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『光る君へ』感想あらすじレビュー第17回「うつろい」

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『光る君へ』感想あらすじレビュー第17回「うつろい」
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女院と中宮の戦い

さて、そんな道隆と定子に追いやられたような詮子は、道兼と道長から「道隆の様子」を聞いて深刻な病状に驚いています。

「飲水病」――現代で言うところの糖尿病ですね。

糖尿病の藤原道長
糖尿病の道長さん 貴族の頂点に立てても「望月」は見えなかった?

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藤原詮子は浮かれすぎて罰が当たったと冷たい。若い頃は優しかったのに……そう苦い口調で言います。

確かに彼女は、道隆に内裏から追い出されと言えなくもありませんからね。その上で次の関白は道兼にすると宣言します。

思わず驚く道兼。それが順番だと詮子は言い、だからこそ道長と一緒の時に言うのだといいます。

仲が良いとも言えない詮子に推され、戸惑う道兼。

詮子は、とにかく嫌いな藤原伊周を関白にするぐらいなら……と考えていて、道兼にお鉢が回ってきたのでしょう。

道長に「借りを作った」と道兼が言うのは、詮子と近い道長の提案あってのことだと踏まえているはず。

とはいえ、この女院の意向をどう伝えるのか?

詮子は内裏に行きたくない。定子に首根っこを掴まれている帝は見たくないのだとか。

そこで詮子は、他の公卿たちに根回すことにします。

かつて詮子は、道長の妻を源氏から娶ることにして、力を得ようとしました。

あの動きは父・兼家に及ばぬようで、ここにきてそうした人脈作りが生きていることがわかってきます。

詮子こそ「キングメーカー」です。

この場合「関白メーカー」ですが、そこはさておき、歴史ものにおいては権力者本人よりも、権力を駒にする者の動きが時に面白くなります。

吉田羊さんがふてぶてしく、天下を取ったようで実に素晴らしいではありませんか。

道隆は、政治センスがあまりに乏しい。

詮子を怒らせた上に、権力を与えてしまうとは迂闊としか言いようがない。この失態は、もはや取り戻せません。

こういうことを朝ドラのタイトルにもなった『韓非子』の「虎に翼」といいます。

帝王の母は雌虎のように獰猛になることもしばしばあるのに、よりにもよって権力という翼まで与えてしまうとは――そんな虎と対峙する定子があまりに気の毒です。

ちなみに詮子は『源氏物語』では弘徽殿女御のモデルとする説もあります。

ただし、定子も無策ではありません。

道隆の生きているうちに、伊周に内覧を許すよう、帝にとりはからうと提案します。

内覧とは、帝に奏上する文章を事前に読むことができ、関白に準ずる役職。道兼が関白とされても権力を持つことができます。

二十年間空位であったのがネックとなりそうですが、帝を動かせばよいと定子は前のめりです。

伊周もこれには感心し、男であれば敵わないと漏らします。伊周が過保護に育てられたせいかもしれません。

定子は女院(詮子)から身を守り、帝を守るうちに強くなったと言います。

定子としても兄が失脚すればどうなるかわかりません。『枕草子』ではわからない定子のしたたかさが浮かび上がってきますね。詮子が警戒するのも理由あってのことでしょう。

伊周が、定子が男なら敵わないと漏らしましたが、それは父もそうかもしれません。

道隆は道兼を呼び出し、近づかせると、衣を掴んで頼みます。

「もし私が倒れても、未だ懐妊せぬ中宮様を、貴子も、伊周も、隆家も、支えてやってくれ……酷なことをしないでくれ。どうかどうかどうかどうか、伊周を、我が家を頼む!」

兄として弟の情けにすがるしかない道隆は、政治的な根回しが不得意な様子。

父・兼家ゆずりの策略は、妹である詮子の方が上でしょう。

詮子といい、定子といい、男性よりも女性が政治力に長けている描写が続きます。

2010年代世界的大ヒットドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』には対照的な戦いがあります。

五人の王が戦う「五王の戦い」と、二人の女王が最終決戦に挑む「女王の戦い」です。

権力をめぐる争いは、女性同士だからといって優しいはずもないと示す意義がありました。

ここでの詮子と定子もまさしく「女王の戦い」であり、新たなる挑戦を感じます。

 

さわはまひろ推し第一号

桜が咲く頃、まひろは文字を書いています。

ここで乙丸がさわを連れてきました。

「まひろさま! ご無沙汰いたしました。その節のことはお許しくださいませ」

感極まって言うさわに、まひろは喜び、家にあげます。まひろは切り替えができます。

といっても、彼女の中でさわとの距離はちょっと開いているためか、堅苦しく丁寧な言葉遣いが続きます。微かな警戒心はあるのかもしれません。

「ご息災でした?」

そう丁寧に問いかけるまひろに、さわは何があっても病にならない頑丈な体だと言います。

しかし、きょうだいを疫病で亡くしたそうです。

まひろが慰めると、さわは世の儚さ、人に許された年月は短いと知ったと語ります。

中世の人はやたらと「すぐ死ぬ」と語っていますが、実感を伴っていたのでしょう。

疫病に触れたまひろも、いま生きていることが不思議なくらいだと言います。

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まひろって、やはりズレているというかどこか変人ですね。自分のことを言いたいなら、真っ先に語ってもおかしくない話だと思います。説明するのが面倒なのかもしれない。

それにさわだったら、絶対に、大納言様に一晩中看病されて救われた話にうっとりしますよ。まあ、これはモテ自慢になりそうで禁句ですかね。

まひろは口が硬く、ロマンスすら漏らしません。

倫子や明子のドロドロぶりが何かと話題にのぼりますが、このうち一番罪深いのはしれっと黙っているまひろのような気がします。

倫子は友人で恩人なのに、道長のことをそぶりにも出さない。

おもしろいことに、この面倒くささは『紫式部日記』からもわかります。

前述した通り、清少納言のモテ自慢は『枕草子』を読めばわかります。

しかし、紫式部の書きぶりからすると、道長がカレピなのか、セクハラ上司なのか、どうにも判別できない。ゆえに今に至るまで、道長と紫式部の関係は議論の対象となります。

夫である藤原宣孝相手だろうと若干の塩対応だと指摘されるところです。

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歴史には性格的に暗い、隠キャ、コミュ障、内向的、パリピになれないだけで「謎めいている」とされる人物がいますが、紫式部はその典型例でしょう。

さわは、まひろが生きていたことに感動しています。

お目にかかれてうれしい! 生きてくださってありがたい!

一方、まひろはちょっと反応が控えめですが、お目にかかれてうれしいとしみじみと返します。彼女は暗いし控えめだけど、だからこそうれしいときは真実みがあるのです。

さわは石山寺の帰り道のことや文を無視したことを詫びながら、実はまひろの文を書き写して全部持っていたことを語ります。

写しを見て、確かにその通りだと感動するまひろ。

さわは文を写すことで、まひろに近づきたいと思っていたそうです。

これにはまひろも思わず微笑む。

さわは写すことで近づきたい……と、それはできっこないとわかりつつ、だからこそずっと仲良くして欲しいと言います。

「まひろさま、私と仲良くしていてくださいませ。末長く、末長く、私と共にいてくださいませ」

そう語るさわの愛くるしさよ。この場面はただのシスターフッドのようで、よくできていると思います。何かと猜疑心旺盛なまひろも、ここまでくるとすっかり安心したようです。

さて、このシーンは後の展開も示唆しているでしょう。

単なる仲良し女子のお話で終わるようには思えません。

文を写すこと――書道の鍛錬になります。

かな書道は藤原行成がひとつの頂点とされるため、このドラマの書道を担当している根本知先生はじめ、書道家は行成を手本とします。

できることなら行成に近づきたい! そうして書道に取り組む人が今も日本各地にいます。

まひろの書いた『源氏物語』は、長いこと人に写され、伝えられてきました。

写しながら、こんな恋をしたい、こんな人に巡り会いたいと多くの人が願っていた。

そんなことはできっこないと思いつつ、続けられてきたのです。

さわはいわば紫式部推し一号であり、歴史的な瞬間といえます。

印刷が普及して、わざわざ『源氏物語』を筆写する人は減ったとは思います。

けれども、SNSでこのドラマの感想をつぶやき、ファンアートを投稿することも、伝統的と言えるのかもしれません。

何かを見て、自分の頭でそのことを考え、書き出す。世の中がどれだけ変わろうが、人の気持ちには変わらないものもあるでしょう。

このあと道長が書物を見ています。そして月を見上げる。

まひろは机に向かい、墨を擦っています。

何を書きたいのかわからない、けれど、筆を執らずにはいられない――。

月の下で、この二人が写される場面は重要です。

まず、紫式部が湖に映る月を見て『源氏物語』を着想したという伝説をふまえていると考えられます。

次に、そう思いついてもスポンサーがいて文房具を提供しなければ、実際に物語は書けないということ。

そのスポンサーが道長とされます。

彼女の物語は、道長抜きにしてできないことなのです。

さりげないようで『源氏物語』の種が蒔かれる前に、土壌ができていく様が表現されていると思えます。

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