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三河譜代でなくても実力で抜擢される希望を
家康は、語ります。
井伊の遺児への風当たりは強いだろうから、逆境にめげない強い子になるだろう。
痛めつけて味をよくする野菜みたいな話ですね。
また、万千代はそういう目にあっても耐えられると見込んでいるのでしょう。
家康は万千代なら出世できる、三河譜代でなくても実力で抜擢される最初のモデルケースになるだろうと考えています。
ただの美談ではなく、人材登用の一端だというのが素晴らしい。
家康は自分自身が凡人だからこそ人を宝としたい、と語ります。
ここでちょっと思い出して欲しいのが、昨年の『真田丸』です。
主人公の信繁が飛び込んだ大坂城の世界は、人材を育成するという場所ではありませんでした。
信繁自身は石田三成や大谷吉継と意気投合してはいたものの、秀吉は人材を使い潰すタイプ。
非業の死を遂げた豊臣秀次は、秀吉から過大な期待だけをかけられて、適切な指導は受けられなかったのです。
まるで人材を使い潰すブラック企業のようだと私は感じました。
三成らを抜擢して育てた若い頃の秀吉は違ったのでしょう。
しかし、信繁が見た秀吉は、もはやそんな人物ではなかったのです。
家康の姿勢におとわもスッカリ意気投合
それが今年の家康は違います。
その態度は、直虎への対応でもわかります。
たとえ女だろうと、賢く話があえばとことん意見を聞く。
これまた『真田丸』で阿茶局に頼り、彼女の助言を聞き、頼りにしていた姿を思い出させます。実力のある者の力を引き出す家康の強さが見えて来ます。
家康の態度に、直虎は感動しました。
彼女も昔は、井伊の人材不足を痛感し苦労したのです。
人こそ宝で育成したいという家康の理想は、まさに直虎の経験と一致するものでした。
直虎と家康は意気投合し、すっかり話が弾みます。しかし、盛り上がりすぎて本題を忘れてしまったようで。
常慶とおとわのもとに、万福がやって来ます。
彼は虎松の思いを語ります。
万福も一度は止めたものの、彼の決意は固かったのだ、と。
戦うことすらできなかった幼い二人の覚悟とは
虎松は、かつて直虎を相手に誓いました。
直虎と虎松で、井伊を守ると誓ったのだ!と。
万千代は井伊を再興し大きな家とし、直虎にこう言いたかったのです。
「殿! 間違いだったと言った殿が間違いでした! なれど、虎松は今日の日を決して迎えられなかったでしょう、と」
そのとき直虎はどんな顔をするかのう、と彼は誓ったのです。
結局は直虎の志が、虎松の思いの根底にはあるのです。
馬鹿な話と思われるかもしれないけれど、万福にも気持ちはわかる、と彼は語ります。
あの井伊家滅亡の折、幼い二人は戦うことすらできなかった。
そのまま負けたと言われるのは、悔しいのだと。
思うように生きよと語った直虎だからこそ、見守って欲しいと語る万福でした。
直虎は戦うことを避けてきたのですが、そこは伝わっていなかったのが虚しいところ。まあ、仕方ないでしょう。
おとわは、帰り際、草履に札をつけるのは取り外しが面倒だから、置く場所に貼っておいたらどうか、と万千代に告げて立ち去ります。
彼女にも志が通じたのです。
「殿は、但馬は不幸せであったと思いますか?」
万千代と万福は草履棚に名札を貼り付け始めました。
万福が棚に糊を滑らせるのを見て、万千代は何かを思いつき、顔芸をしつつ大興奮します。
井伊谷に戻ったおとわと常慶は、説得失敗をしのと松下源太郎夫妻に報告します。
家康の意向もあるし、もはや説得はできないと常慶。
しのはこのまま泣き寝入りすると言うのか、道理が通らないと激怒。しかし源太郎はもうあきらめる、と言い出します。そして井伊の再興が嬉しいのではないか、としのに問いかけます。
しのは目に動揺を浮かべながらも否定。この困った顔から、しのの源太郎への愛情が見えて来ます。
あれほど直親を愛したしの(スケコマシと罵ってはいましたが)。
その愛を上書きするほどの情愛が、この夫婦にはあるのです。
そこで源太郎は、ここは虎松を親らしく送り出してこそではないだろうか、と優しく妻を説得します。
眉を八の字にし、「まことに申し訳ございません」と声を詰まらせ謝るしのです。源太郎が優しすぎて私も泣きたい。
松下清景とは? 直政と家康の引き合わせで生じた誤算?
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おとわとなつは、その晩ことの顛末を語り合います。
常慶にとって、兄が善人であるのは救いだと告げるなつ。確かにあれほど善良な男はそうはいません。
「殿は、但馬は不幸せであったと思いますか?」
ここでなつはそう言い出します。
仕える相手には恵まれなかったと言葉を濁すおとわ。
義兄はよく笑っていた、不幸せだと決めつけないで欲しいと、やんわりとなつが反論します。
ああ、確かに彼は幸せだったと思います。たとえ槍で刺されようと、彼には彼の幸せがありました。井伊直虎を見守るという、幸せが。
このまま万千代と万福、井伊と小野が肩を並べて歩く様が楽しみだとしみじみ語るなつ。それはかつて、亀と鶴が目指した道でした。
必殺、草履手裏剣!
明くる朝。
南渓はそなたが撒いた種だったんだのう、とおとわに指摘します。
南渓から家康について尋ねられたおとわは、「非凡なる凡」と評価します。自分は凡人だと思い考えてゆくのは非凡ではないか、としみじみ語るおとわ。上司や主君としては理想的ですね。
万千代は草履スライディング投法を猛特訓します。
見事身につけた万千代は、草履棚と超高速草履投げ、それに万福のアシストで見事に草履番マスターになるのでした。
この草履投げは無礼にも見えますが、むしろ草履番が相手に接近しないという、無礼をしないための草履番必須テクであったそうです。
家康と康政は感心して、後進を育てたら小姓にすることにします。
そうかあ、後進育成かあ、どんな奴かな、とはしゃぐ万千代と万福。
そこにやって来たのは、松下源太郎でした。
「松下殿」とやっと言う万千代に、父上と呼んでもいいぞ、と優しく語る源太郎です。
ガチガチの万千代に、源太郎は全てを受け止めた慈愛を見せます。
今後は井伊と話し合って決めてゆくと。こうなれば井伊と松下、一蓮托生です。ちなみに松下家の跡継ぎになるのは中野直之の二男だそうで。
「よい働きを頼むぞ。井伊万千代殿」
そう肩を叩く源太郎。いい人過ぎてもう……。
「プライドないんか~い?」「戦以外にも道はある!」
京都では、氏真が信長の前で蹴鞠をします。
信長は仇である以上に、彼を庇護する家康にとって大事な同盟相手です。
プライドなんてどうでもいい、戦以外にも道はあるのだから、と鞠を蹴る氏真でした。
凄い。
従来、氏真の蹴鞠マニアっぷりは愚鈍のあかしのように扱われてきました。
それが本作では。彼なりの戦だと描かれています。やっぱり最高、本作大好き!
そんな中で、武田勝頼が動きだそうとしているのでした。
翳りのある美男の勝頼。昨年の平岳大さんの好演がハードルをあげた勝頼。しかしこの勝頼もまた、短い出番でこれまた素晴らしいと証明しました。
戦国ファンにとってはお馴染み「長篠の戦い」を楽しみとさせてくれますね。
長篠の戦いで信長の戦術眼が鬼当たり!勝因は鉄砲ではなく天然の要害だった?
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MVP:松下源太郎&常慶兄弟
本作屈指の菩薩のような人。こんなにいい人がいたでしょうか。
兄とちがって後ろめたいことを時にはしてきた常慶が、兄の善性こそ救いだと言っていた意味がわかります。
井伊直政の出世を描くだけならば、彼らは掘り下げなくてもよい気がします。
どうしたって井伊家再興が重要で、彼らは足かせなのだから、空気のような存在感でもいいはず。
しかし本作はそうではなく、松下家には松下家のドラマがったと描く。
それが結果的に直政の物語に深みを与えています。
英雄ではない人の喜怒哀楽を描くことが、本作のよさ。
こういう脇役が印象に残るのが、本作の素晴らしいところです。
総評
『なんで直政の一代記にしないの? なんで前の代なの? なんでマイナー国衆で始めるの?』
そんな問いにきっちりと答えた今回。冒頭で私が色々と書かせていただいたようなことは、結局、劇中でキッチリと反論されていて胸熱の展開でした。
つまるところ、そう描いた方が感動を呼び込むんですね。
直政という男が育つまでに、彼の周囲がどれだけ苦労したか、どんな思いを込めていたか。それを描くことに意味があるんですよ。
彼の中にある、前代からの思いや志を知れば知るほどその深みを味わえるのです。
直虎も、源太郎も、散って直政という大輪の花の栄養分となりました。そういうことなんだな、と。
思えばオープニングからして本作は主張していました。
女性を花にたとえるのは、むしろ陳腐なくらい手垢がついています。しかし本作は、咲き誇る美しい花ではなく、散って栄養分になる花や、燃え尽きたあとで芽を出す植物に意義を見いだしていました。
今回を見ていて、それを痛感しましたね。
小野政次の印象的な退場のあと、いやらしい憶測を見ました。
女性ファンは旬の役者高橋一生さん目当てだから、視聴率は一桁までに落ちるだろうとか。
NHKは回想シーンを増やすだろうとか。
実は政次が生きていることにするだろうとか。
そういうことではないのです。
ここまで見守って来たファンはなあ。小野政次の精神が活きていて、成就するところを見たいんだよ!
そんな願いを今週で叶えてきました。
本作のファンが見たいのは、井伊直虎、井伊直親、小野政次の魂です。
その魂が継承され、今、万千代と万福の中で昇華されようとしているのです。
ずっと本作を見守ってきたファンからすれば最高の展開です。
脚本の森下さんはわかっていますよ……ファン心理を。
昨年もそうでしたが、今年もファン心理と脚本家の距離がものすごく近接しています。
松下さんはファンの期待を裏切らない。
もう全幅の信頼ができてるんじゃなかろうか。松下さんがすすめる料理なら全部腹に収める覚悟みたいなのが、ファンにはできてるんじゃないかな。
そうか、井伊と小野がついに信頼し合って歩むのだと思ったら泣けましたからね……。
鶴亀コンビが悲劇的な結末を迎えたのは無駄じゃないのだと。
彼らは散って土になり、そこから若い世代の肥やしになったんですよ。
散った花びらの養分を吸って、ますます美しく咲き誇るであろう井伊直政。
散った花の思いを描く本作は素晴らしい。
自信を持って傑作だと言いたいし、森下さんには御礼を言いたい気持ちで一杯です。
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著:武者震之助
絵:霜月けい
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【参考】
おんな城主直虎感想あらすじ
NHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』公式サイト(→link)