『鎌倉殿の13人』の序盤――主人公の北条義時は、片思いの相手・八重にせっせとプレゼントを贈り続けました。
贈り物の中身は、キノコや魚介類、農作物など……。
ありがた迷惑なアプローチに、思わず笑ってしまった方も多いでしょう。
そして同時に
『三谷脚本は相変わらずフザけている。大河をバカにしてるのか?』
と感じた方もおられるかもしれません。
僭越ながら、その意見は早合点の可能性も大いにあります。
どこかユーモラスで、じれったい、あの義時の行動にも、史実の裏付けがあり、まるっきり根も葉もないフィクションでもないのです。
過去の大河作品を照らし合わせながら、鎌倉殿の13人の描写を考察してみましょう。
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大河主人公の忖度恋愛事情
大河ドラマファンを長いこと嘆かせていた傾向があります。
「ホームドラマ化」です。
女性視聴者が納得しないから、側室がいない主人公にしよう――そんな忖度があるのか、正室一筋の主人公が続いていかがなものか!という嘆きです。
ざっと並べてみると、
確かにそんな気もしてきますが、一方でこんな裏話もあります。
例えば『天地人』には、長澤まさみさんが扮する女忍者・初音がいました。
原作では真田幸村の姉だったのが、どういうわけかドラマでは妹になり、その後、視聴者の問合せにより姉に戻されるという、無茶苦茶な設定です。
◆大河ドラマ『天地人』で長澤まさみ演じる役設定が急遽変更(→link)
そもそも、なぜ謎の女忍者がうろつかねばならぬのか?
初音はいてもいなくてもプロットに影響はない。
直江兼続に絡むヒロイン不足を懸念し、増量した形跡がうかがえます。
女性視聴者に配慮して側室のいない直江兼続が主人公になったのに、それではヒロインが少ないから、架空人物を入れて失敗。
だとすればNHKは一体何をしているのか。
勝手に「視聴者の意見」をクローズアップして迷走していた。
そんな失敗を吹っ切ったのが2022年『鎌倉殿の13人』でしょう。
2021年『青天を衝け』の渋沢栄一は、当時から眉をひそめられるほど女性関係が放埒でした。
しかし劇中では、あくまで愛しているのは妻一人だと強調されています。
妻妾同居すら妻があっさりと認め、妾は笑顔で出ていくという、あまりに忖度が過ぎるものでした。
坂東の結婚観
昔は一夫多妻が当たり前だったのだ。
それなのに現代人はあーだこーだとうるさい。
そんな意見も多いですが「昔は一夫多妻が当たり前」という概念も果たしてどこまで適用範囲なのか。少し考えてみましょう。
一人の男性が複数の妻を置くとすれば、十分な衣食住が必要です。
男性に財産が集中する仕組みがなければ、一夫多妻は成立しません。
『鎌倉殿の13人』前半の舞台である平安末期、坂東ではいかに豪族といえど、そこまでの財産を所有できません。女性も限りある財産だとすれば、一夫多妻は成立しにくい。
本作の男性には複数名の妻がいます。
しかし、結婚期間が重ならず、離別あるいは死別後に再婚している。
そんな彼等の男女間が、言動に現れています。
北条宗時は「平氏の連中は馬や女を好き勝手にものにしてしまう」と憤っていました。
北条義時は、頼朝が姉・政子のことを「馬のように取り替えるのではないか」と困惑しています。
時政もまた頼朝の下半身に憤りを見せ、政子のことを気遣っていました。
三浦義村は女にちょっかいを出すけれども、八重から断られたらおとなしく引っ込むし、御家人たちは【亀の前騒動】で露骨に呆れ果てていた。
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そんな坂東武者たちに「昔は一夫多妻制が当然だ」と言おうものなら「何言ってんだ、あの下劣な頼朝じゃあるめえし」と反論されるでしょう。
頼朝は女好きだと呆れられ、義経も比企一族の娘である里(郷御前)とあっさり深い仲になっていました。
頼朝は、政子に亀との浮気を問い詰められると、一緒に責め立てていた牧の方(りく)に、都ならば当たり前のことだと開き直ったことを言います。
それに対してりくは反論しますが、このことから東西の男女観の違いも浮かんできます。
純情でしつこい義時
『鎌倉殿の13人』では、義時と八重のラブコメ描写が興味深いものでした。
大河において、手垢のついたダメ描写というと、こんな典型例があります。
ある日、主人公(10代)が道を歩いていると、変わった娘がいる。
その娘が活発な行動(暴れ馬を止める、木登りをしている等)をする。
恋の予感……!
壁ドンならぬ河原ドン!
『花燃ゆ』では、どういうわけかヒロインの初婚相手でもない、二度目の夫・楫取素彦が、文に対してやらかしていました。
『西郷どん』では、三度目の結婚相手である糸が、初恋の相手だったという力技が見られました。
薩摩隼人はマッチョさと男色嗜好が有名なのに、そうした要素は一切無視。
むしろ西郷隆盛はモテモテと宣伝する支離滅裂さが見られたものです。
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幕末当時、まっとうな教育を受けていれば、屋外で男女が話すところを見られることは憚られます。
そんなことを無視して、『青天を衝け』では栄一が千代に思いの丈を告白をする場面がありました。
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現代の視聴者に無理やり合わせ、昭和か平成の学園モノや恋愛ドラマにしようとした結果、このような珍場面が生まれたのでしょう。
ヒロインが味噌汁やおにぎりを作るだけで奇跡が起こる――そんな素っ頓狂な現象を誰が見たかったのか。
こうしたラブコメは史実準拠ではなくウケ狙いですが、では北条義時の場合はどうなのか?
これが実は、史実準拠と言えます。
建久2年(1191年)、29歳の義時はラブレターを書きまくっていました(長男の金剛=北条泰時が9歳のとき)。
相手は姫の前という官女です。
義時は、ともかく何通も、何通も、しつこく書いた。
しかし相手はそっけない。
建久3年(1192年)になってまで、義時は恋文を書き続けたのです。すると……。
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