476年9月4日は、西ローマ帝国が滅亡したといわれている日です。
厳密にいえば、当時は「西ローマ帝国」や「東ローマ帝国」という国はなく、「ローマ帝国の西半分」「同じく東半分」という扱いだったのですが、現代人にとってわかりやすいほうでいきますね。
実はこの西ローマ帝国、395年の設立から約80年ちょいの476年に滅びています(480年とする考え方もあります)。
原因は、なんと言っても初代皇帝ホノリウスでしょう。
冗談かと思うほどのバカ殿エピソードが残されているほどで、建国当初から危うい国でありました。
早速、見て参りましょう。
「ローマは無事じゃぞ」……って、それはアンタのペットやろ!
最盛期には地中海沿岸地域を全て支配していたローマ帝国が東西に分かれたのは、395年のこと。
ときの皇帝・テオドシウス1世が、息子二人に
「領土を半分に分けて、それぞれ仲良く統治しなさい」
と言いつけたコトから始まりました。
東半分を兄のアルカディウス、西半分を弟のホノリウスが譲り受けています。
つまり、たった80年=だいたい三世代くらいの間に西側は滅びてしまったということです。
その主な原因は、ホノリウス自身がアホ過ぎたからでした。
彼の能力のなさをうかがわせる逸話として、こんなものがあります。
ホノリウスは「ローマ」と名づけた鶏を飼っていました。
ネーミングの時点でヤバそうな気配がプンプン匂いますが、笑い話にならないのはこの後です。
ある日側近が「ローマが反乱軍によって奪われました!」と大急ぎで報告しに来ました。
しかし、ホノリウスはポカーンとして慌てた素振りも見せません。
「慌てるな、まだ急ぐような時間じゃない」
という意味だったら側近も頼もしく思ったでしょうけども、全く逆でした。
ホノリウスは
「わたしのローマはここにいるのに、なぜ君はそんなに慌てているんだ?」
と言うのです。
その手元には鶏が……。
つまり、都市や国としての「ローマ」よりも、鶏のローマのほうが彼にとっては大きな存在だったからこそ、パッと聞いて事の重大さがわからなかったんですね。
この話がそっくりそのまま本当かどうかはわかりませんが、
「あの皇帝ならこんなことをやりかねない」
と思われていたからこそ語り継がれたのでしょう。
讒言を受けて優秀な家臣を殺害というテンプレ
話が前後しますが、他にもホノリウスの暗愚ぶりを伝える逸話があります。
ホノリウスが西ローマ帝国の皇帝になって間もない頃、あまりのアレっぷりを見かねたスティリコという軍人が摂政になりました。
スティリコの能力は確かなものでした。
しかし彼は当時ローマ帝国の敵だったゲルマン民族の出身だったため、次第に他の側近からやっかみを買うようになっていきます。
そしてテンプレ通り、ホノリウスに何者かが讒言します。
「スティリコは本当はアナタを殺して、自分が皇帝になるつもりなんですよ」
ホノリウスはこれを信じてしまい、散々自分の代わりに仕事をしてくれたスティリコを殺してしまったのです。
何でこういうときって、デキる人のほうに信用がないんですかね。
西ローマ帝国としてのスタートダッシュの時期にそんな状態だったので、その後もあっちこっちで反乱が起きたり、皇帝を騙る連中が現れたりして全く落ち着きません。
なにせ、たった80年の間に13人も皇帝がいるのです。
中には3ヶ月もたたずに暗殺されてしまった人すらおりました。
これではもう、まとめようと思うほうが無謀というものですよね。
ついでですから、最後の皇帝も見ておきましょう。
最後は年金もらって悠々自適な隠居暮らしでしたとさ……
西ローマ帝国最後の皇帝は「ロムルス・アウグストゥルス」という、これまた舌を噛みそうな名前の方です。
功績がない割にネタ満載な方でして。
そもそも名前からして、ローマを作ったといわれる伝説の兄弟の兄「ロムルス」と、ローマ帝国最初の皇帝である「アウスグトゥス」が繋がっています。
人様の名前を笑うものではありませんが、まるで未来を見越した盛大なブラックジョークです。
「最後の支配者」というと大体の場合悲惨な末路が待っているものですが、彼の場合はそうではなかったというのがまたコメントに困るところです。
今でいう年金にあたるものをもらって、家族と共に悠々自適な暮らしをしていたとか。
ホントは帝位とかどうでもよかったのかもしれません。
さらに、隠居先で修道院を建設したことがあるそうなので、財産もそこそこ余裕があったのかもしれません。
東ローマ帝国最後の皇帝が、自らオスマン帝国軍に突っ込んでいったのと比べると、あまりにも差がありすぎるというかなんというか……。
その辺の話も以前取り上げたことがありますので、よろしければ併せてどうぞ↓。
西ローマ帝国が滅びた後の権力者は、「ローマ皇帝」ではなく「イタリア王」を名乗り、また別の国ができていきます。
神話の中では兄よりも弟が最終的な勝ち組になることが多いですが、やはり現実はそうとは限りませんね。
長月 七紀・記
【参考】
西ローマ帝国/Wikipedia
ロムルス・アウグストゥルス/Wikipedia