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ドラマ『大奥』公式サイトより引用

ドラマ10大奥感想あらすじ

ドラマ『大奥』感想レビュー第5回 妖艶なる綱吉は同時に儒学も好む

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ドラマ『大奥』感想レビュー第5回
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近世に花開くエロス

第1回放送の吉宗編を覚えていらっしゃいますか。

あの回では「男が剣術を習うことが稀になった」という言葉がありました。

一方、家光時代は血の気が多い。家光はすぐ「斬り捨てる」と相手を威圧する。

大奥の嫌がらせにも変化があり、ストレートに暴力へ向かう3代・家光時代と、ネチネチとした8代・吉宗時代では異なります。

5代・綱吉時代は、その橋渡しとして見るとおもしろい。

「色狂い」と言われてしまう綱吉、その妖艶さ! 人類がエロくなるのはいつなのか?

その答えにも思えてきます。

人類なんて有史以来、エロかったんじゃないの?

と思われるかもしれませんが、実はそうでもありません。純粋な生殖としての行為はあるにせよ、そんな能天気なことをしていられない状態が長いこと続いていた。

王侯貴族ならばともかく庶民は生きるだけで精一杯です。

それが、人口が増え、大都市が形成され、経済が発展した近世になると、庶民までエロスを味わう余裕が出てきます。

照明が普及して、夜遊びができるようになると地方都市にまで娼館が並び出しました。

金銭的に余裕のある商人も、妾や愛人を囲うようになります。

中国の纏足。

ヨーロッパのコルセットやハイヒール。

こうしたものを身につけた女性は動けず、戦乱の世では足手纏いです。肉体労働もできません。

そんな色気だけの女性が生きていけるだけの余裕ができてきたのが近世です。

メディアも変革を遂げます。その国を代表する春本や春画が残されて、広く流通。平和になって紙や印刷代がまかなえなければ、そんなしょうもないものが大流通することはありません。

生活に余裕のある層が生まれなければ、エロスは醸成できず、それが変わったのが近世であり、日本ならば江戸時代中期以降です。

どこか毅然としていた家光とは異なり、溢れるほどの色気がある綱吉は、まさに近世の申し子。

父・桂昌院が愛され教育で呪いでもかけたのでしょうか。

子には恵まれ、地位も手にしたけれども、彼は愛を得ることはなかった。ゆえに娘は愛を得られる花にしたのか。

そんな退廃的な愛欲の追及は、ついに政治まで乱してしまいます。

家光が求めた豊かな民衆の暮らしもまた、爛熟しています。

泰平が当たり前の世で生まれたからこそ町人が、居酒屋で夫の愚痴をこぼしあっているのです。

嗚呼、なんと愛おしくも愚かしい江戸の泰平か!

春日局や家光の念願が叶ったその世界は、吉宗が蹴り飛ばしたくなるようなものでもありました。

近世とは、その国の文化文芸が大きく花開くものでもあります。その国を代表する文芸、料理、演劇といったものも生まれてきます。

余裕が生まれると、庶民に至るまで文字を学び、それを活かしてさまざまな創作をするようになってゆきます。

元禄文化――日本史の授業でおなじみの華麗な文化が、大きく花開きます。

 


文治政治――朱子学を重視する時代へ

泰平の世で花開く裏面史ともいえる、エロスから先に述べてしまいましたが、もちろんそれだけではありません。

ドラマ『大奥』でもそこは見逃しません。

支配者たちは己の権力を強固にすべく、学問思想に力を入れます。

江戸時代の日本ならば朱子学。

右衛門佐が『孟子』を講義していたことで足を止めた綱吉は、『論語』の引用を聞き、曲者と笑った。

それはなぜか?

朱子学は孔孟の教えを重視していました。

儒教といっても教えが常に同じであったわけはなく、さまざまな考え方があり、そもそもは文治統治が徹底していた中国・宋代に誕生しました。

宋は日本史ならば鎌倉時代と重なります。

鎌倉から安土桃山まで、漢籍は主に禅僧によって伝えられながら、その学習程度には差がありました。

泰平の世を迎えた江戸幕府は、朱子学を重視します。

最高学府である昌平坂学問所や各地の藩校には孔子像が置かれ、儒学を学んでこそ武士とされた。

この設定を取り入れていたのが大河ドラマ『麒麟がくる』です。

主人公である明智光秀は、麒麟が到来する孔子が理想とした世を目指していました。

その光秀は、主君である織田信長を討ち果たした後、彼もまた討ち取られます。

ドラマでは光秀の死が明確に描かれない一方、彼の薫陶を受けた徳川家康の姿は見えます。この家康の中には光秀から引き継いだ儒教があり、それが江戸時代の基礎に繋がるという描写でした。

といっても、家康一代で儒教は定着しません。

数代かけ、綱吉の頃には【文治政治】として定着していったのです。

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この上様も、理想と現実に引き裂かれるのか?

そんな朱子学を語るだけの教養と知性が綱吉にはある。

にも関わらず、父の桂昌院は子を為すことばかりをせかす。大奥もそう。江戸の町人ですら色のことばかりだ。

興味深いのは、綱吉のそんな知性が色欲とぶつかり合うと示されているところでして。

綱吉は儒教規範に照らせば、暗君そのものの所業を行なっています。

自分の色欲によって牧野を追い詰めた。しかも、父と子を同時に大奥に置くというのは、あまりに常軌を逸しています。そこを突かれたらどうするのか?

秘められた知性を発揮すると、己のあやまちや欲望とぶつかってしまう。それをどう乗り越えてゆくのか?

そもそも男女逆転した世界は、儒教思想とはぶつかりあいます。

儒教ではなく道教ではありますが、中国では陰陽という思想があります。男が陽で、女が陰です。

男が女と交わりすぎると、陽が陰に吸い取られて命まで落としかねないとされる。村瀬が牧野父子が精を吸われたと語っていますが、そういう思想も感じさせます。

中国にはこんな言葉があります。

牝鶏(けいひん)晨(あした)す。『書経』

めんどりが朝を告げたら世が乱れる。

要は、女性権力者を否定する言葉ですね。

当時の清が、日本のトップが女将軍だと知ったら、なんとまぁ野蛮な国かと眉をしかめたことでしょう。

史実の綱吉による文治政治は受け入れられたかというと、反発も強いものでした。

戦う武士が文治など受け入れられるか!と抵抗にあったのです。

そんな綱吉政治とその抵抗を、男女逆転して描く本作。

次回も見逃せない展開となりそうです。

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文:武者震之助
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【参考】
ドラマ『大奥』/公式サイト(→link

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