しかし何ら怯まないのが家茂。花びら餅は何かと尋ねると、牛蒡を味噌のあんで包んだ正月の菓子だと言われ、家茂は珍しがっています。

これにも東西の差があります。味噌と醤油では、味噌の方が歴史は古い。

醤油は中国を経て伝わってきた醤(ひしお)を元に技術を高めていった調味料です。日本全国どこでも食べるとはいえ、西は味噌、東は醤油上位となります。

雑煮の作り方にも反映されています。

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はしゃぐ家茂に、そんなに甘いもんが好きかと少し呆れる和宮。

甘いものばかり食べ過ぎると叱られていたと振り返ります。一方で和宮は正月くらいしか甘いものなど食べられない。東西の経済格差がここでも浮かんできますね。

家茂はそれを察し、皇族ですら甘いものを食べられないとは、調停を粗略に扱った証であると頭を下げます。

嫌味を真に受けるなと困惑する和宮。

「せっかくのカステラがまずくなる」

思わず本音を漏らしてしまう和宮に対し、美味しいくて気に入ってくれたのかと家茂がはしゃいでいます。

「そこそこや……」と強がる和宮。

家茂の圧倒的な善意と素直さ、聡明さが相手の心を溶かしてゆく。

家茂はさらに大量のカステラをすかさず持ち出し、残りを皆で召し上がって欲しいと告げるのでした。

「お母さん、お母さん。これほんまに美味やからはよ召し上がっとくれやす。土御門も!」

和宮は母と乳母に振る舞っています。満足げに食べる相手を見て、喜ぶ和宮。そんな彼女の笑顔もこわばります。

観行院は感動しつつ、“本物の和宮“に食べさせたい!と声に出してしまうのです。

 

幕府は朝廷の言いなりなのか?

家茂のもとに、薩摩から国父こと島津久光がやってくるという知らせが届きます。

久光は兄・斉彬の死後、男児のいない兄の代わりに藩主となるのではなく、我が子の忠義(藩主時代は茂久)を継がせます。

ただし実権は掌握していました。自身にアンチが多いことを知り尽くしていた彼は表に出るのを敢えて避けたのです。

その上で兄の成し遂げられなかった路線を実現させるのだからデキる。

尊王意識が高まる中、敢えて江戸ではなく、兵と共に京都へのぼるのです。そして朝廷の後ろ盾を得ながら、江戸へプレッシャーをかける。

久光の要望は、一橋派の復権に加え、亡兄・斉彬も推していた「一橋慶喜の将軍後見職」でした。

このことを家茂に告げる際、板倉勝静の顔が少しひきつったところが絶妙です。

何か嫌な予感はあったのでしょう。彼は理解しています。

要するに、一橋派の目的が合議制であるということ。将軍と幕閣の力を削ぎ、自分たちの意見を通したいのです。

説明を少し加えておきますと、水戸藩は暴走した徳川斉昭の死の前後から、まとまりを欠いてしまい、やたらと危険思想を振り回す暴徒を撒き散らすことになります。

わかりやすい一例が芹沢鴨でしょうか。新選組の結成早々、あまりに暴れ回るため「あいつを野放しにしたら組織が崩壊する!」と危険視されて粛清されました。

新選組の幹部ですら制御できないほど水戸藩士は危険です。

そんな水戸藩士にとって待望のプリンス・一橋慶喜を後見職に――こう考えると、いかにこれが破滅的な一手か見えてくるでしょうか。

状況を理解した家茂は、そこで先手を打つことにしました。

勅使がやってきて、挨拶をする家茂。

後ろにいる久光が実に素晴らしい。幕末のお殿様らしい細面に、薩摩隼人らしい日焼けした肌。聡明さと上品さがあります。

どうにも久光は後世の悪評に引きずられ、変なキャラ付けをされがちで、馬鹿殿にされるのが一例でしょう。

役者は素晴らしいにも関わらず、脚本と演出がふざけていた『西郷どん』については、当時の島津当主が苦言を呈するほどでした。

『青天を衝け』でも、兄より老けて見える上に暗愚な描き方でした。

しかし、本作は違う。偏見を削ぎおとし、気品がある。この作品は、徳川斉昭といい、偏見抜きの再現度が素晴らしいと思います。

所作指導も厳しいため、すっと静かに頭を下げる姿も美しい。こういう久光が見たかった……としみじみ納得してしまいます。

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そこで家茂は勅使に対し先手を打ち、自ら「慶喜を後見職につけたい」と申し出るのでした。

公武合体を強化するためだと理由もつける家茂。

慶喜の生母は皇族であるため、この理屈は通ります。

背後では、久光が殿様らしく微かな動揺を見せています。久光はこの瞬間を忘れられないことでしょう……なぜ私はあんな男を政治に引っ張り込んだのかと、唇をわななかせながら悔しがる日が来る。

かくして家茂は「幕府が朝廷の意に従ったわけではない」という体裁だけは整えました。

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