真田広之さんの手掛けた『SHOGUN』がエミー賞を総ナメにして話題になりました。
本物の日本時代劇を世界へ送りたい――。
そんな真田さんの心意気に胸打たれた方は多いと思われますが、一方で「もはや日本の戦国時代を描く時代劇は、日本だけの専売特許ではないのか?」と寂しい気持ちになられたかもしれません。
思い起こせば本サイトのレビューで、私は「大河ドラマ『真田丸』は最高の作品だけど、合戦シーンのショボさは大いに不満だ」と記しました。
と同時に「他のドラマの合戦シーンはどんなもんか?」と改めて思い、いくつかの作品を見比べているうちに、辿り着いたものがあります。
徳川家康と関ヶ原の戦いを描いたBBC版『ウォリアーズ』です。
まずは紹介文を引用させていただきましょう。
世界を動かした6人の覇者の物語。
ヒーロー誕生の“秘話”がここにある!
日本史上最も有名な“関が原の合戦”の勝者、徳川家康。
黄金の国アステカを滅亡に追いやったスペインの征服者コルテス。
無名の陸軍大尉から、トゥーロン攻囲戦で英雄となった若き日の皇帝ナポレオン。
ローマを脅かす巨大帝国を築き上げたフン族のアッティラ大王。
十字軍遠征で名を馳せ、獅子心王と恐れられたイングランド王、リチャード一世。
奴隷の身から数万の反乱軍を指揮し、ローマに戦いを挑んだスパルタクスら、歴史を動かした6人の英雄たちの姿を、ドラマ史上空前のスケールで描く歴史スペクタクル・シリーズ!!
hulu/ウォリアーズ 歴史を動かした男たちより※現在はAmazonプライムでも配信(→amazon)
世界中の英雄たちがラインナップされたその中に、徳川家康も堂々、名を連ねているではありませんか。
「日本人ならこれは見るしかないんでは?」
ということで今回はそのレビューをお送りしたいと思います。
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アジア唯一の代表! 徳川家康は如何なる存在か
「時は16世紀、イギリスではエリザベス一世の時代。日本は熾烈な内乱の時代——サムライの時代だった」
本編はこのナレーションから始まります。
イギリスの視聴者に向けた丁寧な時代背景の説明です。
井伊直政らしき人物が駆け回り、馬印がはためく中、ぶつかりあう侍たち。
この時点で妬ましさが湧いてきます。
気になるのが侍の説明で、「日本の騎士。戦と名誉に生き、忠義に殉じる」とのこと。
鳥居元忠らしき人物が、迫り来る敵を前に刀を抜く素晴らしい映像が挟まれ、思わず悔し涙が出そうです。
「これは偉大な侍の物語。その偉業はシーザーやナポレオンに匹敵する。彼は250年に及ぶ支配の礎を築いた。その哲学は現代に至るまで日本を形作ってきた」
徳川家康についてそう説明される中、切腹や刀の素振り場面が写され、これがイギリス人の考える最高にクールなサムライプロモーションビデオか、と感慨深くなる。
家康はナポレオンやシーザーに匹敵すると日本人が言おうものなら「いやいや」とツッコミが入りそうですが、BBCが言うならワールドスタンダードではないでしょうか。
もしかして日本人が最も家康を過小評価しているのかもしれません。
さらにここで関ヶ原が「史上最大の合戦」と表現されていますが、侍同士が会戦したという意味では間違っていないとも思います。
家康の戦略は「型破りの決断」と表現されていました。
どうやら「決断」の中身が重要なようです。
ここで今回のサブタイトルが登場!
“SHOGUN”
この「将軍」こそが、イギリス人受けするジャパンクールのようです。
思い起こせば1980年のこと。ジェームズ・クラベルのベストセラーをドラマ化した『SHOGUN』という作品が大ヒットし、それが原作として真田広之さんの作品へ伝わったわけです。
「ショーグン」という単語は海外でも定着。
「究極のサムライ=ショーグン」という印象ができあがったのでしょう。
織田信長と豊臣秀吉は、海を越えたらインパクトが弱くなると思います。
いくら日本で「三英傑」としてリスペクトされていても、世界へ一歩出てしまうと、ショーグンではない二人に対しては興味が薄れるからです。
クールなサムライ家康が歩む、SHOGUNへの道
タイトルが出たあとは、アバンが終わり本編です。
徳川家康を演じるのは日系米国人のジェームズ・サイトウ氏。
言うまでもないことですが本作はBBC制作ですので、基本的に登場人物は英語で話します。
日本のセットで日本の話であるのに、英語で話すというのはなかなか面白い。
すると「本作は歴史家の助言を元に、史実を基にして制作されている」との旨、断り書きが入ります。
まず発端として説明されるのが、秀吉の遺児・豊臣秀頼です。
ちなみに「若君」といった呼びかけは英訳されていますが、「太閤」はそのまま「タイコー」とされています。
秀頼のみならず、「太閤の忠実な家臣・石田三成」も登場します。
装束の時代考証は大河ほど厳密ではないようで、三成や家康はこの時代にしては古いものを着用しています。
家康も「日本最大の大名(ウォーロード)」として登場。
五奉行、五大老といった細かい説明は大胆にカットされます。
考えてみればイギリスの視聴者はそもそもここまでの歴史はあまり知らないわけで、思い切った背景削除、単純化は大胆でよいのではないかと思います。
日本の視聴者は不満かもしれませんが、そもそもこれはイギリス人向けなのです。
大胆な改変といえば、一目見て伏見城ではない城で撮影しているのですが、だからこそ城を背景に綺麗で豪華な絵作りに仕上がっております。
考証は甘いのに、あふれでる潤沢な予算の香りは止められない。大胆なカメラワークと脚本のセンスも光ります。
邪悪さが8割増しにされた織田信長
イギリス人の考えるクールなサムライ要素も満載で、チャンス到来と悟った家康が真剣で素振りをする場面もあります。
そして家康の独白が入ります。
「忠義を重んじる武士でありながら、背こうとする私を卑劣と思うだろうか? だが誰に対する忠義か? 国か、主君か、一族か? 忠義について話そう」
過去を回想する家康。
その過去とは、嫡男・松平信康の切腹事件です。
あくまでBBC版ですので織田信長も「有力な大名」とされ、名前は省略されます。
そして信康、無念の切腹。
さらに信長の要求が「嫡男を切腹させろ、そうしなければ一族皆殺しだ」と、邪悪さが八割増しほどにされています。
本作の侍は史実以上にエキセントリックな行動を取ることもあるのですが、海外から見た武士道がどうしてそうなったか、そこを考えていくのもまた面白いかと思います。
ここで家康が振り回した刀は、信康の形見であると語られます。
忠義は何か、そう苦い思いを呼び覚ますために、家康は刀を常に手元に置いている。
私たちの知っている家康とは何かが違う……しかしこれはこれでクールだ!
そしてこの場で父の刀を受け取るのが、血気にはやる跡継ぎ・徳川秀忠です。
「次は私も戦に、もう子供ではありませぬ」
そんなやる気を見せる秀忠に対し、家康は「戦に必要なのは策だ。慎重に振る舞え」と釘を刺します。
「秀忠、お前は天の賜物。お前は信康が亡くなった年に生まれた……」
言われてみればそうでした。本作の家康は優しい父親なのです。
「だからといって一生真綿にくるんでおくと?」
反発する秀忠。こんなアグレッシブな秀忠、見たことがなかった気がします。
家康は信康の死がトラウマになっていて、秀忠はそんな過保護な父に反発するというシナリオ。なかなか斬新だ!
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