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【青天を衝け第30回感想あらすじレビュー】
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「こうなったら戦じゃ!」「廃藩置県だ!」
明治4年、なんだか雑な座り方をした政府内部が混乱しています。天気が悪くなったら書類まで吹っ飛ばされそうな、あまりにあけっぴろげなオフィス。障子がないのでしょうか。
ここで政府がまとまらないと、西郷がキレ始めます。
「こうなったら戦じゃ!」
ん? 一瞬、征韓論かと思いましたが、タイミングがおかしいですよね。
皆が戸惑っているのに、根がテロリストである栄一はワクワク。彼の言うみんなの幸せって何でしょうか?
平九郎を戦死させ、戊辰戦争の戦死者遺族を目の当たりにしたばかりで、さらなる流血を期待する姿勢って一体なんなのでしょう。
しかし、これがどうやら井上馨の解釈では「廃藩置県アピールだ!」ということらしい。
いやいや。そんなノリで廃藩置県を決められたら、ブチギレる人が大勢いますよ!
と思ったら、キレたのは栄一でした。本作は、ほんとよくキレる。『麒麟がくる』の信長よりも頻度が高い。
廃藩置県になったら不平士族が反乱を起こして戦争が勃発するというから……と色々すっ飛ばす。
そもそも藩札の問題など、栄一が指摘するまで廃藩置県のリスクに気づかない明治政府も絶望的。
ここまで無能な明治政府の作品は過去に見たことがない気がします。栄一が森羅万象を司る神のように思えてきました。
まぁ、本当に栄一が神眼の持ち主であれば、もっと早く大河で取り上げられていたはずなんですけどね。
井上馨もホイホイ説得されてしまうし、栄一に反対すれば大久保ルートで、賛成すれば井上ルートなのでしょう。
このあと「四日で廃藩置県」とかなんとか言い出しました。
まるで文化祭の準備! と、脳内で突っ込んでいると、井上は叫ぶばかりで何もしません。
嫌すぎる、こんな政府は嫌すぎる。もしかして現代は、明治時代よりもマシでしょ、というアピールでしょうか。
栄一は懲りずに「日本はまた必ず戦になる!」と言い出します。
またもや来ました「事後諸葛亮」。こういう預言者じみたことを言えるのは、書いている側が歴史を知っているからであって、リアリティがまるでない。
兎にも角にも、廃藩置県は四日で完了。
単に叫んでいるだけの人材でも、どうにか導入できてしまうからには、意外と楽だったのでは?なんて印象も抱いてしまいます。
昔、流行ったネットミーム「ジェバンニが一晩でやってくれました」(『DEATH NOTE』)を彷彿とさせます。
そうそう、このネットミームを思い出したのは、奇しくもスタッフと脚本家が通じる『あさが来た』以来です。
『あさが来た』では、開拓使事件の際、無能で無気力であったはずのヒロイン夫が、ジェバンニ並の早業と操作力で証拠を積み上げ、五代様の冤罪を主張していました。
実際は、冤罪でもないし、ましてやノホホンとした夫がそんなことできてたまるかと感じたものです。
このあと、まるでzoomな画面分割廃藩置県。遊びのような演出が大好物な本作らしいシーンですね。
そして「廃藩置県は世界に類のない無血革命として伝えられた」と言いますが。
モロにプロパガンダですし、色々とおかしいので後述します。
栄一と西郷が再び廊下で出会います。
レビューを書いていると「廊下」のシーンの多さに辟易としますが、西郷が栄一を本気で評価しているなら、アポを取ってシッカリ話し合うところでしょう。
こうした状況からも、二人の関係性の希薄さが浮かび上がる。なのになぜか西郷は栄一に重要な話をしたがる。
このあと大蔵大丞に出世した栄一を、またも陰険大久保がイジメに来ます。
なぜ、この大久保はヤンキー漫画の嫌な女のように、腕組みをして斜めから睨むようなポーズなのでしょうか。すぐ後ろにいる取り巻きが栄一を脅すあたりも、ヤンキー漫画っぽい。
ただし、それを言うなら、データも提示せず、論拠薄弱なまま三白眼で怒鳴る栄一もそうです。
にしても……人間同士の距離が異常に近い!
明治時代の人間ってこういう所作をするものか気になってしまいます。
場面変わって、岩倉と面会している大久保。欧米への渡航を提案します。
「ええええ〜異国ぅ?」
素っ頓狂な声を出して、この岩倉もなんだかなぁ……。
実はトラブル続きで非難された岩倉使節団 1年10ヶ月の視察で成果は?
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父の死もまた
栄一は千代の待つ家へ。
穴を縫われた靴下(浮気の証拠)を見つけ、暗い顔になる千代。
このあと史実通りに妻妾同居へGO!
とはならず、視聴者の目線を誤魔化すためか、血洗島の父が危篤タイムです。
渋沢市郎右衛門元助(渋沢栄一の父)は息子をどうやって経済人に育て上げたのか
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雨の中、人力車を走らせる栄一。テレポート状態で血洗島へ帰り、いきなり何をしているのかと家族にキレ出します。
威張り散らす姿が見てて辛いのですが、家族の配慮だと知って謝ります。
何度も申し上げたくなる。人当たりの良い渋沢栄一だからこそ、史実では人脈構築などに役立ったはず。なぜ、こんな怒りっぽいのでしょう。
家の奥には、危篤のとっさまが寝ていました。
本作は『麒麟がくる』と異なり、医療考証をしていません。
これだと死因が全く推察すらできませんし、老けメイクも甘いし、演技も割と元気。滑舌も良いので「まだいけるんちゃう?」と思ってしまいます。
そう言えば平岡円四郎が両側から袈裟がけで斬られても、数歩ほど歩き、ハッキリした滑舌で感動的なセリフを言えていましたね。平九郎に至っては……。
死のリアリティを薄くしてでも、わかりやすさを重視したということでしょうか。
しかも長い。
土方退場でもう【ロス戦術】(重要人物が死ぬんでロスロス連呼される)は使えないかと思っていましたが、父でも同様の視聴率狙いをやりましたね。
ロスできるなら親でも使え――だとすれば清々しいほどの開き直りです。
このあと葬儀の様子が描かれます。
父の長いセリフを描くぐらいなら、葬儀の準備なんかも見てみたかった。
血洗島近辺ではどんな風習だったのか。冠婚葬祭をきっちり描くことには意義があります。しかし本作にはそういう場面がありません。
それにしても栄一は、どこがよい息子なのでしょうか。
明治時代、かつ政府の有力者ならいくらでも事前に名医を呼べたはず。
それでも、もう死を避けられぬとわかったら、家を任せるように言い、葬儀の準備を万端にすることが、財力と責任のある親孝行の示し方です。
葬式の準備をパリっとこなすマネジメントスキルが見たかったのに、嘆き悲しんでいるばかりでは、まるで高校生ではありませんか。
死後に帳簿をめくって回想シーンを流すぐらいなら、他にできることはあったはずです。
ただ……既視感はあります。
本作とスタッフが重なる『あさが来た』の葬儀も、時代考証がおかしいと思える点が多くありました。おそらく最初から興味がないのでしょう。
ところで引っ張るだけ引っ張って、女中のくにはどうしましたか?
総評
本作の作り手は、歴史や昔の風習に全く興味がない――そこがわかりすぎる悲しい回でした。
決定的に出ていたのが、くにとの場面です。
大河でここまで酷い恋愛描写もないでしょう。
そもそもそこに恋はあったのか?
同情して、チョロそうな女中を、いきなり部屋に連れ込む、ゲスな性犯罪にしか見えません。
大河って主人公を持ち上げるものだと思っていたのですが、あの描写は谷底へ蹴り落とすようで、困惑させられました。
もう、これは渋沢栄一の名誉毀損ものでは?
渋沢栄一の女遊びが史実よりも汚くなった
渋沢栄一の女遊びは酷い――そう散々言われてきたものの、ロンダリングされてきました。それもこれまでだった模様。
栄一の女遊びは確かにひどいのですが、ある意味「綺麗」ではありました。
・手出しするのは基本的に玄人。金銭を支払って契約した上でのことと推察できる
・既婚者や少女まで強引に手出しした伊藤博文と比較すると「綺麗」ではある
・栄一は美形好み。まず見た目が美人でなければ手出ししない。これまた見境がない伊藤よりは「綺麗」
・栄一は女についても商売人。トロフィーとして自慢できるくらいハイスペックでなければ手出ししない!
現代人からすればゲス極なのは事実なんですけどね。
女遊びが強烈すぎる渋沢スキャンダル!大河ドラマで描けなかったもう一つの顔
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それでも明治という時代背景を考えれば、ドラマと比べて綺麗ではあった。
一夫多妻制がなくなった現代人からすれば、妻ひとすじか、そうでないかのゼロかイチしかありませんが、当時の色の道にもルールというものはありまして。
同じ遊ぶにせよ、そこにはグラデーションがある。
千代を裏切ったことは前提としてあります。それ以外に、本作の栄一はどこが汚らしくされていたたか。見てゆきましょう。
・くにはあくまで給仕をする女中。そういう裏オプションがない女に手をつけるのはルール違反でひどい
・相手の弱みにつけこんでいるように思える。しかも栄一が敬愛している徳川慶喜の責任放棄が一因である戊辰戦争のせいで、くには困窮しているというのに……
・腕を引っ張っただけで、“関係”を表現することは不適切。あの描き方では同意があったのかどうか不明
・お互いがどこに惚れたのか全くわからない
昨年の『麒麟がくる』の松永久秀は、美意識の高い、粋な色を楽しんでいると伝わってきたものです。
久秀は妻が亡くなったばかりだというのに、伊呂波太夫を側室にしようとしていました。
その場面と比較してみますと。
・伊呂波太夫は芸人ではあるが、当時の女芸人が色を売ることは公然の秘密。そんな彼女ならば側室とする契約が成立すれば一切問題なし
・伊呂波太夫は自立した女性。断ってもペナルティはなく、自活してゆける。久秀も、相手の弱みにつけ込んではいない
・久秀はちゃんと相手の意思を確認している。断られたら引き下がっていた
・久秀は伊呂波太夫の美貌のみならず、美意識や価値観にも共鳴しているとわかる。伊呂波太夫は魅力的だ!
今回の栄一は、弱みにつけ込んでうっかり手をつけたようにしか見えません。
これは女性像の貧困さにも原因があるかとは思います。
そもそも千代からして、史実の方が個性がある。あの気の強さやプライドの高さ、生真面目さがあればよかったのに。いつみても生気のない顔をした人形みたいでなんとも。
渋沢千代(栄一の妻)は気高く聡明な女性~しかし夫は突如新居に妾を呼びよせた
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「千代は真面目で堅苦しいけど、もっとフワッとした女の子もいいよな〜」
そう思っている栄一の前に、ふんわりとした個性を持つ芸妓くにが現れた……こういう描き方ではいけませんか?
来年の『鎌倉殿の13人』における亀の前への期待が高まるばかりです。
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