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【『べらぼう』感想あらすじレビュー第28回佐野世直大明神】
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佐野世直し大明神
蔦重は帰り道、一人の男に気付きます。
田沼意知の葬列に石を投げた男じゃァないか!
男は寺の門前に幟(のぼり)を立てました。そこにはこうあります。
佐野世直し大明神墓所
寺の門を、花を持った女二人が「世直しだねえ」と言いつつ、潜ってゆく。

黄表紙に描かれた世直大明神(北尾政演画)/国立国会図書館蔵
実際に線香の煙と献花がもうもうと溢れ、墓参客目当ての屋台まで並んだそうですぜ。
ここで蔦重は平賀源内の声を連想しています。
その鬼畜の所業に気づいたる男がいた。その名も七ツ星の龍。しかし悪党も大したもの。なんとその龍こそを人殺しに仕立てあげる……
仕立て上げる――何者かが背後にいて工作をしている。そこに蔦重も気づいたのか。ハッとして田沼意次の元へ向かうのでした。
どうすれば仇討ちができるのか?
憔悴した田沼意次は、蔦重が誰袖のことを頼みに来たのだと早合点し、早々に立ち去ろうとします。
すると蔦重がもう一つの話に入ります。
花魁から仇討ちを頼まれた。そう告げると、意次は意知の仇討ちだと察します。
しかし、その仇はもういない。どうすれば仇討ちできるのか考えているうちに、怪しい男を見かけたと蔦重が続けます。
葬列の折に石を投げ、皆がそれに続いた。佐野の墓のある寺に「佐野大明神」という幟を立てていた。明日からは佐野が大明神と呼ばれることになると、蔦重は言います。
意次も顔色を変え腰を下ろし、こう答えます。
「田沼嫌いの者など腐るほどおるからな」
笑い飛ばそうとする意次に対し、蔦重は、その男は葬列の際には大工、今日は浪人のいでたちだと付け加えます。
そう言われ、田沼も異変に気づいています。
この一連は裏で糸を引いている者がいる。源内の戯作のような「七ツ星の龍」を悪人に仕立て上げる誰かがいる。
討つべき仇はまだいるのではないか?と蔦重が続けるも、意次はこう返すほかありません。
「ありがた山。戯作の話はよそでしろ」
「田沼様。田沼様はあの時、源内先生を最後まで守ろうとなさったと、意知様から伺いました。それを止めたのは意知様であったことも。それが故に蝦夷地の一件を成し遂げようと思っておられたことも。無礼千万は承知でそのご判断、誤っておられたのではございませぬか? あの時、うやむやになさるべきではなかったのではございませぬか? それが故に、此度かような始末に」
「仇は俺だ。あやつは俺のせいで討たれた。俺のせがれだったから斬られたんだ。仇を討つなら俺を討て」
絞り出すように答える意次に対し、蔦重が否定すると、さらに意次はこう続けます。
「ならば、お前のせがれなら斬られたのか? 三浦のせがれなら? 仇は俺だ。お前に仇が討てるのか!」
意次はそういうと立ち上がり、腰の刀を抜いて蔦重の前につきつける。
「俺は……筆より重いもんは持ちつけねえんで」
「下がれ」
蔦重は頭を下げ、退出するほかありませんでした。
しかし、三浦は見抜いています。意次は蔦重に好意を抱いているのに、怒って追い払ってしまうのだと。意次としては先のある者が命を散らして欲しくないようです。
彼なりに仇がいることは理解している。それを追うと危険であることも、むろんわかっているのです。
三浦は、蔦重が見た男は“丈右衛門”だと推察しています。
と、田沼は土山を呼ばせました。事の起こりは蝦夷地だ……。

伊能忠敬『大日本沿海輿地全図』の蝦夷地/wikipediaより引用
蔦重の言葉は、蝦夷地から災いは始まったと示しているとも思えなくもありません。蝦夷地に手出ししたことが悪かったのでしょうか。
するとここで誰かが始末される場面が入ります。平秩東作は怯えてこの様を見守るばかり。
この場面では建物に立てかけてある竹筒が倒れます。時代劇のアクションシーンではおなじみの演出ですね。
本の力で仇討ちはできないか?
そのころ誰袖は白装束に身を包み、髪をおろし、懐剣で喉を貫こうとしておりました。武家女性らしい自裁の作法です。
しかし、彼女は結局、死にきれません。
蔦重は須原屋に、刃傷沙汰を黄表紙にできないか相談しております。前に源内先生がやろうとしていたことだと、蔦重は付け加えますが……。
「おめえも知ってるだろうがナ、そもそもナ、御公儀のことは本のネタにしちゃならねえんだ。まァ源内さんのありゃ表に出ていたら間違いなくお縄になっていただろうぜ」
須原屋はそう正論を返しております。
新之助の言っていた『忠臣蔵』は綱吉政治への不満が背景にありますわな。

『忠臣蔵十一段目夜討之図』(絵・歌川国芳)/wikipediaより引用
蔦重は「うまいことうがってもだめですかね」と諦めきれない様子。
須原屋は誰を悪役にするつもりか聞き出します。佐野を悪役に……と答えると、作るだけ損、売れないと須原屋は即断する。逆にすりゃみな飛びついてくると。
蔦重はそれは理解しており、本当は善悪あべこべだと明かせないかと考えておるようですぜ。
須原屋は田沼様が憎まれる理由を説明します。
浅間山噴火も米価高騰も田沼様のせい。佐野が天に代わって田沼様を成敗した。世の中はそういう筋書きを立てたのだと。
東洋の「天譴論」ですな。
するとそこへ、みの吉に連れられて志げがやってきました。なんでも蔦重に、土山様の屋敷にまで来て欲しいんだそうです。
早速向かうと、そこには白装束姿で呪詛をつぶやく誰袖の姿がありました。
佐野の親兄弟を呪っているらしく、藁人形が見えていますね。あれほど惚れていた蔦重が来ても誰袖は呪いを続けるばかり。
蔦重は、仇討ちを思いついた、佐野が悪くて雲助様は悪くないと証明すると言い、志げも「人を呪わば穴二つ」と続きますが、誰袖は聞き入れません。
ちなみにそのあたりを危惧しているのか、昨年『光る君へ』の藤原明子や藤原伊周に続き、呪詛の作法は効力がないように加工してあるそうです。
蔦重はカルタや双六をさせようとしますが、もはや誰袖は仇討ちのことしか考えられないようで。
「仇を討ち、おそばに行くのでありんす……二人で……彼岸の桜を楽しみんす」
志げは「んふ」と笑っていた、私の花魁はどこへ行ったのかと嘆くばかり。
伝説中の花魁はしばしば愛する人のあとを追って自害するものです。しかし本作はそうならず、生々しいその後を見せてきます。
そのころ平秩東作らしき男は行き倒れ、泥水をすすって命を繋いでいるのでした。
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