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【『光る君へ』感想あらすじレビュー第15回「おごれる者たち」】
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中宮のつとめは、心を惹きつけること
成長した帝が笛を吹いています。
笛を吹く美男はアジア時代劇の華。
長い指の塩野瑛久さんは、アジア時代劇日本代表枠に入れると思える麗しさがあります。
日本の時代劇は、もっと笛を吹く場面を積極的に入れるべきでは?
笛の音を聞く定子も美しい。これぞまさしく、理想的な一条天皇と定子です。
そんな美しい光景の背後には、生々しい噂があります。摂政・道隆の専横に対して女房たちが忌々しげに悪口を言い、中宮も帝をたぶらかしているようだと言われているのです。
道隆の妻である高階貴子まで陰口を叩かれ、この親にしてこの子ありだと言われています。
伊周や定子の母・高階貴子~没落する中関白家で彼女はどんな生涯を送ったのか
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その貴子は、美しい青磁の香炉を定子に渡しています。
「大事にする」として、受け取る娘の定子に向かい、貴子は告げます。
中宮の務めは皇子を産むこと。とはいえ、帝しか目に入らないようではいけない。後宮の長として全ての心を惹きつけ、中宮として輝き、それにより摂政の政治をも輝かせねばならない。
「父上の政が……」
そう驚く定子。彼女は幼いころから、帝と仲睦まじく過ごすよう育てられてきましたが、それだけは足りぬと言われ、戸惑っているようです。
確かに「この親にしてこの子あり」が通じるのであれば、定子が輝けば道隆も輝きます。
家でまひろが漢籍を学んでいると、あの声がしました。
「まひろさま!」
ききょうです。干し杏をつまみつつ、二人でおしゃべりを楽しんでいます。
ききょうは中宮定子の女房になるようです。なんでも摂政様の北の方こと貴子の推挙で、定子の話し相手になって欲しいのだとか。
お相手できる女房がいないと語るききょうは、どこか得意げです。
漢詩の会や和歌の会で見て、スカウトしたのでしょう。
ききょうは祖父・清原深養父(きよはら の ふかやぶ)も、父・清原元輔も、天才肌の歌人として有名です。
代理の女房として働くことはききょう様の志だとまひろが祝うと、ききょうも「そうなの!」と素直に喜ぶ。
夫も、子も、親もいない彼女は、まひろにしか喜びを告げる相手がいないようで。思い出してくれて嬉しいとまひろも微笑みますが、ききょうには他に友達もいないように見える。
『枕草子』には「友情なんてどうせいずれ終わるさ!」みたいなことも書いてありますが……頭の回転が速すぎて、他の人がすっとろく思えるし、まひろと違ってそれが顔や態度に出るし。
キツくて嫌な奴と思われて友情は成立しにくいのかもしれません。
声を尋ねて闇(あん)に問う 弾ずる者は誰ぞと 琵琶声停(や)めて……
まひろは白居易『琵琶行』を読んでいます。
琵琶にふと目をやり、こう思ってしまうまひろ。
私は一歩も前に進んでいない――。
人生が停滞しているまひろです。
こういう大河ドラマ主人公はいないわけでもありません。
『麒麟がくる』の明智光秀も、不惑すぎて花開いた遅咲きの人生で、前半生は不明点が多いものでした。
そこをどう盛り立てていくのか。まさしく創作の味わいでしょう。
そうだ、私は清少納言!
着飾ったききょうが、貴子の推挙を受けて、定子の前に向かいます。
「中宮様です、面をあげなさい」
そして顔を上げたききょうは、何かに打たれたような顔になります。
きれい……感動のあまり、ボーッとなってしまい、伊周が答えるよう促すと、ようやく「あっ」とつぶやきます。
「清少納言――今よりそなたを清少納言と呼ぼう」
定子がそう言うと、貴子はさすが中宮様と褒めます。
清原元輔の娘で、夫は少納言である。しかし、ききょうは夫とは別れていると言い、それに少納言でもないときっちり説明してしまいます。
実はこれが謎のひとつでして。清少納言の「清」は「清原」からとわかります。しかし「少納言」に該当する人物が彼女の周囲にはいないのです。
それでもこのききょうは「清少納言」という呼び名に打たれ、「素敵な呼び名なのでそれでお願いします」と認めました。
定子の花びらのような唇からこぼれた響きに、心の底から参ってしまったのでしょう。
「ふふ、愉快である。清少納言、末長くよろしく頼む」
「はっ、仰せ畏まりました。この上なき誉れ、一身にお仕え申します!」
平服するききょう改め清少納言のなんという清々しさ。
忠誠を誓う主君から贈られた名前を大事にし、生まれ変わり、何もかも尽くすと決めた喜びが伝わってきますね。
このドラマが『源氏物語』ではなく、紫式部を主人公としたドラマで本当に良かったと思います。おかげで、ライバルとしての清少納言誕生物語も見ることができました。
定子と清少納言の君臣関係。この二人の出会い。日本史でも屈指の美しさがあると思います。
日本で最も仕える主人を魅力的に描いた文学者はまさしく清少納言であり、その誕生の瞬間を見られて感無量です。
二人とも説得力のある演技で、本当に美しい瞬間でした。
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かくして、定子のいる登華殿は、帝と若い公卿が出入りする華やかな場となってゆきます。
摂政から関白となった道隆は一条天皇が成人したと認め、皇子を儲けるよう促すこととなります。
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