大人気映画「スター・ウォーズ」シリーズのスピンオフである『ローグワン』は、画期的な作品でした。
全シリーズを通じて初のアジア系俳優が主要人物として登場したのです。
香港が誇るカンフースターの至宝ドニー・イェン。
中国を代表する盟友のチアン・ウェン。
彼らの演じた盲目の戦士チアルートとその相棒ベイズは、ファンの間で大人気キャラクターとなりました。
この二人が共演し、しかも三国時代を舞台にしたのが『KAN-WOO 関羽 三国志英傑伝』。
一体どんな映画なのでしょうか。
基本DATA | info |
---|---|
原題 | 關雲長 The Lost Bladesman |
制作年 | 2011年 |
制作国 | 香港 |
舞台 | 中国 |
時代 | 後漢末、2世紀後半 |
主な出演者 | ドニー・イェン、チアン・ウェン、スン・リー |
史実再現度 | 史実よりむしろアレンジに期待すべき作品 |
特徴 | ドニー・イェンが関羽を演じる、圧倒カリスマの前で我々はひれ伏すしかない |
※2019年8月7日現在
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未だかつて無い低身長関羽
ドニー・イェンは、ありとあらゆる才能に恵まれたカンフースターです。
爽やかなイケメン、キレのある身体能力、流暢な英語力、独特のカリスマ性。
しかし若い頃はB級作品の出演が多く、人気を支えたのは一部のマニアで、ようやく主役級のスターとなれたのは40過ぎでした。
同い年のジェット・リーと比べて、遅咲きの俳優といえます。
しかし、ブレイク後は瞬く間にスター街道を疾走。そんなドニーが伝説の武神である関羽を演じるのですから、話題にならないはずがありません。
もちろんファンは熱狂……とはならず、意外にもその反応は懐疑的なものでした。
彼らの思いはここに集約されるでしょう。
『随分と背の低い関羽だなあ』
ドニーの身長は公称173センチです。
関羽といえば雲を突くような大男で、207センチとも言われています。
史実はともかく、一般的に「関羽=大男」という図式がキッチリと組み込まれているのです。
『これはミスキャストではなかろうか?』
三国志ファンのみならずそう感じてしまう。
それがドニー関羽でした。
ごめんなさい、ミスキャストではありませんでした
関羽が主役の本作。
彼の人生においてどこの部分を切り取って、映画におさめるか。
なかなか難しいところでしょう。
三国志映画は長大で、人が大勢出てくる物語のどこを切り取るかが肝心なのです。
そして本作の場合、関羽の見せ場である「関羽千里行」を題材とし、中心人物を関羽と曹操に絞りました。
映画は、関羽(ドニー・イェン)の首が曹操(チアン・ウェン)に届けられる場面から開幕します。
そして曹操が関羽を悼み、20年前を回想するシーンへ。
なぜ曹操は、敵将である関羽の死をそれほどまでに悼み、惜しみ、懐かしむのか?
その答えは関羽が出てきた瞬間、視聴者に届きます。
「関羽がドニー・イェンならば、それは仕方ない……」
スターとして脂ののりきったドニーは、その時点でカリスマ性にあふれています。
これは手元に置くしかない。
そう曹操に思わせるのがまるで不思議ではなく、関羽とドニーというスター同士の組み合わせが、圧倒的な存在感を見せています。
作中の人物の多くが異常なまでの愛情を関羽に向けるのも、なんとなく納得してしまいます。
もう、身長なんてどうでもよくなります。カリスマが彼を大きく見せているからです。
これぞ関羽だ!!
これが、リアル三国無双である
三国志ファンの皆様におなじみのアクションゲームといえば、『三国無双』シリーズでしょう。
ゲーム本編はもちろんのこと、オープニングムービーも迫力満点で爽快感にあふれています。
そのオープニングムービーのアクション監督をつとめるのが、日本の谷垣健治氏。
実写版『るろうに剣心』等でも知られています。
谷垣氏はドニーの現場で研鑽を積み、絶大な信頼を得ており、視聴者が
「この映画の戦闘シーンはまるで無双みたい」
と感じたのであればそれもそのはず。
ドニーこそ無双アクションの真髄のようなアクションスターなのです。いわば無双がドニーのアクションをゲーム内で実現するように作られたようなものですから。
本作のアクションシーンを見れば見るほど、この映画はドニーのための作品であり、むしろ宿命的なキャスティングであったと思えるはずです。
映像化史上最高何度の五関突破?!
本作は、少なめのドラマシーンに対し、アクションシーンはてんこ盛り!
中でも最大の魅力は五関各所での戦いです。
従来の三国志ものですと、関羽があまりに強いためほぼ一撃で相手を倒してしまうのですが、本作は違います。
それぞれかなり強く、本格的なアクションを繰り出すため、一撃クリアは不可能!
最初に登場する孔秀(三国志演義に登場する武将)ですら、アクションに定評のあるアンディ・オンが配され、迫力のバトルが展開されるのです。
正直、一人目にしては強すぎるんでは?
彼は五人目のほうがよいのでは?
なんて気もするのですが、そこは目を瞑りましょう。
五関を守る人はそれぞれ武器も格闘タイプも異なり、関羽が毒矢で射られる、という展開も。
さらにこの時、関羽は劉備の側室である綺蘭(スン・リー)を連れているというハンデがあります。この綺蘭が相手に捕まってしまうため、それを救出せねばならず、これがまた大変。
本作は関羽だけではなく、五関の番人も史上最強かもしれません。むしろこの関羽がなぜ後に討ち死にするのか、わからなくなります。
魏の武将も要注目
ここまでドニー演じる関羽中心に取り上げて来ましたが、曹操を演じるチアン・ウェンも素晴らしいです。
チアン・ウェンには曹操に求められる要素がそろっておりまして。
存在感、教養、カリスマ性、魅力、狡猾さ、堂々とした態度。
魅力にあふれながら、どこか狡猾そうな印象を見る者に与えます。
曹操という人物は、冷酷さだけではなく関羽に向ける温情や情熱も備えていなければなりません。
チアン・ウェンにはそれが備わっています。
敢えて欠点をあげるとすれば、彼の場合曹操を演じるにしては背が高すぎることでしょうか。
チアン・ウェンは新作映画『曹操』でもタイトルロールを演じます。
出番が少ないとはいえ、張遼や許褚もいい味を出しており、魏のファンも要注目です。
そうはいっても欠点がないわけでもなく……
ここまで褒めてきて何ですが、本作は欠点もいくつかあります。
一つ目は劉備の妻・綺蘭とのロマンス。
言い寄られて「なりませぬ」と関羽が断るだけです。
こんなお飾りのようなロマンスなら不要に思えるところです。
ただこれは、関羽の高い道徳心を示す意図があるのでしょう。
史実の関羽は人妻に惚れていたエピソードがあるのですが、時代が降るにつれ非情に禁欲的な人物とされていきます。
それを示すため、曹操が美女に関羽を誘惑させるような展開をするパターンもありますが、本作は別の描き方でこの部分を入れたのだと思います。
もうひとつはネタバレになってしまうため詳しくは書けないのですが、関羽襲撃に黒幕がいたという脚本上の設定です。
本作はなぜか曹操が関羽千里行に付いてきます。
道中、関羽を馬鹿にする人がいると、激怒。
「関羽を侮辱したお前らのことはゆるさん! ブチ殺してくれる!」
一体この曹操は何なのでしょうか。ストーカーですか。ヤンデレですか。
そもそも曹操が関羽を襲撃させるのでなければ誰がそんなことを、と突っ込みたいところ。
実はとある人物が黒幕でした。
この黒幕の正体が三国志ファンならばのけぞってしまう意外な人物なのです。
最終的に、黒幕の正体と、あまりに酷い扱いを笑い飛ばせるか、呆れてしまうか。そこが評価の分かれ目となるでしょう。
また、赤兎馬が登場しない、赤壁の戦いで関羽が曹操を見逃す場面がない、途中で関羽が髭を切るという点も三国志ファンにとっては残念です。
実写映画で真っ赤な馬を出すというのも難しいところなのでしょうけれども。
ともかくこうした欠点を内包しつつも、ドニー・イェンとチアン・ウェンの存在感がバツグン!
関羽というキャラクターは、その時代最高の武・徳・義を備えた人物が演じるべき存在。
現時点で中華圏最高のカンフースターが演じるということは極めて理にかなっております。
本作は21世紀時点において説得力のある関羽像を示した、貴重な作品と言えるでしょう。
著:武者震之助
【参考】
『KAN-WOO 関羽 三国志英傑伝』
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