お好きな項目に飛べる目次
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岡崎あっての浜松なれど、現実は調整が難しい
家康が薬を飲むのを見届け、出て行こうとする万千代を引き留め「色小姓ならもっと長居しないと」と言う家康。
ふふっ、この気遣い。目下の者のアリバイ作りに協力するところがいいじゃないですか。
家康は恩賞について、万千代の意見を聞きます。
流石にそこまでは、と恐縮する万千代。しかし家康は気にしません。
武功でいえば浜松が上だけれども、織田からの援軍が来たのは岡崎の働きあってのこと、と万千代は指摘。
万千代は、殿はどんな働きも見ていると相手に伝えることが大事、と言うのでした。
実感が籠もっていますね。
寝所に行けたら首を斬るとまで言っていた万千代がころっと家康に参ったのは、武具の手入れを観察して褒めてもらえたからですもんね。
家康に認めて貰うって最高なのです。
そこで家康は、瀬名の縁戚として岡崎に向かって欲しいと万千代に言います。万千代に、岡崎の反応を探らせようとしたのですね。
流石の万千代も、これには驚きます。あまりに大役ではないかと。しかし、「そなたこそできる」と頼み込みます。
大事な交渉役 相手は家康の嫡男・信康だった
岡崎に向かった万千代は、信康(松平信康)と対面します。
信康は結構かわいい顔をしているね、と万千代を見て喜びます。
それにしてもやっぱり菅田将暉さんの演技の幅ですよ。
かわいい顔も策士めいた顔もできるわけです。だから、説得力がある。凄い役者ですよ、彼は。
万千代を見た瀬名は、井伊の復興を喜び、声を掛けます。
ここで、こちらまで嬉しくなるのは、瀬名や母・佐名を見てきたからですね。
万千代は、恭しくサボンを瀬名に献上するのでした。
ここで信康は万千代を囲碁に誘い、本音の話を聞くことにします。信康も恩賞のことだと察知していました。
岡崎までには恩賞が回らないと言うと、信康は納得します。万千代は、岡崎城の働きぶりはわかっている、だからこそ今川勢に諏訪原城を与えるという家康の考えを伝えます。
納得できないのが、石川数正です。
ならば岡崎の平岩親吉(『真田丸』の第一次上田合戦で、大久保忠世とともに大敗していた人でもあります)に城を与えては、と提案します。
万千代は地の利をふまえてのことであるから、と反論。
信康がここに割って入り、議論を終わらせます。
数正出奔のフラグも立っている気がしますね。誠意に満ちて、信康を支える数正だからこそ、いろいろ辛いですよね。
数正は納得いかないようですが、岡崎を思う家康の気持ちは、信康にしっかりと伝わりました。信康はここは堪えると快諾するのでした。
クッ……名君の器だ……辛い。
「この木が育つころにゃあ、このあたりはどうなっていますかのう」
井伊谷では、おとわ、六左衛門、甚兵衛らは植樹に励みます。木の根によって、土砂を固めるわけです。
「清風明月を払い、明月清風を払う」
第14回でのおとわの言葉を思い出す甚兵衛。ああ、絆がしっかりと生まれていますね。
「この木が育つころにゃあ、このあたりはどうなっていますかのう」
そうしみじみと語る甚兵衛。
誰の領地になっているのでしょうか。枯れても再度花を咲かせる、すくすくと伸びゆく植物のような人の営みが、本作の根底にあるテーマです。
これまでの展開と重ねって、実にいい場面でした。
「これは甚兵衛の松じゃ!」
おとわは嬉しそうにそう繰り返します。
照れる甚兵衛。いい話ですけど「近藤の松」じゃないんですかねえ。近藤さんの立場は。
徳川四天王たちは諏訪原城の処遇について不満タラタラ
浜松に戻った万千代は、信康の言葉を家康に伝えます。
大らかで頼もしい信康に、家康も万千代も感服。いつか信康に家督を譲る日のことを考える家康です。
信康が主君で、万千代が家臣。そんな日が来たらと笑い合う二人です。
なんて残酷なのでしょう、このドラマは。
おとわは南渓から、万千代の出世について聞きます。
今川に諏訪原城を任せることに、浜松の家臣たちは不満があります。
露骨に反発する酒井忠次。
家康の判断は尊重しつつも困惑する本多忠勝。
あからさまに態度に出さないものの、かすかに動揺する榊原康政でした。
この三者三様の動揺が、好きです。
これは岡崎への配慮では、と康政に尋ねる忠勝。しかし康政は即座に否定します。
康政は「井伊の小童のせいかもしれない」とつぶやきます。
忠勝は「まさか!」と否定するものの、康政は違います。
どこまでもクールな康政が、万千代の智恵に脅威や嫉妬をかすかに感じている様子がわかります。
これは同族嫌悪の一種ではないでしょうか。
康政も家柄よりも実力で出世した人物です。かつての自分に似た万千代に、脅威を感じているのでしょう。
毎週毎週、徳川家臣団の個性が素晴らしくて、これでスピンオフを作ってくれと願ってしまうほどです。
甚兵衛はすでに亡くなっていた
時は流れて天正6年(1578年)。
松も育ちました。
おとわは空を眺めながら、「聞いておるか、甚兵衛」と呼びかけます。
松の育ちぶりから、時間経過がうかがえますね。
甚兵衛は空の上から行く末を見守る存在になってしまったのでしょう。
しんみりとしてしまいます。
一方、万福の母であるなつは、いよいよ出家を決めました。
二人の初陣も目前であると。
避けられないことであるとはいえ、おとわの表情は複雑です。
MVP:甚兵衛
「山は人を選ばない」という一喝。
「甚兵衛の松!」と連呼されて照れるところ。よかったですねえ。
ただの脇役ではなく、彼もしっかりと存在感がありました。
おとわの教えがしっかりと根を張り、信頼関係として築かれています。
だからこそ、井伊谷の民と井伊家のつながりは保たれたのだろうな、としみじみしました。心にしみる展開です。
無名の人々の死といえば、龍雲党の退場を思い出します。
あのときとは違い、しっとりとしていてしみじみとした退場でした。
甚兵衛は世を去りました。
しかし彼の植えた松、彼が築いた絆はのちに受け継がれてゆきます。
次点は信康。
瀬名と信康母子をここまで魅力的に描くとは。
何故死んでしまうのか、と今から辛くなってきます。
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総評
木材の伐採について、繰り返し語られてきた本作。
先週はその木材が、長篠の戦いで重要な役割を果たすところまで描かれました。
そんなプラスの面を描いたあと、マイナス面である「環境破壊」を描いたのが今週です。
戦国時代、森林伐採は続けられ、日本中がはげ山だらけでした。
その緑が回復するのは、江戸幕府による森林管理が行われてからのことです。
この森林回復は世界史的にも特筆ものなんだとか。
樹齢が何百年という大木を見て、その木がどんな歴史を見てきたか想像したことはありませんか。
その想像の中身を補ってくれるような、素晴らしい展開です。
歴史というのは、英雄が功名をあげることだけではないはずです。
昔の人が何を考えて、どう生きて、そして今にまで残る何を残したのか。
そんな小さな生活、日常の積み重ねも歴史です。本作はそんな歴史を、私たちに見せてくれます。
長篠の戦いで馬防柵が役に立ったことを知っていた歴史ファンは大勢いることでしょう。
しかし、その柵がどのように作られて、その結果、山林がどうなったかまでは考えなかったはず。
そこを補ってくる本作は凄いと思うのです。
私たちはその延長線上に生きていて、緑あふれる山林を目にするわけです。
それが実は、先人の努力抜きでは実現していなかった可能性もあると、本作は目を開かせてくれました。
本作をみたあと、私たちはもう今までのように歴史を見られない。生きてすらいけないかも。
城の石垣に積まれた石ひとつひとつにしみこんだ汗を感じて、慰霊碑を見ればそこに弔われた人の無念や流された血の腥さを想像することになってしまう。
凄い作品だと思いますよ。
大河のターニングポイントとして、のちのち語られることでしょうね。
毎年四十回を越えると、死者も増えてきて、だんたんと大河も終わりに近づくのが感じられます。
四季のうつりかわりにあわせ、晩秋から冬のような寂しさがあります。
それが今年の場合、新緑のようにいきいきとした万千代の活躍があるため、その寂しさが薄れているように思えるのです。
まだ太平の世は遠く、おとわはそれを見ることなく世を去るとわかっていても、かすかにその芽吹きを感じさせる物語にもなっています。
冬、葉がすべて落ちてしまった木でも、その芽を見ると春へ向けて生きて命をつむいでいるのだとわかります。
これもまた歴史ですね。
生きてバトンを託し、託されて生きてゆく。
本作はやさしく、力強い人間讃歌だと思います。
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【参考】
おんな城主直虎感想あらすじ
NHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』公式サイト(→link)