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【『光る君へ』感想あらすじレビュー第48回「物語の先に」】
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隆家は隠退し、爽快な人生を送る
嬉子に続き、顕信と妍子に先立たれた道長。
11月になると自身の病気が悪化したため、法成寺に身を移しました。
まひろは自宅で漢籍を読む日々を送っています。目を落としているのは白居易の『長恨歌』です。
するとそこへ隆家がやってきました。
「帥様」
「もう帥ではない」
そういうと、隆家はなかなか風情のある住まいだと感心しています。そして世間話のように、太閤様の具合が悪いと言い聞かせます。
大宰府までやって来たまひろの世話を頼まれたことから、道長とまひろの関係を察しているようです。
隆家はしみじみと、娘を立て続けに亡くしたことが応えたようだと気遣いつつ、我が子を政治の道具にした報いなのだろうと続けました。
「ああいう姿を見ると俺は偉くならなくてまことによかったと思う」
「大宰府では大層なお働きでしたのに。都の者はそれを知らないのでございますね」
隆家は中納言すら返上したとキッパリ言い切ります。内裏の虚しい話し合いになぞ出ずともよくなっただけでも清々した。そう語ります。
まひろは隆家様らしい言葉だと感心しています。
ここはなかなか厳しい場面かもしれません。
朝廷の武備について主張していたのは、隆家と実資だけでした。その隆家が内裏を去ったことで、武備についての議論は消え去ります。
若い頃はやんちゃで無茶な隆家が、一周回って本物の賢者に見えてきますね。
まひろは道長に陶淵明『帰去来辞』をわざわざ書きつけて送りました。あれは政治の世界から離れて、田園生活に向かうという内容です。
そういう生き方もあると彼女は提示しながら、道長は選べませんでした。
一方で隆家は結局それができてしまっている。
本当に賢い生き方とは、実は隆家が選んでいるようにも思えます。
まひろは道長の命を繋ぎ止めようとする
読経の声が響く中、道長は病の床にいます。
ついに百舌彦が、まひろを呼びにきて、道長のもとへ向かいました。
倫子はまひろに、道長が生きることを諦め、読経ももう良いと語っていると言います。
道長のためにできることは何か。源倫子はそう考え、まひろを呼び出しました。まひろの顔が思い浮かんだのだと。
「殿に会ってやっておくれ。殿とあなたは長い長いご縁でしょう。頼みます。どうか殿の魂をつなぎ止めておくれ」
そう深々と頭を下げる倫子です。
思えば彼女は、道長を出家させまいとして、結局できませんでした。
いわば二度目、本物の死を遠ざけることができるのは、一度目の死である出家の原因を作ったまひろだと、倫子なりに色々考えたのでしょう。
まひろが目にした道長は、痩せ衰えていました。
「誰だ?」
目も見えなくなったのか。そう返す道長。
「まひろにございます」
顔を背ける道長。
「か……帰れ」
まひろは座り、倫子の許しがでていると安心させ、全て話したと告げます。そして倫子の心の大きさに感謝します。
まひろは道長にお目にかかりたかったと言う。
するとようやく道長はまひろの声の方に目を向けました。そして手をそっと伸ばす。オープニングで繰り返される、思い合う男女が手を重ねる映像を思わせます。
「先に……逝くぞ」
「光る君が死ぬ姿を描かなかったのは、幻がいつまでも続いてほしいと願ったゆえでございます。私が知らないところで道長様がお亡くなりになってしまったら、私は幻を追い続けて狂っていたやもしれませぬ」
道長はここで晴明に寿命を十年やったことを明かします。やらねばよかった。幾度も悔やんだ。そう絞り出します。
「そうではない……俺の寿命は……ここまでなのだ……」
そう悟ったように言う道長。
生きることを諦めていたようで、またしがみつき、また諦めてしまうようなことを言います。
月の輝く夜に、人生を振り返る
月の登った夜、まひろは道長を抱き起こし、薬湯を飲ませています。
道長は己の一生を振り返ります。
「この世は何も変わっていない。俺は一体何をやってきたのだろうか」
道長に対し、まひろはこう言います。
「戦のない泰平の世は守られました。見事なご治世であられました。それに……『源氏の物語』はあなたなしには生まれませんでした」
「もう物語は書かぬのか?」
「書いておりません」
「新しい物語があれば、それを楽しみに生きられるやもしれぬが……」
「では、今日から考えますゆえ。道長様は生きて私の物語を世に広めてくださいませ」
ここでやっと微かに笑う道長。
「お前はいつも俺に厳しいな」
そう道長は返します。確かに厳しい、なんて残酷な場面なのかと思いました。
道長は己の治世を振り返って、何もないとまとめます。
確かに政治制度改革のようなものはない。功罪でいえば「罪」もあります。
己の信仰と往生のために寺を造営したことも禍根を残しています。今まさに道長が病臥している場所がその禍根です。
『鎌倉殿の13人』最終回で「御成敗式目」制定が描かれたことを踏まえると、全く進捗がないとしか言いようがありません。
まひろは「戦はなかった」とまとめる。
しかしこれは不思議な未来人視点になりかねないまとめともいえます。
隆家とまひろが嘆いていたように、都の貴族は戦の有無すら認識していません。まひろの強引な大宰府行きの意味は、ここでこう評価するためだったようにも思えます。
それで結局のところ、成果は『源氏物語』であった、と。そうはいっても、それも筆者のまひろ抜きには成立しておりません。
まひろは道長を大事に思っています。
しかし、まひろは人格が複数あります。女性として、ソウルメイトとして、作家のスポンサーとしての道長は好きです。
それでも為政者としての道長を評価することはできない。知性や教養もあまり評価していないと思われる。そこは譲れません。そういう気難しさは実資に近いものを感じさせます。
これは大事な点だと思います。推しだったら全部肯定すればよいというわけもありませんから。
程なくして倫子がやってきて、まひろはまた明日参ると言い残し、去ってゆくのでした。
物語の先へゆく三郎
まひろは道長が贈ってくれた檜扇を眺めています。
三郎という少年と、少女が出会ったあの絵です。
まひろは道長に、三郎とまひろの話を語って聞かせます。
その三郎は兄が二人いたものの、二人は家をでてしまう。父は既に亡く、母一人、子一人で暮らしていたと。
月が満ちてゆく中、まひろは三郎と少女の物語を語り続けます。
その物語では、散楽のものは命を落とすことなく、都を出てゆきます。鳥は三郎の手に収まる。本当にあったようで、どこにもなかった物語です。
生きることを諦めようとする道長の、命を繋ぎ止めるために、まひろは二人の物語を語り続けます。
倫子が道長の元へ来ると、布団から手がでていました。
まひろがとった手を、倫子はしばし重ね、布団の中へと戻します。
「殿……」
目を閉じた道長にそっと頭を下げる倫子でした。
その翌朝か、まひろは自宅で筆を手にして紙に向かっていると、道長が自分を呼ぶ声を聞いたような気がしています。
行成は降る雪を眺め、突如、廊下で倒れ、そのまま息を引き取ったのでした。
道長の子たちが喪服で父の死を悼む。実資は道長と行成の死を日記に記す。実資の目に涙が光っています。
公任と斉信は、道長と同日に亡くなった行成について語っています。つくづく道長に尽くしたものだ――そう語り、公任と斉信は詠みます。
見し人の
亡くなりゆくを
聞くままに
いとぞ深山の
さびしかりける
消え残る
頭の雪を
払ひつつ
さびしき山を
思いやるかな
友を悼み、酒を飲む二人でした。
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