武者震之助の歴史映画レビュー

映画『サムライマラソン』が控えめに言って最高だ~愛すべき歴史バカの世界観

見終えた後、しばし呆然としてしまう――そんな映像作品ってありますよね。

「どう宣伝するの? コレ……」
腕組みをして、首をひねりながらそう言ってしまう。

『サムライマラソン』はまさにそんな映画。

好きか嫌いか。
そこから始めますと、これはもうニッコリしてしまいます。

「あ〜〜、こ〜〜ゆ〜〜の、だ〜〜〜いすき!」

かなり個性的で、ちょっとレトロで、一周回ってそこが斬新で、表現しがたい。
宣伝担当者は、のたうち回ったことでしょう。

得体の知れぬ魅力がある!

 

マラソンをするとは、言った覚えがないぞ!

本作について調べたとき、最初はなんとなくこう思いました。

「言わば『タイムスクープハンター』の映画版ってやつかな?」

現地人の目線に近づきながら、知られざる歴史を学び、「こんなこともあったんだね」と笑顔になる。
そうかと思ったら、全く違いいました。

笑顔が凍り付く――むしろ頭をブン殴るような展開が次から次へと起こる。
もう正直どうしたらいいのかわからなくなる。

マラソンで人が死にますか?
公儀隠密が楽しそうに、拳銃連射しますか?

思えば本作のコピーからして、なんだか微かに怪しいものが漂っておりました。

【行きはマラソン 帰りは戦】

マラソンの途中で殺戮が始まるって……どういう状況だよ!
最初にチョット思ったマラソンとは違いますなぁ、と笑い飛ばすしかない。そんな展開なのです。

この予感があったのは、ペリー提督の舐めくさった態度のあたりからですね。

大河ドラマではありえないぐらいフランクで無礼なペリーに、ザワザワとしたものを感じ始めたのです。
その読みは正しかったと言わざるを得ません。

本作は、予想の斜め上を爆走します。

 

本作は日本人の考える日本ではないかもしれない

クールジャパン。
おもてなし。
そんな言葉があります。

高潔で平和を愛し、偉業を成し遂げて来た日本人。
四季折々の美しい風景。
おいしい日本料理

そんな素晴らしい国・日本!
そういう日本像を発信したくて、本作は作られたものではありません。

「日本の料理や酒が好きでね〜」
という外国人がいて、笑顔になって銘酒を楽しみながら高級しゃぶしゃぶなんていいですよねえ、と身を乗り出したらば、こう返されたようなモノ。

「牛丼を、強烈なチューハイで飲むのが好きでねえ」
そんなB級グルメなんですか?
そう戸惑っちゃいませんか?
本作は、そんな味わいです。

いや、クオリティは文句なく高い。
監督はバーナード・ローズで、音楽はフィリップ・グラス、衣装デザインはワダエミ!
巨匠が勢揃いじゃないですか。

ただし、巨匠が最高級食材で牛丼とチューハイを作ってしまったと言いましょうか。
お上品ではありません。
むしろごった煮感。B級テイストがある。
ハリウッドの視点も入っているというところが、実に大きなポイント!

そんなハリウッドの基準と、日本の観客が求めるモノ。
それが一致しないことは、絶対に意識しておくべきですね。

本作は、三池崇史監督と時代劇作品で仕事をした方が多い――これも知っておくべき点です。

三池監督といえば、あのタランティーノが絶賛する監督の一人です。
タランティーノが愛する時代劇といえば『柳生一族の陰謀』や『魔界転生』、『戦国自衛隊』です。
私が本サイトで何度もプッシュしてきた角川作品ですね。

おわかりいただけましたか?
ハリウッドの考えるクールジャパンな時代物って、ああいうかつてのB級、エログロナンセンスがあるノリなんです!

少なくとも、本作が目指すところはそこ!!

 

B級時代ものこそハリウッドが求めていた!

近年のハリウッドでは、こういうB級時代ものがちょっとしたブームの感すらあります。

リンカーン大統領が吸血鬼ハンターだった!
→『リンカーン/秘密の書』!

18世末から19世紀初頭を舞台にしているロマンス小説に、ゾンビが乱入!
→『高慢と偏見とゾンビ』!

万里の長城でエイリアンと戦うんだ!
→『グレートウォール』!

私はこういう映画が全部大好きでして。
フフ……それはもう、愛を感じるほど。

そしてこうしたブームに、こう言いたくてうずうずしていた部分もありました。

「こういうB級エログロナンセンス歴史ものは、70年代に邦画が通過しているゾッ!」

それが先ほどあげた『柳生一族の陰謀』や『魔界転生』、『戦国自衛隊』といった作品なのです。
日本ですと、こういう映画が一緒くたにバカ映画箱に投げ込まれますが、むしろこういうB級歴史ものが一周回ってハリウッドで受けていると知って欲しいわけです。

見ていて楽しいし、高度だし、スッキリする!
本当にいいものなんです。こういうB級歴史映画は、バカみたいだから時代考証を手抜きしているという評価がありますが、むしろ誤解なんです。

みっちりと勉強した人が、バカをやるために歴史知識を無駄遣いする――そういう映画だからこそ、面白い。
歴史の要素を、いちいちバカげたアレンジをするからこそ、胸にグッと来てしまいます。

本作は、まさにこういうB級歴史映画にあった魂を引き継いでいます。
この手の作品が好きな人は、本作を見逃したら後悔する。そう言い切れます!

『お堅いマジメ歴史ものでしょ? どうでもいいし』
なんて先入観を持ってしまったら損ですよ。

血しぶきブッシャー!
ともかくB級、幕府や武士が全力でバカをする。
そういうB級歴史ものの魅力がみっちみちに詰まった、最高のジャンクフードなのですね。

「映画館で生首、切腹、血しぶきが見たいんだよ〜!」

フツー、こんなこと、大声で主張できませんよね。
まず間違いなく、猟奇的な変人扱いをされてオワル。
お洒落なバルでワインを楽しみながら、そんなことしゃべったら危険なバカじゃないですか。

そういう方を救うべく、本作は存在するんです。

高級感あふれる宣伝素材を見せながら、
「ハリウッドの価値観を取り入れていて、こんな豪華キャストも勢揃いしている時代劇なんだよ。どう?」
なんて誘えるんですね。

内心は、スクリーンで見られる日本刀殺戮にワクワクしていても、何食わぬ顔した普通の人を偽装できます。

私がこよなく愛する『47 RONIN』は、さすがにトンデモ色が強すぎて滑りました。

それが本作は、そこまでいかない絶妙な配分。
これぞ発明であり救世主と言わずして、何と呼べというのでしょう!

 

忍者が忍ばない伝統がある

私のような歴史マニアが苛立つ言葉に、こんなものがあります。

「歴史マニアって、どうせ史実と違うとネチネチと突っ込むんでしょう?」

いやいやいや。
と、私は何度でも繰り返しますが、戦国時代に自衛隊がぶち込まれるような作品が大好きなんです!

むしろ、歴史を好き放題にグチャグチャに引っかき回しているのに、史実通りに着地したとシレッと言い切ると、ブラボーと拍手喝采を送りたくなる。

その点、本作のラストとエンドロールはお手本のようなもの。
こんなにグチャグチャに安中藩を引っかき回しておいて、しれっと心温まる話を装う、感動的ですらあるラスト。よくぞやってくれました!!

史実を改変した結果がとてつもなくつまらなければ、刀の鯉口を斬ってぶちのめそうと言い出しますが、史実をふまえて変えた上で面白ければ壮絶に褒め称えたくなる。そういうことなんです。

本作は、史実としては突っ込みどころが毎秒あるくらいです。
そもそも、公儀隠密が忍んでねえ!

どこの世界に、ワダエミデザインの、最高にクールな衣装で活動するスパイがいるんですか。
そんなの、バカそのものじゃないですか。

しかし、私は本作のそんなクールバカな公儀隠密に、親指を立てながらこう言うのわけです。

「忍者が忍ばないのは、日本の伝統だよね!」

私も忍者は好きでしてね。
伊賀市にも甲賀市にも足を運んだものですよ。

実際の彼らは地味でしたね。妖術も忍術も、シンプルなものです。

そんな史実なんてどうでもいいんです!

B級歴史ものというのは、ともかく楽しければいい。
忍者は爆発して、バク転して、派手なアクションで忍ばずにむしろ目立ってこそ!

本作の公儀隠密は、目立ちまくるわ、ジョン・ウー映画みたいな拳銃の撃ち方はするわ。
カッコよければ、史実なんて些細な問題なんですよ!
そう真顔で言いたくなる。それが本作です。

公儀隠密以外にも、盛り上げるために史実を踏みつけにする箇所は大量にあります。

ネタバレになる仕掛けそのものが、
「幕府はこの非常時に、そんなことに労力をかけてバカなのか?」
とツッコミたくなるんですが……そんなことは些細な問題なんです。だって無茶苦茶面白いんだもん。

こういう、歴史を踏まえた上で大胆にはみ出して、くるくる好きなだけ回って踊って、ストンと落ち着く。

そういう映画が、私は好きで、好きで、たまらないんだ!

そんな情熱が本作で滾りました。

 

出演者に祝福を、見送りを!

本作の出演者は豪華の一言!
ただ、それだけじゃありません。

国際的な要求基準を満たしており、経験や語学力も備えている――そんな大きな可能性を感じます。

ここから羽ばたく、そういう顔が揃っていると思いましょう。
彼らのファンならば、本作は世界に羽ばたくあの人を見送る気持ちで向かうべきです。

しかもミスキャストがいない!

子役も含めて全員、これはもう魅力を最大限に引き出せる役をふられている。そう確信してしまいます。

長谷川博己さんは、エキセントリックで、常にイライラしているようなお殿様です。
なんというナイスキャスト! 彼にはこの手の役がぴったりはまります。

小松菜奈さんには、もう逆にまっとうな役を割り振って欲しくないんです。
ただのカワイイ女の子じゃ、枠におさまりません。本作の彼女は、まさにうってつけ。彼女がただのお姫様のはずがありません。

コレが正しい小松さんの使い方だぞ!

豊川悦司さんは、ともかくペリー提督に小馬鹿にされている場面がもう、それだけでおもしろい!
こういう使い方ができる役者さんなんだ、こりゃもう最高だとしか言いようがありません。

佐藤健さんと森山未來さんには、JAC(ジャパンアクションエンタープライズ)ルートが見えて来ましたね。

前述のB級歴史映画といえば、JACが欠かせないものでした。
抜群の身体能力を持つ、日本人のアクションスターが世界を魅了する、そういうルートです。

ソニー千葉こと千葉真一さん、そして真田広之さんルートです。
抜群の存在感、キレッキレの動き!
これは世界に羽ばたきますわ。

竹中直人さんは、実は本作で一番の癒し系なんですよね。
ヒロイン枠が竹中さんだと言い切ったら、お姫様じゃないのか、意味がわからないと怒られそうなんですけれども。

だって癒しなんだもん!

染谷将太さんは、本作がまっとうだったら一番主役に近いのではないか……そういう堅実性のある役です。
この年齢で、このニュアンスのある演技。
こういうこともできる人なんだなあ、とともかく感心しました。

青木崇高さんの使い方、これも正しい。
彼を使うお手本のような、そんな役目を割り振られています。彼の含んでいるコメディ感をうまく使いこなせていますね。

その他にも、大河出演歴がある方が多数揃っています。
ここ数年の大河とかぶるキャスティングもおりますので、大河ファンもこれは見逃せません。

 

絶叫上映しませんか?

動画配信が増加しつつある昨今――映画館でしか味わえない雰囲気は薄れつつあります。

「映画が生き残る道は何か?」

例えば「絶叫上映」がありますね。
その映画館でワーッと騒ぐ、そういう体験が欲しいわけです。

本作は、そんな「絶叫上映」やテレビ放映時の実況に向いている映画ではないかと思います。

映画館でB級歴史映画好き同志が集いあい、ワーワー大騒ぎしながら見る。
そういう『マッドマックス 怒りのデスロード』、『バーフバリ』、『バトルシップ』系の要素があるんです。

ハマる人は、とことん夢中になれる熱量があります。
大河ファン、歴史好きにもお薦めできます。

しかし、本当に見るべき層は、B級歴史映画が好きでたまらない、そんな人かもしれません。
そういう人は、本作を見逃すことだけはあってはならない。そう断言できます。

こんな現在に特化した素晴らしい映画が生まれたことが嬉しくてなりません。

この手の映画がこれからも続きますように!!

文:武者震之助

出演:佐藤健 小松菜奈 森山未來 染谷将太
青木崇高 木幡竜 小関裕太 深水元基 カトウシンスケ 岩永ジョーイ 若林瑠海/竹中直人
筒井真理子 門脇麦 阿部純子 奈緒 中川大志 and ダニー・ヒューストン
豊川悦司 長谷川博己
監督:バーナード・ローズ
原作:土橋章宏「幕末まらそん侍」(ハルキ文庫)
脚本:斉藤ひろし バーナード・ローズ 山岸きくみ
企画・プロデュース:ジェレミー・トーマス 中沢敏明
音楽:フィリップ・グラス
衣装デザイン:ワダエミ
配給:ギャガ
公式サイト:https://gaga.ne.jp/SAMURAIMARATHON/
©”SAMURAI MARATHON 1855”FILM Partners GAGA.NE.JP/SAMURAIMARATHON

 



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