いよいよ「真田幸村」が誕生し、大坂に入ります。
この季節だと消化試合にもなりそうな秋の大河ですが、今年は大坂編の新キャストにも注目が集まっているようです。
さてこんなニュースが。
本作が傑作かどうか評価はまだ定まりません。
しかし、役者さんにとって極めて幸せな作品であったとは言えるでしょう。草刈正雄さんがこんなに幸せならば、本作の存在意義は確かにあったと言えます。
そしてこちらのニュース。
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まとめられてた笑→小4、学校で評価されなかった自由研究「真田の秘密」をNHKに送ったら制作統括からお返事が届いて大喜び「好きなものの研究って大事」 #真田丸 - Togetterまとめ https://t.co/mKt0tYBACu @togetter_jpから
— うちゃか (@sayakaiurani) October 11, 2016
これもまた幸せなニュースです。
小学生が本作にどっぷりとハマっています。
大河ドラマという番組に対する希望です。この子のような少年少女こそが、未来の大河を支えます。
そうしたファンを育てているのですから、本作はやはり意義がある。
そして屋敷Pの誠意あふれる、相手を子供ではなく視聴者として回答する態度は本当に素晴らしいと思います。
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大坂城へ浪人が続々と 「烏合の衆」と侮る家康だったが……
本編です。
信繁改め幸村は、大坂城に入り徳川と戦うことを誓います。
髭のせいか、毛皮のせいか、すっかり昌幸に似てきた幸村。周囲の者たちも決意を祝します。
特に印象的なのはきりで、「苦労は大好きですから!」とにっこりします。
大坂城には多くの牢人たちが集まってきました。
元黒田家臣後藤又兵衛基次、毛利勝永ら、どの者たちも不敵な雰囲気を漂わせています。
迎えるのは木村重成、大野治長、そして豊臣秀頼もまた笑顔で歓迎しています。
彼はまさに伝承に残る「花のようなる秀頼様」イメージそのもの。華やかで純粋ではありますが、だからこそ脆いとも思えるのです。
駿府の徳川家康は、いかに牢人が大坂に集まろうと、烏合の衆では戦に勝てないと冷ややかです。
そばにいるのは息子の正純。かつては本多正信がぴったりとついておりましたが、交替しています。
この正純、聡明ではありますが父と比べると器の小ささも感じさせます。
家康は、一大名として秀頼を生かしたかったものを、「滅びの道を選ぶとは、周囲にはろくな家臣がいないのだろう」と呆れております。
そんな家康も捨て置けないのが、真田の存在です。
とはいえ、安房守は覚えていても息子の名前は忘れています。
歳のせいか、それとも父はともかく息子は軽く見ているのか。それでも家康は、九度山の見張りを厳重にするよう申し付けます。
あの若々しく輝くような秀頼をみたあと、すっかり白髪になった家康を見ると対比がはっきりします。
しかし、それでもなお家康の見立ては正しいのです。
信繁(幸村)の名前すら忘れていますが、彼の知能は慎重で狡猾なまま衰えてはいません。そこが秀吉晩年との差でしょう。
本作で描かれる家康は、織田信長や豊臣秀吉のような圧倒的なカリスマのかわりに、慎重さがあります。
天下を長く治めたのも、その慎重さと粘り強さがあってのことでしょう。
その頃、兄の信之は跡継ぎ問題で頭を抱えていた
その頃幸村は、真田紐の売り上げが順調だから、祝いの宴をしようと村長の長兵衛に言い出します。
江戸の真田屋敷では、信之が手のしびれが取れず、寝込んでおりました。
病床で信之は、すえの縁談の話を聞いて笑顔を見せます。すえと夫となる石合十蔵はは幸せで一杯です。
真田信之" width="370" height="320" />
信之にとってすえの成長は嬉しいものですが、頭を悩ませている問題がありました。
まずは大坂の動きです。
豊臣の終焉を悟り、信之もまた胸を痛めます。と同時にそれ以上に悩んでいるのが、息子二人のことです。元服も済ませたからには嫡男を決めねばなりません。
しかし、正室の稲の子は信政ですが、こうの子である信吉の方が一月早く産まれているのです。
信政は祖父・本多忠勝ゆずりの武勇を誇っています。
剣術の稽古で、信政は信吉の木刀をはね飛ばし、さらに蹴飛ばして遠くにやります。稲はそんな信政はやり過ぎだ、兄への礼がないと叱ります。
一方、信政に怪我を負わされた信吉は不満です。
彼は弟とは違い、おとなしく、学問を好む性格です。
信吉は伯母の松とその夫小山田茂誠相手に不満を漏らします。こうは信吉に、信政に詫びるよう言います。
傷を付けたものの方が、心は痛むから、とのことです。
この母子は、それぞれ母親にもちゃんと似て見えるのがよいですね。
兄弟の補佐をつとめる矢沢三十郎と、茂誠は二人の今後を話し合います。
月代を剃り、信之の家臣としてこうして過ごしている二人は完全に江戸初期の人物に見えます。
当たり前ではありますが、序盤の彼らとは違います。
そんな二人のもとへ信之がやって来ます。
大坂方との戦いを、兄弟の初陣とすると決めた信之。
信之は病身のため江戸に残り、二人に見守って欲しいと続けます。豊臣には際だった将はいない、小田原攻めのような持久戦になるだろうと予測しますが……。
信之は稲と二人きりになり、大坂の陣について話し合います。
稲は「我が子がいくつ首を取ってくるか楽しみです」と、きわめて戦国の女性らしいことを言います。
もちろん心配もしているでしょうが、ここで「人を殺すことを誇るような人になって欲しくはない」とは言わないところが本作のよさです。
稲はさらに、信吉を嫡男にするよう提案します。
信之はてっきり、稲が我が子の信政を嫡男にすすめると思っていたのでしょう、驚きます。
信之も武芸で劣る信吉が、家内で居場所を失わないようにと同じ考えでした。
そして信之と稲の2人は、大将を信吉とし、稲の養子として嫡男にしようと決めます。
稲は沼田城から昌幸を追い払った時もよかったのですが、しっかりした武家の奥方として振る舞っている今も素敵ですね。あのつんけんして実家から持ち込んだ梅干しを食べていた頃とは大違いです。
このことを信之と稲から聞いたこうは、顔を輝かせます。
こうの、驚きながらも嬉しそうな顔を見ていると、こちらまで嬉しくなります。あの病弱だったこうが、ここまでになるとは。これ以上の喜びはありません、と感涙にむせぶこう。
稲はそんな彼女に、養子にするにしても信吉を取り上げるつもりはない、これからも私たちを支えて欲しいと告げます。
こういう正室と側室が違えに認め、支え合う描き方が見たかったんですよ。
「側室=浮気」のように決めつけ、今の視聴者、特に女性は側室を許せないと思っている制作者もいますが、こうして丁寧に描けばよいわけです。
ちなみに考証担当の先生によると、信吉の母は稲、こう、侍女の三説があるそうです。本作はすべて取り込んだということになるそうです。
超絶技巧です。
成長した三十郎と茂誠、シンデレラストーリーを地でゆくこう、武家の奥方として力強さを見ていると、本作は彼らにとっても「物語」であったのだなあ、としみじみします。
宴を装い監視の目を欺き、九度山からの脱出を計る
九度山の真田屋敷では、宴の真っ最中です。
監視役の浅野家臣の竹本義太夫も同席することに。
そこへ九兵衛という元気な若者がやって来て「大坂に言って徳川ぶっつぶして欲しいなあ!」といきなり言い出しますが、幸村はスルーします。
宴の出し物は「雁金踊り」です。
第十一回でこうが披露したものと同じ。節回しも単純で同じ歌詞を延々と、ユーモラスな振付で踊ります。
そんな中、踊り手である佐助や春が交互にどこかに去り、何かをしています。
緊迫感のある鼓動の音も入り、この宴は策であるとわかります。
ノリノリで踊る幸村を見ていると、瓜売の真似をしていた父親(第二十六回)を思い出します。歌い踊りながら一人、また一人と消えるところは『サウンド・オブ・ミュージック』を彷彿とさせるとか。
義太夫もすっかりできあがって、ひとさし舞うと言い出します。
その前に酒を飲んだ義太夫は、幸村たちが酒ではなく米のとぎ汁を飲んでいたことに気づき、諮られた!と立ち上がります。
長兵衛は、落ち合うとすれば村はずれの寺だと言い、義太夫らと松明を持って捜索へと向かいます。
一方で幸村たちは脱出しようとするのですが、そこへさきほどの九兵衛が連れてって欲しい、近道を知っていると持ちかけます。迷った末、幸村は誘いに乗ります。
義太夫は案内された寺に踏み込み、無人であることに気づき悔しがります。
長兵衛も一枚噛んでいました。義太夫に佐助が一礼すると、彼もまた、一礼を返します。
このあと、幸村もまた九度山をあとにする前に一礼します。幸村一行が逃げ出したら長兵衛にも何らかの処罰がありそうですが、それでも彼は協力したわけです。
駿府の家康は幸村脱出を知り、警戒します。といっても、再び名前を忘れております。
しかし問題は、幸村本人に力があるかどうかではなく、真田の名に価値があるということ。
真田昌幸が徳川を二度破ったということは有名です。その真田がついたとなれば、大坂方は士気を上げるでしょう。
家康の語る策が、今となっては一番含蓄があります。
佐助VS服部半蔵 ニンジャバトルが発生!
入城前夜、真田の面々は、今後についての話し合いを進めます。
春が「私も戦います」というと、幸村は珍しく声を荒げて止めます。
梅のことが念頭にあるのでしょう。こういうさりげない場面に、梅を思う幸村の気持ちがわかります。幸村にとって、春は梅と同じく、失うことはできないかけがえのない存在なのです。
縁側にいる佐助は、通りがかった男を呼び止めます。
男の正体は、初代とそっくりというか同じ役者の二代目半蔵!
ここで佐助VS服部半蔵という、ニンジャバトルが発生!
リーチの短い“くない”や忍刀で戦い、相手を術で欺く戦闘です。
追い詰められた半蔵は「我に秘策あり!」と無駄にエフェクトとエコーを使い、
「全力で! 押し通る!」
と絶叫し去ります……って、伊賀越え(第五回)の初代半蔵と同じかあ!
代替わりしても同じ役者を使うわ、服部半蔵をネタ枠にするってある意味すごいと思います。
加藤清正を暗殺した時は(第三十八回)有能そうだったのに、どうしてこうなった。ちなみにこの半蔵は大坂の陣で行方不明になりますので、今後出番があるかもしれません。
秀頼は幸村の到着を心待ちにしています。
幸村は白髪をつけ「どこから見ても得体の知れないジジイ」(byきり)に変装。
夜間ではなく堂々と昼間から乗り込むのに変装をしているとは、さっぱりわからないと首をひねるきりです。
ここで幸村はきりに告げます。
「参るぞ、きり」
この一言で、きりが労われると言いますか。
幸村は春には一緒に戦おうとは言いませんでした。しかし、きりに対してはこの態度です。
きりは幸村の妻にはなれませんでしたが、唯一無二の「戦友」であり「分身」であると言えます。
彼女こそ本作のメインヒロインであり、最も幸村に近い女性と言えるでしょう。
「私を覚えているか」「拾様と呼ばれている頃から……」
杖をつきながら、幸村は大坂城内へ。
毛利勝永は「随分と九度山で老け込んじまったな」と感想を漏らします。
幸村は途中で厠に寄り、案内しようとされると「勝手知ったる城である」と宣言。
杖を捨て、颯爽とした姿に戻り、いよいよ秀頼に対面しに向かいます。
ここで大坂城を歩く幸村の姿に、昔を思い出しぐっときました。
そうなんです。馬廻りとして彼は、この城を歩き回っていたんですよね。
ちなみにこのときの幸村の変装ですが、山伏のような格好をして誰だかわからないようにしていたという軍記ものの記述と、幸村から小山田茂誠にあてた書状にある「歯も抜けて、髭にも黒いものはあまりないほどです」と書いた記述を組み合わせたものだそうです。
本当に超絶技巧を使ってきますね。
応対した木村重成に、これからは「真田左衛門佐幸村」と名乗る幸村。
そんな彼を見て、明石全登も必ず来てくれると思っていた、と感慨深げです。
すっかり様変わりした幸村に、牢人たちも目を見張ります。大野治長も幸村を見て喜びます。
幸村は、兵が十万人も集まっていると知ります。
そしていよいよ、秀頼との対面です。満面の笑みを浮かべて、秀頼から話しかけて参りました。
「私を覚えているか」
「拾様と呼ばれている頃から知っております」
息子のように可愛がってくれた太閤に御返しをすると述べる幸村。
これもずっと本作を見ていれば、幸村の経歴詐称のひとつに数えられるでしょう。
彼は石田三成や加藤清正のように扱われていたわけではありません。第三十回の形見分けの場面では、秀吉は幸村のことをすっかり忘れていました。
続けて幸村は、父ではなく徳川を打ち破ったのは私だとホラを吹きます。
さらに兵糧について懸念し、堺の港を通じて諸国から集め、城下の徳川屋敷からも取り上げ、十万石分集めようと提案。
自分の有能さアピールも忘れません。
がっちりと秀頼のハートを掴んだ幸村を、治長は憎々しげに見つめます。嫌なフラグが立ちました。
幸村は大蔵卿局に案内され、いよいよ運命のヒトに再会します。
このとき、大蔵卿局が「再び豊臣の世を」と言っても、幸村は無言で冷めた目なんですよね……。
幸村が石田三成の植えた桃を見ていると、彼女はやって来ます。
大坂城の主である威厳の下に、娘の無邪気な笑みを秘めた、茶々です。
また会えましたね、と微笑む茶々。幸村も見つめ返します。その背後には、きらびやかな大坂城の天守閣が見えるのでした。
MVP……真田幸村(殿堂入り)
今回からもう幸村は毎回MVPでよいのではないでしょうか。
昌幸が序盤ずっと殿堂入りで、昌幸を含めてしまうと毎回彼になってしまうからカウントしなかったように、ここからはずっと彼の舞台です。
やっと、やっとです。
このドラマは真田幸村が堂々と舞台を闊歩し、主役として振る舞う作品になりました。
信繁から幸村へ。
誠実で理知的だった信繁から、息を吸って吐くようにホラをふき、しれっと味方まで欺く幸村へ。
今回だけで幸村は何度嘘をついたことでしょう?
そもそも、おそらく彼は大蔵卿局のように「勝って豊臣の天下を取り戻す」なんて思っていません。最後に一矢報いるため、家康に一泡吹かせるため、それだけのために敵も味方も欺くのです。
先週も書きましたが、彼は徹底的にエゴイストになりました。
このエゴイストへの転換が、「真田昌幸の憑依」になっているから、あまり違和感がないのですよ。
一昨年の「平和が好きな官兵衛が突如黒い官兵衛に!」は違和感があったのですが、今年は彼の中に流れていた昌幸の血が覚醒したと思うとさほど違和感はないんですよね。
そういうわけで、このMVPの半分は昌幸のものかもしれません。
「幸」の字を受け継いで、幸村はとんでもなく狡猾で大嘘つきになりました。忠義一色の幸村より、私はそちらの方が好きです。
「息を吐くように嘘をつく」
そんな主人公がバリバリと前面に出たことがよかったな、と。
なんだかもう笑ってしまうというか、こんなしれっと嘘が出てくる嘘つきが大好きだなんて、今年の序盤から真田昌幸の魅力にノックアウトされていたからだと思います。
品行方正じゃないとダメだなんて、誰が言ったのでしょうか。
この味方すらしれっと騙す真田幸村は最高です。
総評
家康はこう言いました。
「徳川を二度破ったという名声が厄介だ」と。
その名声は四百年後まで残り、未だに戦国グッズで売れ行きが芳しいのは真田関係なわけですよね。
いやはや真田の名声が現代まで健在しているって、あらためてすごいことだな、と感心しました。
今週はもう、言葉にならない感はあります。
いろいろと計算したであろう展開がぴたっと型にはまりましたね。
昌幸から魅力的な嘘つき男を描いて来て、ぴたりと今回ハマったわけです。いやはや、お見事です。
ずっと脇役として忍従に甘んじてきた主役が、いきいきと嘘をついて輝いている。これを見られただけでも満足です。
今回からずっと最終回まで、幸村に引きずられっぱなしになるでしょう。望むところです。
こんな素敵な幸村を目の前に出現させてくれてありがとうと本作のスタッフに言いたいのです。
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絵:霜月けい
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真田丸感想