息子の藤原顕信を出家させてしまった母の源明子が、道長に向かって「返せ! 返せ!」と掴みかかり、そのまま倒れてしまいます。
そんな父母の姿をみて、頼宗は困惑しているのでした。
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顕信の出家に動揺する道長の家族たち
顕信の異母姉である彰子は、弟たちから知らせを聞き、驚いています。
なんとも残酷なのが、源倫子を母に持つ藤原教通が「蔵人頭になれなかったくらいでやりすぎだ」と苦笑を浮かべていることでしょう。
母の血筋で差をつけられ、「ここを逃せばもう芽が出ない」と焦る異母弟の気持ちを、彼は理解できていないのかもしれません。
そんな弟に対し、兄の藤原頼通は「父も傷ついている」と気遣っています。
まひろは、二人のやりとりをじっと聞いているばかりです。
死んだように眠る妹の明子を兄の源俊賢が見舞いにやってきました。
虚な目を上に向け、涙が一筋こぼれる明子。魂が抜けてしまったように思えます。
俊賢はそっと妹のそばに歩み寄り、静かに腰を下ろします。
演じる本田大輔さんの所作の美しさや風雅ぶりは、まさしく平安貴族そのものに見えます。この兄と妹は雅で美しく、白檀の香りがふと鼻先を漂っていきそうなほど。
俊賢は顕信のことを残念がりつつ「内裏の力争いから逃れて心穏やかになったかもしれない」と励まします。まさに権力の中枢にいる俊賢自身も相当ストレスが溜まっていそうですね。
「比叡山は寒いでしょう。身ひとつで行ったゆえ、こ、凍えてはおらぬであろうか。兄上……」
明子がか細い声でやっとそう言い、我が子に暖かい衣をたくさん届けるように頼み込むのでした。
俊賢から聞いたのか。道長が暖かい衣をたくさん用意し、百舌彦に託します。
これは感動的な場面でしょうか?
しかし、堕落の象徴でもあると思えます。
振り返ってみれば、一条天皇は、敢えて身寒い衣をにつけ、民の心を感じたいと彰子に語っていました。彼女がそんな様子を見たら、ため息をつきそうな話です。
そもそもなぜ、僧侶は墨染の衣を見に纏うのか?
粗衣で耐え忍び、修行に励むためです。それがヌクヌクしては何のための出家なのか。
不健全な平安貴族
平安仏教とは、結局のところ“上流貴族の楽隠居ルート”扱いになってゆきます。
『源氏物語』でも登場人物たちは、男女問わず何か辛いことがあるとすぐ「出家したい」と言いだします。長年の願いとして出家があげられることもあります。
そんな逃避先が本気で辛いものであったら、困るわけです。
あたたかい服を着て、豪華な仏具仏像に囲まれて、高いお香を焚いて暮らす姿はちょっとしたセレブライフですね。
しかし、それでよいのでしょうか?
民衆救済をそっちのけに己の心の安寧、一族の繁栄、来世の幸福を追い求められても、何か違うのではないかと疑念を抱かれても仕方ありません。
これでは本来の道から外れている――そう考えた僧侶たちが新天地・鎌倉へ向かい、鎌倉仏教を発展させることになります。その甲斐あり、仏教は鎌倉時代に庶民にまで広まってゆくのです。
一方で、鎌倉時代といえば、武士の世です。
その到来の芽となる武者が『光る君へ』でも存在感を強めていますね。そう、双寿丸です。
彼から見れば、比叡山でボンボンが寒がるなんて話は「大袈裟すぎじゃねえの?」と呆れられることでしょう。
『源氏物語』を読み返すと、登場人物が突っ伏したり、寄りかかったり、もたれかかる場面がやたらと多い。
衣装が重いというのもあるけれど、ともかく普段の生活に問題があって、根本的に虚弱なんでしょう。運動量も栄養素も不足しています。
この虚弱ぶりは、『源氏物語』だけでなく今回の展開をも貫く要素でもあります。
そりゃこれだけ弱かったら、イキイキ健康的な武者にとって代わられることもやむなしと思えてきます。貴族は、筋トレなんてしませんからね。
帝は愛する妻を守ろうとする
帝は道長の子である妍子を中宮にすると宣言しました。
道長は「ありがたき幸せ」と承っています。
これに伴い、彰子は皇太后となります。中宮大夫は道綱。権大夫は教通とするとのこと。
道長一族が任命されるのですが、話はこれだけでは終わりません。
一ヶ月後、帝はこう宣言します。娍子を皇后にするのだと。
道長が強引に進めた「一帝二后」という前例を悪用されました。
大納言の息女が皇后になった例はないと道長が反論しても、帝は一枚上手。もしもこれが許されないのであれば、妍子のもとに渡らぬと宣言します。
そうなれば子もできない。それでよいのかと問われてしまう。いわば未来の皇子を盾に取った策でした。
道長は帝の術中にかかりますが、先帝とちがって策を練ってくるとなれば、それもそうなるでしょう。
道長は運はよいけれど、策士としてはそこまで上等でもないように思えてきます。
帝だって、愛する妻を守ろうと努力を重ねています。帝にとって娍子は紫の上、妍子は女三宮のようなものでしょう。
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