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【青天を衝け第30回感想あらすじレビュー】
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佞言は忠に似たり
今週の漢籍タイムです。
佞言は忠に似たり。『宋史』「李沆伝」
ベタ褒めする意見って、一見すると忠義があるように思えるから困ったものよ。
対義語は、
忠言は耳に逆らえども行いに利あり。『孔子家語』「六本」
誠意を込めていさめる言葉や忠告は、聞く側にとっては耳に痛いもの。だからなかなか素直に受け入れられないもの。
これを話の枕として、以下の記事をご覧ください。
◆ 異色の大河ドラマ?「青天を衝け」好調の裏にある数々の仕掛けと大胆な演出(→link)
「例えば、薩長同盟があるのに坂本龍馬が出てこなかったり、池田屋事件が描かれても、新選組で出てくるのは土方歳三だけなど、作品の随所に大胆な省きが見られます。勝海舟も出てきませんし、他にも、鳥羽・伏見の戦いや戊辰戦争を全然描かなかったりという演出にも驚かされました」
「これらは今までの大河にはなかった描き方です。賛否両論こそあるものの、こういった人たちや出来事を全部描こうとすると、話がややこしくなってしまう可能性もあり、大胆なカットや割り切りはむしろ、今作の特徴であって、面白いなと思う点でもあります」
まさに「物は言いよう」ですよね。私のようにうるさい奴が絶対指摘するところではあります。
しかし「話がややこしくなってしまう可能性がある」から出さないとは、どういうことでしょう?
「いろいろややこしくなるから、すき焼きから肉を取り除きました。でもヴィーガン対応です」
そんなことを言われているような手抜き感がある。
要するに詭弁の類では?
以前も突っこみましたが、これは『天地人』における最上義光と前田慶次を出さなかった慶長出羽合戦のようなシロモノであり、本来褒められたもんではありません。
とりわけ勝海舟抜きの江戸城無血開城は、それこそ「肉のないすき焼き」です。
実際は流れた血も多かった江戸城無血開城~助けられた慶喜だけはその後ぬくぬくと?
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2010年台以降は世界的にポスト『ゲーム・オブ・スローンズ』時代です。
登場人物3桁でいけ! ややこしくてもガンガンいけ!
そういう世界基準を考えると、今年の大河はオワコン感が半端ない。
そして何かと話題のこの記事ですが。
◆「明治維新は薩長によるテロだった」初めて大河ドラマでそう描いたNHKをもっと褒めよう 維新賛美の「司馬史観」から脱却した(→link)
まず、記事タイトルから突っ込ませていただきますと……。
この場合は「テロ」でなく、「明治維新は志士を自称するテロリスト集団によるクーデター」が相応しいのではありませんか。
テロリストの中には渋沢栄一も含まれています。
渋沢は倒幕は必要だったと主張しておりますし、天狗党と関わりが深い人物です。
私なりの記事タイトルはこうです。
◆「明治維新は薩長によるクーデターだった」久々に描いたって? 初志に戻ったようで、中途半端……NHKはもっとがんばれ! 維新賛美の「明治礼賛」変化球はバレます
補足させていただきますと。
・「明治維新は薩長によるクーデターだった」久々に大河ドラマでそう描いた
→後述します。
・初志に戻ったようで、中途半端
→ここを今更きっちりと描くと、叩かれます。
『新選組!』は国会質疑でまで叩かれた。
『八重の桜』は大物政治家が怒っていると報道されていました。
そういう動きがない本作はいわば「プロレス」、八百長でしょう。そもそも渋沢栄一って、紙幣の顔になるからには政府お墨付きです。
・維新賛美の「明治礼賛」変化球はバレます
→実は『あさが来た』の時点で、朝ドラでまで露骨な「明治礼賛」をしたと指摘されています。
そのドラマとスタッフキャストが被っている以上、頭隠して尻を隠さず……といったところです。
かつて大河は挑戦的だった
さて、ここから先は大河ドラマそのものの歴史うんちくでも。
大河ドラマの第一作目は井伊直弼が主人公の『花の生涯』です。
井伊直弼を再評価することで、薩長中心の目線を変えていく意気込みがありました。
悪役にされがちな大老・井伊直弼はむしろ一本気で能力も高かった?真の評価とは
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井伊直弼を殺した実行犯は薩摩藩士と水戸藩士ですから、ここに大河の高い志がみて取れます。
というのも、井伊直弼は正真正銘テロによる犠牲者でありながら、結果的に【桜田門外の変】が倒幕の契機になったから否定されてきました。
倒幕は果たして正しかったのか?
井伊直弼の顕彰とはそういった意図とセットになるものであり、このテーマを選んだ時点で当時のNHKには明治礼賛に挑む心息があったのです。
この作品の原作は1952年から53年。ドラマは1963年。
アジア・太平洋戦争後、日本人は明治以来の価値観や歴史観に疑念を抱いた。そんな当時の世論が反映されたからこその題材といえます。
当時の歴史ものは、戦争を体験して「武士道のせいでこんなことになったんだ!」と怒りを募らせた作品が多い。
現在でも有名かつ入手しやすいものとして『シグルイ』原作である南條範夫『駿河城御前試合』があります。
映画『武士道残酷物語』等も、武士道のせいで日本人が死ぬ場面が延々と繰り返される。地獄のような作品でした。
「2021年、初めて大河ドラマで薩長を否定!」では断じてありません。
大河ドラマは第一作目からそうしてきました。
ただ、あまりに歴史が長い。
初期はドラマの映像が残っていませんし、大河放映後に生まれた世代が多くなった。ゆえにこういう事実誤認が通ってしまう。実に悲しいことではありませんか。
それに、NHKだって問題はあるんですよ。
大河は、NHKなりに試行錯誤を繰り返してきました。
前述の通り、初期はかなり冒険作が目立つ。1967年5作目『三姉妹』なんて今からすれば信じがたいほど斬新な要素が揃っています。
なんせ架空の三姉妹が主人公です。『麒麟がくる』のオリキャラだった駒に対するバッシングを思い出してください。今はもう架空の主人公などできないでしょう。
しかもこの三姉妹は、明治維新によって人生が暗転しています。
明治維新で翻弄される三姉妹なんて、それこそ薩長の英雄史観からは程遠い。
つまりNHK大河は挑戦的だったのです。
そして渋沢栄一大河だった説もある1980年『獅子の時代』。これは架空の会津藩士と薩摩藩士のW主人公です。
会津藩士目線からすればずっと過激に、薩長に物申す視点になっています。
薩長礼賛と、NHK大河はむしろその真逆でした。
では、この路線はどこで変わったか?
この記事にも出てくる司馬遼太郎の大ヒットとも関係ある話です。
司馬遼太郎も初期の作品は、稗史(民間の歴史重視)で伝奇色が強かったものですが、だんだんと変わってゆきます。
ぶっちゃけ、英雄史観をベースにした方がヒットする。ゆえに司馬の作風は、英雄が坂の上にある雲をめざすようなもものを中心に変貌してゆきます。
もちろん『燃えよ剣』のような作品もありますが、幕末の司馬作品ナンバーワンとされるものは『竜馬がゆく』あたりでしょう。
時は高度経済成長です。
反省よりも英雄の物語が受ける。一国一城の主となって天下を取る――そんな価値観が受けます。
こうした世論は大河にも反映される。
たとえば真田幸村は戦国一の人気武将とされながら2016年まで大河の主役になりませんでした。
その理由として、討ち死にが懸念されたという指摘があります。
真田信繁(幸村)は本当にドラマのような生涯を駆け抜けたのか?最新研究からの考察
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司馬と同じく、大河も路線変更を余儀なくされました。
皮肉にも、その一因とされがちなのが『三姉妹』であり『獅子の時代』です。
作品としての評価は悪くない。しかし、いかんせん数字が取れなかった。それで守りに入ったと指摘されるのです。
NHK大河の試行錯誤といえば、1984~86年の近代路線もあげられます。
これまた高評価、低視聴率。
反動もあってか87年『独眼竜政宗』が大当たりをしたものだから、露骨な守りに入ります。
クオリティよりも、好景気らしい豪華な作りにする。それで無難な当たりを狙う――そういう無難路線に入ったのです。
では、どうしてそんな不正確な記事が出るかということですが。
・『青天を衝け』を褒めてください!
・大河、ドラマ、歴史ファンが唸るようなトリビアを入れましょう!
この二点で条件を絞り、受諾するライターを探せばよいだけのことです。
耳に優しく数字が取れれば、不正確だろうがなんだろうが構わない。
ネットニュースはアクセス数が全てですから、例えば司馬遼太郎については、肯定しても否定してもどのみち数字が取れる定番です。
司馬遼太郎のみを槍玉にあげることに私は賛同しませんが、戦術としては巧みだと思います。自分にはできず感服させられるばかりです。
私ならばそこは「司馬史観」でも「薩長史観」でもなく「明治礼賛史観」としたい。
微を以て明を知る
では「明治礼賛」とは何ぞや?
その解説は『青天を衝け』の模範的なレビュー記事を読めばよくわかります。
と、その前にまずは漢籍を。
微を以て明を知る。『荀子』「非相篇」
ちょっとした要素を組み合わせると、見えてくるものがある。
出来のよろしい大手レビューとして、こちらを使わせていただきます。
明瞭爽快、読ませる記事のお手本といえましょう。
行政改革担当大臣がデカいこと言っていたわりにハンコの廃止も大して進んでおらず、結局、何やったんだ感が漂っている一方、改正掛の改革スピードはスゴイ。
実質、活動したのは2年足らずだが、その間に郵便制度や電信、鉄道の建設。度量衡の統一。富岡製糸場の創立。戸籍法や租税法の改正などなど、現在の日本につながる基礎を作りまくったのだ。
数年前までチョンマゲつけて年貢米だ御用金だという話をしていたのに、一気に郵便や鉄道の整備が進んでいくとは……。改正掛は江戸時代と近代日本をつなぐオーパーツ的な存在といえるだろう。
なぜ、改正掛がこうも早いのか?
そりゃあ一から国家の土台を崩したのならば、租税濫造でもナントカしなければいけません。
そして「オーパーツ的な」と出てきてしまう。
つまり、現実的でないと誉めている方も内心思って感想に書いてしまうんですね。
それもそのハズ、大隈重信も、明治国家の近代化とは小栗忠順の模倣に過ぎないと言ってました。
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本作では、その小栗がネジ好き脳筋モブです。
40代で「年寄り」呼ばわりされてしまうのはショックだが、日本の近代化はそれだけ若い力によって成し遂げられたということだろう。
ここも重要でしょう。
司馬遼太郎読者のみならず、明治維新を誉める論調で出てくる。若者が成し遂げたという話ですが、そりゃそうなりますよね。小栗忠順ですら殺してしまうほどですから……。
そしてこれまた本作は描写不足でわかりにくいのですが、実は明治政府よりも、幕府の方が外交面では「大人のお付き合い」ができていました。
ドラマでウェイウェイしている伊藤博文を筆頭に、明治新政府の重鎮たちが英国人パークスのパシリ状態だったなんて、恥ずかしくて言えませんよね。ゆえに隠蔽されまくってしまう。
そこを隠蔽して幕臣の偉大さを語られても、よくわかりません。
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この二点をとってみても本作では「明治礼賛」が継続し、かつ幕臣の功績など全く描かれなかったことが明白です。
岩瀬忠震、川路聖謨、栗本鋤雲、永井尚志、勝海舟、榎本武揚、小栗忠順……まさに綺羅星のごとき幕臣たちを出す機会などいくらでもありました。
蚕ダンスやら無駄にしか思えない回想シーンを頻出してる場合じゃないでしょうに。
本作が真に画期的ならば……
「国会の屋台骨ごと破壊したのならば、そりゃスピード感が重要になる。倒幕の必要があったのかと不思議になるばかりだ。」
「幕府の方がよほど大人の対応が取れていたのである。なぜ、ああも優れた幕臣を死なせたり、登用しなかったりしたのか?」
こういう感慨がもっとあってもよさそうなものです。
幕末から京都でテロ活動に励んでいた渋沢栄一。
それがテロ仲間のコネで出世し、公私混同を繰り広げつつ雑な仕事をする。
実際、明治政府の朝令暮改ぶりは本当に凄まじい。
そんなことは近年の一般書でも散々言われているのに、一切反映されない。んで、イケメンでお茶を濁されてしまう。
もう21世紀です。そろそろ「明治礼賛」から卒業したい。
それにはどうするか?
NHKでは『アンという名の少女2』を放映中です。
このドラマは原作を逸脱しながら、黒人、フランス系、性的少数者の苦悩の姿を描いています。そうすることで、新たな歴史観を見せてきます。
白人だけが歴史を作ったわけじゃない。そんな当然のことです。先住民についても今後描かれるそうです。
さしずめ日本ならば、北海道開拓史でしょう。
今までなぜ題材にならなかったか?
想像がつきます。明治政府の失政が凝縮しているから。それが北海道の歴史です。
その北海道開拓から目を逸らしたままでは、NHK大河の評価はできない。それが私の持論です。
今後10年以内には、ぜひとも北海道大河を!
※著者の関連noteはこちらから!(→link)
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◆青天を衝け感想あらすじレビュー
◆青天を衝けキャスト
◆青天を衝け全視聴率
文:武者震之助(note)
絵:小久ヒロ
【参考】
青天を衝け/公式サイト