ドラマ大奥幕末編 感想レビュー第18回

ドラマ10大奥感想あらすじ

ドラマ大奥幕末編 感想レビュー第18回 忠義の井伊は凶刃に散る

徳川家定が倒れた――胤篤は瀧山から報告を受けています。

堀田正睦の失策ゆえ心労が頂点に達したようで、愕然としてしまう胤篤。

命に別状はないと聞かされ、ようやく安心するのですが……。

 


家定の意思はどこへ?

ここから先は、実際の家定と井伊直弼の関係を踏まえた方が理解しやすいかもしれません。

井伊直弼が大老として幕政をまとめることが発表。

阿部正弘路線はどうなったのか?

というと、井伊直弼本人が書き残しています。

阿部正弘は家定を庇いすぎて、失策すら把握できないようにしていた。自分はそうしない。家定の意を受けて、憎しみを引き受けてでも、政策を通すのだ――。

つまり、井伊による剛腕の背景には、家定の意思もあるとみなせなくもありません。

開国にせよ、紀州を推したことにせよ、家定の意思があった。「慶喜だけは将軍にしたくない」と家定が強く思っていたことは確かなのです。

それを「ブサメンで頭も悪い家定が、イケメンで賢い慶喜に嫉妬した」とみなすのは誤解ありきの見方。大河ドラマ『青天を衝け』でもそんな誘導がありましたが、それはあくまで一橋派の吹聴したことです。

同時に家定と胤篤に断絶ができてしまったことも意味するかもしれません。

なお、紀州と一橋による将軍の座争いですが、実際のところは一橋派がやたらとうるさい【ノイジーマイノリティ】現象を起こしていたと考えた方が腑に落ちます。

そもそも血筋的にも争うまでもなかったのです。

 


幕府に最も深刻な悪影響を与えた大名・徳川斉昭

ではなぜ一橋派がやたらとうるさかったのか?

答えはドラマの中に出ています。

徳川斉昭が激怒して大騒ぎ。

歩くスピーカーじみていて、画面に現れた瞬間に嫌気がさす暑苦しさよ。なんて素晴らしい描き方でしょう。

幕府崩壊に最も影響を与えたのは誰か?

と、大名単位で考えてみると、薩摩でもなく、長州でもなく、御三家の水戸です。斉昭が元凶でした。

井伊に対しても「亡国の奸臣めが! このままで済むと思うなよ!」と平気で逆恨みしている。

原作でも史実でもありましたが、押しかけ登城を井伊に軽くあしらわれ、大恥をかいているのです。

そんな風にオラつく父を冷たい目で見る慶喜の姿もまたいい。「やれやれ」と言いたそうなしらけぶりも完璧な慶喜ですね。ちらっと顔を見ただけでイライラさせる演技が素晴らしい。

斉昭と慶喜はやはりこうでないと。見た瞬間にカーッとなることが大事です。

多くの幕臣たちは明治になってから嘆いていました。あの親子のせいで幕府はすっかりダメになっちまったんだと。

 


揺れる思い

無茶ぶりを続ける一橋派――となると、こんな疑問も湧いてきませんか?

福井藩の松平春嶽や、薩摩藩の島津斉彬は、なぜ賛同していたのか?

答えは、慶喜のカリスマ性だけでも、暑苦しい斉昭に猛烈プッシュされただけでもありません。

外様を含めた大名たちによる「合議政治」ができるという目論見がありました。

井伊や阿部のように家康以来の幕閣だけで回す政治に風穴を開けたかったんですね。

そんな斉彬の意を受けている胤篤としては、本音としては福子がよいと思っていても「斉彬は残念がっているだろう……」というポーズを取らねばなりません。

薩摩から潜り込んできている中澤の前では、そう語ります。

これは史実の篤姫もそうでした。

大奥に乗り込んで慶喜を推すどころか、次第に彼女の考えも変わっていくのです。

将軍・家定はまだ若い。子ができぬ前提であるのはおかしくないか。彼女の気持ちはそう揺れ動いていました。

そこへ瀧山が入ってきます。

「上様、ご懐妊でございます!」

胤篤は喜びます。家定も「私の……子……」とつぶやくものの、二人の顔にはどこか差があるとも思えます。

夫は嬉しい。妻は不安も入り混じっている。

これでは次代将軍が福子でよいのかどうか。と、幕閣の内藤は不安を口にしますが、井伊は正論を吐きます。

孕んだとて無事に産まれるとは限らない。ついでに言えば無事に成人するとも限りません。

「何という顔をしておる。わしは世の習いを申しただけじゃ」

井伊の悪い顔と声を見ていると、視聴者は『なんだコイツ……』という気持ちが湧いてくるかもしれません。

でも、正論でしょう。この国難の折に、子が育つまで待てというのも非常に心もとない。中継ぎだとしても準備だけはしておかねばならない。

そもそも一橋派は「年長の慶喜こそふさわしい!」とギャーギャー喚いていますので、今さら家定の子といったところで通じるかどうか。

いかに島津の血を引いている子とはいえ、斉昭が黙るとは思えません。

それでも家定の不安は拭えません。

食欲が湧かぬと食膳の前でつぶやき、乗馬でもしたいと言う彼女を胤篤が必死に止めています。

つわりだろうと気遣い、粥と梅干しを勧めると、それだけでは物足りないと嘆く家定に、胤篤は甘いものを提案します。

久々に菓子作りをする家定。阿部正弘が生きていたころのような笑顔が戻ってきます。

同時に、正弘の不在が思い出されます。もう戻れない楽しかった日々。

心優しい家定は、好物を揃えているのに食べられぬことを料理人の松之助に謝ります。

彼女は優しい。本当は御膳所で謝りたいから菓子を作ったのではないか?と、胤篤がいたずらっぽく笑みを含んで家定に話しかけます。

「いや、単なる腕自慢!」

そう言いながらも、カステラを御膳所で分け合うようにと指示を出す家定。二人はカステラを口に運び、甘く幸せな時を過ごすのでした。

この世界観は実に美しく、家定の衣装とカステラの黄が輝いている。幸せの黄色です。

 

流水紋の裃

胤篤は麻の裃を作ることにしました。

お万好みの意匠にしたいと要望すると、瀧山が焦っています。流水紋は彼の象徴ですからね。

池谷に目配せし、相手が察すると安心する滝山の顔の愛くるしさがたまりません。愛嬌があるからとスタッフも絶賛した古川雄大さんの魅力が迸っています。

浮世絵の美人画でも、絵師によってタッチの違いが当然あり、この瀧山はちょっと抜け感があって愛くるしい歌川国芳ですね。

歌川国芳作の美人画『山城国 井手の玉川』 /wikipediaより引用

それにしても眼福ドラマです。

生地と模様の見本が素晴らしいではないですか。日本の美を感じられる。

胤篤も色々と目を奪われているようですが、結局、流水紋を気に入ってしまう。いっそお揃いにしたらどうかと池谷がいうと、こうだ。

「できるか!」

瀧山、残念でした。

花菖蒲を見ないか?と流水紋の裃を身につけた胤篤が家定を誘います。

まるで彼自身が花菖蒲の精霊のようにすら思えてくる。その美しさに家定は改めて動揺したのか、なぜ裃など身につけているのかと言います。裃は、御台所ほど身分が高ければ身につける必要がないのです。

来年の大河ドラマ『光る君へ』を見る際にも大事なことかもしれません。

同じ部屋に女性がいる。この中でお姫様と女房を見分けるには、どうすればよいか?

答えは衣装です。

一番ラフな格好をしている人が身分が高い。身分が高い人物は、服装で礼儀を示すことがないからです。

胤篤が着替えてこようか……と浮かない顔をすると、動揺を見せながらも着替えないようにと言う家定。

それほどまでに改めて惚れてしまったのでしょうか。政務があるとのことで、中奥へ戻ってゆきます。

政務の場にいるのは井伊直弼です。

井伊は当然のことながら一橋派に厳しい。彼からあの声で色々と言われていたら、家定の心も乱れるでしょう。ただでさえ懐妊していますし。

一方、残された胤篤は、中澤に流水紋のことを指摘され、「それだ!」とハッとしています。流産を連想させると考えたのですね。

瀧山は、家定が本当に政務なのか、体調は大丈夫なのかと気を揉んでいる。

即座に、問題ないと答える家定のところへ胤篤が追いつき、流水紋を詫びながら、始末すると言います。

慌てて、始末するなど許さぬ、夕げまで着ているようにと命じる家定は、廊下に出て呟く。

「私は何をやっておるのだ!」

何か気になりますね。瀧山は体調不良を心配しているし、家定自身も気持ちのコントロールができなくなっています。

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