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【『光る君へ』感想あらすじレビュー第15回「おごれる者たち」】
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間違った相手へ忍んでくる道綱
石山寺では『源氏物語』の嫌なシチュエーションを彷彿とさせるシーンもありました。
藤原道綱がそっと忍んできた場面です。
彼が寝所へやってくると、さわは受け入れる体制となりました。家から抜け出したい彼女は、いっそのこと道綱と……という思いは感じます。
そもそもさわは、殿御が見つかるよう、願うために寺に行くと言い、まひろは少し意外そうに、そういう寺かと返していました。
これも深読みかつ、下劣といえばそうですが、旅先で思わぬアバンチュールは往々にしてあります。
光源氏も流刑先で明石の君に出会っています。
しかし……
「あれ? すまぬ、間違っておった、すまぬ」
そう言いだす道綱。まひろと間違ったようです。
さわがそう問い詰めると、苦しい言い訳をします。妻もいて、妾もいるので、そなたを抱くのはよくないと気づいたとか。
「偽りを!」
怒るさわ。弁解しようとして「まひろ」と口にする道綱。謝りながら出ていくしかありません。
それでもまだマシだと思ってしまったのは、『源氏物語』での光源氏との対比です。
光源氏は空蝉を契ろうとして忍び入り、途中で相手が別人の軒端荻と気づいたものの、「ま、いっか」と続行しました。
それでも後朝(きぬぎぬ)の文は送らない。弄んだだけで終わったのです。
道綱は、そうしないだけマシでしょうか。あるいは大河でそんなことはできないという配慮か。
まぁ、それでも道綱は最低だと思えますが、上地雄輔さんのこぼれんばかりの愛嬌がカバーしています。
石山寺詣りを終えて、帰りの道中、一休みするまひろとさわ。
さわはこう言います。
「私には才気もなく、殿御を惹きつけるほどの魅力もなく、家とて居場所がなく……もう死んでしまいたい!」
野村麻純さんの愛くるしさもあって、道綱にあらためて呆れてしまいます。
母の姿を見て、男の不実に苦しむ姿に胸を痛めていたというシーンがありましたが、あれはなんだったのか。日記では悲しんでいるのに。
しかし、そんな嘆きすら吹き飛ばす変異が生じています。
目の前の川には死体が……都では疫病が流行し始めていたのでした。
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MVP:藤原寧子と高階貴子
今回は書くことの効能と、この時代の女性文人を褒め称える内容でした。
本作における藤原寧子(藤原道綱母)は、もう愛に燃えた時代は終わっていました。
何かといえば道綱、道綱、道綱……そればかりです。
あの日記を記していた頃の憂いを帯びた姿はもうないのか。厚かましいおばちゃんになっちまったな! そう毒づかれそうで、実はそうではなかった。
藤原兼家が死の間際に彼女の歌を詠んだ瞬間、何かが開いたような気がしました。
その正体が今週明かされたのです。
彼女は書くことの効能、その意義をまひろに伝える役割を果たした。藤原道綱母に対する最大の賛歌のように思えました。
まひろと藤原寧子が後輩と先輩の関係だとすれば、その対比が清少納言と高階貴子に思えます。
高階貴子こそ、さして高くない身分でありながら道隆の嫡妻となった、理想的な勝ち組の女性です。
彼女の野望はそこにとどまらず、夫をプロデュースしています。
今でこそギラギラしてきた道隆ですが、かつては貴子に様々なことを任せていた。そんな道隆が野心家になったことで、貴子の野望もますます強まってきたと思える。
定子の背後に立ち、麗しのサロンを形成し、磐石の体制を築き上げようとしているのです。
そんな定子サロンの華として、才女である清少納言を作り上げるという自負を貴子からは感じます。
ただ、このドラマのシビアさは、そんな華やかな定子サロンの裏を暴いたところにあります。
今回のサブタイトルである「おごれる者たち」とは、サロンのために税金を流し込む道隆や、その子である伊周、そして貴子を指しているのでしょう。
『枕草子』で描かれるあの華やかな理想の世界は、実は税金搾取の末にあった――そう思うと、別の見え方がするのですからおそろしい。
紫式部は華やかな行事の際でも、下々の者の労力が気になってしまうタイプです。そんな彼女目線のドラマ作りだとすれば、納得できるものがあります。
こういう構造問題は、大河ドラマだからこそ考えたい。
私は『いだてん』を全く評価しません。
それこそ金の流れが不透明な東京オリンピックを推進する一環として、受信料を用いてあのドラマを作ることは正しかったのかどうか? そういう構造問題を指摘したいのです。
けれどもあのドラマについて投げかけると、返ってくるのは「視聴率は低かったし、世間では好かれていないけど、私は好き。最低だけど最高」といった感情論ばかり。
好き嫌いの話は二の次であり、腐敗の構造をどう思うのか?と問い掛けたいのに、今回の道隆みたいにはぐらかしてばかりだ。
そういう不誠実なことは物事の構造そのものを悪くします。
心配じゃ、心配じゃ、心配じゃ、心配じゃ……そう実資のように言いたい。
何年も前のことを蒸し返すけれども、逃げ回っても、問題は必ず追いかけてきて、逃げきれません。
時に私は天意という素朴で原始的なものを信じたくなります。
私利私欲に走り、好き勝手なことをしていれば、いずれ報いがある。権利の濫用は報いがある。そう信じたくなります。
そういう歯止めがないと、誰も彼もが好き放題をして世の中は悪くなるばかりでしょう。
新しいNHKドラマの時代へ
朝の連続テレビ小説『虎に翼』が話題です。
その主題歌を担当する米津玄師さんのインタビューが秀逸でした。
◆米津玄師「さよーならまたいつか!」インタビュー|“キレ”のエネルギー宿した「虎に翼」主題歌(→link)
どこを切り取っても「それだ!」と膝を打ちたくなるほど、痛快なインタビューと申しましょうか。
ものごとを作る姿勢への疑問点も見えてきました。
ここでも語られていますが、嫌いなものを無理やり無難にほめて、ニコニコするのって、できる人とできない人がいるんですよね。
『光る君へ』にも通じるところがあって、まひろも頑固です。イヤなことをそのまま笑顔で飲み込めない性格だと思います。
女性へエールを送ることへの是非にも触れられています。
神聖視するのも、見下すのも表裏一体だという旨のことが語られていて、私が『どうする家康』で許せない点を思い出しました。
あの作品は、瀬名をマザーセナと呼びたくなるほど神聖視している。悪女扱いをひっくり返すどころか、荒唐無稽で不気味な別バージョンをこしらえたようにしか思えなかった。
女性の尊厳を見つめ直すというのではなく、自分が萌える女性キャラをこねくり回しているようにしか見えなかったのです。
2023年大河ドラマと、下半期朝ドラは、手癖がよく似た作風でした。どういう層を狙ったのか透けて見えるようでした。
昭和の末から令和にかけて、サブカルチャーやネット掲示板、SNSで培ってきた冷笑、真面目な態度を嘲笑うことを身につけてしまう人が一定数います。
善意や相手の感情を嘲笑うことで思考を止めてしまうタイプですね。
歴史好きならとりあえず司馬遼太郎ファンを小馬鹿にするものの、では司馬遼太郎読者世代が持っていた知識の代替は何か?というと、サブカルやネットで仕入れたトリビアだったりすることが往々にしてある。
そりゃあ、司馬遼太郎の位置に網野善彦を集中的にインプットした人なんてそうそういるわけでもありません。
その結果、歴史漫画の画像や大河の字幕付きキャプチャを無断転載し、歴史知識と冷笑をひけらかし、論破したつもりになっている謎の存在がSNSに登場する。
大河ドラマとなると女性主人公、登場人物、脚本家を貶す。
往々にして戦国幕末時代以外の大河は受け付けない。
歴史から少しでもはみ出したと思ってしまうと、ともかく貶す。
来年の大河ドラマ『べらぼう』も今から貶している。
歴史総合でカバーする江戸時代後期こそ、これから役立つことがたくさんあるだろうに、武士の殺し合いがないからどうせつまらない、再来年に期待と言い張っているのです。
しかし、そういうノイジーマイノリティに目配せすると失敗しかないことは、NHKの作り手もさすがに学んだと思いたいところではあります。
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【参考】
光る君へ/公式サイト