藤原道長の権力の源泉となったのは娘たち。
特に正室・源倫子が産んだ女性は主に天皇へ入内することで、それぞれ個性的な生涯を送りましたが、本記事では三女・藤原威子(いし / たけこ)に注目。
長生きして「大女院」と呼ばれるほど影響力を持った長女・藤原彰子や、派手好きなエピソードで印象に残る次女・藤原妍子とはまた違った立場で、平安の世を生きた人でした。
長元9年(1036年)9月6日は、そんな威子の命日。
藤原彰子が産んだ皇子(後一条天皇)に嫁いだ、その生涯を振り返ってみましょう。
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生い立ち
藤原威子は長保元年(999年)12月23日、父・藤原道長と母・源倫子の三女として生まれました。
この時点で彼女の運命は決まったとも言えるでしょう。
威子の誕生は、長姉の藤原彰子が一条天皇に入内してから1ヶ月後のことであり、母の倫子は臨月が見えてくる時期に長女の入内に付き添っていたことになります。
倫子はその長寿ぶり&多産ぶりからも極めて健康体であったことがうかがえる女性であり、まさに「母は強し」といった感がありますね。
ただし、威子の幼少期に関するエピソードは、他の姫同様あまりありません。
寛弘二年(1005年)3月、数えで7歳のときに、姉・彰子の大原野行啓(ぎょうけい・出かけること)に従ったことはわかっています。
このとき尚侍だった次姉の藤原妍子や母の源倫子も車で従っており、華やかな行列だったようです。
というか、あまりにも華々しかったせいか、藤原実資には『小右記』の中で「まるで天皇の行幸だ」と嫌味を書かれてしまっています。
そうした華やかさは幼い彼女にも強く印象に残り、宮廷や行啓への憧れが強まったかもしれません。
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入内からのスピード立后
藤原威子は長和元年(1012年)8月になると、正四位下・尚侍に任じられ、この年に裳着を済ませてから従三位に昇格。
さらに大嘗会の御禊(ごけい・この場合は天皇が鴨川で行う禊のこと)の女御代を威子が務めており、彼女の車には前後百人以上もの付添がいたといいます。
尚侍になったことで、周囲から早々に”将来の后妃”として扱われていたことがわかりますね。
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その後、長和二年(1013年)9月に従二位へ昇格すると、さらに寛仁元年(1017年)には御匣殿(みくしげどの)別当を兼任。
三条天皇が眼病を患ったことなどにより、道長から圧迫されて譲位すると、道長の外孫である後一条天皇が即位しました。
威子は寛仁二年(1018年)3月7日、この後一条天皇のもとへ入内するのです。
源倫子と道長の間に生まれた四姉妹。
その入内状況をまとめておくとこうなります。
道長の娘は、源明子との間に生まれた姫もおりますが、ここでは割愛。
ともかくその権勢っぷりがわかりますよね。
そして道長は詠む「この世をば」
藤原威子は、入内した寛仁二年の秋には中宮となり、こうなると他の貴族たちは後一条天皇へ娘を入内させようとしなくなりました。
結果、彼女は後一条天皇唯一の妻となります。
しかし威子は、初夜の翌日には恥ずかしがっていたとか。
なんせ当時の後一条天皇は11歳であるのに対し、威子は20歳の叔母です。
叔母と甥という関係だけでなく、その周囲も近親婚だらけで血は濃く、現代人からするとかなりのインパクトですが、この幼さで同衾を強いられるのも当人たちが最も驚きだったかもしれません。
せめて『源氏物語』の冷泉帝と梅壺の女御のように、共通の趣味で仲良く過ごせていたら良いのですが……残念ながら、今のところそういった記録は乏しいようです。
それでも後一条天皇は威子のもとへ足繁く通うようになったそうですから、結果オーライということで。
なお、威子が中宮となったことで、現代における道長の人物像を作ったあの歌が詠まれます。
この世をば わが世とぞ思う 望月の 欠けたることも なしと思えば
もともとは威子の立后を祝う宴で詠んだこの歌。
道長当人は“不出来”と思っていたのか、自分の日記である『御堂関白記』には書かれていません。
ではなぜ現代にまで伝わっているのか?
というと、この宴に参加していた藤原実資の日記『小右記』に書き残されているからですね。
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実資は、宴席での芸が苦手だったためか、この宴で
「望月の歌を皆で唱和しましょう」
と提案していて、道長への意趣返しとして記録したのかもしれません。
実資は『小右記』の中で、道長父子に関して中々ボロクソに書いていることがありますので。
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