北条義時が出かけようとすると、見慣れぬ女性が廊下にいます。
長澤まさみさんではありませんか。
彼女が演じる女房が、こんな説明を始めます。
「鎌倉に穏やかな日々が訪れています。本日は承元二年から建暦元年に至る4年間、この鎌倉で起こるさまざまな出来事を一日に凝縮してお送りいたしします」
北条時政追放から、和田一族滅亡前夜まで。
第39回放送はその時系列を描くようで、いつものオープニングテーマへ。
天然痘から復帰した実朝
曲が終わると同時に、声のトーンを一つ落とした長澤まさみさんが、今度は声で登場。
大海の
磯もとどろに
寄する波
破れて砕けて
裂けて散るかも
源実朝
【意訳】大海原から磯に音を轟かせて打ち寄せる波が、割れて、砕けて、散ってゆく
源実朝の和歌から始まった今回。
時政追放後に実朝は天然痘を患い、あばたの跡を気にしています。
それでも一命を取り留め、政務に復帰し、医者に叱られつつも、ついついあばたを触ってしまう実朝。
御所で政務復帰を果たす実朝の前で、義時がしみじみと「一時は覚悟を決めた」と語ります。
もしも自分が死んだらどうなっていたか?
実朝がそう尋ねると、実朝と父子の契りを交わした善哉が後釜にすわると義時が返します。
思わず「善哉に悪いことをした」と呟いてしまう実朝。
ここは重要な点でしょう。
鎌倉殿と八幡宮別当を、それぞれ頼家と実朝に割りあてることが、頼朝の構想だったと推定されます。それが頼家の理不尽な死によって逆転した。
誰かがそのことを善哉(後に公暁)に吹き込んだら、実朝が自分の地位を盗んだと思いかねない。
-

なぜ公暁は叔父の実朝を暗殺した? 背景に義時の陰謀というのは本当か
続きを見る
北条政子が、ハキハキと、政治状況の説明します。
全国には治安を守る守護と、荘園ごとに土地を預かる地頭がいる。
それらの御恩位を御家人に与えて奉公させる。
武士の頂に立つのが鎌倉殿。
役目をしっかりと果たすように。
まるで教科書に掲載されているかのような説明をして、直後に「違ってた?」と確認。
義時はそんな姉を見て「尼御台は必死に学んでおられる」と苦笑しています。
小池栄子さんの演技が今週も盤石ですね。
しっかりとハキハキと正しいことを言おうと学んだけど、ちょっと自信がない。そんな絶妙な調子が滲んでいます。
政子って、地に足がついた人だと思います。
権力が欲しいわけではないけれど、そうしないといけないことを責任感から学び、さらに全うしようとしている。真面目で誠実。本当に善良な方で良かった。
そんな母を気遣いつつ、実朝は仕事に戻ると言います。
「学んで損しちゃった」と照れたようにこぼす政子がやはり素晴らしい。
実朝はそんな母に感謝しつつ、母に迷惑をかけたから仕事に励まねばと気合を入れています。
しかし……。
歌には歌で返すべし
姉と二人きりになった義時が、政は自分が進め、鎌倉殿を守ると政子に伝えます。
彼女も、しばらくはそれがいいと同意します。
しかし、義時は何かおかしい。
「ずっと?」
政子がそう察知すると、義時はこう言い出しました。
兄上は坂東武者の頂に北条が立つことを望んでいた。
私はそれを果たすのだ。
ついに義時は、実朝を傀儡にすると宣言しました。開き直っています。義時もきっと政の勉強を果たしたのでしょう。
政子は学んだことをまっすぐ使いますが、義時はそうじゃない。
程なくして、実朝のもとに訴訟が届けられました。
内容は高野山と太田荘の争い。実朝が迷い、三善康信も戸惑っていると、義時がズケズケと一方的に高野山の言い分を決めてしまいます。
思わず実朝は、自分がいてもいなくても同じではないかと北条泰時にこぼしてしまう。
そんなことはない!
泰時がそう否定して実朝に気遣っていると、眼前に和紙が差し出されました。
「いただけるのですか?」
「楽しみにしている」
そう言われてキョトンとしている泰時に「返歌だ」と告げる実朝。
つまりは歌で返事をするわけで、泰時は狼狽するばかりですが、鎌倉に文化が浸透してきたことの証しでもありますね。
思い出してください、上総広常が素朴に書状を書いていたあの姿を。
当時とくらべて、もはやそんな時代ではなく、和歌を詠めなければ話にならない。
やることが増えてきたぞ!
-

時代劇らしいセリフとは?大河ドラマで見える文化 教養 言語能力の進化
続きを見る
品のない息子・北条朝時
野望を隠そうとしなくなった義時。
今度は政を新しくすると大江広元に語っています。その案とは?
・守護は交代させる。親から子へと継ぐとわずかな者に偏ってしまう
・だが国司はそのままで
義時の話を聞き、懸念を感じてしまう広元。それでは北条だけが目立ってしまう――。
「構わぬ」
そう断言する義時。
時政のように露骨に自分へ利益誘導するのはよろしくない。
そうではなく、大義名分と理屈をこねて、自分にとって有利な制度設計をする。
悪辣なやり方です。
師匠である源頼朝を超え、頼朝の懸念を丁寧に破壊してゆく、北条義時は実におそろしい男になりました。
その頃、義時の妻・のえは、初を相手に愚痴をこぼしていました。
「辛気臭いのよね。小四郎殿も太郎殿も。似たもの親子っていうの?」
ぺちゃぺちゃと話すのえに対し、義父上は執権にならないのかと探りを入れる初。実に賢い女性です。
これに対しのえは、欲を持って何が悪い、私なんて欲が着物を着て歩いているようなものだと開き直っています、
初は夫には悩みがあると言いかけ、やっぱりやめておくと言います。
好奇心たっぷりに「教えなさい!」と迫るのえ。
と、そこへ北条朝時がやってきて、女性二人の間にある干し果物を手づかみにすると、ニヤニヤとした顔でかじり始めました。
「兄上を見ませんでしたか?」
御所ではないかと初が応じ、お邪魔していると挨拶します。
いかにも無神経そうな朝時がその場を去ると、憎々しげにのえが吐き捨てます。
「品がない人は大ッ嫌い!」
「あの人の母上は上品な方でしたけどね」
朝時は、比奈の息子です。
-

義時がベタ惚れだった姫の前(比奈)北条と比企の争いで引き裂かれ
続きを見る
母と別れ寂しそうにしていたあの少年は、どこか品のない青年に育っていました。のえも小さい頃は構っていたのになぁ。
ともかく、こういうちょっとした場面にも個性が出ていますよね。
ゴシップ好きでゲスなのえ。こちらはいつも通り。
聡明で会話からも何かを掴もうとしている初。父に似て賢い。
無神経で女心に疎そう、なんだかやらかしそうで危うい朝時。さて、どうなることやら。
義時と仲章の心無き会話
筆を持ち、硯に向かう泰時。
源実朝への返歌をどう返すべきなのか。悩んで悩んで、全く詠めない。
場面変わって、実衣は政子に、笑顔で報告しています。
どうやら源仲章が仲立ちとなり、実朝の和歌を藤原定家が手直ししているとか。
百人一首の選者でもある藤原定家は、天才肌でプロの中のプロ。
その指導を受けられるなんて、そりゃ浮かれます。
-

鎌倉と『百人一首』源実朝や後鳥羽上皇はどんな歌が選ばれていた?
続きを見る
ステータスに浮かれてしまう実衣と違い、手直しなんかしなくていいと言いきる政子。
我が子の素朴な感性を伸ばしたいのかもしれません。確かに定家は技巧を凝らしておりますから。
そんな実朝の和歌の話から、噂話へ話題を広げる実衣。
なんでも実朝と千世がまだ同じ床で寝ていないということが、侍女経由で伝わったようです。
二人は仲が良さそうだったのに……と困惑する政子。実衣はこのまま男児が生まれなかったらどうするのか、側室を考えた方がいいと告げます。
「よしましょう」
ここでは政子が話を打ち切るのですが……。
書類を見ている義時のもとへ、源仲章が入ってきます。
-

源仲章は義時の代わりに殺された?実朝暗殺に巻き込まれた後鳥羽院の忠臣
続きを見る
二人で、まるで心のこもっていない業務的な挨拶をこなすと、仲章が後鳥羽上皇の影をちらつかせつつ、鎌倉殿に政指南をすると告げます。
深々と頭を下げる義時。
仲章は、北条追放のことを気遣います。
「正しき道はいばらの道」
そして、悪く言う者はいても自分はお味方だとアピールするのですが、礼を告げる義時の目は一切笑っていません。
伊豆で木簡を数え、米の収穫を推量していた青年は変わりました。政所で書類を見ながら、京都から来た者をあしらえる程の策士となったのです。
このドラマは何かがおかしい。
周囲が主人公を過小評価しているように思えて来ました。
北条義時を甘く見てはいけないはず。それなのに、どこか侮っている。そうしているうちに手遅れになるような気がします。
肩を落とし寂しげな康信
実朝が、和歌を詠んでいます。
今朝見れば
山もかすみて
久方の
天の原より
春はきにけり
【意訳】今朝見てみれば、山も霞んでいる。天の原から春は来ていたのだな。
隣にいるのは指南役である三善康信。
「今朝見れば」と「久方の」を入れ替えたらどうかと提案すると、実朝が笑いながら、「いつも語順を逆にするように言うものだ」と返します。
そう指摘され、照れてしまう康信。
そこへ仲章がやってきて、京の藤原定家から送られてきた添削結果を伝えます。
最後を逆にするように――。
なんでも「今ぞ栄えむ鎌倉の里」とした方がおさまりがよいとのことですが、実は実朝は、初めから詠んでいました。康信の助言で引っくり返していたのです。
宮柱
ふとしきたてて
よろづ世に
今ぞ栄えむ
鎌倉の里
【意訳】神殿に太い柱を立てよう。これから長い間、鎌倉が栄えていきますように。
康信はため息をついてしまいます。
もう教えることが何一つない。寂しそうに肩を落とす康信に対し、それでも実朝は、歌を読む面白さを教えてくれたのはそなただと労い、こう言います。
「これからも私を助けてくれ」
感極まって泣き出す康信ですが、こういう優しい人がそばにいるだけで心が安らぎますね。
-

頼朝挙兵のキッカケとなった三善康信|鎌倉幕府を支えた良識派文官の生涯
続きを見る
実朝が戻ると、千世が貝合わせをしようと誘ってきました。
稽古と政で疲れているから体を休めたい。
実朝がそう断ると、それでも千世は引かず、一回だけ付き合うこととします。
しかしそこへ和田義盛がズカズカと登場。
馴れ馴れしく「ウリン!」と大声を出しながら、あばたが残っているか?と聞いています。すぐに消えると実朝が返すと、あったほうが様になるとも……。
ひどいと言いつつも、気心知れた相手に楽しげな様子。
これでは千世の立場がありませんが……。
御家人皆が北条を憎んでいる
八田知家が胸元をはだけながら、何かを組み立ていますした。
政子の依頼のようです。
なぜ大工仕事でそんなにセクシーなのか、知家の実年齢のことはこの際忘れておきましょう。
暗い顔をして廊下を歩いていく千世の姿を政子が見かけます。
和田義盛の用件は「上総介になりたい」とのことでした。なんでも上総介になって御家人の柱になるべきだと周りがうるさいんだとか。
「わかった。なんとかしよう」
実朝が折れると喜ぶ義盛。
「上総介」とは国司のことです。義時が守護とは別扱いにしようとした職ですね。
そこへ実衣が入ってきて、席を外すよう義盛に強く言います。
実衣の用件は、身の回りの雑事を取り付ける女房のことでした。実朝が断っても、「身だしなみが必要だ、烏帽子がゆがんでいては鎌倉殿の威厳に関わる」と彼女は一歩も引きません。
烏帽子を直す実朝、珍しい場面です。
どんな女性がよいか?と、畳み掛けるように実衣が詰問していると、帰りかけていた義盛が「声の大きな女子がいい!」と乱入してきます。
なんでも情けが深いんだそうで。それは巴御前の特徴というだけの気がしますが。
「聞いてません! 帰って帰って!」
追い払う実衣に対し、「では声の大きい人を」と実朝がそっけなく答えます。まるで女子なんてどうでもいいというような言い方です。
そのころ泰時はまだ悶々と悩んでいました。
和歌など作ったことがないと正直に告げれば良いのに、なぜそうしないのか。鶴丸の心配も、もっともな話ですね。
そんなこと露とも知らない実朝は、和田義盛を上総介にすることを母の政子に相談していました。
政子も義盛は好きだけど、政は身内だとか、仲がいいとか、そんなこととは無縁の厳かなものだと嗜めます。
実朝は素直に反省しますが、それができなかった北条時政は結局身を滅ぼしたものです。
-

なぜ北条時政は権力欲と牧の方に溺れてしまった?最後は子供達に見限られ
続きを見る
八田知家の作業が完了し、組み立てた机を政子に見せています。
さすが仕事が早いと喜ぶ政子。
できる男だけれども、そこまでやるのかと驚かされる、それが知家です。
-

頼朝上洛の日に大遅刻した八田知家|鎌倉ではどんな功績があったのか?
続きを見る
言いにくいことをはっきりと政子に伝えるのも彼の仕事。
北条の方々を、はっきりと言えば御家人皆が憎んでいる――
北条義時が相模守。北条時房は武蔵守。
北条ばかりで、なぜ他の者は国司になれないのか?
政子は神妙に聞いています。
義時はそこを理解しているのか、計算づくなのか。
広元への口調では、そこも織り込み済みのようではありますが、気になった政子は義時に聞き出します。果たして彼は承知の上でした。
それでもやらねばならぬ。二度と北条には向かう者を出さぬため――
覚悟を決めた義時に対し、政子も引くわけにはいきません。
「小四郎……父上と義母上の命を救ったことを感謝します。でも……」
そう訴えようとすると、義時が「悔やんでいる」と政子の言葉を跳ね除ける。
父の時政を殺していれば、御家人たちは恐れ慄きひれ伏した。それができなかったのは自分の甘さである、と。
果たして本当にそうでしょうか?
これは義時ではなく、政子の甘さかもしれません。
彼女があのときキッパリと「時政とりくを殺せ! 逆らうものは始末する!」と義時を急かしていたら、その先どうなっていたか?
この姉はそこまでやる強敵なんだ、そんな凶暴な雌虎ならば、我が子を守るために牙を剥くかもしれぬ――義時がそう警戒したら、実朝に政治の実権を返したかもしれない。なんてことも考えてしまいます。
鶴丸「平盛綱」は泰時の良き番犬
実朝が、よもぎという女性に向かって「側室にする気はない」と断っています。
ならば、とキッパリ出て行こうとするよもぎ。
実朝がそんな彼女を引き留め、少し話でもしようかと笑顔を浮かべます。困っていることはないか?と聞いているのです。
何でも彼女は、酷い男に引っかかったんだとか。
妻にすると言っていたのにさんざん弄ばれ別の女子と……そう怒りを込めて語ります。
「この鎌倉にそんなひどい男がいるのか!」
驚く実朝ですが……まぁ、いるでしょうよ。あなたの父・頼朝も中々のものでしたよ。
-

女好きも大概にせい!大進局に子を産ませ 兄の元嫁も狙っていた頼朝
続きを見る
一方で「とんでもないおなごに引っかかった」とこぼす者もいました。
北条朝時です。兄である泰時に愚痴をこぼしている。
いやいや、干し果物を掴んで食べるように、女の袖を掴んだのは自分じゃないのか?
そう思えてきますが、泰時も弟の悪事を知っているのでしょう。「どうせ嫁にするとか言ったのだろう」と見抜いています。
それでもなお、兄上の力で鎌倉を追い出せないかと、ゲスいことを言い出す朝時。どうしようもないですね。
泰時も、人に頼るなと突き放し、鶴丸もうんざりしています。
そこへ義時がやって来て、疲れたと横になる。
父に戸惑う泰時に対し、義時が「伊豆へ行って父上になにか美味いものでも持っていってやれ」と命じます。
そして、ふと鶴丸に目をとめ、いつまでも鶴丸では具合が悪いとか言い出した。
「諱(いみな)をつけてやるか」
「諱!」
大感激の鶴丸、諱は「盛綱」になりました。
氏は「平にする」と勝手に決めてしまう義時。
平家一門は滅びたわけでもありません。
日本各地に落人伝説がありますが、そうではなく鎌倉に来ている者もいました。あえて平家のものを近くに置くことで、源平合戦ははるか昔のことだとアピールしたいのでしょう。
盛綱というのは、これからも泰時を守る綱であって欲しいからとのこと。
「平盛綱」
そう決まった名に、泰時も「よい!」と納得しています。さらに鶴丸改め平盛綱は「御家人になれないか?」と義時に訪ねました。
調子に乗るなと釘を刺す泰時ですが、義時は意外と乗り気になっています。
弓の技比べに紛れ込んで目立つ働きをして、それを弾みに鎌倉殿に掛け合ってみると言い出すのです。
美談に思えます。出自不明の平盛綱を鶴丸にするというのはよい工夫です。
八重の思いが詰まった、まるで千鶴丸の生まれ変わりのような人物が、こうして泰時を守るためにそばについて出世するのも素敵ですよね。
しかし、今の義時は、ただの美談を生み出すほど清らかではない。
これは綱をつけた番犬を作る過程でもある。
恩義を感じさせ、いつまでも我が子を守る番犬に育ったら美味しい。死ぬ気で命令を果たす忠実な番犬は何より有用ですし、義時はうまいやり方を思いつくものです。
策士策に溺れた義村
北条時房が実朝を蹴鞠に誘いだし、北条義時が義盛に釘を刺しています。
・上総介の件は忘れること
・鎌倉殿と直に交渉することは禁止
・ウリンと呼ぶことも禁止
頼朝のことを「武衛」と呼んでいた件を義盛が引き合いに出しますが、あのころとは違うとそっけない義時。
「変わっちまったよなぁ、鎌倉も、お前も……」
義盛がそう嘆くのも無理ありません。
思えば序盤において、彼らの娯楽は狩猟でした。誰も和歌なんて詠まない。蹴鞠も未知のものでした。
広元はその話を聞き、絵に描いたような坂東武者だと感想を漏らします。
義時が随分少なくなったと相槌を打つと、広元から
「そしていずれはいなくなる……」
なんて不気味な予言じみたことも加えられます。
これは実におそろしい。坂東武者がいなくなったら、何がどうなるのか?
広元のような文士も飲み込んで吸収し、まったく新しい武士ができあがり、それが日本を支配することを誰も知らないようで、でも、実は義時は知っているようで、ゾッとする場面です。
-

鎌倉幕府の設立・運営に欠かせなかった広元や親能たち「文士はどこへ消えた?」
続きを見る
現在放映されている朝の連続テレビ小説で、長崎五島列島の「ばらもん凧」が出て来ました。
その図柄は、武士が魔物に立ち向かうというもの。武士の世が終わっても、日本では子供の生育を祈る際に武士を掲げます。
それだけ根深く精神性が根付いてしまった。
そういう根源を、この義時という怪物が吐き出そうとしているようで、あまりに深い。
義盛は消えゆくさだめ――そんな風に悟り切ったような義時ですが、和田義盛は御家人の間で人気があり、そう簡単に排除できるようなものでもありません。
「和田には三浦がついています」
そう広元が言うと……。
「俺の噂をしていたな。まあいい、お連れしたぞ」
三浦義村がつつじと善哉を連れて来ました。
義村はまるで曹操のようだ。中国に「曹操の噂をすると曹操がやってくる(=噂をすれば影)」ということわざがあります。
つつじと善哉は、実朝の回復祝いを述べにきたのでした。
そんな善哉に、政子は何やら見せたいものがあるようで、手の空いた義村と義時が話し始めます。
「一時は善哉を鎌倉殿に……という話もあった。その気にさせて申し訳ない」
義時が詫びると、義村は元気になられたのならそれでいいと素っ気ない。
「平六、私はこの鎌倉を変えるぞ」
「いい心意気だ」
義時は、守護を二年で交代し、御家人の力を削ぐと宣言します。
「言っておくが、俺も相模の守護だぜ」
「だからこそ真っ先に賛成して欲しいんだ。他の御家人たちは何も言えなくなる」
「いいだろう」
「政所へ戻る。ゆっくりしてけ」
そう言い残して義時が去っていくと、義村は手にした扇を腰にさそうとし……床に叩きつけます。
何かとわかりにくいと評される義村ですが、個人的には読みやすい人物に思えます。
この瞬間、義村は策に足を取られた策士に成り果てました。
義村は幼いころから義時を見てきて、智謀は自分に及ばないと思っていた。いつでも操ることができると思っていた。何かあれば話を聞きにくるし、すがる犬のような目でこちらをみてきたこともある。
だから手を貸してやった。
頼朝より近いし、操ることはできるはず。自分が真っ先に泥を被りたくないから、汚い仕事は分けあって、持ちつ持たれつやって行こうと思っていた。
それなのに、いつの間にやら、義時の番犬になってしまっている。これほどの屈辱はない。
おまけに義時は義村の策を先回りして、いたぶってきた。
善哉を鎌倉殿にしたかっただろう? そうならなくて残念だったな。
そうくすぐるように言い、嘲笑った。からかった!
義時はこの盟友までもこうして翻弄し、誰が主人かを見せつけたようなものです。
なまじ策士だと自覚ある義村にとって、これほどの屈辱はないでしょう。ゆえに、苛立ちから思わず扇を床にぶつけてしまう。
憎いのは義時か? いや、己の迂闊さに腹が立つ! では、どうすればよい?
策士の腹の底がぐるぐる渦巻いています。
-

殺伐とした鎌倉を生き延びた三浦義村|義時の従兄弟は冷徹に一族を率いた
続きを見る
それにしても、なんという三浦義村か。
策が当たってほくそ笑んでいる時よりも、この己の策が外れて悔しがる姿の方が魅力があふれ切っている気がする。
三度大河に起用し、山本耕史さんの魅力ならばなんでも出せるという、そんな三谷幸喜さんの自信までも伝わってきます。
最高の食材の、いちばん味を出し切る術を知っている――そんな極みを見た。
山本耕史さんの魅力を全部絞り切ったような何かがある。
凄まじい場面でした。
このドラマはプライドがへし折れる様を、音が出るのではないかと錯覚するほどに見せてきます。
悔しがる後鳥羽院も素晴らしかった。一体、あと何回、こういう場面が見られるのか。
最終回で義時がそうなったらよいなぁ……とすら思ってしまいます。
弓争い勝負の局面で平盛綱が!
政子が、善哉に頼家の字を見せています。
ここでよく蹴鞠をしたとも教えている。
実朝もやってきて、善哉にやさしく声をかけました。
鎌倉殿と返す善哉に、義父上と呼ぶようにつつじは言います。無理をしないようにと優しい実朝。
時房が、そんな善哉を蹴鞠に誘うと、政子が頼家の分も善哉を幸せにしたいと語ります。
罪滅ぼしだと認めつつ、御所へ誘い、ここなら遊び相手はいくらでもいると情けをかけ、
「善哉のためでしたら……」
と、つつじも同意。
しかし、やはり政子は甘い気がします。もっと突き放してもよいかもしれない。こういう対応をしていると、頼家は罪なくして死んでしまった人のように見えてくる。
御所にも愛着が湧く。
なぜ御所の一番高い座に自分がいないのか?
将来、そう思ってしまうかもしれない。
頼家は罪ゆえに死んだ。
お前も罪人の子であり、実朝とは違う。
厳しくとも、その辺をハッキリと認識させた方が良いかもしれません。
本作の政子は優しが魅力ではありますが、あまりに優しすぎるかもしれません。もちろん、それでいいと思います。逆に厳しくしたら我が子を守れたのかどうか? 誰にもわからないのです。
イベントが始まりました。
鶴丸こと平盛綱を御家人に推挙できるかどうか。
それがかかった大一番【弓争い】が行われ、知家がセクシーに的を射抜きます。
特に意味はないのに、出てくるだけでセクシーってのは昭和時代劇のくノ一を思い出しますが、2022年にはこういうのもありということかもしれませんね。
なんといっても市原隼人さんなので、下品にならず踏みとどまっている。彼でないと、こうはできないでしょう。
弓争いは、左右に分かれて的を射抜いていく勝負で、次の泰時(右)が成功させると、(左)の長沼宗政は的を外してしまった。
この場面で平盛綱が登場!
右の射手として出てくると、かなり緊張しながら弓を引き、矢を放つと……的中です。
「うわぁー! おっしゃ!」
よく当てた! 我らの勝ちだ!
そうはしゃぎ、抱き合う北条泰時と平盛綱。
しかし、その瞬間のことでした。それまで楽しそうに見ていた実朝の顔が暗くなり、戸惑い始めます……。
イベントが終わり、室内へ戻る実朝と義時。
弓争いで活躍した平盛綱を北条家の家人だと説明した上で、御家人にしてはどうか?と提案します。義時としては、却下されるとは露ほども思っていなかったことでしょう。しかし……。
「それはならん」
実朝が断ってきました。身分不相応な取り立ては災いを呼ぶ、一介の郎党を御家人に取り立てるなどあり得ないというのです。
そして和田義盛の上総介就任を止め、守護の任期を定めたのは義時だとダメ押ししてきます。
義時はいったん引きます。
「鎌倉殿の言う通りにございます。忘れてください」
「すまぬ。言葉が強くなってしまった」
しかし終わりではありませんでした。
むしろ揺さぶりの始まりで、義時は、私はもう要らぬようだ、あとは鎌倉殿の好きなようにすればよい、伊豆へ引き下がると、追い込んでゆきます。
義時は学んでいます。
亀の前騒動のとき、時政が伊豆へ引っ込んでしまった。すると頼朝は露骨に狼狽。義時が鎌倉に残ったことをことのほか喜んでいましたた。あのときの経験を活用したのでしょう。
実朝はすぐに折れ、自分が間違えていたといい、その者を御家人にするように返します。
それでも義時は許さない。
鎌倉殿が一度口にしたことを撤回したら、政の大本が揺らぐ。そう脅しつつ、今後は自分のやることに口を挟まないようにと脅します。鎌倉殿は見守っていればよいと。
「どうすればよいのだ?」
そう問われると、改めて自分の褒美を与えるように言います。その褒美を義時から盛綱に渡すと。
実朝は北条時政の企みを防いだ褒美を取らすと言います。
「……ありがたき幸せ」
頭を下げながら、そう返す義時。
この瞬間、鎌倉殿もこの男の飼い犬になりました。
ようやく心が通じた実朝と千世
蹴鞠をしていると頼家のことを思い出してしまう――北条時房が、源実朝にそう話しかけています。
その頼家とは、兄でありながら話したことがない実朝。
時房がこんな風に説明します。
「寂しいお方でした。あのお方のお心を知ることは誰にもできなかった。悔やまれてならないのです。お側にいながら何の支えにもなってさしあげられなかった。いらっしゃいますか。心を開くことのできるお方が」
実朝には誰かいるのでしょうか?
夜、千世が実朝に迫ります。
世継ぎができないことを皆が心配している。自分にその役目が無理であるなら、ぜひ側室を……と勧めています。
しかし実朝は戸惑うばかり。千世は後鳥羽院のいとこであり、それを差し置くようにして側室は置けないとのこと。しかし、それが余計に辛いと千世も訴える。
「あなたが嫌いなわけではない」
「ではどうして私からお逃げになるのですか? 私の何が気に入らないのですか!」
彼女にしてみれば、屈辱であり怒りでもありましょう。
そんな妻の姿を見て、もう黙っていられないと悟ったのか、実朝が秘密を明かし始めます。
「初めて人に打ち明ける。私には世継ぎを作ることができないのだ。あなたのせいではない。私はどうしてもそういう気持ちになれない。もっと早く言うべきだった。済まなく思うから一緒にもいづらかった」
「ずっとひとりで悩んでいらっしゃったのですね。話してくださり、うれしゅうございました」
泣く実朝に寄り添う千世。
ぎこちなく抱き返す実朝。
「私には応えてやることができない」
「それでも構いませぬ」
そう抱き合う夫妻――源実朝は心を開ける相手を見つけました。
-

源実朝は将軍としてどんな実績があった?朝廷と北条に翻弄された生涯
続きを見る
一方、その実朝へ返歌を作らねばならない泰時は、相変わらず頭を抱えています。
と、そこへやってきたのが源仲章。
泰時が、実朝からもらった歌を目にします。
春霞
たつたの山の
さくら花
おぼつかなきを
知る人のなさ
【意訳】立ち込める春の霞。龍田の山の桜花よ。おぼつかないことがもどかしい。私はこの心を持て余している。
実朝から泰時へ送られた歌は、そもそもどんな内容だったのか?
「これは恋の気持ちだ」と仲章が言います。
春の霞のせいではっきりと姿を見せない桜の花のように、病でやつれた己の身を見せたくない。されでも恋しいあなたに会いたい。そんな切なき恋心であると。
「どなたの作で?」
「御免」
動揺した泰時は、その場を去るので精一杯。
実朝のもとへ行き、こう告げます。
「鎌倉殿は間違えておられます。これは恋の歌ではないのですか?」
「そうであった。間違えて渡してしまったようだ」
「これを」
「ありがとうございました」
大海の
磯もとどろに
よする波
われて砕けて
裂けて散るかも
実朝は、波のように恋が砕けた歌を渡すのでした。
比奈(姫の前)と義時の息子にして、ゲス男である北条朝時が、微笑みつつ父の前にいます。
「どういうことだ」
御所に仕える女房に手を出したってよ。冷たく突き放す義時に対し、朝時は鎌倉殿に取りなして欲しいと言います。
こいつ……通りすがりに干した果物を掴むように女房を落としたことをようやく認めたか。狭い範囲でとことんつまらん奴。なんなんだこいつは!
「ふっ。軽々と私に頼りおって……お前には父を超えようという気概はないのか」
「あ……あるわけないです。そんな大それたこと」
「もう行け」
猫が鼠で遊び飽きたように我が子を解放する義時。
もう、この人はどうなってしまったのか。我が子が自分を超えようとしてこないか見極め、安全となったらつまらなくなっているんでは?
家族間で本気の殺し合いを想定しているんだとしたら、そりゃあ、のえだって辛気臭いと思うでしょうよ。
八重や比奈のように、腹を割って愛し合うことができなくなっているのは、誰のせいなのか。
もはや義時の人生そのものが地獄のようで、おそろしいことになってきました。
そして、あの男の我慢が限界です。
和田義盛だ。
義時は、親父を追放して以来やりたい放題だ!
俺たち古株御家人をないがしろにしたら痛い目に遭うって思い知らせてやろうぜ!
そう怪気炎をあげています。
-

坂東武者のカリスマ・和田義盛|愛すべき猪武者は滅亡へ追い込まれる
続きを見る
その場には三浦義村もいる。義時への逆襲を企てているのは、こちらにも見えてくる。
しかし、一方で義村は、義時に寝返ることで自分は使えるアピールすることもできるわけで、最終的には「義時vs義盛」でどちらが勝つか? 決め手はそこになってきます。
泰時が、彼には珍しく、やけ酒をあおっています。
それを遠くから見つめる初。
建暦元年(1211年)9月22日。
出家して公暁(こうぎょう)と名を変えた善哉は京都へ行くことに。
政子に別れを告げ、出立してゆきます。
そして、戻ってきたとき、
鎌倉最大の悲劇が幕を上げることになる。それはこの時から六年後――。
そう語られ、穏やかな一日は終わりました。
MVP:源実朝
鎌倉が生んだ歌人として名高い。
そんな実朝の和歌を思い切って大胆に使った回でした。
まさかあの歌をこう使うのか!
そんな驚きが随所に見られる展開で、詩歌を残した人物が心が読めて興味深い。歌の強みを最大限に活かし切った素晴らしい回でした。
そして、和歌に共鳴するような柿澤勇人さんの演技が圧巻でした。
繊細で、ずっと綺麗な音がかすかに響いているような……心の声が聞こえるような演技が、実朝の和歌と重なっていた。
和歌の世界観を演技で見せる、そんな繊細さが素晴らしい。
-

史実の源実朝は男色ゆえに子供ができず?源氏将軍が三代で途絶えた理由
続きを見る
総評
実朝は素晴らしい。
けれども、義時も完成しました。
心優しき実朝を手玉に取って、抱き上げるようにして権力をほしいままにする。
義時がお手本にしたロールモデルは推察できます。
曹操です。
『三国志』でおなじみの曹操であり、「乱世の奸雄」とも称されますね。
曹操は自分の悪名くらい気づいています。
その上でこう振り返っています。
「世間は俺を奸雄だというが、俺がいなかったら他にもっと大勢の奸雄がのさばっていたはずだぞ」
呂布、袁術、袁紹――大勢いるライバルを倒し、漢の献帝を擁立した自分をそう正当化した。
大勢の猛獣がうろついているよりも、一頭のでかくて凶暴な獣が他の連中を喰らい尽くしてのし歩いているほうがまだマシじゃないか? そう開き直ったのです。
そういう「嫌な悟り」が全身からほとばしっていて、どうにもこの義時を嫌いになれません。
小栗旬さんがどす黒く、それでいて輝いていて、なんて素晴らしい人なのかと思います。
悪名を背負って、嫌な思いをたくさんして、一家団欒を投げ捨ててでも、目的達成に向かっていく。
誰かがそうしなくちゃいけないから自分がそうする。悪名を背負う宿命ごと天に選ばれたと理解し、それを引き受けていると思える。
まったくたいした男ですよ、義時は!
ちなみに「相州」つながりというダジャレ要素もあります。
日本の相模は「相州」。
魏の本拠地・鄴(ぎょう)あたりもかつて「相州」とされました。
曹操の汚い権力奪取の手段は、後に司馬懿が模倣します。
司馬懿と義時は曹操フォロワーという共通点があり、ドス黒さとシュールなギャグセンスが似ている。
そんな『軍師連盟』はお薦めです。月から土に『軍師連盟』、日に『鎌倉殿の13人』をみると精神が荒廃しますが、おすすめです。
-

三国志長編ドラマの傑作『三国志〜司馬懿 軍師連盟〜』は鎌倉殿ファンにもオススメ
続きを見る
小栗さんはもう『軍師連盟』主演の呉秀波(中国トップクラス演技派俳優)に匹敵すると思うんですよね。
ともかくもう義時は、野望を吸い取って膨れ上がっています。
言い訳に使う兄・北条宗時の言葉。
義時がしつこく持ち出すと嫌気しかなかったのですが、もう慣れてきました。
りくにもてっぺんとれと託されたし、のえは言うまでもなく全身が野望でパンパンに膨れています。
そんな父に対して、泰時は善意を注がれる人です。
母の八重から愛を注がれ、初は厳しいダメ出しと共に鍛えながら愛してくれている。
そして実朝は、春の霞のような、荒波のような恋心をぶつけていった。
これはきっと、欲望といったものではなく、もっと綺麗なもののような気がする。
泰時はあまりに徳が高いから、花の香りにさそわれる鳥や蝶々のように近寄ってしまうのではないでしょうか。
松坂桃李さんの名前の由来でもある「桃李成蹊」です。
桃李言わざれども下自ずから蹊(みち)を成す。『史記』「李将軍伝・賛」
桃や李は語らないが、その花と実に惹かれて道ができる。徳が優れた人物のもとには、おのずと人が集まるものだ。
『麒麟がくる』の光秀もそういうところがありました。
『鬼滅の刃』の炭治郎も人をホワホワさせます。
-

『鬼滅の刃』竈門炭治郎は日本の劉備だ|徳とお人好しが社会に必要な理由
続きを見る
そういう徳が極まりすぎて人を惹きつけてしまう。その罪深さをぶつけられた泰時よ。
今流行しているからBLを入れたとか、そう宣伝していた『西郷どん』とは比較にもならない。単純なものではない。東洋的な美学もあれば、多様性への配慮もあります。
初めての時代劇で、これほどまでに難易度が高い役で、それをきっちり演じ切る坂口健太郎さんは期待を裏切らない人だと思います。
そして、今回、水際だった技量を見せたのは三谷さんです。
四年間を一日におさめ、切ない恋を描き、たくさんの伏線を埋め込む超絶技巧。
技巧があまりに高度だと、かえって指摘するのも野暮に思えて放置してしまう。
名人がホイホイといとも簡単にするさまを見て、かえって簡単だと誤解してしまう。
そういう境地に達しているように感じます。
ここまで高いところに上り詰め、今後どうなさりたいのか?と問いかけたくなるほど巧で、ただただ唖然とするばかり。
そんな三谷さんの快進撃も、時代考証あってこそ。
木下竜馬さんの記事が読めるそうです。
◆(日曜に想う)グローバルだったモンゴル帝国 記者・有田哲文(→link)
思い込みを排して歴史を描くのは苦労の多いことらしい。
NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の時代考証を担当した日本史研究者、木下竜馬(りょうま)さんが「歴史評論」10月号に舞台裏を明かしている。
大河ドラマのセクシュアリティ
日本史における同性愛を考えると長くなりますし、関連記事も近日中に出ますのでさらっと。
今回の描写は、実朝が同性愛者であることに注目するとちょっと誤解が生じるかもしれません。
当時は両性愛は特異なことではありません。
性的なバリエーションとして美少年を愛しつつ、妻もいる、それは当然のことでした。
後白河法皇もそうです。
そうではなく、実朝はあくまで泰時に純愛を捧げているところが特殊だと思えるのですね。
-

日本が「男色・衆道に寛容だった」説は本当か?平安~江戸時代を振り返る
続きを見る
-

薩摩趣味(薩摩の男色)を大河ドラマ『西郷どん』で描くことはできるのか?
続きを見る
大河ドラマとジェンダー
これだけVODが発達し、海外ドラマが入ってくる時代になったからには、いい加減このテーマがもっと語られても良いと思います。
まず「隗より始めよ」ということと、公式サイトの三谷氏インタビューを踏まえて考えてみましょう。
今、韓流ドラマが流行しています。韓流ドラマは女性に受けると言われています。
「イケメンのラブコメ多いんだろ?」
こんな風に、ヨン様ブームくらいの記憶で語る方もまだまだ多いのですが、そう単純な話ではありません。
韓国ではエンタメの輸出に力を入れています。海外の目線を意識しているのです。
そして「両性平等メディア賞」というものがあり、ジェンダー観点でも表彰される制度がある。
華流こと中国ドラマでも、ジェンダー視点でユニークな流れがあります。
『贅婿~ムコ殿は天才策士~』という、一見、異世界転生ハーレムもののようなドラマがあります。
しかし実は、男性がよい婿になるよう教育を受けて、女性の関心を買う技法を習わせられるような羽目に陥るお話。
男女の立場を逆転させた「ミラーリング」という手法をとっています。
「ミラーリング」時代劇だったら日本の方が早かったのに!
漫画原作が「ティプトリー賞(ジェンダーに対する理解を深めることに貢献したSF・ファンタジー作品に与えられる賞のこと)まで受賞しているのに、時代劇に強い公共放送で扱ってこなかったじゃないか!
NHKもそれに気付きまして、男女逆転版『大奥』が放映されます。
『鎌倉殿の13人』とキャストも被っていて、今から楽しみです。
もちろん、大河もそこを意識していないはずがない。
往年の名作大河といわれるものでも、いま見返すとヒロインの味噌汁パワーだの、胡散臭い描写が目につきます。
そうならないためにも、ジェンダーにおいて進歩が必要なのです。
大河三作目を手がけ、日本でも有数の脚本家である三谷幸喜さんもそこに手抜かりはあります。
公式インタビューを引用しましょう。
――三谷さんは以前より「女性を描くのは苦手」とお話をされていますが、今回の女性たちはどのように描こうと意識されていたのでしょうか。
昔から「女性を描くのが下手だ」と言われ続けていますね。もうトラウマです。なんで書けないんだろう。照れちゃうのかな。あと、戦を描くのが下手ともよく言われる。これもどうすればうまくなるのか、さっぱり分からない。戦と女性は僕の鬼門です。
女性に関しては、今回はなるべくそう言われないように心がけました。とにかく女性のスタッフの意見を聞くことを心がけた。もう自分では無理だと思ったので。彼女たちに「この女性キャラはこんなことは言わない」と指摘されることもありましたし、「こういう女性はみんな嫌いだと思う」と言われて、書き直したこともあった。すごく勉強になりました。もし今回、女性の描き方が以前よりちょっとでもマシになっていたとしたら、それは彼女たちのおかげです。
女性描写についていえば、『鎌倉殿の13人』は格段に向上していると思えます。
中世にあった女性の権力が描かれていること。そして嫌われる勇気があること。
のえは言うまでもなく、りくや実衣にもこれは嫌われても仕方ないと思える言動があります。
八重だって嫌な時はキッパリとそう言い切る性格で、そのことがきついという叩き記事もありました。
大河で好かれるヒロイン像はあります。
ゆるく、ふわっとしていて、自分の心情を言わない。いつもアルカイックスマイルを浮かべ、綺麗事を並べる。
論争となるようなこと。相手が聞かれて困るようなことは言わない。誰かが落ち込んでいたら励ますようなことだけをいう。
大河に出演する女優ともなれば当然のことながら美しい。
こういう合コンマニュアルじみたものを実践すれば好かれます。
-

大河ドラマ『利家とまつ』レビュー 昭和平成の良妻賢母は現代社会にどう映る?
続きを見る
その典型例は『青天を衝け』を見ればわかります。
渋沢栄一の妻である千代は、史実では気位が高く、しっかりとした見解を持っている女性でした。
-

渋沢千代(栄一の妻)は気高く聡明な女性|しかし夫は妾を新居に呼びよせた
続きを見る
同じく後妻の兼子も史実では、夫に嫌味を言うような気の強さがある。自分の権利を主張し、嫡出子優遇を確立させたと思える点もあります。
-

渋沢兼子は妾として渋沢栄一に選ばれ後妻となった?斡旋業者の複雑な事情
続きを見る
しかし、ドラマではそういう要素が削られたように思えました。
これは同じ脚本家の『あさが来た』もそうで、あれはモデルの広岡浅子をとことん矮小化していた。
-

ドラマより史実の方が豪快だった広岡浅子『あさが来た』モデル69年の生涯
続きを見る
そうかと思えばDV妻殺しの黒田清隆と親友である五代友厚を乙女ゲー王子様じみた描き方をする。
薩摩隼人を一体何だと思っているのやら。
-

五代は死の商人で黒田は妻殺し|知られざる薩摩コンビ暗黒の一面とは?
続きを見る
ジェンダーという観点からみれば、同じ大河枠でも2021年と2022年では「20年程の差がついている」ように思えるのです。
中でも政子は素晴らしい。
-

なぜ北条政子像は時代によってこうも描き方が違うのか「尼将軍」評価の変遷
続きを見る
批評分野でも日本では「フェミニズム批評」という概念が定着しきっていないように思えます。
むしろ鬱陶しい、時代劇ならそんなものは無視すべきだという極論もある。
こと大河ドラマに関しては、中高年男性専属のような扱いを受けているのではないかと思えることも。
そこで、またも三谷さんがお手本にしたという『ゲーム・オブ・スローンズ』を持ち出します。
あのドラマは容赦ない暴力と過激な性描写から、フェミニストが嫌うものという先入観もありました。
ではフェミニズム批評から自由になっているかというと、そうではありません。
◆ 『ゲーム・オブ・スローンズ』の女性差別は“歴史を基にしたらそうなった”、現実の差別よりマシだと原作者の指摘(→link)
◆ 『ゲーム・オブ・スローンズ』スピンオフで「性暴力は描かない」、批判から学んだ制作陣(→link)
歴史を基にしていればなんでもあり……ということでもなく、配慮はできるはずだと批判されます。
そうした批判を砥石にして作品を仕上げるからこそ、よりよい進化が望めます。
三谷さんはそういう姿勢も世界基準に合わせていて、実に頼もしいと思えます。
そんな彼だからこそ、『鎌倉殿の13人』は日本のドラマの中でも最先端をいく仕上がりになっていると思えるのです。
三谷さんならば、都合がつく限り何度でも大河を手がけて欲しい――私はそう思います。
あわせて読みたい関連記事
-

史実の源実朝は男色ゆえに子供ができず?源氏将軍が三代で途絶えた理由
続きを見る
-

殺伐とした武家社会を乗り切った北条義時|どうやって鎌倉幕府を支えたか
続きを見る
【参考】
鎌倉殿の13人/公式サイト

























