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【麒麟がくる第23回感想あらすじ】
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MVP:駒
義輝は来週として……。
今週は教育にピッタリ、かつ最先端ヒロイン像の体現者、駒です!
時代が変わり、値段がつかねばそれまでだ。価値を決めるのは人である。そう松永久秀が語っていましたが。実は駒こそ、高値がつく。そういうヒロインです。
どうして? それは今、世界的にドラマで地殻変動が起こっているから。その鍵は【ジェンダー】です。
今、韓流ドラマが大人気です。
「どうせイケメンが好きなババアが見てるんだろ?」
「記憶喪失、ありえない恋愛……古臭い話が好きなんでしょ?」
そんな偏見もありますが、そう単純な話でもありません。
◆「愛の不時着」なぜ人気 今らしいジェンダー視点に注目:朝日新聞デジタル (→link)
むしろ【ジェンダー】の新しさが受けている。NHKは、韓流ドラマの動向くらい知らないわけがない。
ここ数年、やっとそこでの更新が始まっています。大河にそれが及びました。
問題は、視聴者の意識が追いついていないこと。
今週の駒の丸薬関連は、フェミニズム教育教材になりそうなくらい、高いレベルの話でした。
駒は自分の理想のために、丸薬でお金を取ることを嫌がっている。けれども伊呂波太夫と東庵は前のめりです。
駒の丸薬の処方は変わらない。医者としてあんなものは危険であると東庵が心底思っているのであれば、販売はむしろ断固阻止すべきところですが。
でも、そうしない。さて、なぜでしょう?
答えは簡単、マネーです。金を稼げるから!
女のやることは金にならないと、古今東西ずっと言われている。ハリウッドスターですら、女優は男優よりギャラが安い。アスリートですら、そう。
金の力は、発言力につながる。
それを人間は知っていて、女に経済力、金を稼ぐ力をつけないようにしてきた歴史があります。
愛情に金をつけるのは下劣だの。女は父や夫に養われるからだの。女は無能だの。女は弱いだの。さんざん理由をつけてきました。
典型例が医大女子学生差別問題です。
長時間労働だのなんだのもっともらしい理由はつけてありましたが、医療分野でも地位が低くて、賃金も安い看護師や介護職には女性が多いものです。
そんな世界の中で、駒は金になる力を身につけてしまった。
そのせいで、周囲の見る目も変わった。
露骨なのです。
駒を憐んでいた周囲が、ギラギラしてきました。これぞまさしく、女の目に映る世界ってやつですよ。
だからこそ、駒は叩かれます。
駒がいらないという声を針小棒大に取り上げるネットニュースが、毎週のように花盛り。【叩いてもよい小賢しい女枠】に入りました。
叩いている側は、教科書に名前が載っていないキャラなんて出す必要がないとか、歴史劇鑑賞としてどうかと思うだの、ウダウダグダグダ言い募りますが、話は単純です。
グレタ・トゥーンベリさんにせよ。BLMを訴えた大坂なおみさんにせよ、やたらと叩かれる。
大坂さん、おめでとうございます!
◆大坂なおみ「棄権」に専門家が見解「別の方法でも」(→link)
◆ 大坂なおみの人種差別抗議に国内外で温度差 スポンサーの微妙な事情 - 毎日新聞(→link)
◆ 大坂なおみ、新スターとしての地位を確立 人種差別にも抗議(→link)
技術、強い意志、そして自分の意見を持つ女は、叩きたくなる。周囲が叩いているのを見て、乗っかる。そういうのはもう終わりにしましょう。
古臭い【ジェンダー】視点に迎合した結果、大河は悲惨な目にあっていることを思い出しませんか?
「松下村塾に、おにぎりマネージャーとして吉田松陰の妹を配置する。萌え〜やっぱり男は、こういう女の子が好きなんです。で、松下村塾をイケメンまみれにする。これで女心もバッチリつかめます!」
そういうバカな実験の成果が出ているわけじゃないですか。
駒はあの文ちゃんとは違う。真逆です。あの毒おにぎりマネージャーから遠ざかるヒロイン像ならば、諸手を挙げて歓迎するしかないと思います。
駒がこういう造型だからこそ、駒嫌いな人の理由は明らかでしょう。もの言う女が嫌いなんですね。
ただ、少しは考えた方が良いと思います。現代社会は「もの言う女に怒り出す了見の人を求めていない」ということを。
サントラ二枚目には、ずばり「強き女たち」という曲も収録されています。
総評
先週は放送休止でした。残念なようで、そうではないと思えます。
公共放送です。災害情報がドラマよりも優先されるのは、至極当然のことです。公共の利益にかなうことを追求する姿勢は、正しいことなのです。
公共放送がいたずらに利益誘導をしていたら、麒麟は現代の世にも訪れないでしょう。
休止期間を経て再開し、本作はますます奥深いものが見えるようになってきました。ちょっと考えたいと思います。
◆東洋医学(→link)
本作の駒と東庵のやりとりを見て「コロナの時代を反映した」という感想も多いようです。
感想は自由なものですが、あまりに無根拠かつ邪推をして、鑑賞にまで悪影響を及ぼしかねないものは、正直なところどうかと思います。自戒もこめて。
駒と東庵が医者であるという設定は、コロナ流行以前の初期からあったものです。
彼らが医学の話をしても無理はありませんし、本作はメインプロットに東洋由来の思想や医学がからめてあります。
そういうキャラクター設定の根本的なところを描いただけで、コロナでプロットをねじ曲げたと言われるとすれば、それは大きな誤解ではないでしょうか。
ついでに言いますと、朝倉義景と光秀の距離の取り方は、当時あった貴人に対するマナーの範囲であって、これもコロナとは特に関係がないと思います。
時代考証をして入れたような描写でも、
「コロナを意識しているんだね、ソーシャルディスタンスだ!」
なんて言われてしまったら、たまったものではありません。
ついでに言いますと、疫病が大問題になることは歴史上しばしば起こっていることです。そこに戦争と政治不安や戦争が重なると、被害が拡大するのです。
・戦争での負傷者治療と疫病が重なると、医療体制が崩壊する。戦病死の方が脅威となった例は多い。
・行軍による兵士の移動は、病気を拡大する。
・インフラの破壊、兵糧徴発による摂取カロリーの低下は、病気を蔓延しやすくする。
光秀が麒麟を呼び寄せたいと願うことは、綺麗事でもなんでもなく、人命がかかっているのですからごく当然のことです。
人命がかかっていることを「綺麗事」だのなんだの言い募ることは、端的に言って外道の極み。人心荒廃の極みで、そんなことを言っている誰かの元には、麒麟は来ないことでしょう。
地元を戦乱に巻き込み、最期までニタニタしていた西郷どん。
彼のせいで当時の日本には疫病が蔓延しました。
西郷を美化するなかれ~とにかく悲惨だった西南戦争 リアルの戦場を振り返る
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コロナの時代に、そういう観点をふまえてあの駄作をリメイクするのであれば、大いに意義があるとは思います。まあ、やらんでしょうけど。
◆陰キャvs陽キャ
今回は、本格的に秀吉が登場しました。
三英傑が全員揃い、かつ光秀と対峙したことで、本作の特性がまた一段と深まりました。
◆【麒麟がくる】宿敵秀吉考(武者)(→link)
秀吉は、近年のNHKが明瞭に掴むようになってきた人物像の描き方が出ていると思えます。
長々と指摘していますが、本作の秀吉は広告代理店手法がピタリとあてはまる。『気まぐれコンセプト』男なんですよ。
昭和や平成において、クラスや職場で人気者になるタイプ。
何がそんなに恨みなのかと我ながら考えてしまいましたが、こういう秀吉タイプが好きか嫌いかと言われると、断固、好きにはなれないと改めて思います。
もう、見ているだけでイライラする……近寄りたくない。ここまで見ていて腹たつ人物、大河でそうそういないような……いや、昨年やそのちょっと前にいたかな。
いやいや、そうじゃないのです。雑にひどい造型をしていて、笑ってしまうほど無惨な人物ではなくて、丁寧に作り込まれた自分の天敵系の人物だから、腹にパンチを喰らうようなピンポイント不快感が常にあるというか……苦手です……。
でも、佐々木蔵之介さんの演技も演出も、そして脚本も極めて高いレベルにあればこその不快感ではあるのです。
◆ワインの値段は人が決める、大河の価値も
松永久秀の「物の値段問答」も怖いものがあったし、ストンと腑におちるものがありました。
ここ数作のNHK朝ドラマで、高いワインの話も出てきましたけれども、ワインがまさに題材として相応しい。このレビューでもしつこいくらいに何度もしています。
ワインなんて原材料はブドウで、元値はそんなに変わるわけでもない。
それでもソムリエが味を語り、ビンテージとして価値がつくと、ぐっと値段が跳ね上がる。
けれどもブラインドテストをすれば、値段と評価が比例するわけでもない。
高いワインは、要するに満足感やプライド、ラベルのためにお金を払っているという話なんですね。
本作の値段問答のなまなましさ、緊迫感は、ドラマの作り手自身が、もう大河ドラマブランドなんて通じないと思っているあらわれのようにすら思えました。
海外ドラマ鑑賞の垣根が「VOD」の普及によりますます低くなってゆく。
コロナにより、大河と観光の結びつきが一層弱まった。
一年限定の大河よりも、もっと長期的に観光振興につながるコンテンツが増えてきている。
そして出演者不祥事により、お蔵入りになった過去作品がある。ついこの間もありましたね。
大河の置かれた状況は、義輝同様、コントロールができずに、光を失う状態に陥っています。
池端さんのような方が、この状況を見て、どういう気持ちなのか?
私ですら「いたたまれない思い」と「ざまあみろ、わかりきっていただろという思い」が入り混じっている。
ましてや関わった人ともなれば、どれほど複雑なものか。
十年先まで、この枠を残せるのかどうか?
◆2030年に大河はあるのか?(→link)
クソレビュアーはよく言われる。大河への愛が足りないだのなんだの。
確かにそんなものは捨てた。義輝のために上洛しない大名みたいなもので、光秀みたいに素直に大河枠そのものに向き合う気力なんて、正直もう枯渇しかけている。
で、それの何が悪いのかという捨て鉢な気持ちは大いにある。
だって自業自得でしょう。
大河ブランドを守る努力を真剣にしたのかどうか?
日本の歴史ドラマの棟梁はどうなってしまうのか?
来週のタイトルが「将軍の器」で、新将軍候補者が生き延びる望みを切々と予告で語っていることが、このうえなく真剣なものに思えました。
NHKという幕府は、滅亡か、存続か? そういう位置におりませんか?
ここから先は、大河と関係があまりないので、おまけとします。
おまけ:告知とご案内
NHKは歴史に対して不誠実で、嘘つきだと、また証明されました。
◆「シュン」の日記主、NHKに不信感 認識に食い違い:朝日新聞デジタル(→link)
ここまで来たのか。
そう言いたいところですが、それはそうなるだろうという気持ちが湧き上がってきます。
おにぎりマネージャーで、松下村塾の武器隠匿、爆発物密造、老中暗殺計画をごまかそうとした2015年。
真田幸村没後400年というアニバーサリーイヤーに、おにぎりをぶつけてきたあの年。
花でも覚悟でもなく、大麻が燃えてお蔵入りですか。
そして明治維新150周年に、ニタニタとふとましく笑い、新しい時代のためならば江戸を火の海にすると言い張っていた西郷どん。
朝ドラも、2013年以降、大阪は京阪神実業家宣伝キャンペーンに突っ込む。
薩摩閥政商・五代友厚の不祥事を「マスゴミの捏造だ!」と描いた2015年。
問題山積みの吉本興業をクリーンアップした、2017年。
台湾人の発明を「日本人妻の天ぷらあってのものだ!」と捏造しきった2018年。
2019年大河と2020年上半期朝ドラは、露骨なオリンピックいけいけキャンペーン。
これだけ看板番組で歴史捏造をやらかし、それでもメディアコントロールすればなんとなく流されると証明されたのであれば、NHKが人心掌握、操作ができると自信満々になったとしても、まったくおかしな話とは思えません。
なんの因果かドラマレビューなぞやるから手口が見えてきた。
『孫子』にも書いてある。
夫(そ)れ兵形は水に象(かたど)る――
って。水の流れのように、誘導すればその通りに動く。
受信料とドラマを作って、そういう道筋を作った。何かやらかそうとしたところで、それは無理のないところです。
別にNHKを解体する必要があるとは思わない。NHKをおかしくしている層を入れ替えれば済むことです。
民放がいいとも思えないし、日本のテレビ局を全てなくすことも現実的ではないとも思います。
最近はVODや海外のネットニュースばかり見ている自分が言えた義理でもないけれども。
朝ドラも、大河も、そういうファンの嫌なノリは蔓延していると理解できてきました。
女性脚本家、女優、劇中のキャラクターの言動を叩き、そういうネットの声を雑に拾い、メディアが「ネットでは」「賛否両論」「ホニャララがああだこうだなワケ」みたいなお決まりの言葉を使ってニュースをつくり、アクセスを稼ぐわけです。
そんなものを読んだところでドラマへの理解なんか深まるわけもない。
でも、仲間内で盛り上がるエコーチェンバーの快感があるから、ハッシュタグをつけるなり、どこかの掲示板に行くなりして、同じ話題で何の進歩もなく、ぐるぐる回り続けると。
そういう生産性に疑念が生じる世界でも、気分がよくなってアクセスを稼げればよいのでしょう。
大坂なおみ選手を見ていて、私なりにふっきれてきた。
世界的プロテニスプレイヤーと、クソレビュアーを比較するのもおこがましいのですが……。
私も、彼女の気持ちは理解できます。
この仕事をしていて、大河や、今はもう終わった朝ドラレビューについて、いろいろなことを言われました。
ファン心理に寄り添えとか。私が好きなドラマを貶すなとか。私の推す役者が出ているドラマだ、役者をかわいそうだと思わないのかとか。
でも、私なりに基準があります。
私が大嫌いな朝ドラに『まんぷく』がありました。
あれは主人公夫モデルが台湾系華僑であったことを消し去り、日本人にしました。
苦し紛れの理由は、日本人相手へのわかりやすさだのなんだの、そんな話でした。
それって、日本人には台湾系華僑は含まれないという、差別ではありませんか?
どんなにあのドラマがおもしろかろうが、それは人種差別ではありませんか?
そういうドラマを肯定的に見ることは、私にはできません。その手の不義には、加担できない。
オリンピック応援が背後にあることが明白な2019年大河にせよ、現在放映中の朝ドラにせよ。
東京五輪がコロナ以前に、熱中症や水質汚染による危険性を度外視した大会であったことを考えれば、こんなものを応援することはできかねます。
そういう自分なりの問題意識を発揮することが、プロ意識の欠如であるのであれば、全く私とはプロ失格そのもの。ライター適性なんて、ゼロということでしょう。
ライターとして失格だと理解していますので、noteでもやってみることにしました。
そういうクソレビュアーなりの意識を発揮するために、広告収入ではなく、もっと直接的な売文をできる場を借りたということです。
『麒麟がくる』にある背景。それから見られなくなったあの大河を振り返る記事もございます。
現在は無料ですが、私も霞を食っては生きていけない。
いつまでそうか、わからない状況だとご理解ください。
SNS投稿を切った貼ったするものだけではない、そんなドラマレビューを見る機会があるのであれば。
生意気なクソレビュアーでも、小銭を投げれば踊るところを見たいのであれば。
以下のnote記事にアクセスしていただければ幸いです。では!
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文:武者震之助
絵:小久ヒロ
【参考】
麒麟がくる/公式サイト