江間小四郎こと北条義時/国立国会図書館蔵

鎌倉殿の13人感想あらすじ

鎌倉殿の13人は史実考証めちゃくちゃどころか緻密に設定されている?

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鎌倉殿の13人は史実準拠
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女性の意思を尊重していた義時

義時の執念を見て、このままでは埒が明かないと思ったのか。

見かねた頼朝が力を貸します。

「よっしゃ! 小四郎がそんなに恋をしたって言うなら、俺も協力しちゃうよ」

かくして義時は「絶対にあなただけを愛します」と起請文を書き、結ばれたのですが、その期間、実に一年から二年とされています。

現代人だってそれほどの長期間に渡りLINEを送り続けて無視されていたら「もっと他にやることないの?」と言いたくなるでしょう。

そういう痛々しい行為を鎌倉時代にしていた男――それが北条義時

『鎌倉殿の13人』の劇中を思い出しませんか?

初恋の相手である八重を思い、キノコ、海産物、ヤツメウナギをしつこく贈り続け、相手にされずとも一向に諦めない。

この恋も、ある意味、頼朝が実らせたともいえます。

ふらっと遊ぶようにアプローチしてきた頼朝を、噛み付いて撃退した八重。

相対的に見て、義時の方がマシではないか?

頼朝が大事に思う義時の妻になれば、もうしつこく迫ってこないだろうし……と、八重にそんな思いがあってもおかしくありません。

2022年『鎌倉殿の13人』は、極めて真面目にラブコメ展開をしている作品といえます。

そしてこの義時のじれったい恋からは、彼が女性の意思を尊重していたことがわかります。

『青天を衝け』では、相手の同意確認が曖昧なまま、性的関係を持ったと推察できる描写がありました。

女性はあくまで給仕であり、性的奉仕が名目の立場ではありません。良識という点でも、2021年と2022年は大きく異なります。

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問題のシーンは以下のように記述されています。

「足袋を枕元に置き、そのまま部屋を出るくにを『あぁ、ちいと』と呼び止め、彼女の左手を握り、部屋の中に一気に引きこむ栄一の素早さ

見出しでは「艶福家」となっていますよね。

しかしこれでは「性犯罪者」ではないでしょうか。明治時代なら「色魔」と呼ばれるかもしれません。

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御家人たちに寛容な政子

女性が政策決定にいちいち口を出す――これまたダメ大河のあるある現象ですが、実はこの扱いも難しい。

主君がいる場所に女性がおらずとも、自身の居場所から指示を出したり、書状や使者に意思を告げさせる事例はあります。

独眼竜政宗』では、政宗の母である義姫が、兄・義光と手を組み、政宗毒殺を目論むシーンがありました。

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この陰謀については現在否定されていますが、ある意味、大河ドラマ以上に義姫が政治介入していたという研究結果が出ています。

天正16年(1588年)、我が子である伊達政宗と、兄・最上義光が対立。

あわや合戦かという事態になりました。

このとき義姫は自ら輿に乗り込み、80日間にわたり居座り続け、和睦に漕ぎ着けているのです。

衝動的な行動と誤解されがちですが、大名の母が長期間居座ることは考えにくい。

計画的に行動し、家臣にも手回しをして和睦交渉をしていたと、近年の研究で明かされつつあります。

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慶応4年(1868年)の江戸無血開城前夜、幕臣から見放され孤立無援となった徳川慶喜は、孝明天皇の妹であり、家茂の未亡人であった和宮に頼っています。

こうした姿を描けばドラマでは見どころとなるはずなのに、なぜか大河では中々描かれない。

『青天を衝け』でもその傾向は強く、慶喜が準主役であったにも関わらず、こうした場面はありませんでした。

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では『鎌倉殿の13人』の場合を見てみましょう。

注目は北条政子です。

彼女は聡明ではあるものの、はじめから知識豊かで、頼朝に何でも助言できる女性ではありませんでした。

政子の知識量を危うんだのか。義母である牧の方(りく)が大量の書籍を渡す場面もあったほど。

しかも頼朝の浮気相手である亀から、書物を読んでないだろ、と指摘され、恥じ入る場面もあります。

そんな伊豆の田舎娘が努力し、脳内や政治力を鍛錬、御家人などに対して寛容さを見せることで、この先、坂東一の女性となっていく姿が見えてきます。

頼朝の政策決定の場から、むしろ政子は外されてゆきます。

挙兵時は頼朝を激励していたものの、鎌倉入りを果たしてからは同席しなくなりました。

頼朝のために策を練る人物は大江広元。京都の文官である彼一人でほぼ回る状態が続くのです。

その一方で、彼女は、御家人たちの不満を聞き取る役目を果たしつつあります。

頼朝との距離感に悩む御家人たちが、御台所・政子の器量に感服し、涙すら流しているのです。

こうした積み重ねがあってこそ【承久の乱】での名演説が成立するのでしょう。御家人たちは政子の言葉を聞きながら、さまざまな思いが巡ってくるはずです。

では政子は、いつから政策決定をするのか?

 


一見間違っているようで実は正しい

政子が政治力を発揮するのは?

頼朝の死後です。

そこには忖度などありません。

史実の政子は我が子・源頼家を諌め、『貞観政要』を読むように勧めています。

『貞観政要』とは、名君・唐太宗の言行録であり、帝王学の古典。頼朝が亡くなる頃までの間に彼女が「帝王学を習得する人物となっていた」ことがわかります。

ではなぜ、そんなことができたのか。

彼女が特別に賢かったからでしょうか。

もちろん頭の良さはありますが、それだけではない要素も考えられます。

鎌倉時代、坂東の教養は飛躍的に上昇しました。彼らは儒教を身につけ「孝」という価値観も備えたのでしょう。

『鎌倉殿の13人』では、三浦義明が戦死したあと、その子である三浦義澄、孫である三浦義村和田義盛が酒を飲む場面があります。

儒教では、親の服喪期間の飲酒は厳禁です。つまり、あれはとんでもない親不孝であり、当時の坂東武者に儒教規範が根付いていないことがわかります。

そんな彼らに、京都から導入される書籍や知識が浸透し、次第に彼らは思い始めるでしょう。

鎌倉殿といえど、母の言うことは聞くべきではないか?

それが「親孝行」ではないか?

『鎌倉殿の13人』で、政子が政策決定に口を挟み、絶大な信頼を寄せられるとすれば、それは現代の視聴者に忖度した結果ではありません。

聡明で、知識を身につけ、寛容であった本人の資質。

そして御家人たちが「母を尊重する道徳観念を身につけた」からこそ、彼女は活躍できる。

義時がモジモジしているとか。

政子が堂々として政治に介入するとか。

そうした描写は、何もウケ狙いなどでもなく、史実をもとに描かれたものと言えます。

確かに源平ジャンルの大河は、無茶苦茶な描写も目立ちます。

2001年『北条時宗』では、【二月騒動】で死んだはずの北条時輔が、赤い布を首に巻きつけ、あちこちに出没しました。

「赤マフラー」という、困惑したあだ名がつけられたものです。

2005年の『源義経』では、最終回が伝説となりました。

義経が自刃すると御堂が爆発し、そこから白馬が飛び出したのです。あまりにシュールな映像で「義経ドッカーン」と呼ばれました。

2012年『平清盛』はファンが多い作品です。

ただ、人に会うのに顔が汚れたままとか、過剰な演出で賛否が分かれました。

『鎌倉殿の13人』脚本家の三谷幸喜さんは、ご自身でも「史実無視とか荒唐無稽とか言われまくり」と自覚しているようです。

◆「上総介」の死去に広がった衝撃。『鎌倉殿の13人』の“本当の始まり”とは? 脚本の三谷幸喜さんが明かしていた【大河ドラマ】(→link

過去の例を見てみますと……。

『新選組!』では、「香取大明神」という掛け軸がふざけているとクレームがつきました。

主演が香取慎吾さんだからふざけていると思われたそうです。

しかし、「香取大明神」は武芸を司る神であり、掛かっていてもおかしくはありません。

真田丸』では、「軽井沢に向かおう」という台詞にクレームがついたとか。

避暑地に向かうとは、どういうことだ!

そう思われたのですが、実は当時から存在していた地名で、史実面でのおかしさはありません。

◆戦国物に「軽井沢」OK? 真田丸プロデューサーに聞く(→link

三谷さんは時代考証を重視します。

一見まちがっているようで実は正しいことも多い。

それなのに理不尽に叩かれるとすれば、イメージありきなのでしょう。

だからこそ、批判する前にいったん立ち止まって考えたい。そうでないと、真田幸村の守る真田丸へノーガードで突入するようなものです。

『鎌倉殿の13人』は三谷さんらしい大河と言える。

確かに省略や誇張はあります。

しかし大胆で遊び心があるとも言え、かつ時代考証にぬかりはない。他の大河より良心的です。


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文:小檜山青
※著者の関連noteはこちらから!(→link

【参考文献】
小島毅『江と戦国と大河』(→amazon
小島毅『義経の東アジア』(→amazon
星亮一・一坂太郎『大河ドラマと日本人』(→amazon

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