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【鎌倉殿の13人感想あらすじレビュー第31回「諦めの悪い男」】
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坂東武者は勝つために何でもするんだ
建仁3年(1203年)9月2日――時政が和議を申し込んできたと能員が妻子に告げています。
怖気付かずに乗り込むぞ!と意気揚々とした表情の能員。妻の道と子の時員も心配しています。
仲立ちとして尼御台も来るからと能員は安心しています。
ではせめて甲冑を着ていくべきだと道が願うと、軍勢を引き連れていくとそれだけで戦になってしまうと、能員はニヤリとしています。
「太刀も持たぬ者を討ったら末代までの恥。肝の据わったところを見せてやる」
そう不敵にいうと、愛妻を抱き寄せ優しく撫でる夫。
そこに愛はあります。何か別のものはないけれど。なんだか佐藤二朗さんも堀内敬子さんも、魅力的ではあるのです。
しかし能員は何か忘れているようだ。梶原景時ならこうはならないでしょう。
源義経がゲームのルールを変えました。
義経は壇ノ浦で、船の漕ぎ手を殺した。卑劣だろうと、結果を残せばよい。
能員が北条の館に出向くと、仁田忠常に案内されます。
そして時政の待つ部屋に入っていくと、そこにいたのは甲冑をつけた時政でした。
「何のつもりじゃ」
慌てて帰ろうにも、忠常に止められ、退去できない能員。
「見てわからんか、丸腰じゃ」
「そのようだな」
鷹揚に答える時政。
「お前も坂東武者の端くれならば、わしを斬ればどうなるか……」
「お前さんは坂東生まれじゃねえからかわらないんだろうがな。坂東武者ってのはな、勝つためにはなんでもするんだ。名前に傷がつくくれえ屁でもねえさ」
「ん〜……ふ〜……わしの身に何かあれば三浦も立つ!」
能員が啖呵を切ると、開けた扉に向こうにいたのは三浦義村でした。
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「三浦をみくびってもらっても困るな。北条とは二代にわたって刎頸(ふんけい)の交わりよ」
出典は『史記』。お互い、相手になら首を刎ねられてもよいという意味です。
同じ意味で漢籍由来なら、「断金の交わり」、「水魚の交わり」、「管鮑の交わり」もあるのに、なんだか不吉なことを言って来ましたね。
「あぃたぁー! 切りおった、切りおった」
周囲を北条の甲冑武者に囲まれ、徐々に血の気が引いていく能員。
義時が無情にも死刑宣告をします。
「比企能員、謀反の罪で討つ!」
これを合図に忠常が切り付けると、能員は叫びます。
「あぃたぁー! 切りおった、切りおった、切りおったー、ああー、いったー! いったー!」
逃げる能員。追う北条。
ふと義村が気づき、能員の着物をひん剥くと、中に甲冑を着込んでいました。
その思い切りの悪さが命運を分けたと時政が言います。
北条は挙兵に加わり、比企は二の足を踏んだ。確かにこの勝敗はそこにあると思える。
「我が比企の一門を、取るに足らぬ伊豆のものと一緒にするな! 守るものが、守るものが違ったのよ!」
「がたがたほざくな!」
北条の悪名は永劫残るぞ――そんな能員の言葉を静かに聞く義時。
そして忠常にとどめをさされ、絶命する能員。
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その様子を見届けた義時は、仏に祈りを捧げる政子に報告。
政子は合掌しつつ、頷きます。
「これより館に攻め入ります」
政子は義時の思いをどこまで知っているのでしょうか。
彼女はますます美しくなりました。このうなずくところなんて白鷺のような気品があります。尼僧姿がこれまた神々しい。
しかも、目が澄んでいる。義時のようにやつれてぼろぼろにならないし、時政のように濁ってきてもいない。小池栄子さんの演技が今週も素晴らしい。
比奈は自邸で遊ぶ子供たちを見ながら、どこか何かが抜けたような顔です。
堀田真由さんのこんな顔を見るなんてつらい……。
義盛と重忠もこの場にました。義盛は乗り気がしねえとぼやいています。
重忠が「なぜ?」と問うと、義盛は「平家の戦とは違う、仲間だ」と。
「力ある者だけが残る、それだけのこと。我らは食らいついてゆくほかござらん」
良識的な人物も割り切るしかありません。
頼家が息を吹き返した!?
能員を討ち取った北条が、比企の邸宅へ攻め込みました。
道は兵を整え迎え撃てと命じ、比企尼が「北条め!」と憎しみを吐き出します。
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道が荒い息をつきながら、せつに告げます。
「北条にしてやられた……愚かな母を許しておくれ。裏手でおばば様が待っています。逃げ延びるのです! 早く行きなさい、早く!」
せつは我が子一幡を抱いて逃げようとします。
と、そこへ泰時が立ち塞がりました。
せつが懐剣を握りしめ抵抗しようとすると、善児の弟子であるトウが素早く刺殺。
一幡は侍女に抱き抱えられているものの、そこへ善児が近づき、泰時に目をやります。生殺与奪を握った泰時の判断はわかりません。
泰時の迷いと悲しみだけが希望です。
義時と時房は全てが終わったと報告します。そしてすぐに千幡を鎌倉殿にする手筈をととのえると。
一幡が無事なのか?と政子が念押しすると、義時は生きているとわかれば担ぎ上げようとする者が現れるから、行方知らずにしておくと言います。
「これでよかったのですね」
「よかったかどうかはわかりません……しかし、これしか道はありませんでした」
義時がそういうと、政子は黙り込んでいます。
一人歩み去る義時の脳裏に、兄の姿が浮かんできました。
「おれはこの坂東を俺たちだけのものにしたいんだ。坂東武者の世をつくる。そしてそのてっぺんに北条が立つ!」
目をぎらつかせ歩いていく義時。果たして、宗時はこんな顔になる弟を望んでいたのかどうか。
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政子のもとに時政が来て、比企能員を一族郎党全て討ち取ったと報告します。
ご苦労だと労われていると、”残念ながら“一幡様は行方知らず、千幡を鎌倉殿にして北条を後見にするとのこと。
広元がテキパキと一日も早く元服してもらうと告げます。
つまり、広元はこの一連の流血に異議を唱えない。
と、そこへ足立遠元が駆け込んできます。なんでも鎌倉殿が回復したと。
駆けつけた政子や御家人たちに、一幡とせつに会いたいと告げる頼家。医者もさぞやお喜びになるでしょうと告げています。
そして己の頭に触れ、剃髪していることに気づく……。
彼は知りません。妻も、子も、二度と会えないことに。
思えば全成と実衣も、能員と道だって、幸せでした。最期まで愛する人がそばにいた。
しかし頼家は、やっと信じあい、愛が芽生え始めたせつを気づかぬ間に失っているのでした。
MVP:能員と道
悪いカップルというのはいます。
ボニーとクライドとか。古典だったらマクベスとその夫人とか。
そういう毒々しい二人のようで、本人はそんなつもりはまるでなかったし、そんなものは北条に毒されているだけだと反論されるとは思います。別にそこまで悪くもないような。
むしろ凡人だったと思えます。凡人がいかにして悪に堕ちてゆくか。そこをじっくり体現していた。
能員は自分の記憶を改竄しているように思えます。
当初、頼朝に協力的にあったのは比企尼だけで、この夫妻は全くやる気がなかった。消極的だった。
そこを思い切りのよさが紙一重だけだったようなことを言い募る。
そうやって己を過大評価し、偽ることで、能員は肥大してゆきました。
中身はないのに、自分は偉いと勘違いした。自己研鑽もしない。謙虚さもない。
ただ一族の女を使って権力に取り入っただけなのに、自分は偉いのだと思い込んだ。
外戚であることには、謙虚さが大事なのにそうしなかった。
自業自得と言えばそうなのだけれども、チャーミングで生々しくて、今の時代にも通じる巨大な教訓を残したと思える。
そんな素敵な二人でした。
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