大河ドラマ『光る君へ』の中で、出番が少ない割に重厚な存在感のある人物といえば?
真っ先に浮かんでくるのがロバート秋山さん演じる藤原実資ではないでしょうか。
恰幅の良い腹回りと黒黒とした肌はさておき、なぜ彼は要所要所で文句を言ったり道長を褒めたりしながら顔を出してくるのか?というと、当然ながら理由があります。
『小右記』です。
劇中でも散々「日記、日記、日記!」と騒ぎ立てられているので、すでにご存知の方も多いかもしれません。
『小右記』とは藤原実資がつけていた日記のことであり、これが非常に重要なのです。
なぜなら実資は、当時としては異例の長寿である90歳まで生き長らえたばかりか、「賢人右府」(賢者のごとき右大臣)として称賛された人物だったので、内容の信頼度は高い。
しかも日記の中には、彼の愚痴なども記されていて、とても生々しく、『光る君へ』のストーリー展開にも多大な影響を与えていることが見てとれます。
ではいったい『小右記』には何が書かれているのか?
どんな風にして成立したのか?
その背景を振り返ってみましょう。
※以下は藤原実資の関連記事となります
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【TOP画像】本サイト連載・アニィたかはし『大河ブギウギ 光る君へ編』より引用(→link)
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『小右記』あっての『光る君へ』
大河ドラマをはじめとする歴史作品は“史料”をもとにプロットが練られます。
例えば『光る君へ』で映像化されるシーンは、『紫式部日記』に記載があれば脚本の中に落とし込みやすい。
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しかし本作は紫式部が関係しない政治劇も描かれているため、男性貴族が記した日記などとも突き合わせねばならず、そこで参考になるのが藤原道長の『御堂関白記』であったり、藤原行成の『権記』であったり、『小右記』だったりします。
印刷術もない時代です。
当時の貴重な記録は、筆写されて伝えられ、時には欠損しながらも現在まで残されてきました。
前述の通り「賢人右府」(賢い右大臣)と称されるほど聡明であったとされる実資です。
なぜ聡明とされたのか?
というとインプット量が多かったからとなります。
中国から伝えられた漢籍。
実資の先祖から代々つけてきた日記。
それを読みこなすことができればこそ、実資は賢いとされた。
『光る君へ』の中で、実資が「こんなことは今までない!」という言葉で憤る場面もしばしば見られます。
あれは前例が頭の中に入っているからこそ咄嗟に言葉が出てくるものであり、何も知らない者だと「そういうものだっけ」と流されるしかありません。
ロバート秋山さんが見せる素晴らしいリアクションは、当時は、記録がいかに貴重であったか?を理解できる機会でもあるんですね。
実資が日記の中で「一文不通」と罵倒した藤原道綱との比較も興味深いものがあります。
道綱は周囲から命じられると、戸惑うか笑顔で流すかして、受け入れてしまいます。
彼は反発する意思だけでなく、インプットされた知識もない。どんな場面でも、ただただ流される様が見てとれます。
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藤原道長像を形成した『小右記』
『光る君へ』が大河ドラマとして発表された時、記者会見は静まり返ったと、脚本を担当する大石静さんが振り返っています。
紫式部に藤原道長と言われたところで、ほとんど知らない人物だという意見もありました。
しかし果たしてそうでしょうか?
二人とも日本史の教科書において欠かせない人物です。
紫式部は言うまでもなく、国語の時間にも習う『源氏物語』の作者として。
そして藤原道長といえば、満足げな笑みを浮かべ、月の下にいる像が思い浮かぶのではないでしょうか。
この世をば 我が世とぞ思ふ 望月の 欠けたることも なしと思へば
【意訳】この世はまるで私のために作られたように思える。満月のように欠けたところがないのだから
誰もが知るこの和歌を記録したのが、藤原実資です。
この歌に返すよう促されて実資は断り、唱和させたと伝えられる。
実資の日記があればこそ、道長の像も確定したと言えるでしょう。
あるいは藤原道隆の息子である藤原隆家が遭遇する【刀伊の入寇】も、実資の記録があって初めて理解できます。
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前述の通り、愚痴も記された『小右記』からは、実資の性格も浮かび上がってきます。
プライドが高い皮肉屋であり、毒舌、しかし和歌が苦手らしい……などなど。ロバート秋山さんが演じるあの人物像も『小右記』の記述あってこそと言えます。
それ以外に衣食住も記録があり、例えば“蜂蜜”についての記述なんかも興味深いもので。
人類の食の歴史は、甘味を求めてきた歴史でもあったりします。
砂糖が登場するのはまだ当分先のことであり、せいぜいドライフルーツの甘味を楽しむ時代にあって、蜂蜜は最高の食物でした。
ドラマでも、いずれ蜂蜜を味わう場面が出てくるかもしれませんね。
こうした食だけでなく、彼の妻や娘に関する記述も興味深いものがあります。
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