大河ドラマ『真田丸』で草刈正雄さんが演じた姿があまりにも印象的で、今なお全国で高い人気を誇る真田昌幸。
『どうする家康』では佐藤浩市さんが全くの別キャラを演じました。
一体どんな昌幸だったのか? というと……豊臣秀長の前で果物を食い散らかしたり、不適な面構えを浮かべたり、家康やその家臣たちを小馬鹿にするように煽ったり。
草刈昌幸と比べると、かなりの大物感を漂わせていたのです。
しかし、実際の昌幸はあのような態度を取れたのか?
武田家滅亡後の真田家は、上杉・北条・徳川などの大国に囲まれ、言葉巧みに歩き渡り、最終的に豊臣大名の一角となるまで一寸先は闇状態が続きました。
危うい綱渡りの連続であり、表面上は平静を取り繕っていても、内心は恐怖に怯えていたことでしょう。
そんな闇鍋状態の状況で、史実の真田昌幸はどのようにして豊臣政権へ喰い込んでいったのか?
本稿では、真田の苦悩と軌跡を振り返ってみたいと思います。
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天正壬午の乱
真田家は、昌幸の父である真田幸綱(幸隆)の代から武田家の配下に加わった信濃の国衆です。
※以下は真田幸綱の事績まとめ記事となります
信玄の快進撃を支えた真田幸綱(幸隆)子の昌幸や孫の幸村へ繋げた生涯62年
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先祖代々武田に忠誠を誓っていたわけではありません。
ですので天正10年(1582年)に武田勝頼が自害に追い込まれると、真田家は再び従属先のない国衆に戻り、その後、昌幸は織田信長の配下になることを選びました。
大事件が起きたのは、その直後のことです。
【本能寺の変】で信長が斃れてしまい、信濃も再び混沌としてきます。
大河ドラマ『真田丸』では、
「なんで死んでしまうかのう、信長めぇ!」
と昌幸に絶叫させることにより、内心の動揺を表現していました。
『これで近隣の旧武田領を取り放題だのぅ!』なんて余裕の考えは持てなかったでしょう。
その直後に、上杉・北条・徳川という大国がやってきて奪い合いを始めたからです。
いわゆる【天正壬午の乱】です。
【伊賀越え】という危難を乗り越えた徳川家康も武田旧臣と旧領を切り取り、信長配下で関東に進出していた滝川一益は、北条氏直との戦闘に敗北。
そうした間隙を縫うようにして、真田も吾妻領と沼田領を確保しました。
昌幸としてはホッと一安心というところでしょう。
武田滅亡後の領地を奪い合う「天正壬午の乱」徳川・上杉・北条に真田を交えた大戦乱
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沼田領問題の勃発
旧武田領をめぐる争い【天正壬午の乱】で、どうにか家を守ることに成功した真田家。
とはいえそれが刹那の安泰であることは昌幸も痛いほどわかっていたでしょう。
依然として真田は上杉・北条・徳川の大国に囲まれ、その均衡がいつまでも保たれるわけがなく、実際、昌幸は上杉、北条、そして徳川へ、コロコロと従属先を変えてゆきます。
『真田丸』では、この猫の目のようにクルクルと変わる真田が描かれました。
しかし『どうする家康』では北条がほんの少し登場するだけで、上杉はかすりもせず、それだけに真田の立場が非常にわかりにくくなっています。
なんなら昌幸は「唐突に出てきて徳川と喧嘩をしているだけの輩」のように見えるかもしれませんが、むろんそんな無法者なワケはなく、真田と徳川が衝突するには理由があります。
吾妻・沼田領です。
現代の地図ですと沼田市あたりの真田領が、北条へ譲られる、と、徳川が勝手に決めてしまったのです。
真田からすれば到底納得できるものではありません。
近所の大地主が、自宅の庭の一部を勝手に売り払うと決めたようなものといいましょうか。
沼田は、越後と上野をつなぐ要衝でもあり、ともかくそんなことは受け入れられない、もはや徳川には従ってられない。
昌幸は天正11年(1583年)、水面下で上杉景勝と接触しました。
交渉に当たったのは沼田城主・矢沢頼綱です。
そこで出された結論がなかなか不可解なことに、真田昌幸は上杉陣営に入らず、矢沢頼綱が上杉に属するというものでした。沼田だけは上杉に保証してもらうようなカタチですね。
その後、天正13年(1585年)になると、真田昌幸も上杉陣営に入りますが、そこにはしたたかな計算もあったでしょう。
上杉家は、新たな天下人へと上り詰めてゆく秀吉に近い。徳川を見切って秀吉についたほうが旨味がありそうだ。
そんな生き残り策であり、後に徳川とのさらなる対立・因縁にも発展していくわけですが、『どうする家康』では上杉家を完全スルーのため、この辺の流れがさっぱりわかりません。
代わりに秀吉の弟である豊臣秀長が昌幸のもとへ来ていました。
秀長は豊臣政権に欠かせない重臣です。秀吉はそんな右腕である実弟を、わざわざ真田のもとへ派遣しなければならなかったのか。
他に人材は? あるいは書状ではダメだった?
色々と疑念は尽きませんが、そもそも上杉を登場させていないので、こうした無理のある展開となってしまったのでしょう。
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