真田丸感想あらすじレビュー

『真田丸』感想レビュー第47回「反撃」 男も女も生きるために策と嘘を弄する――からこそ魅力ある

 

あまりに出来すぎた和睦条件の上に牢人たちの処遇は曖昧

和睦の条件を持ち帰った阿茶局に、家康たちは有頂天。家康は阿茶局の肩を揉み浮かれます。これは大坂方、つらいことになりそうです。

一方大坂方では、和睦条件において牢人の処遇があいまいであることが不安視されます。あまりにうまい話に幸村は不安を抱き、その場にいたきりに話を聞きます。
ここで堀の埋め立てと真田丸の破壊を聞いた幸村。タイミングよく高梨内記があわてて駆け込んできます!

真田丸高梨内記

果たして幸村と視聴者の夢と受信料が詰まった真田丸は、徳川の兵によって無残にも壊されていました。
愕然とする幸村たちの気持ちがわかるのは、これが我々の受信料だと思えばこそかもしれません。
幸村はどういうことなのかと大蔵卿局に詰め寄りますが、相手は事の重大さをわかっていません。見かねた大蔵卿局の息子・治長は「母上は豊臣を滅ぼすつもりか」と呻きます。

真田丸大野治長

真田丸大蔵卿局

この堀の埋め立てや真田丸の破壊ですが、「堀の埋め立ては上層部が了承の上でなされたが、戦う気のあった牢人にとっては騙し討ちのように感じられた」という描写になっていると思います。徳川方が前触れもなしにいきなり騙し討ちのように埋めたという説ではなく、双方了承の上で埋め立てられたという最新の研究をふまえた描写でしょう。

かくして難攻不落の大坂城は、防衛の要を失い、ただの絢爛豪華な高層住宅と化したのでした。
絶望……その先には絶望があります。
徳川父子は裸の城と化した大坂城を見てあと一歩だと喜びます。あとは相手が和睦を破るよう、仕向けるだけです。牢人たちの処遇をあいまいにし、不平不満を焚きつけるように追い詰めたのも家康の策でした。
「これぞ城攻めよ! わはははははは! わははははは!」

真田丸徳川家康

 

「望みを捨てぬ者だけに、道は開けるとそなたは言った」

幸村ですらもはやもう万事休すと見定め、勝ち目はないと言い切ります。全ては私の力不足と反省する幸村です。
が、再三書いて来たように石田三成と大谷吉継をもってしても救えなかった豊臣、倒せなかった徳川ですからね。仕方ないでしょう。
幸村は残念ながら、この二人にも才能は及びません。父・昌幸譲りの策と戦術は、せいぜい千単位の兵士がぶつかる、山の小城を守り抜く程度のスケールだと、だんだんこちらにも伝わりつつあります。

幸村は牢人に、城を枕に討ち死にするなど考えず立ち去れと言い放ちます。しかしここを去ったところで、もはや行くあてのない牢人たちでした。いわば彼らはやけっぱちでした。牢人の処遇を保証することは、和睦においてやはり絶対必要な条件で、曖昧にしてはいけなかったものなのです。

妻の春と長男・大助に上田へ戻るよう言いつける幸村。その元に、牢人たちが集まってきます。もはや行く場所がない彼らは、勝つためにここへ来たのではないかと幸村に訴えます。
火薬庫は湿気っているどころか、もう火がくすぶっていました。

真田丸春

真田丸真田大助

さらに秀頼も幸村の元に来て、手を執りこう語ります。
「望みを捨てぬ者だけに、道は開けるとそなたは言った。私はまだ捨ててはいない」

ここまで言われたら幸村は応じる他ありません。大坂の城は、再度戦へと動き出します。
思えば幸村が秀頼に語り、そして秀頼が幸村に語ったこの台詞は、第一回で昌幸が勝頼に言ったものと同じでした。そしてこうしてくすぶる牢人が決起することも、すべては家康の策なのです。

 

MVP:阿茶局

第四十五回で、大軍が落とすことができなかった「真田丸」を弁舌ひとつで彼女が破壊してしまいました。こういうことをやられると、いかに策が大事なものであるかわかるというものです。本作で策を多用したということであれば真田昌幸が真っ先に来るでしょうが、相手にとって最も致命的な策を用いてきたということであれば本多正信の方が上ではないかと思います。
そして阿茶局は、まさしく女版本多正信です。
こんな手強いカードが複数ある徳川方に死角はありません。大蔵卿局はおもしろいように墓穴を掘りましたが、たとえ初ときりだけで向かったところで、為す術はなかったことでしょう。

真田丸阿茶局

そして裏MVPはきりです。
前半はトラブルメーカーとして嫌われていた彼女を、頼みの綱として応援することになるとは思いませんでした。茶々の命を救い、和平交渉では体を張った活躍で事態を打開しようとしたきり。阿茶局が女版本多正信ならば、彼女は女版真田幸村であり、本作の裏主人公であったと言えるのではないでしょうか。
そうなると結局主人公と結ばれない異色のヒロインであることも納得ができます。ある意味彼らもまた「ふたりでひとつ」でした。皮肉なことに、実力はあってもなかなか認められず埋もれていたところまで、このふたりはそっくりなのです。

 

総評

序盤、本作のヒロインがブーイングを浴びていたとき、私はこう書きました。
「阿茶局や大蔵卿局が既にキャスティングされているということは、終盤で女性が交渉役として活躍するのではないか。今は鬱陶しくてもこの先それだけではない女性の活躍が見られるのではないか」
まずは自慢させてください。当たりました!
不吉な予言ばかり当ててきた自覚があるので、良かったと思います。それでもきりの化けぶりは流石に予想すらできませんでしたが。

真田丸信繁&きり

本作のこの女性による交渉がおもしろいのは、従来の「優等生的」大河ヒロイン像を逆手にとっているところです。
今回の交渉の場では、阿茶局が見事に猫をかぶって「男が始めた戦に女は巻き込まれるばかりで」と切り出します。私たち女は被害者です、女は平和を愛するのに男はわからない、といういわばテンプレ的ヒロイン像です。それから甘く優しい言葉で、大坂城の防衛施設を骨抜きにしてしまうわけです。
新聞のラテ欄には「阿茶局の尊大な態度」とありましたが、実際に見てみると阿茶局の態度はいつになく柔らかいものでした。それゆえ、いかにも胡散臭いのです。

男が求める癒やしを提供し続け上昇婚を成し遂げた梅然り、お嬢様のようでとんでもない性格だった春然り、膝枕が実は有料サービスだった小野お通然り、本作でやたらと優等生的な態度を取るヒロインには裏があります。男も女も、生きるために策と嘘を使うのがこの世界なのです。

先日『スタジオパークからこんにちは』にゲスト出演した堺雅人さんは、本作には「お嫁さんにしたい女性が一人もいないからおもしろい」と語ったそうです。その通りだと思います。かわいげのない無茶苦茶なヒロインを、ブーイングにもめげずに出し続けた本作は、退屈な大河優等生ヒロインというテンプレートをも、OPのパッカーンと割れる壁のように壊しました。
来年もこの手の強くてかわいげがなく、それだからこそ魅力的なヒロイン路線を踏襲して欲しいものです。そうだ、大河ヒロインが笑顔でおにぎりを握る時代は終わったんだ……!

◆堺雅人と柴咲コウ「柿」と「凧」交換 “大河主役”をバトンタッチ

と、ここまで褒めていて何ですが、女性の扱いについては極端な部分もあります。その筆頭が大蔵卿局です。秀頼や茶々に向かう憎悪を彼女と有楽斎が一身に引き受けている印象があります。損な役回りですよね。
しかし、彼女だけが悪いわけではないのです。なぜここまで豊臣と徳川、女性の差がついたかと言いますと、そこは根本的に権限を持つ男性が、女性という切り札をうまく使えていないからです。

家康には女であろうと実力を見抜く目がありました。
だからこそ、出生はきりと大差ない後家である阿茶局の素質を見抜き、側に置いて鍛えることで、最強の手札とすることができたわけです。後家好みだの、経産婦を選ぶだの言われてきた家康の女性遍歴ですが、頭の中身で側室を選んでいたのだとすればただ者ではありませんね。

女を見る目で言えば、偽吉野太夫に騙された昌幸、営業膝枕が見抜けない信之、きりの持ち腐れである幸村と比較して、本作の家康は抜きんでています。特に幸村に関しては女の扱い方が雑で、なめくさっているからこそ阿茶局のような存在すら想像もできないわけです。
最上級の手札となるポテンシャルを秘めたきりを、あまりにぞんざいに扱い続けました。コーエーのゲームと現実の違いはたくさんありますが、能力値がまったくわからないこともそのひとつです。ゲームと違い現実では、能力値を読み取る側の素質が重要なのです。たとえそれが、女相手であっても。

「女はこわい」
「歴史の影に女あり」
などなどよく言われることですが、むしろ男の女を見る目、使い方次第、ということではないでしょうか。

そしてもうひとつ、堀を埋め立て、牢人を退去させようという考えは、そんなに悪くないのではないか、ということです。
堀の埋め立ては徳川方が勝手に騙し討ちするように埋めてしまったという通説がありましたが、本作では和睦交渉時に条件としてつけられました。

この堀の埋め立てを卑劣と見なしたくなる気持ちもわかります。それは真田幸村ら徹底抗戦派に感情移入した結果だと思います。
考えてもみてください。「和睦」というのは停戦であり、和平交渉です。十万人の兵士が収容できる軍事施設をそのままにしておいて、和平交渉もあったものじゃないでしょう。
もうこれ以上戦わないと示すからには、城を軍事施設ではなく、ただの政庁や居住区域に作り替えることはむしろ当然と言えます。冬の陣のあとを徳川から見れば、むしろ豊臣方が約定違反をしているわけなんですね。停戦すると言っておきながら、武装解除しないわけですから。

真田丸大蔵卿局

そしてそういう状況を作り出しているのは、大蔵卿局が「戦いたくて仕方ないものたち」と評した、幸村をはじめとする牢人たちなのです。大蔵卿局のように彼らを和睦の障害と見なして切り捨て、さっさと秀頼が四国にでも移ってしまえば、家康は歯がみしつつ、見逃したかもしれません。
華々しく戦うことが目的の牢人とは違い、茶々と秀頼の命がともかく大事な大蔵卿局ならば、この選択肢はごく当然のことではないでしょうか。

権力の移り変わりの場において、ひたすら恭順の姿勢を示し、家臣を切り捨て、居城を出て、領地を返上し、悠々自適の余生を過ごした権力者がいます。徳川家康の子孫である慶喜です。
今回の中途半端な情けに流されて滅びる秀頼と比べると、確かに慶喜は聡明であったのでしょう。
ただし、生き様としてどちらが美しいか、物語になるか、と問われたならばなかなか難しいところですが。

著:武者震之助
絵:霜月けい

 



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