弘治2年(1556年) ――。
斎藤道三、長良川にて討死。
明智一族は、道三を撃破した斎藤高政(斎藤義龍)に追い詰められてゆきます。
光安、城と命運をともにする
叔父である光安から家督を譲られ、新たなる明智家の当主となった光秀。
生き延びて、再び城を持つ身になって欲しいという叔父の願いを胸に、窮地におりました。
光秀は、叔父の忘形見となる明智左馬助とともに激戦の最中から抜け出し、尾張をめざそうとします。
ここで駒と菊丸が駆けつけて来て、尾張は無理だと告げます。
本作は【廟堂(為政者)】と【江湖(民衆)】の連携が見事なもの。駒が不要だのなんだの言われますが、彼女からの情報提供なしでは光秀は生き延びれなかった可能性は高い。
こういうことって実は大事。
「史実だけを追いかけろ!」
という姿勢ですと、民衆の提供する情報が抜け落ちてしまいます。
武将なり、為政者は、民草の動きを見て自らの行動を決める。かまどから立ち上る煙を確かめてこそよき為政者、お客様カードに目を通してこそよき店長です。
もちろんNHKだって「みなさまの声」を参考にしているわけです。そういう意味で、光秀はとてもセンスがある人物です。
光秀は、母の牧、煕子を導きつつ、逃げ延びようとします。煙で周囲がぼやけ、桔梗紋の旗印が燃え尽きてゆく。
左馬助は、父は城の最後を見届けるのだ、そなただけは逃げろと言ったと語るのでした。
牧は愕然とします。
「光安殿は……ああ……あの城に!」
大事な人の死に、慣れることはできない。嘆く母に「行きましょう」と言うしかない光秀。感極まった顔で、一礼するのです。
「エエヤアエエ! エエヤアエエ!」
そう声をあげる高政勢が迫る中、光秀たちは落ち延びてゆくのでした。
山中で出会ったのは伊呂波太夫
雷鳴の中、森を落ち延びる一行。少人数とはいえ、大変な状況になって来ました。
「捜せー!」
「はっ!」
落ち武者狩りが出ております。高政は本気で光秀たちを殺すつもりのようです。
そこまで怒ったわけですか。親友を殺すというのは苦しいでしょうが、そこまで高政は吹っ切ってしまいました。
そしてこの逃げる場面ですが、きっと最終回でもこの場面を思い出すのかもしれない。そんなところではあります。それが今年中か来年になるのかはわかりませんが、見られる時が来ると私は思います。ただの気休めでもなく、本気でそう思えるのです。
ここで、目の前に山伏のような連中が出て来ます。
伊呂波太夫です。
「明智十兵衛様……」
尾張の帰蝶様から、明智家の人を助けるよう命じられて来たと伊呂波太夫は言います。
「もはや逃げ道はひとつしかない……」
行き先は越前。抜け道があるそうです。山伏がそういうものを把握しているのでしょう。
太夫、あんた一体何者だよ!
そう何度も言いたくなる、まずは一回目。駒は太夫は親しいお方だと口添えをします。
「参りましょう」
光秀の性格としては、伊呂波太夫をホイホイと信じたかどうか、ちょっとわかりません。駒がいればこそ、この救出劇がスムーズになったわけです。
そして一行は、ボロ家にたどり着きます。
「明日は越前へ入ります。今夜はここで休みましょう」
伊呂波太夫は駒ちゃんはじめ皆を休ませ、食料調達に向かいます。左馬助を同行させるあたりが細かい。目立たないけれども、父に似た律儀な青年ですね。
美濃から越前へのルートは帰蝶が用意した
越前に入ったら朝倉様の元へ参ると言われて、光秀は伊呂波太夫が気になって来ます。
「駒殿……一度、道三様の大桑城ですれ違たことがある。どういう人か?」
そうそう、美濃から越前へのルートは、帰蝶が道三を逃すために確保させたものです。いきなりの思いつきではありません。
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駒は旅の一座の方で、姉のような方だと語ります。信頼できるとは思うけれども、やはり正体がわからないといえばそうです。
そしてもう一点、光秀は極めて真面目です。駒を軽んじず、あくまで丁寧に接しています。年下の女性で身分も低い相手でも尊敬する。そこが光秀の魅力ですし、長谷川博己さんの長所を出しているところだと思うのです。
横暴だったり、スカした役も悪くはありませんが、こういう端正な役を演じて、彼自身、生まれ故郷に戻ったような安堵感もあるんじゃないですかね。素顔の延長を見せられる照れ臭さと、安堵感と、喜びもあるんじゃないかなと。
ここで侍女の常が、煕子の腕の怪我を見つけて声をあげました。
「奥方様、そのお手をどうされました」
「お気になさりますな。藪を抜けた時、トゲに触ったのでしょう」
とはいえ、結構な大きな傷になっています。
駒は断りつつ、腕の治療を施す。血止めの膏薬を菊丸に取ってもらうのでした。そのうえで、駒は光秀に水を汲んでくるように頼むのです。
駒は役立つなぁ。やはりこういう時は医術を知る者が欲しい。
水を汲む光秀に菊丸はソッと近づいてきて言いました。
「越前はよい国と聞きますよ。海もあって山もあって」
そしてこう残念そうに続けます。
駿河の薬屋で仕事を見つけた。お駒さんに頼まれて、店に4~5日休むと言って来た。それがこう長くなるとは。駿河に戻ろうにも、お駒さんが心配だと言います。十兵衛様がいるから案ずることはないとはいえ、怖いもの知らずなことがあると不安そうです。
「あとでお伝えください。わしはどこまでもついて行きたかったと」
「どこまでもと、伝えればよいのだな」
「はい」
光秀に伝言を託し、菊丸はひとまず退場します。
美濃の恩人とは父の光綱だった!?
駒は煕子の手当を終えました。
明日様子を見ると告げると、煕子に何故私たちを助けてくれるのかと聞かれ、駒は答えます。
「以前、美濃で明智の方々にそれをよくしていただき。戦と聞いて何かできることはないかと」
それから、美濃の恩人の話をします。あるお方が命の恩人なのだと。
三つだった時、戦で焼けた家の中から助けてくれた方。立派な方。麒麟のことを話してくれた人のこと。
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ここまで聞いて、牧がハッとしています。
戦は終わる。麒麟を連れてくる人が、必ず現れる――。
「駒さん、その話! その話、そなた腕にその時の傷がありますか?」
牧が驚いて聞いて来ます。逃げる途中、火の粉が飛んできて腕についた。牧がそう聞いて来ます。
何故牧様がそれを? 駒が不思議がります。
亡き夫・光綱様が話してくれたこと。土岐様のお側について京に登る折、火事にあった。燃え盛る家の中にいた小さな女の子を助け出し、旅の一座に預けたのだと。
ずっと気にかけていて、京に行くたび探していた――その女の子が見つかったのです。
「光綱様が……亡くなられた光綱様が……ではもう、お会いしたかった。お会いしてお礼を言いたかったのに……大きな手の人にまたお会いできると思って、ずっと捜して来たのに……」
「駒さん! 私はうれしゅうございます。光綱様の言葉をそなたから聞けて。私も信じます。いつの日か、必ず戦は終わる。麒麟がくると……」
光秀は、そんなやりとりを聞いていました。そして外に出て、叔父・光安の言葉を胸に刀を振り始めます。
一旦城を離れて逃げよ!
逃げて、逃げて生き延び、明智家の主として、再び城を持つ身になってもらいたい!
明智一族の誇りを胸に抱き、思い出しつつ、刀を振る光秀。
武士の誇りを忘れぬ男――キャストビジュアルで光秀はそう語られています。先週、光秀は道三を「揺るぎなき誇り」があると言いました。
誇りとは何か?
そのことをこの作品は体現してゆくのでしょう。
そういうことを、ニュアンスを、考えつつ刀を振らねばならない。そんな光秀の思いが光ります。
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争いとは無縁の綺羅びやかな都市・一乗谷
光秀の一行は、北の越前へ。
朝倉義景が治めており、畿内の戦乱をよそに確かな繁栄を築く国と紹介されます。
市場には越前蟹、そしてきらびやかな扇が売られています。堺や尾張の熱田よりも、上品な印象がありますね。
そして伊呂波太夫とともに、一乗谷の朝倉館に光秀はやって来たのでした。
インテリアも上品ですし、庭もお綺麗で。やっぱり、セットからして気品があるんですよね。道三や信長よりもお上品に見える。
足音を響かせて、視聴者が大注目の朝倉義景が登場します。演ずるのはユースケ・サンタマリアさんです。
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出て来た瞬間から彼独特の気配が出ていて、もう卑怯だと言いたくなるくらいお見事です。
これは演じるユースケさんがすごいということは言うまでもないのですが、演出をきっちり切り替えている、そういう没入感もあってよいものです。誰かが伸び伸びといきいきと仕事をしているというのは、とてもよいことです。
「この朝倉家へよう参った。面をあげよ」
そう言いつつ、太夫に不満があると言います。
伊呂波太夫はサラリと、待ちぼうけて居眠りをしようかと思っていたと言うのでした。太夫は一体何者なのよ!
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