お好きな項目に飛べる目次
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すっかりショゲてしまった久光 大久保にキレる
ここでやっと大久保が、久光とのコネクションを生かして話にいきます。最初からそうすればいいのに。
久光はすっかりやる気なし。
脚本家さんは久光をイノセントにしたくて改悪したんでしょうけど、もうただの無能にしか見えないんですよね。
しかも大久保にキレて、キック。
久光をどのように描きたいのでしょう。
斉彬、斉興の言動も下品だなあと思いながら見ていましたが、これもひどい。
暗君がいない薩摩を暗君しかいない改悪をする脚本家先生のセンスに、ただただ閉口するばかりです。
このあと大久保は、山田の元に向かい、そして斉興に話をつけにいきます。
大久保の助命ミッションが、チョットしつこいなぁ。
西郷との友情を熱く描いたつもりなんでしょうけど、くどいです。
本作は西郷どんの移動シーンにせよ、さして意味のないおつかいミッションにせよ、時間を使い過ぎです。
薩摩きっての英傑2人がまるでただの使い走り。
西郷どんがいないと薩摩も日本も駄目になるという台詞がありましたが、全く意味がわかりません。
本作の、非効率的で、理不尽な苦労アピール。
飛び込み営業で名刺を配ってこい、と若手社員に強要する、パワハラ気味の上司の所業を思い出しました。
そういう無茶苦茶な新人研修や、素手でトイレ掃除強要をさせる立場の人から見れば、本作は熱くて爽やかで熱血路線なのかもしれませんね。
8時40分に合わせたストーリー展開をやめて……
西郷どんは家族とクッキングと団欒タイムです。
あー、わかります。
時間は8時31分ですね。あと9分間くらい時間稼がないとね。
西郷どんと月照の錦江湾ダイブは、8時40分にしなくちゃいけませんからね。
こういうくだらない時間稼ぎが、本作をゆるゆると弛緩しきった駄作にしているのです。
はじめは西郷どんの優しさアピールのためかと思っていました。
そうじゃないですよね? 時間稼ぎですよね?
毎週8時40分を盛り上げるため、8時30分からの10分間が無駄なダラダラに浪費されている気がします。
そんな調子だから、5月になってもこのスロースペースなのです。
もう4割近くの放送時間を使ったことに何とお考えなのでしょうか。
大久保は、月照を犠牲にすれば西郷どんは救うところまで交渉した、と言います。
本作お得意の、
【マイナスからスタートしてゼロ(史実)に戻すことを進歩と言い張るパターン】
が出ましたね。
大久保のしつこいお使いは、史実改悪を史実通りに戻すという、馬鹿げた作業のためだけに使われたように思えます。
ところで平野国臣は消滅ですか
藤田東湖すら出てこない作品に期待するだけ無駄ですけど、それだと誰が西郷を海中から引き上げて蘇生するの?という話で……。
ほぼ時間きっかりにクライマックス始まり
そして8時37分、錦江湾に船が浮かびました。
40分にダイブするスケジュール通りだと、思わずニヤニヤしてしまいます。
はい、あとおよそ3分間。
月照と西郷どんの会話ですね。
【わっぜ感動的な場面用BGM】も流れ出しました。
西郷家を訪れた大久保は、熊吉から西郷どんの大事なアイテムである短刀が飾られていると聞きます。
御都合主義な会話が続きます。
「吉之助さぁ!」
と大久保が絶叫しだしたところで、時刻は8時40分。
西郷を海中から救うのが平野ではなく大久保という改変かな?
そして41分、ダイブ。
ここまで時間の使い方がワンパターンだと、もう笑うしかありません。
いったい最終回の8時40分は何となるのでしょう。
西郷どんの
「このへんでもうよか」
というセリフかな?
天璋院と無血開城した江戸城を眺めるパターンかな?
MVP:平野国臣
西郷どんを海中から救った人物です。
彼がいなければ溺死していましたからね。その功績は大きいです。
本作では出番はありませんでした。
では、ナゼ助かったのか?
うーん、悩ましいですけど、斉彬の亡霊が引き揚げたとでも、脳内補完しましょうか。
アノ船、なんだか二人乗りみたいに見えたんですけどね。
不思議だなあ。きっと他にも乗っている人いたのかなあ。
溺死寸前の西郷を救った平野国臣~福岡藩コスプレ志士は幕末の傾奇者だった
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総評
本編も大概ですが、予告が酷い。
西郷どんと月照が身投げしたあとで、
「さあ来週からは、面倒臭い政治劇は終わって、南の島でリゾートですよ!」
とでも言わんばかりじゃないですか。駄目でしょ。
今週は、今後もこのドラマがぶち壊しになる予感がビシビシとしました。
描くべき要素がちゃんと入っておりません。
ある意味伝説の大河『花燃ゆ』のほうが、「安政の大獄」で吉田松陰の死というクライマックスになるだけに、もっとマシでした。
あのドラマにおける吉田松陰の死と、本作における島津斉彬の死を比較すると、前者の方がマシですから始末が悪い。
本文でも書いたのですが、せっかく橋本左内を、しかも西郷どんの【バディ】として出しておいて、その死をきちんと描かないなんて酷すぎます。
それだけではなくて、一橋派の処分をきちんとおさらいしないと、今後の展開が詰むのですが、まったく触れていないのです。
とりあえず二点。
本作ではナゼか西郷どんが出させた「戊午の密勅」。
これを受けて水戸藩は真っ二つに割れて、政治闘争を繰り返し、崩壊状態に陥ります。
つまり本作の西郷どんは、水戸藩をぶち壊す爆弾を製造して放り込んだようなもので
「なんで自分の薩摩藩ではなくて水戸藩に向けた密勅を降させたの? 極悪非道じゃね?」
としか言いようがありません。
一橋慶喜にまっとうな神経があれば「西郷、絶対許さない」という展開にもなりそうですが、本作の慶喜にそんなまともさを期待してはいけません
薩摩藩の一部、具体的にいうと愉快な有村どんの弟二名も、水戸藩の井伊直弼暗殺計画である「桜田門外の変」に参加。
これに対して島津久光が激怒します。
このあたりはすっ飛ばすか、久光ではなくて斉興が激怒したことにするんでしょうか。あぁ、でも、史実の斉興は桜田門外の変より先に亡くなりますね。
いずれにせよ斉興のせいで久光の政治的なビジョンや姿勢が消されております。
水戸藩は本作のことですから、慶喜以外はフェードアウトさせるんでしょうけれども……。
問題は肝心要の薩摩藩で、この時点で卓越した政治見識を持っていた島津久光の威光を、イノセントベイベー路線のせいでわけがわからなくしてしまった……これは大変危険です。
「安政の大獄」以降の久光は、「精忠組」と呼ばれる若手過激派藩士の手綱を執りながら、時機を見ながら政治改革を行うと確約していたわけです。
久光と大久保は、あんなキックが入るガキの喧嘩みたいな話し合いではなく、もっと大人の、政治的な話し合いをしていなければいけないのです。
久光の判断は西郷や大久保から見れば時に冷酷でもありました。
が、久光が冷静で老獪、卓越した人物であったからこそ、薩摩は、水戸藩や長州藩のような暴走をしなかったのです。
幕末史において沈むことなく、薩摩藩は存在感を維持できたわけです。
それがどうしてこうなった!
このままだと、島津久光の文久2年上洛の意義が曖昧なまま幕末史を進めるという、最低最悪の路線が確定しそうで恐ろしいのです。
3年間待ち続け、満を持して乾坤一擲の賭けに出て、旧一橋派の復権を果たす、重要なターニングポイント。
その準備はこの時点で始まっていなければならない。それがイノセントベイベー久光で、片鱗すら感じられません。
久茂の家督相続だって、そこには久光の賢明さがあるわけですよね。
「お由羅騒動」でマイナスイメージがついた自分が家督をそのまま継いだら、藩が割れかねないわけですから、そこを配慮して「斉彬の養子」である我が子に家督を譲ったとも考えられるわけでして。
本作は、西郷どんや篤姫といった人物から、政治的な色を排除してイノセントな存在にしています。
それで視聴者の好感度をアップさせようとしてるのでしょうか。久光でもそれをやったわけです。
脚本家からしてみれば、
「今までの陰険な久光とは違ってキュートでしょ! いつもみたいに悪い人にしないわよ!」
ってことかもしれない……。
しかし、久光のような、幕末薩摩を束ねる、卓越した政治家から政治色を抜くって、絶対にやってはいけないことではありませんか。久光から政治色を抜くのは、幕末薩摩を描くうえでは背骨を引っこ抜くくらい駄目なことです。
が、結局、本作はそのルートを選んでしまいました。
次の二ヶ月の流刑編では、ろくに政治劇はやらないでしょう。
もしかしたら「安政の大獄」もこれで終わりかもしれません。
そうなると、いよいよわけがわからなくなります。
実質的に今年の大河は終わった、と考えてもよいくらい、底が抜けるかも……哀しいことです。
久光の意向をここでやらないって、本作はもう「おまえはもう死んでいる」状態になると思います。合掌。
蛇足:原作について
これはいつか書いておこうと思ったのですけれども……。
本作の低迷ぶりの原因として、林真理子氏の名をあげる方がおられますが、本作の原作はさほどおかしくありません。
ちゃんと明治も西南戦争も描かれます。
藤田東湖も、ちゃんと出てきます。
ものすごく面白いわけでもありませんが、無茶苦茶な話でもない。そつなくまとめた印象です。
ストーリーを進める狂言回しが西郷菊次郎(奄美大島で愛加那との間に生まれた息子)というのも、おもしろい趣向です。
原作を脚色せず、肉付けする程度なら、ロシアンルーレットだの、磯田屋だの、篤姫とのラブだの、そんなことにはなっていないはずなのです。
どうしてこうなった/(^o^)\
それがドラマ版です。
つまり、林真理子氏を責めても筋違いということです。
蛇足2:ディズニーと大河ドラマ
以下の記事がなかなか面白いです。
◆ジェームス三木氏「大河ドラマやるなら昭和天皇を描きたい」(→link)
重要なところを引用させていただきますね。
春日:大河の作り方のターニングポイントは、ちょうどジェームスさんが大河から離れた頃、『葵 徳川三代』の2年後の『利家とまつ』(2002年)でした。
これを機に大河では、女性が大活躍して政治の表舞台に出て「戦は嫌でございます」と反戦主義を口に出して言うようになります。現代性を持ち込むことは大事ですが、完全に現代の価値観でやるなら歴史劇の醍醐味はないように思えます。
この点ですが、昔の大河ドラマはじめ、エンタメが当時の価値観を持ち込んでいないというのは危うい考え方ではないかと思います。
昔の作品でも、当時の考え方は持ち込まれています。
高度成長期には、バリバリ稼ぐサラリーマンと戦国時代の英雄を重ね、その妻と戦国時代の妻を重ねる、そんなタイプの作品があったからです。
これに対して、ジェームズ三木氏はこう返しています。
三木:大きい声じゃいえないけれど、確かにそうだね。それに、やっぱり人間、とくに女性を描くには「哀愁」が必要なんだ。『おんな城主 直虎』(2017年)も僕は熱心に観ていたけれど、欲をいえばもっと直虎(柴咲コウ)の哀愁を描いてほしかった。
ガンガンと男勝りに積極的に突き進むだけじゃなくて、戦場とは裏腹な寂しさを直虎から感じられればもっと作品が引き立ったと思う。僕はよく言うんです。ドラマという言葉は「ジレンマ」から来ているのではないかと。思うようにならないもどかしさこそが人物を描く魅力になる。
とはいうものの、例えば彼の代表作である『独眼竜政宗』の女性像がよいかというと、そうでもないと思います。
義姫や淀君は、当時としては仕方ないとはいえ、都合の悪いことは「女が馬鹿だったから足を引っ張られたということにすればいい」という、そんな価値観を感じてしまいます。
あの造形を現在そのまま流用したら、ブーイング不可避だと思いますけどね。
歴史的考証的にも正しくありませんし。
磯田:現代の女性に受け入れられやすい女性像を追求したという点では、『直虎』は伝統的な大河ドラマよりむしろ「ディズニー作品」に近いのかもしれません。ディズニーと『直虎』を比較した研究者が言うには、直虎はディズニープリンセスに似ているんだそうです。昔のディズニー作品は王様と結婚するのが幸せな結末だったけど、最近では『アラジン』のように泥棒と結婚したりするわけです。直虎もそうだった。「結婚なんかは女の幸せじゃない」という現代女性の価値観を反映しているように思えます。ニュータイプの大河ですね。
これについては、昨年の1/4直虎総評で似たようなことを書いたので、完全同意です。
ついでに言うと、『スターウォーズ』でも『マッドマックス』でも、そういう流れはありますよね。
ただ、これは直虎の前の『八重の桜』でもあった傾向です。
『アナと雪の女王』では、エルサが隠さねばならない力を発揮して、それを高らかに歌い上げるわけです。
『八重の桜』でも、それまで八重が発揮できなかった狙撃スキルを発揮する場面で、明るいBGMが流れていました。
エルサがティアラを投げ捨てるように、八重も晴れやかな顔で髪を切ってもらっています。
女性性からの解放というテーマは、あの時点であったといえます。
『直虎』は、そのあとの作品である『ズートピア』、『モアナと伝説の海』と共通点があります。
『ズートピア』のヒロインであるジュディは、「ウサギのくせに」と侮られています。
弱小国衆のリーダーであり、女でもある直虎も、さんざんそのことで侮られました。
ジュディのパートナーである狐のニックは詐欺師です。
誤解されがちな存在ということで、小野政次や龍雲丸に近い造形ともいえます。
『モアナと伝説の海』は、小さなコミュニティの女性リーダーは、大冒険に踏み出す話です。
これまた直虎に似ています。
ディズニーというと、子供向けの話と思うかもしれません。
しかし、近年のディズニーは、子供にとって最適なロールモデルを模索し、世間の潮流を取り入れることに力を尽くしています。
そのディズニーに似ているということは、むしろよいことです。
世界的なトレンドを取り入れているということです。
『八重の桜』にせよ、『おんな城主直虎』にせよ。
ディズニーとヒロイン像が似ているのだとしたら、単純に上っ面をすくっているのではなく、今一番求められているヒロイン像を考えたら、似てしまったのだと思います。
そういうヒロイン像に反発を覚えるのだとしたら、見る側の価値観がアップデートできていないのかもしれません。
『西郷どん』に関していえば、その視点でも落第です。
近年のディズニーは、ヴィランに関しても見直していて、従来の悪役であったマレフィセントを視点とした映画も作成しています。
『アナと雪の女王』も、初期プロットではエルサが完全なヴィラン設定でした。
そこを、
【悪役にも事情があるはずだと】
変えているわけです。
ところが『西郷どん』の毒々しいヴィランからは何も考えていないんだ、という陳腐さだけが伝わって来ます。
本気でディズニーから学ぶべきなんではないでしょうか。
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著:武者震之助
絵:小久ヒロ
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【参考】
西郷どん感想あらすじ
NHK西郷どん公式サイト(→link)等