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【鎌倉殿の13人感想あらすじレビュー第31回「諦めの悪い男」】
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伯楽と千里の名馬
能員は器が小さい。しかし、時政も同程度。そうハッキリわかった回でした。
今更ながら、頼朝とそれを見抜いた梶原景時の偉大さがわかる。
世に伯楽有りて、然(しか)る後に千里の馬有り。
世界に伯楽(馬の目利き名人)がいてこそ、千里の名馬がいるのだ。
韓愈『雑説』
時政は確かに頼朝の挙兵について行ったけれども、それは婿だからでした。
頼朝こそ器が大きいと見抜き、真っ先についていったのは娘。
ドラマではそこまでしっかりやらなかったけれども、時政は別の男に政子を嫁がせようとしたくらいで、頼朝という名馬を見抜いた「伯楽」は政子なのです。
梶原景時もそうでしょう。
彼は石橋山の後、頼朝こそ天に選ばれたお方だと見抜いて付いてきました。彼にも見抜く目があります。
では二人は何を見抜いたか?
頼朝は自分が天から与えられた使命があると実感していました。
自分には為すべきことがあると認識していた。
ここは後白河院よりもしっかりしている。「遊びをせんとや生まれけむ」を政治にまで適用するようでは失格です。
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これはオカルト感覚というわけでもなく、東洋の君主像ともいえます。
天と地の間に人がいる。その人を治め、よりよい生活を送らせるために、天は君主を選びます。
つまり、人の生活を向上させない君主は天の命に背いているわけだから、天罰を当てられて当然であると。
そういう価値観があるから、天災が起きると中国の天子は「罪己詔(ざいきしょう・己を罪する詔)」を出したのです。
天は直接民を罰するわけではありません。
ゆえに君主たるもの、まず第一に、民衆の生活向上を考えねばなりません。
これができているか?
能員は駄目です。
時政も駄目。
自分の妻子をかわいがることが天命と宣言するのは、全くもって君主の器ではない。
時政はいずれ、伯楽である娘から見捨てられることでしょう。りくは自分を伯楽だと誤解しているだけです。
公私混同をしない
中国史からの鎌倉時代考察を続けさせてください。
当時の日本がお手本にしていたので、お許しを。
『三国志』でおなじみの曹操は、【宛城の戦い】で嫡男・曹昂と甥、そして護衛を務めていた典韋を失いました。
この戦いを悼む時、我が子と甥の時は冷静なのに、典韋のこととなると号泣してしまう。
なぜか?
これは将としての態度の問題でもあります。
我が子よりも家臣を気遣うことこそ、将に求められる要素でした。
「ああ、この人は、我が子よりも部下を重んじるんだな。すげーな」
要は、公私混同をしないアピールですね。
人間は自分の家族が大事だ。我が子がかわいいのは当たり前である。
北条時政ならば「そうに決まってんだろ!」と首をブンブンさせて頷くことでしょう。
しかし、それでよいのでしょうか?
プライベートなら、いくらでも我が子をかわいがってよい。好きにしてください。
しかし公の場で家族を依怙贔屓すると規律が大いに乱れてしまいます。
以前、評判が悪い政治家のことを、その友人がかばう意見を読みました。
あの人は友人には気さくでとても善良で、なんでもしてくれる、と。
いや、そういった私的な一面などどうでもいい。
為政者ならば天意を受け、民のためのことを心がける。家族かわいさは二の次が東洋の君主像です。
こんなことでは麒麟は来ない!
『麒麟がくる』の光秀なら、きっとそう言うでしょう。
あの光秀のことを毎週繰り返している気がしますが、ならば何が天意にかなう政なのか?
光秀は劇中で家康に説明していました。
民衆が豊かに暮らせるには、どういう制度にすべきか。目をキラキラさせながら語っていたものです。
鎌倉時代はヤクザの抗争のようだと語られる。
しかし、日本の中世に絶望しないでください。
同時代、たとえばイギリスのプランタジネット朝も相当ヤクザで無茶苦茶です。
映画や舞台の『冬のライオン』はそんなヤクザホームドラマを体現しています。
この時代となると、世界史規模で比較的精密な治世倫理ができているのが南宋でしょうか。
そんな宋で形成された朱子学を吸収したからこそ、光秀みたいな人物は治世のビジョンが明瞭になったのです。
学び模索することで人間は洗練されてゆくものでしょう。
総評
今週は歴史を学ぶ原点をまたも教えてくれる――そんな熱い回でした。
能員が殺される場面が生々しい。
あがいて、つかまって、ジタバタしながら刺殺される。みっともなく生にしがみつく生々しさがあった。
そして攻められる比企邸。
キッと死の前に気高さを見せる道。
裏切りに怒る比企尼。
刺されて死にゆく中、目を開いているせつ。
全部生々しい。トラウマになりそうなほど、死を見せてくると思えました。
でも、日曜夜8時に一年かけて、そんな歴史劇をやるんです。
その意義を問い直したい。
こんなニュースがありました。
◆大河「鎌倉殿の13人」浮上のカギは小栗旬の変貌にあり どこまで“ダークサイド”に落ちる?(→link)
視聴率の低下を指摘されていますが、伸び悩むのは自然なことではないでしょうか。
定番である戦国幕末ものでもなく。
近年、特に2019年の大下落が回復できないのか、2020代は大河枠そのものが低迷。
毎週殺し合っているので、見る人を選ぶ。
そんな状況です。
ただ、NHK側もNHKプラスの視聴回数なども新基準で考えているようであり、視聴率をことさら気にする方がもはや古い。
そんな価値がこのドラマにはあると思います。
歴史作品は、教育的なようでいて、ものすごく反道徳的なことがバンバン起こる楽しさがありますよね。
何かあったら一族皆殺しなんて、目の前の現実ではまずない。いや、あってたまるか。
歴史からいちいち教訓を見出す必要性もないと思うのです。
今年は「こんな血生臭いことに嫌気がさしたから、泰時が頑張ったんだな」ぐらいで良いのでは?
歴史はおもしろい――そこから無理に「歴史人物から学ぶビジネス」なんて呪詛祈祷じみた何かを見出そうとするからおかしなことになる。
単純に面白い、それが原点でしょう。
そんな童心にまで返すような仕掛けがあって、今年の大河は秀逸と感じます。
今回なんて笑えばいいのか、恐れればいいのか、悲しめばいいのか、怒ればいいのか、わからない。
感情がぐちゃぐちゃに混ざって、終わってみれば、ただただ楽しいもんをみたとわかる。
そういう歴史を学ぶ楽しさ、理屈抜きでおもしろいとなることが実は大事なんじゃねえの?と問いかけてくる今週もまた、素晴らしかった。
今週みたいに血生臭い回を楽しんだというと、人としてどうかと思われそうだけれども、実際面白いんだから仕方ないですね。
もう降参です。
※著者の関連noteはこちらから!(→link)
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文:武者震之助(note)
絵:小久ヒロ
【参考】
鎌倉殿の13人/公式サイト