大河ドラマ『光る君へ』の越前編で最も注目されている人物と言えば、松下洸平さん演じる周明(ヂョウ・ミン)でしょう。
父の藤原為時と共に越前へ向かったまひろが出会った謎の男。
医師として鍼治療を行ったかと思えば、宋人だったはずなのに突如として流暢な日本語を操り、通辞・三国の殺人事件をも解決してしまう――。
いったい何者なの?
かと思えば、まひろに宋語を教えながら、元々は対馬の生まれで海に捨てられ宋人の船に拾われたとも告白……。
突拍子もない展開の連続に『そんなことって当時ありえたのだろうか……』と疑問に思った方もおられるかもしれません。
そこで本稿では、歴史的背景を踏まえながら周明という人物を深堀り考察してみたいと思います。
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周明の医術
藤原為時が過労により倒れた際、颯爽と現れた周明。
舌を見て、脈をとり、為時の様子を観察すると鍼を取り出し、早速、身体に刺すとギャッと悲鳴をあげます。
そうした様子を見てギョッとした顔のまひろでしたが、当時の平安京に鍼治療がなかったわけではありません。
実は“針博士”という役職もあるほどで、その一人である丹波康頼は永観2年(984年)、日本最古の医学書である『医心房』を完成させています。
ただし、技術が存在することと、実際に施術してもらえるかどうかは別の話。
鍼灸のうち普及したのは灸であり、鍼は限られた治療法でした。
本場の鍼治療を受けた為時は、健康マニアである藤原実資からすれば、うらやましくてたまらない経験をしたと言えるでしょう。
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世界最古の法医学は宋代から
宋人であり医師であり日本語も操る周明。
彼はなぜ殺人事件の真相を究明できたのか?
目撃者情報を得て為時の前に引っ張りだせたのか?
これも医師であるということが関係していると思えなくもありません。
ドラマよりやや時代が降った南宋の時代、宋慈が『洗冤集録』(せんえんしゅうろく)という書籍を刊行しました。
世界最古の法医学書とされていて、宋慈は官僚として医学知識を駆使し、それを事件解決に活かすという発想を生み出したのです。
この宋慈のように、周明も通辞である三国の屍を見て、何か異変に気づき、さらに証人を見つけ出したのかもしれません。
医学を学ぶ上で、非常に重要な観察眼を周明が身につけていてもおかしくありません。
残念ながら劇中で捜査場面までは描かれませんでしたが、想像力が掻き立てられるシーンでした。
宋代の見習い医者という魅惑の存在
周明は、視聴者からネクスト直秀枠と予想されていて、大石静さんも認めています。
直秀はまひろに対して「共に遠くの国へと向かわないか?」と誘いかけた人物。
彼女もしばしば「宋に行ってみたい」とは語っており、周明がそこにつけこみ、誘惑する展開になりそうです。
周明が医師であるということも、なかなかロマンチックな要素かもしれません。
あれだけ立派な診察をしながら、彼は見習い医師という設定です。医師のもとでまだ学んでいる最中であり、一人前ではないということなのでしょう。
宋代を舞台とする人気ラブストーリーに『白蛇伝』があります。
主人公カップルのうち男性は許宣という見習い医師であり、この許宣が白蛇の精であるヒロイン・白娘子と恋に落ちる物語です。
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宋代で、医者で、しかも見習い。周明と許宣は共通点が多い。
しかもこの物語は日本とも縁が深く、江戸時代には上田秋成『雨月物語』「蛇性の淫」として翻案されています。
モノクロ版の実写映画化もあり、日本初のカラーアニメ映画化もされました。
そんな作品を連想させる周明の設定は、なかなか興味深いものがあります。
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