剣豪・忍者

【ガチ甲冑合戦】織田軍vs伊賀忍軍のサバイバル戦を現地からリポート!

戦国時代の戦闘法を究明しながら当時の戦いを再現する――。

「ガチ甲冑合戦」が『ともいきの国・伊勢忍者キングダム』(公式サイト)で2019年11月10日に開催された。

本サイトでも過去に二度取り上げさせていただいているが、いずれも文献からはわからないリアルな情報が抽出される貴重なリポート。

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早速、現地からお届けしよう。

 

甲冑武士による弓術は独特な射法が用いられる

合戦会場となった施設は、常設ランタン2万個で日本一となったり、戦国時代にも食された「猪、鹿、狸(穴熊)肉」の鍋料理をレストランで提供するなど、特色のあるテーマパーク。

夕方5時以降は入場無料で2万個のランタンとイルミネーションに灯される幻想的な空間だ。

ガチ甲冑合戦や歴史イベントに理解があり、今回の開催に至った。

ともいきの国 伊勢忍者キングダム

当日午前、まず『日本甲冑合戦之会』代表の横山雅始による戦国体感セミナーが、同施設内の武徳館道場で開催された。

戦国時代の弓の射法や刀や槍の操作法に戦闘方法、当時の石を使った武器(インジ)の製作法や投げ方、さらには陣形の組み方など。

一般的には知られていない当時の戦闘法を解説していく。

特に弓については、現代の弓道や時代劇などで一般的に知られている射法とは違い、兜や陣笠、刀の柄などに弦が当たらないように斜め弓を臥せ、射手も体重を後方に置いて身を低くして敵に狙われないような射法となる。

弓戦

槍や刀についても時代劇などで見る操作法とは根本的に違っている。

戦国時代の槍の柄は固い木材の芯に、薄くした竹を巻いて漆などで固めて制作したと考えられ、剛と柔の組み合わせで非常に丈夫かつ、よくシナる。

例えば以前、代表の横山がテレビ番組に出演した際、二間柄槍での破壊力を、ある物理の専門家が計算したことがある。

結果、破壊力は約2tに及び、甲冑武者にも十分に重傷を負わせることができるほどだった。

前述のとおり、シナリと強度が抜群の当時の槍は、叩けば大きな破壊力を生み出すのである。しかも、大きく振り上げて叩く必要もなく、肘と前腕の操作で僅かに振り上げて打ち落とすだけでも十分な破壊力を得ることができた。

叩くと凄まじい破壊力がある

 

戦場の槍は叩くもの――では刀は?

では突いたらどうか?

槍なんだから、そもそも突くものだろう――と思われがちだが、実は扱いが非常に難しい。

叩くためのシナリが、突きにおいては命中精度を下げるのである。敵味方の兵士たちが激しく動きあう戦闘中、ピンポイントを狙うのは至難の業だと言っていいだろう。

しかも突きは、叩く破壊力と比べて、威力も小さい。
ゆえに槍は叩いて使うものと理解されているのだが……甲冑を着けていない平時の状態であれば、突きでも十分に有効。軽く当てるだけでも重傷を負わせることができる。

したがって、戦国時代は甲冑を着けた敵に対して、まず叩いて敵を弱らせ、接近してから槍を繰り戻して短く持ち、鎧の隙間を突く、あるいは組み付いて短刀でとどめをさすということになる。

槍を短く持って鎧の隙を突くか、あるいは敵を組み伏せ短刀で……

槍が重宝されるのは、対人だけではない。

防壁や置楯、あるいは竹束に柵など、敵の防御施設やツールを破壊するためにも有効で、それゆえ槍足軽の集団で長槍を振り下ろすのは非常に有効な戦術であった。そもそも防壁を破壊しなければ、味方は敵の拠点へ突入できないのである。

これに比べ、意外と出番の少ないのが刀だ。

見た目は絵になる刀同士の戦いだが

当時の軍忠状を集めた研究結果の資料から、刀は殆ど活躍していなかったことが読み取れる。
我々もガチ甲冑合戦を通じて、出番がないということを十分に経験してきた。

槍同士で戦い、間合いが詰まってくると組討ちとなる場合が多いが、その瞬間に長い刀を抜くより、短刀で刺す方が断然早いのである。操作性のよい鎧通しが便利なのだ。

とはいえ、刀の活躍する場面がなかった訳ではない。
狭く複雑に壁や柵がいりくむ砦内や屋内では、長い槍よりも脇差しや刀の方が操作性が良くて有効だ。

そこで、今回のガチ甲冑合戦では、狭い砦内や屋内での戦闘に重きを置いて、刀での戦いをメインにしてみることにした。

なお、江戸時代になり平和が訪れると、剣術の流派が多数発生、刀を両手で操作することが主流となる。

しかし、戦国時代の刀は、中心(なかご)の短いものが多く、片手で操作するほうがバランスをとりやすい。ゆえに槍などの長柄武器で攻撃される面を小さくするため横向きに構え、片手で操作する方が防衛面でも有効かつ機動力が損なわれないのであった。

 

合戦飯で腹を満たし いざ合戦へ

伊勢忍者キングダムのレストランで、おにぎりや猪肉の佃煮などの「合戦飯」を馳走になり、腹ごしらえが済んだら、いよいよ合戦。

今回のガチ甲冑合戦は、鎧の前後にゼッケンをつけ、ここに攻撃を受けたら変色するようにした。
色が変われば負け――そんなサバイバルゲーム的な要素を含んでいる。

例えば、弓隊が放つ矢の先や、刀、あるいはインジ(石を布で包み紐をつけ腰にぶら下げる)は安全な素材で製作されており、それでもゼッケンに当たると変色するようになっている。

この日は計3回の合戦を行うこととし、織田軍の視点からレポートをまとめてみた。

対するは伊賀忍者軍団。
彼らの砦の前方に陣をはり、戦闘は織田軍の銃撃から始まる。

銃による攻撃の後は、両軍の弓隊が放物線状に矢を放ち、置楯を越えて矢が空中から降り注がせた。

前述の通り現代の弓道とは全く違う姿勢で行う当時の弓術。射手は腰を引き、後ろ足に重心を置いて姿勢を低くし、弓は斜めに傾けて、自身の冑や陣笠に弦が引っ掛からないようにする。

この姿勢は矢の角度や高さを自在に調整できるだけでなく、物陰に隠れることもでき敵の攻撃を受けにくい。

 

武将と足軽の織田斥候部隊が全滅!

弓矢の応酬が終わると織田軍の長槍隊が魚鱗の陣を組んで突入。伊賀忍軍の防御壁や置楯を長槍で叩いて破壊すべく何度も波状攻撃を繰り返した。

しかし、伊賀忍軍の置楯による防御壁は思いのほか堅牢で、織田軍の長槍隊は、なかなか突入口を開くことができない。

置楯を守る伊賀忍軍

しばらく攻防を繰り広げていると、盾の防御が僅かに崩れる。と、その隙間をめがけて織田軍が突撃!

一気に砦内に侵入したが、その先にも大楯が何枚もあり、複雑に配置された升形門に似た防壁があった。

こうした場合、少人数でユニットを組んで注意深く前進しようとするより、大勢で勢いよく一気に攻めこむほうが効果的で犠牲も少ない。

伊賀忍軍の弓兵が残留して至近距離から弓を放ってきたが、前方を素早く横切る敵を狙うのは困難で、矢は体の横をかすめて飛んで行った。

伊賀忍軍の3倍近い人数の織田軍は、総攻撃による力攻めで一気に押し進んだ。
伏兵は意外と少なく、短時間で織田軍は本陣前の庭に制圧、一旦その場で陣形を整え、本陣への門を潜り抜けるための作戦を練る。

本陣として今回利用する建物は、刀剣達が主役の某映画の本丸として映画で使用された「伊勢忍者キングダム・ともいき劇場」だ。

まず先鋒隊の足軽5名と武将1名を先行させ状況を確認し、もし戦闘が発生すれば応援部隊を投入して、門を守る伊賀忍軍を制圧する作戦を立てた。

先鋒隊がゆっくりと前進。
門前は狭く複雑に入り組んでいて後方隊からはその様子を確認できない。

戦闘音どころか物音もほとんど聞こえなかったにもかかわらず、僅か数分で先鋒隊の武将が全滅と叫びながら駆け戻ってきた。一瞬のうちに作戦変更をせざるをえない苦境に織田軍は陥った。一瞬で先鋒隊が全滅するとは予測外だったのである。

 

伏兵を配する伊賀忍軍に織田軍は翻弄され

作戦の立て直しを迫られた織田軍は、門を守る敵兵が多いと判断し、陣形を密集隊形に代えて一気に突入することにした。

いざ突入してみると敵の伊賀忍軍は殆ど門の周辺に潜んでおらず、彼らの姿を発見することができない。伊賀忍軍は門やその周辺に当初は多数の伏兵を置き、織田軍の先鋒隊を全滅させると素早く門の守備を捨て、本陣へ撤退したのだ。

そこで、織田軍全員が伊賀忍軍本陣の屋敷前入口に集結した。

扉は狭く1人か2人ずつしか入ることが出来ない。

壁に一列になって張り付いた織田軍は、扉を一気に開き、中の様子を前方の二人が注意深く観察した。

敵の忍者を発見できない。
数か所に設置されたL字型の壁の裏に数人ずつ潜んでいるに違いなかった。この壁を全て突破すると目的の宝箱に到達し織田軍の勝ちとなる。

本陣で壁に潜む伊賀忍軍

しかし敵の忍軍はインジ(投擲武器)を各自保有している可能性が高いし、ここぞとばかりに織田軍を待ち構えている。リスクを抑え新調に事を運ぶなら、織田軍は5人ずつのユニットを組んで、L字型の壁に隠れた敵を注意深く確実に制圧し、後続の味方を呼ぶのが正しい選択だ。

ただ……。
そんな手間のかかる方法を行う時間が織田軍には残されていなかった。

 

砦や城攻めは十倍の兵力が必要

2隊に分かれ、それぞれが一列長蛇の陣を組んで一気に突入した。

邪魔な壁は倒してしまえと体当たりで壁を破壊して前進を試みる者もいた。

実戦的な方法としては正しいが、壁を倒すのは危険なため禁止事項となっている。とにかく織田軍は人数に任せて力攻めを試み、伊賀忍軍はこれを阻むべく壁の陰から攻撃を加えた。

伊賀忍軍の中にはインジを分銅鎖のように使う者もいた。
たしかにインジは石や布や紐だけで簡単に作れて、投げるだけでなく刀より有利な武器として役立つ。

乱戦が暫く続き、織田軍は相当数の兵力を失った。

必死で宝箱にたどり着いた織田軍ではあったが、周辺に伊賀忍軍の残存兵がいないか?と気の抜けない状況であり、3倍近い兵力がありながらかなりの苦戦。

狭く複雑な構造の砦や屋内では、長柄武器の槍は操作しづらいため、刀や脇差そして手槍での戦闘となる。また立て籠もる側が、飛び道具や投擲武器を隠れて上手く使用すれば一人で多人数を倒せるのである。

史実における【天正伊賀の乱】でも、強大な織田軍が小勢力の伊賀に煮え湯を飲まされ、最終的には大兵力を導入せざるを得ない展開になっていた。

砦や城攻めは十倍の兵力が必要――そう云われる理由を実感できる合戦だった。

文:横山雅始
日本甲冑合戦之会・代表
国際武術文化連盟・代表
ガチ甲冑合戦・主宰

【協力】
日本甲冑合戦之会 / ガチ甲冑合戦(公式サイト
『ともいきの国 伊勢忍者キングダム』(公式サイト
夜5時~無料入場・ランタン2万個・和の異世界

 



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