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【アイヌの弓矢】
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スルクーートリカブトは狩猟を助けるカムイ
矢毒にトリカブトを用いる文化圏は、広範囲に分布しています。
ヨーロッパ、北太平洋沿岸、東南アジア、そして東北アジア――日本では北海道と樺太(現ロシアサハリン州)が該当し、アイヌはトリカブトを「スルク(suruku)」と呼びました。
カムイが毒に化け、人の狩猟を手助けしていると考えられたのです。
この他に様々な薬草を混ぜ合わせ、独自の毒を作り上げました。
材料をざっと挙げると……
・エゾトリカブト
・イケマ
・ナニワズ
・オニグルミ
・アカエイの棘
などです。
こうして混ぜた毒は、どうやって矢につけると思います?
液体状の毒を矢先に満遍なく塗る――と、そんなイメージを抱くかもしれませんが、違います。
答えは『ゴールデンカムイ 11巻』(→amazon)の表紙、アシㇼパの矢をご覧ください。
骨や木で作られた鏃(やじり)には窪みがあり、小さな丸薬のようなものが見えます。
松脂で貼り付けた毒です。
毒は非常に強力であり、当たれば痺れて動けなくなり、やがて命を落とす様はマンガの本編で何度も描かれてきました。
矢が当たった箇所の肉をえぐりとり、加熱することで毒性は200分の1にまで低下。
これなら食べられます。
ちなみに『ゴールデンカムイ』の食事の光景は、「ヒンナヒンナ」という言葉の使い方など、漫画ならではの誇張があります。
言葉遣いは無害ですが、絶対に真似をしてはならない描写もあります。
生肉を食べること――。
生肉には寄生虫がいて、非常に危険。
アイヌは経験則からそれを熟知しており、加熱してから肉を食べることは常識です。
漫画飯を再現したい、という願望がある方は慎重に行ってください。
トリカブト毒の致死量は?
アイヌはトリカブト毒を「カムイが助けてくれる」と考えていた――これは信仰の話だけではなく、その毒性の特徴でもあります。
一口に毒と言っても色々あります。
幻覚を見るとか。笑い転げるとか。認知機能が落ちるとか。血栓ができるとか。やたらとテンションがあがるとか。血が溶けてゆっくりと死に至るとか。
狩猟には向いていない毒ですね。
その点、トリカブトは、まさしく狩猟向き。
体内に入れば体が痺れて、嘔吐や吐き気、下痢、血圧低下が引き起こされます。運動性能が素早く著しく落ちるのです。
例えば人間を毒殺するような場合は、無味味臭であることが重要でしょう。
しかし動物相手の狩猟となれば、そんな要素は一切問われず、とにかく運動能力を奪うことが重要になってきます。
問題は、それが人間相手に刺さった場合でしょうか。
マンガの劇中では谷垣と尾形が毒矢に当たっていましたが、トリカブト毒が人間の体内に入るとどうなるか?
◆谷垣の場合
当たったのは左大腿部で、解毒法はありません。
アマッポに当たった時はアシㇼパの言葉を受け、治療を任せました。肉を抉り、しばらく治療に専念したため、なんとか助かっています。
◆尾形の場合
当たったのは腹部です。
鏃を抜こうとしたところで錯乱状態に陥った尾形。痺れや灼熱感、痛みに襲われ、地獄の苦しみを味わったことでしょう。
尾形は、勇作の亡霊を見て錯乱しながら、自ら銃で眼窩を撃ち、自殺します。
勇作の亡霊を見て、罪悪感から自殺したような描き方ですが、科学的に考えてみると、毒にあたって錯乱する中、苦痛のあまり死を選んだようにも解釈できます。
尾形が亡霊を見て錯乱をする場面は、高熱にうなされるなど、体力が著しく低下した局面でした。
あの亡霊に取り憑かれた場面は、毒の作用だったとも言える。
彼の死の場面は感動的であり、同時にトリカブト中毒の恐ろしさも表現されていた。
なお、尾形が実母殺害に用いた毒物は、殺鼠剤あたりと推察できます。
そして実父は切腹に見せかけた偽装自殺により殺害。
異母弟の勇作については、頭部を撃ち抜きました。
尾形百之助の死は、父母と弟三者の死因をハイブリッドしたようなものといえるかもしれません。
あらためて、トリカブトとはおそろしい毒です。
有毒成分はアコニチンで、致死量は2-4mg。
アイヌの鏃につけた丸薬状の毒だけで、十分に人を殺せるだけの致死量がある。
トリカブトはドクウツギ、ドクゼリと並ぶ日本三大有毒植物であり、山菜と間違えて食した死亡例も報告されています。
殺人事件に用いられたこともありました。
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