『真田丸 完全版ブルーレイ全4巻セット』/amazonより引用

真田丸感想あらすじ

『真田丸』感想レビュー第12回「人質」 ハードボイルド中世人をとくと味わおう

こんばんは。

つい先日、後半の重要人物のキャストが発表されました。

◆「真田丸」で大河初出演 三谷幸喜の指名で徳川秀忠役(→link

これは楽しみなキャスティングですね!

視聴率低下で叩き記事も出てくるかと思いチェックしていますが、今年は思いの外少ないようです。

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『真田丸 完全版ブルーレイ全4巻セット』(→amazon

 


ウザキャラきりは、やはり狙いだったご様子

さて、先週の室賀正武の死によって、真田は小県を平定しました。

今週は上田城から外を眺めるきりと、信繁の会話からスタート。信繁は、多くの視聴者から「ウザい」と反発をかった先週のきりの行動に御礼を言います。

やっぱりきりは、信繁の感情を引き出す役であるとおさらいです。

きりはウザいのが狙いだそうですよ。まあでも、きりゃんは一途だし可愛いところもあるかな。

◆「ウザい役」演じ切る長澤まさみの潔さ「真田丸」屋敷CP感嘆(→link

そんなわけで私はなるべく気にしないようにしたいのですが、さらにこんな策を考えました。

きりは女装した中村獅童さんが、がんばって十代の女の子を演じているのだと思って見るのです。そうすれば大体笑顔で見られます。

あ、長澤まさみさんが嫌いなわけではありませんよ。薫や松でも応用可です。昨年もそうするんだった。

 


何度も裏切った上杉家へ、信繁、再び出向く

小牧長久手の戦いはノブヤボマップで終了。

ナレーション処理しても、マップがあると一応それらしく見えるから助かります。

実質的に勝利した家康はホッと一息ついていますが、このまま羽柴と北条に挟まれたら大ピンチです。おまけに室賀による真田暗殺も失敗。家康は新たな真田対策を打つことに。

それにしても「室賀じゃ駄目でした」とさらっと語られるのが何とも寂しいですね。

あんなドラマがあったのに、徳川からすればただの駒なんです。厳しいですねえ。

昌幸は、かくなる上は上杉に頼ると言い出しますが、力一杯裏切っているんですよえね(八話)。

「父上、流石にそれはないよ! つーか頼れると思っていたことがびっくりだよ!」と突っ込む信幸。ですよねー。

昌幸はここで上杉に頼れないとヤバイからまた手紙書くぞ、と言い出します。本当に行き当たりばったりだな、オイ。

上杉家は真田のしつこさに閉口しましたが、そこまで言うならちょっと条件つけてみようかな、と言い出します。

その条件とは、信繁を人質に出すこと。ちなみに真田信繁の人生において、史料上での動きがしっかりと確認できるようになるのはこの上杉行きからなんですね。それまでは断片的にちらちらと、滝川の人質になっている、とかわかるくらいです。

ターニングポイントとなる今回から、信繁は前髪をあげて大人っぽくなりました。

今回のミッションは信達の調略!

 


妊娠と言ったのは一つの策よ そうでもないと煮え切らないし~

新婚ほやほやで、身重の梅を残して敵地に赴く信繁ですが、どこかさばさばしています。

策だらけの腹黒いどこぞの御方とは離れたいしな〜、なんて本音もちらっと一言。その御方って、自分の父親なんですかねえ。

戦国時代は人質といっても、相手の家でいろいろ学ぶこともありますから、スキルアップの機会でもあるのです。

留守を守る梅の前で、きりは相変わらずおやつをぱくついています。

ここで梅が何ときりにある秘密を打ち明けます。

「妊娠したと言ったな? 実は確証はさほどない」

「はあ!?(視聴者の心の声ときりの声)」

「ククク、これもひとつの策よ……そうでもしなければ奴も煮え切らんからな」

やっぱりこいつ策士だぁーーーーーーッ! でもどうせちゃんとできているわよ、と余裕綽々なあたり、たいした度胸です。

上杉家で信繁は、もめ事を殿様に持ち込む漁師たちを目にします。

どうやら漁師たちは。よい漁場をめぐって争っているようです。

以前も山林資源をめぐって争っていましたが、当時は民まで武装していますので、争うとなるとなかなか決着がつかないのです。漁師に「任せておけ」と約束する景勝ですが……。

景勝は目をきらきらさせて「人質差し出すか本気を試したけど、実はもう一度お前に会いたかったんだ」と言います。

そういえば景勝って『奥羽永慶軍記』で「婦女をこう(女偏に交)童に代用せしこと」(東北を中心とした戦国軍記)という話を書かれたこともあったのでした。

この話は、景勝がさっぱり女に興味を示さないため、男装美女を送り込んで子を産ませたという荒唐無稽なお話です。

これを元ネタにしたものに山田風太郎『くノ一紅騎兵』という作品がありまして、せがわまさき作画の漫画『山風短』1巻に収録されています。

真田丸<a href=上杉景勝霜月けい" width="370" height="320" />

 

「信長の最期を思い出せ。死に様は生き様を映す鏡だ」

景勝は二人きりになると、上杉は義のために戦うホワイト大名だと意気込みを語ります。

この会話、兼続や昌幸が聞いたらどんな顔をするんだろう。まだ若くうぶな十代に、なんかかっこつけているように見えなくもありません。

民が安心して暮らせるようにしたい、民の心をつかまずして何が国作りか、と語る景勝。わー、ホワイトエンジェル!!

信繁は、質問します。

「義を忘れて欲望のままに生きるとどうなるんでしょう?」

「信長の惨めな最期を思い出してみろ。死に様は生き様を映す鏡だ」

と、なかなか重たい答えを言う景勝。この一言は信繁に間違いなく影響を与えたのではないでしょうか。

昌幸は、うまく景勝のハートをキャッチした信繁に対して満足げ。

ただ、直江兼続はそう簡単に許しません。

「沼田はそもそも上杉のものだから、返せ。そうしたらおまえら認めてやる」と無慈悲な要求です。

信幸は「そもそもの発端が沼田でしょ!? それを上杉に渡すとかありえねえし!」と混乱。

この冷静な目が怖い

この冷静な目が怖い

私も書いていて混乱しています。

昌幸は「信繁に任せちゃえ!」と無責任宣言。ひでえ!!

こうなるともう全ては信繁が景勝のハートをキャッチすることに真田の命運がかかっています。どんな乙女、いやもといBLゲーだ。

信繁は景勝に沼田の一件を話すと、なんと景勝は「知らん。兼続の独断だろう」と返答し、さらに「俺に任せておけば兼続説得するよ」とフランクに引き受けてしまいます。どんだけチョロいんですか。

 


兼続が冷たい目で「切り捨てますか?」

信繁は漁師たちが再度、領有権をめぐって訴えに来た現場を見ます。

おおっ、漂う『タイムスクープハンター』臭。近くに沢嶋雄一がいてもおかしくなさそうです。

信繁は漁師を門前払いした上杉家臣にあんなふうに追い払っていいのかと聞きます。

家臣は「御屋方様はかっこつけているだけ。まともにとりあってられないよ」と言います。

そこへ景勝と兼続がやって来ます。

景勝は嫌味を言う程度ですが、兼続は冷たい目で「切り捨てますか?」と一言。おっかねえ。

でもあの家臣の気持ちもわかるなあ。かっこつけて仕事を増やされたら嫌です。

兼続は「御屋方様はいい人だけど、ああいう訴えをいちいち聞いていたらきりがない。処理する余裕はないんだよ」と信繁に明かします。

景勝はしょんぼりして「戦が続きすぎて確かに余裕がない。話を聞いてあげることしかできない……これが本当のわしじゃ。世の中思い通りにはいかぬ」と赤裸々トークをするのです。

信繁は「昨日まで御屋方様を尊敬していました。今日は……なんかもう、慕わしく感じます」とか言います。

うわー、景勝のハートの好感度ゲージがぐんぐん上がっていそうだあ!

 

ビーチに出向いて行われていたのが鉄火起請

いろいろ無力感に悩んでいる景勝は、スレてないティーンの信繁相手に人生を語り、リフレッシュをしたいのでしょう。

気分転換に信繁とビーチに遊びに行きます。

これは現実逃避ではありませんか? 忙しいと言いながら、遊びに行くわけですか? と、兼続の気持ちになってちょっと突っ込み。

ところが君主たるもの、ビーチリゾートでもゆっくりできません。

漁師の争いに出くわした一行が見たのは、「鉄火起請」の場でした。

紛争解決として行われた、神明裁判の一種です。

鉄火起請湯起請
戦国時代にあった地獄の裁判「鉄火起請」は血で血を洗う時代には合理的だった?

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北浜の代表者から、真っ赤に焼けた鉄を握ります。

鉄火を取った者は手が使えなくなるため、近所の者たちが今後その者にかわって働くこと、金銭の援助など申し出ていたそうです。

またこれは『タイムスクープハンター』でもふれられていましたが、身寄りが無い浪人や浮浪者が半強制的に代表にされることもあったそうです。厳しい時代ですね。

ここで北浜の代表者が怯えてしまうのですが、そこへ信繁が割って入ります。

裁判の理非を問うため、信繁と奉行でやってみようと言い出します。

このあたりで見ていて辛くなってくると思います。残酷でもありますし、現代人から見るとはっきり言ってわけがわかりませんからね。これが中世です。

 


景勝の好感度ゲージはマックスまで上昇し……

信繁が真っ赤な鉄を取ろうとしたその時、これまで強気だった奉行が突如中止を言い始め、漁民たちに「話し合ってみたらどうか」と言い出します。

景勝も止めに入ります。

ちょっと拍子抜けする人もいるかと思いますが、実際の鉄火起請も行う前に躊躇して、結果的に中止になる例が多かったとか。

信繁は、浅瀬で漁をするのを交互でしたらどうかと提案します。

しかしそれだと潮の流れがあるから不公平です。

景勝が助け船を出し、潮の分け目で交替すればいいと言います。これにやっと南北両方の漁師が納得し、一件落着となりました。

景勝はやっと名裁きができて、満足げな様子。

さらに「信繁みたいな子がいればよかった。昌幸は果報者だ」と好感度ゲージマックスとしか思えない台詞まで。これで真田上杉の同盟は盤石だ!

上田城では、梅が無事に女児・すえを出産します。

結局妊娠していたので、策はチャラになりました。やったね!

兼続は景勝が張り切ったせいで仕事が増えたぞ、と愚痴モード。

いろいろ言いたいことがあるのでしょうが、好感度がマックスなのでどうしようもない様子。

沼田の件も簡単に城の明け渡しを引き受けたらむしろ昌幸の企みだと思っただろう、と明かす兼続です。

昌幸の今回の作戦って、本当に次男の愛嬌と魅力頼みでしたが、結果オーライです。

これでもう、上杉を背後につけて徳川と心置きなく手切れができます。しかも沼田も徳川の金で建てた上田城はゲットだぜ!

 

かくして7千の徳川が2千の真田に襲いかかることに

徳川はこの知らせを受け激怒。

ここまでは予想通りですが、家康、本多正信石川数正、阿茶の局がいる場面で、最も適切に場をまとめる発言をするのが阿茶の局なのが注目すべき点でしょう。

真田丸<a href=徳川家康霜月けい" width="370" height="320" />

「真田のために城を建てたなんてお人好しですね。お潰しになったらどうですか?」

おおっ、ここにも女策士がいるぞ!!

かくして七千の徳川勢が、二千の真田勢に襲いかかることに。

第一次上田合戦だ!

三倍以上の兵力差、どうすべきか。景勝は何とか真田に援軍を出したい、と言い出します。

それを兼続は即座に却下しますが、実は領内から使えそうな百名を用意していたそうです。

信繁と三十郎はこの百名を率いて上田に参りたいと言います。兼続は「ふざけるな」と却下しますが、どこまでも甘い景勝は目をきらきらさせながら承諾するのでした。

そしていよいよ、マップだけじゃない戦じゃー!!

 


今週のMVP:上杉景勝

殺伐としたドラマに突然舞い降りたホワイトエンジェル、上杉景勝! レトリーバー犬のようなきらきらした目がたまりません。

添付ファイルを躊躇せずに開けていそうなうっかり感は、周りにいたら困りものの気がしますが。

こんな善人で裏表がなくて生き残れるのか、と思うと横に控えるのがドーベルマンのような目をした直江兼続。

どうにもこの主従は、分割して指定できません。ふたりでひとつ、は真田兄弟だけではなくこの主従もそうです。

こんなシビアな中で一服の清涼剤のような景勝。それを支える兼続、文句なしで今週はこの二人が魅せました。

二人は演技が丁寧で、刀剣が好きなだけに愛着をこめて扱う景勝、美声を細かく変化させ感情を示す兼続、どちらもお見事です!

 

乱世にうごめく女策士たち

男が策を弄すれば、女もそうするのが本作の世界。

妊娠見切り発車の梅も策士ですが、阿茶局もそうです。

梅は妊娠という女性独自の手段で成り上がりましたが、阿茶局の場合、家康との間に子はいません。

身分もさほど高くなく、後ろ盾もない彼女が、数多いる徳川家康の妻たちの中でも目立っているのは、愛されたからだけではありません。

抜群に切れる知能があったからです。

いわば女版本多正信とも言える存在。とかく女性に癒やしや母性を求めるドラマが多い中、本作は策に生きる女をどう描くのか。見所になりそうです。

 

総評:成長と驚きの「鉄火起請」!

今回は決戦前の小休止と見せかけて、信繁の人物形成に大きな影響のある回でした。

祝言まで策に利用され、さらにそれを受け止めてしまった自分に嫌悪感を覚えた前回。このまま策に溺れる生き方でよいのかと迷っている時に、策とは真逆の義に生きる景勝と接したことで、彼は別の生き方を学びます。

景勝の言葉「死に様は生き様を映す鏡だ」を、信繁も、景勝も、そして私たち視聴者も、最終回付近できっと思い出すことでしょう。

今週の驚きといえば「鉄火起請」を取り上げたことです。

『タイムスクープハンター』の「仰天裁判! 鉄火つかみ」でも扱われましたが(3/29再放送予定)、ドラマでは初めてとのこと。

正直これには困惑しました。

特に視聴率アップにつながるとも思えず、かえってあまりに奇っ怪で残虐であるため、マイナス要素になるかもしれない……。

だがそれがいい。

そう、それがいいんです!

視聴率には貢献しなくても、こういう中世人の思考回路を敢えて描く挑戦が天晴れなのです。

私はここまでやられたら、もう本作が現代的などとは言えないとは思うんです。

本作の人物は、むしろありのまま、だからこそあくの強い中世人だと。だからこそ、江戸期以降の倫理観であく抜きされ、理想化された姿からは遠く、そこに拒絶反応が出てしまう人がいるのでしょう。

今回の「鉄火起請」については清水克行氏の『日本神判史』が大変参考になります。

この清水克行氏と以前このレビューでもふれた高野秀行氏の対談本『世界の辺境とハードボイルド室町時代』を、私としては全力でプッシュしたいと思います。

『真田丸』を歴史的に理解するには、考証三氏の著作が最適です。

それに対して『世界の辺境とハードボイルド室町時代』は、歴史的な観点ももちろんですが、作劇的な部分を理解するためにお勧めなのです。

どうして作中の人物はあんな行動を取るのか、殺伐と笑いが同時に成立するのか。

だって彼らは中世人なんだもん。現代人じゃなくて中世人なんだもん、ありのままに中世人なんだもん、と中世人の思考回路に切り替えるために、本書は役に立ちます。

何度も書いていますが、本作の人物が無茶苦茶な行動を取っているのは、三谷氏が現代人の価値観を取り入れているからではありません。

むしろ江戸時代以降の人間が「流石にこれはないわ……」とあく抜きした中世人の行動理念を復元しているからこそだと思います。

例えば、きりはじめとするギャーギャーうるさい女たちが、

「武家の女はあんな行動しない」

「もっと落ち着いているはず」

「しっとりと夫の一歩あとをついて」

「当時の女なんて所詮男の従属物扱いなんだから」

と批判されます。

しかしそれは、江戸期以降家におしこめられあく抜きされた「武家の女」を想定し、理想化しているからでしょう。

中世の狂言などでは、妻が夫に対して「なんだテメエむかつく、ぶっ殺すぞ!」(意訳)とか怒鳴りつけているんですよね。

少なくとも、幕末の武家娘ヒロインより、はるかに行動は自由なのです。

このありのままの中世をやろうという試み。視聴率的にはむしろマイナスかもしれませんよ。あくが強いですからね。

それを敢えて挑む今年のスタッフは本当にえらい。

毎週書いている気がしますが、本当に脱帽ものです。

大ばくちをしているのは真田昌幸だけではない、スタッフもだということを、私は今週も主張します!


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