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【麒麟がくる第18回】
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義景に藤孝から手紙が届いていた
「近衛の姫君は顔を出さなんだか」
義景がそう聞いてきます。
どうやら近衛稙家の娘、近衛前久(演:本郷奏多さん)の姉妹、義景の継室ですね。
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伊呂波太夫はふてぶてしい様子で、この芸人風情が近衛家の養女だったとなどゆめゆめ申すはずもないと言い切ります。その物言いもよう似ていると義景はうれしそうにしております。
そして伊呂波太夫はなかなかえげつないことを言う。
朝倉家に嫁いで数年、まだ子を為されぬ。義景様がいつ近衛家にお返しになるのかと、頭を悩ませているのではないかと聞いてくるのです。
義景は近衛家から探りを入れるよう言われて参ったかと、ちょっとおもしろそう。伊呂波太夫は家出娘に探らせるほど落ちぶれていないと言い切ります。だから太夫は一体何者なのよ!
本当に本作って【江湖】側の人物の使い方がうまい。
歴史に名を残さないからこそ、自由に動かせるし、正体が気になってしまう。菊丸の正体だって、さんざん引っ張ったわけです。駒を助けた大きな手の人だって、そうしてきたと。
こういうロングパスを投げることで、物語をおもしろくするのは歴史ものの定番技法だとは思うのです。
教科書や『信長の野望』攻略本に掲載されている人物以外は出すべきではない、そんなルールはそもそも存在しません。
伊呂波太夫や駒をいらないと言い切るというのは、どういう考えなのか。クソレビュアーとしましては、理解の及ばぬところでございます。むろん、どんな意見を持とうと、そこは自由ですが。
伊呂波太夫は、明智光秀を匿って欲しいという願いを告げます。
すると義景が、一通の書状を目の前に投げました。
差出人は細川藤孝――どうやら同じ文を大量にあちこちへ送っているそうです。明智というものが美濃より落ち延びることがあれば、よしなにとりはかられたい。
律儀で情熱的です。藤孝本人の明智への情熱は極めてよい方向に出ております。が、藤孝さんのご子息から光秀さんの娘さんに向かうものとなると、いろいろありますようで……。
藤孝さんの息子が見たいかーッ!
光秀さんの娘さんが見たいかーッ!
エイエイオウ!
やはり、本作は打ち切りなんてないと思わないといけませんな。そこまで見届けないと!
日々穏やかに過ごしたい
さて、そんな藤孝の訴えを知りつつ、義景は面倒臭そう。余計な争いに巻き込まれず、日々穏やかに過ごしたいってさ。
「あの藤孝さんがそこまで情熱を込めて守りたいなんて、きっとスゴい人なんだ!」という方向性に向かわないんですよ。
これは光秀と信長の初対面と比較してもおもしろいとは思います。
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義景は好奇心が旺盛でないと言いますか。自分の知っている範囲のことだけで満足できるタイプとみた。
「楽しければいいじゃない……」
万事、そういうタイプなのでしょう。
そういう性格の人物のことを、斬新だとみなす意見もある。いちいち意識の高いことを考えずに、楽しいからやりたいことをやるっていいじゃん♪ そういうノリ。
それ自体は別に斬新でもなく、今時のナウなヤングの感覚でもないと思うのですが。この義景、そこまでクールで斬新でカッコいいと思います? ユースケさんは名演技ですけど。
伊呂波太夫は、光秀が織田家の奥方・帰蝶様の縁者だと念押し。もしも美濃が越前を攻めたら、尾張が美濃を背後から刺すと説明します。
義景はここで聞いてきます。
「太夫が申したことはまことか? そちのために尾張は動くと思うか? 答えよ」
「私に尾張を動かすほど力はございません……」
光秀はそう答えるだけで精一杯です。
「ふむ。このまま美濃へ返すわけにもいくまい。しばらくおればいい、そなたは運がよいぞ、この一乗谷は安楽の地だ」
義景はわかりにくいというか、普通の人なのでしょう。どういう思考プロセスでそうなるのか、出てきた中でもよくわかりにくい人物だと、私には感じられます。はっきり言いますと、こういうタイプは苦手なんじゃ……。
バカ殿でも悪人でもないがストレスも溜まる
なんだろう? 本作の朝倉義景は空っぽの器のような人。
ユースケさんご本人もこう語っています。
そんなキャラクターですから、僕もどう演じようか、迷いながら演じたら監督から「良かったです!迷っている感じがすごく良かった!」と。芝居って、何が正解なのかわからないですね(笑)。
道三や信長のように、芯がシャキッと通っている感じがない。見ていて不穏な気持ちになるかも。安定感がないものが机の上にあると、なんだかストレスが溜まる。そういう何かがある。
バカ殿とも思わない。悪人でもない。ダメだとも言い切れない。
ただ、不安定だ。
伊呂波太夫が「古の都を見るようだ」というほどの立派な領地運営をしているわけだけれども、つかみかねるんだなぁ……。ユースケさんはそういう人物像をうまくつかんでいる(のか、つかんでいないからこそなのか)。ピンクでどこかファンシーな衣装も、ぴったりハマっております。
義景はこう言い出します。それに対して、光秀はこうだ。
「そなたは金がいるのであろう?」
「は?」
「さしあたって今日の米代にも困るのであろう?」
「それは……」
「くれてやろうぞ」
「……それは頂けませぬ」
「ん?」
「頂く理由がござりませぬ」
「そうか」
光秀が全然心を開かない。道三相手には「ケチ!」と罵りつつ、心を割って話していたのに、不器用だなぁ、光秀よ。
なんとなくゆるっともらうとか。くれるものなら病気以外全部もらうと言い切るとか。借りは返すと念押しするとか。何か技能を発揮するとか。
そういうこともできるだろうに、光秀はできないのです。
これも、このあと生きてくるんでしょうね。不器用ゆえに、信長を止める方法が【本能寺の変】しか思いつけない光秀って、圧倒的な悲しみがあると思う。そういうフックは出てきてますね。
自分が世話になれば帰蝶や藤孝の迷惑になる
義景は怒るわけでも、怪しむわけでもなく、太夫に酒でも汲もうと言い切るわけです。ゆるりとしていけと。
そんな義景ですが、伊呂波太夫相手の言動を見ていると、なかなかゲスな軽薄さもわかると言いますか。
自分の継室といろいろある太夫と、差し向かいで酒を飲むって、なかなかひどい話です。
伊呂波太夫は子ができないと嫌味を放っていたし、意地悪な物真似もするし、二人揃って近衛の姫君を小馬鹿にしている可能性は感じます。
義景、実はそこまで善人でもないな。
斎藤道三のようなどぎつさはない。
一見善良に思えるけれど、割とゲスい噂話で盛り上がってしまうタイプ。よくいるタイプといえばそうなんですよね。
だからこそ、この義景、面白い!
どの職場や学校にもいるタイプだと想像できちゃう。そういう人をこうもおもしろく描くところが、本作の素晴らしさですね。
このあと、義景との面会を終えた伊呂波太夫は、光秀に対してチクリと嫌味を言います。
霞を食うて生きていくつもりなのかと。くれるというなら貰うておけばいい。朝倉家は国持大名、世話をするくらいどうということはないと。
しかし光秀は真面目です。
私がいただけば、藤孝様や帰蝶様がいただくことと同じになる。心苦しい。それはお受けできませぬ。そう言い切るのです。
伊呂波太夫は「なるほど」と納得しつつ、近衛の姫君の顔を見てくると去るのでした。光秀はそんな伊呂波太夫に「かたじけのうございました」と言います。
「うむ……もっと抉るように拭こう。このまま、ここまでな」
義景は床を拭く部下にそう命じています。大名らしいといえばそうですし、職場で部下にこういう調子で花瓶を飾らせる上司を思い出されると言いますか。
義景は、愚かでも悪人でもないとは思う。太平の世であれば、いいひととして生きていけるのでしょうけれども。
そうはならないので……。
形見の数珠を質に出す
明智一族は、ほぼ廃屋のような家に落ち着きます。
戸をくぐった途端、咳き込み始めます。かまどからは蛇が出てくるし、掃除しようにもホウキすらない。薪だってない。何もないのです。
光秀よ、カッコつけないでお金をもらえばよかったのに……そう突っ込みたくはなりますね。
どうにも不器用なのでしょう。コミニケーションや親密度もあって、道三にはそういうことを頼めたものなのですが。
で、思い出していただきたいのですが。
身分の差はあると前置きしますけれども、今川義元から豪華な料理をいただいても、特に貸し借りでもないと平然としていた松平竹千代(のちの徳川家康)。
初対面の駒にグイグイ迫って、字の読み方を聞いてきた藤吉郎(のちの豊臣秀吉)。
「銭はあるか、銭は?」と光秀に聞いてきて、相手の答えを待たずに金を渡してくる織田信長。
ものの受け渡しをとっても、個性がきっちり出ています。
駒はここで質屋へ行くと言い切ります。
それには質草がいると駒が言うと、光秀はこう言います。
「駒殿、それは数珠ではいけませぬか? 古いものですが」
「それは父上の大切な!」
そうなのです。光秀は父の形見である数珠を出してきました。
「持って行ってくれ。どうかお願いいたします」
そう頭を下げる光秀。煕子はこう言います。
「駒さん、私も連れて行ってください。質屋がどういうところか、私も知っておきたいのです」
「じゃあいっしょに参りましょうか」
そう二人が意気投合すると、明智左馬助が二人を守ると同行するのでした。
光秀の娘を娶り城代を任された明智左馬助(秀満)最期は光秀の妻子を殺して自害?
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