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【鎌倉殿の13人感想あらすじレビュー第39回「穏やかな一日」】
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MVP:源実朝
鎌倉が生んだ歌人として名高い。
そんな実朝の和歌を思い切って大胆に使った回でした。
まさかあの歌をこう使うのか!
そんな驚きが随所に見られる展開で、詩歌を残した人物が心が読めて興味深い。歌の強みを最大限に活かし切った素晴らしい回でした。
そして、和歌に共鳴するような柿澤勇人さんの演技が圧巻でした。
繊細で、ずっと綺麗な音がかすかに響いているような……心の声が聞こえるような演技が、実朝の和歌と重なっていた。
和歌の世界観を演技で見せる、そんな繊細さが素晴らしい。
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総評
実朝は素晴らしい。
けれども、義時も完成しました。
心優しき実朝を手玉に取って、抱き上げるようにして権力をほしいままにする。
義時がお手本にしたロールモデルは推察できます。
曹操です。
『三国志』でおなじみの曹操であり、「乱世の奸雄」とも称されますね。
曹操は自分の悪名くらい気づいています。
その上でこう振り返っています。
「世間は俺を奸雄だというが、俺がいなかったら他にもっと大勢の奸雄がのさばっていたはずだぞ」
呂布、袁術、袁紹――大勢いるライバルを倒し、漢の献帝を擁立した自分をそう正当化した。
大勢の猛獣がうろついているよりも、一頭のでかくて凶暴な獣が他の連中を喰らい尽くしてのし歩いているほうがまだマシじゃないか? そう開き直ったのです。
そういう「嫌な悟り」が全身からほとばしっていて、どうにもこの義時を嫌いになれません。
小栗旬さんがどす黒く、それでいて輝いていて、なんて素晴らしい人なのかと思います。
悪名を背負って、嫌な思いをたくさんして、一家団欒を投げ捨ててでも、目的達成に向かっていく。
誰かがそうしなくちゃいけないから自分がそうする。悪名を背負う宿命ごと天に選ばれたと理解し、それを引き受けていると思える。
まったくたいした男ですよ、義時は!
ちなみに「相州」つながりというダジャレ要素もあります。
日本の相模は「相州」。
魏の本拠地・鄴(ぎょう)あたりもかつて「相州」とされました。
曹操の汚い権力奪取の手段は、後に司馬懿が模倣します。
司馬懿と義時は曹操フォロワーという共通点があり、ドス黒さとシュールなギャグセンスが似ている。
そんな『軍師連盟』はお薦めです。月から土に『軍師連盟』、日に『鎌倉殿の13人』をみると精神が荒廃しますが、おすすめです。
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小栗さんはもう『軍師連盟』主演の呉秀波(中国トップクラス演技派俳優)に匹敵すると思うんですよね。
ともかくもう義時は、野望を吸い取って膨れ上がっています。
言い訳に使う兄・北条宗時の言葉。
義時がしつこく持ち出すと嫌気しかなかったのですが、もう慣れてきました。
りくにもてっぺんとれと託されたし、のえは言うまでもなく全身が野望でパンパンに膨れています。
そんな父に対して、泰時は善意を注がれる人です。
母の八重から愛を注がれ、初は厳しいダメ出しと共に鍛えながら愛してくれている。
そして実朝は、春の霞のような、荒波のような恋心をぶつけていった。
これはきっと、欲望といったものではなく、もっと綺麗なもののような気がする。
泰時はあまりに徳が高いから、花の香りにさそわれる鳥や蝶々のように近寄ってしまうのではないでしょうか。
松坂桃李さんの名前の由来でもある「桃李成蹊」です。
桃李言わざれども下自ずから蹊(みち)を成す。『史記』「李将軍伝・賛」
桃や李は語らないが、その花と実に惹かれて道ができる。徳が優れた人物のもとには、おのずと人が集まるものだ。
『麒麟がくる』の光秀もそういうところがありました。
『鬼滅の刃』の炭治郎も人をホワホワさせます。
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そういう徳が極まりすぎて人を惹きつけてしまう。その罪深さをぶつけられた泰時よ。
今流行しているからBLを入れたとか、そう宣伝していた『西郷どん』とは比較にもならない。単純なものではない。東洋的な美学もあれば、多様性への配慮もあります。
初めての時代劇で、これほどまでに難易度が高い役で、それをきっちり演じ切る坂口健太郎さんは期待を裏切らない人だと思います。
そして、今回、水際だった技量を見せたのは三谷さんです。
四年間を一日におさめ、切ない恋を描き、たくさんの伏線を埋め込む超絶技巧。
技巧があまりに高度だと、かえって指摘するのも野暮に思えて放置してしまう。
名人がホイホイといとも簡単にするさまを見て、かえって簡単だと誤解してしまう。
そういう境地に達しているように感じます。
ここまで高いところに上り詰め、今後どうなさりたいのか?と問いかけたくなるほど巧で、ただただ唖然とするばかり。
そんな三谷さんの快進撃も、時代考証あってこそ。
木下竜馬さんの記事が読めるそうです。
◆(日曜に想う)グローバルだったモンゴル帝国 記者・有田哲文(→link)
思い込みを排して歴史を描くのは苦労の多いことらしい。
NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の時代考証を担当した日本史研究者、木下竜馬(りょうま)さんが「歴史評論」10月号に舞台裏を明かしている。
大河ドラマのセクシュアリティ
日本史における同性愛を考えると長くなりますし、関連記事も近日中に出ますのでさらっと。
今回の描写は、実朝が同性愛者であることに注目するとちょっと誤解が生じるかもしれません。
当時は両性愛は特異なことではありません。
性的なバリエーションとして美少年を愛しつつ、妻もいる、それは当然のことでした。
後白河法皇もそうです。
そうではなく、実朝はあくまで泰時に純愛を捧げているところが特殊だと思えるのですね。
日本が「男色・衆道に寛容だった」という説は本当か?平安~江戸時代を振り返る
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薩摩趣味(薩摩の男色)を大河ドラマ『西郷どん』で描くことはできるのか?
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大河ドラマとジェンダー
これだけVODが発達し、海外ドラマが入ってくる時代になったからには、いい加減このテーマがもっと語られても良いと思います。
まず「隗より始めよ」ということと、公式サイトの三谷氏インタビューを踏まえて考えてみましょう。
今、韓流ドラマが流行しています。韓流ドラマは女性に受けると言われています。
「イケメンのラブコメ多いんだろ?」
こんな風に、ヨン様ブームくらいの記憶で語る方もまだまだ多いのですが、そう単純な話ではありません。
韓国ではエンタメの輸出に力を入れています。海外の目線を意識しているのです。
そして「両性平等メディア賞」というものがあり、ジェンダー観点でも表彰される制度がある。
華流こと中国ドラマでも、ジェンダー視点でユニークな流れがあります。
『贅婿~ムコ殿は天才策士~』という、一見、異世界転生ハーレムもののようなドラマがあります。
しかし実は、男性がよい婿になるよう教育を受けて、女性の関心を買う技法を習わせられるような羽目に陥るお話。
男女の立場を逆転させた「ミラーリング」という手法をとっています。
「ミラーリング」時代劇だったら日本の方が早かったのに!
漫画原作が「ティプトリー賞(ジェンダーに対する理解を深めることに貢献したSF・ファンタジー作品に与えられる賞のこと)まで受賞しているのに、時代劇に強い公共放送で扱ってこなかったじゃないか!
NHKもそれに気付きまして、男女逆転版『大奥』が放映されます。
『鎌倉殿の13人』とキャストも被っていて、今から楽しみです。
もちろん、大河もそこを意識していないはずがない。
往年の名作大河といわれるものでも、いま見返すとヒロインの味噌汁パワーだの、胡散臭い描写が目につきます。
そうならないためにも、ジェンダーにおいて進歩が必要なのです。
大河三作目を手がけ、日本でも有数の脚本家である三谷幸喜さんもそこに手抜かりはあります。
公式インタビューを引用しましょう。
――三谷さんは以前より「女性を描くのは苦手」とお話をされていますが、今回の女性たちはどのように描こうと意識されていたのでしょうか。
昔から「女性を描くのが下手だ」と言われ続けていますね。もうトラウマです。なんで書けないんだろう。照れちゃうのかな。あと、戦を描くのが下手ともよく言われる。これもどうすればうまくなるのか、さっぱり分からない。戦と女性は僕の鬼門です。
女性に関しては、今回はなるべくそう言われないように心がけました。とにかく女性のスタッフの意見を聞くことを心がけた。もう自分では無理だと思ったので。彼女たちに「この女性キャラはこんなことは言わない」と指摘されることもありましたし、「こういう女性はみんな嫌いだと思う」と言われて、書き直したこともあった。すごく勉強になりました。もし今回、女性の描き方が以前よりちょっとでもマシになっていたとしたら、それは彼女たちのおかげです。
女性描写についていえば、『鎌倉殿の13人』は格段に向上していると思えます。
中世にあった女性の権力が描かれていること。そして嫌われる勇気があること。
のえは言うまでもなく、りくや実衣にもこれは嫌われても仕方ないと思える言動があります。
八重だって嫌な時はキッパリとそう言い切る性格で、そのことがきついという叩き記事もありました。
大河で好かれるヒロイン像はあります。
ゆるく、ふわっとしていて、自分の心情を言わない。いつもアルカイックスマイルを浮かべ、綺麗事を並べる。
論争となるようなこと。相手が聞かれて困るようなことは言わない。誰かが落ち込んでいたら励ますようなことだけをいう。
大河に出演する女優ともなれば当然のことながら美しい。
こういう合コンマニュアルじみたものを実践すれば好かれます。
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その典型例は『青天を衝け』を見ればわかります。
渋沢栄一の妻である千代は、史実では気位が高く、しっかりとした見解を持っている女性でした。
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同じく後妻の兼子も史実では、夫に嫌味を言うような気の強さがある。自分の権利を主張し、嫡出子優遇を確立させたと思える点もあります。
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しかし、ドラマではそういう要素が削られたように思えました。
これは同じ脚本家の『あさが来た』もそうで、あれはモデルの広岡浅子をとことん矮小化していた。
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そうかと思えばDV妻殺しの黒田清隆と親友である五代友厚を乙女ゲー王子様じみた描き方をする。
薩摩隼人を一体何だと思っているのやら。
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ジェンダーという観点からみれば、同じ大河枠でも2021年と2022年では「20年程の差がついている」ように思えるのです。
中でも政子は素晴らしい。
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批評分野でも日本では「フェミニズム批評」という概念が定着しきっていないように思えます。
むしろ鬱陶しい、時代劇ならそんなものは無視すべきだという極論もある。
こと大河ドラマに関しては、中高年男性専属のような扱いを受けているのではないかと思えることも。
そこで、またも三谷さんがお手本にしたという『ゲーム・オブ・スローンズ』を持ち出します。
あのドラマは容赦ない暴力と過激な性描写から、フェミニストが嫌うものという先入観もありました。
ではフェミニズム批評から自由になっているかというと、そうではありません。
◆ 『ゲーム・オブ・スローンズ』の女性差別は“歴史を基にしたらそうなった”、現実の差別よりマシだと原作者の指摘(→link)
◆ 『ゲーム・オブ・スローンズ』スピンオフで「性暴力は描かない」、批判から学んだ制作陣(→link)
歴史を基にしていればなんでもあり……ということでもなく、配慮はできるはずだと批判されます。
そうした批判を砥石にして作品を仕上げるからこそ、よりよい進化が望めます。
三谷さんはそういう姿勢も世界基準に合わせていて、実に頼もしいと思えます。
そんな彼だからこそ、『鎌倉殿の13人』は日本のドラマの中でも最先端をいく仕上がりになっていると思えるのです。
三谷さんならば、都合がつく限り何度でも大河を手がけて欲しい――私はそう思います。
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※著者の関連noteはこちらから!(→link)
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文:武者震之助(note)
絵:小久ヒロ
【参考】
鎌倉殿の13人/公式サイト